私は、伊江島の謝花悦子さんから依頼を受けている、代理人の河内でございます。私は東京の弁護士でございますけれども、今回の沖縄の収用委員会での審理の重要性を考えると、いても立ってもいられない気持ちでやってまいりました。私は、今、阿波根代理人が述べました収用委員会の使命、審理の進め方についての見解を前提にしまして、収用委員会における審理の範囲、審理の権限についての弁護団の考えを述べさせていただきたいと思います。
まず、私たちは今回の防衛施設局の裁決申請の基礎、裁決申請の前提になっている日米安保条約、駐留軍と用地特別措置法がそもそも憲法違反であることを主張いたします。
そこで、今回の裁決申請が憲法に違反するか否かにつき、収用委員会が審理することができるのかどうかが問題になります。
沖縄県の収用委員会は、92年の裁決において、明確にこれを否定いたしました。普天間飛行場の裁決書は、当委員会には駐留軍用地特措法に基づく本件裁決申請が憲法に違反するか否かを審査する権限はないと述べています。しかし、収用委員会は他のいかなる国家機関からも指揮監督を受けない独立の行政委員会であり、憲法と土地収用法に基づいて、国の裁決申請の是非を判断する準司法的な機関です。
このような収用委員会の性格から考えて、国の裁決申請や、裁決申請の前提である安保条約が憲法に違反するか否かを収用委員会が審理できることは当然だと考えます。
私たちは、安保条約や駐留軍用地特措法が憲法に違反すること、今回の強制使用手続きが、財産権はこれを侵してはならないと定めた憲法第29条に違反することを、米軍基地の役割、実態や反戦地主の苦難の歴史等に基づき、具体的に主張し、立証する予定ですので、よろしく審理をお願いしたいと思います。
次に、私たちは内閣総理大臣がなした使用認定が違法であることを主張いたします。そこで、内閣総理大臣がなした使用認定について、収用委員会が審理することができるかどうかが問題になります。
沖縄県の収用委員会は、過去、このことについても否定してきました。例えば、87年の裁決書は、本件裁決申請にかかわる使用認定は、駐留軍用地特措法第4条により、内閣総理大臣の権限に属するもので、当収用委員会の判断すべき事項ではない、このように述べております。
しかしながら、行政行為に重大かつ明白な瑕疵――瑕疵というのはケーキのお菓子の菓子ではありません、これは誤りです――がある場合には、その行政行為が無効となり、何人も無効を主張できるということは、確立された最高裁判所の判例です。この判例の法理に基づけば、少なくとも内閣総理大臣のなした使用認定に、重大かつ明白な瑕疵がないかどうかを収用委員会が審理することは可能であると考えます。学説の上においても、少なくとも使用認定に重大かつ明白な瑕疵がないかどうかを、収用委員会は審理することができるというのが、圧倒的な通説であります。
建設省の土地収用管理官を務めた小澤道一氏も、逐条解説土地収用法上巻534ページにおいて、このことを認めております。第一法規という出版社から、平成5年度の収用裁決例を集めた「土地収用裁決例集」という本が出ておりますが、この本を見ても、事業認定の適用性が争われた15例のうち12例につき、収用委員会は適法か否かを判断しています。こうして見ると、使用認定の適法性の判断権を一切否定した先の沖縄県収用委員会の見解は、まことに異常な見解と言わなければなりません。この見解に基づけば、収用委員会の役割を使用期間と、揖失補償の額の決定にのみ矮小化することになりますが、そのような矮小化を私たちは絶対に認めることはできません。
私たちはすべての使用認定が違法であることを第2回の公開審理以降、具体的にかつ詳細に主張する予定ですが、ここで使用認定の瑕疵が問題となる代表的なケースを少し述べてみたいと思います。
普天間飛行場については、21筆の土地について使用認定がなされ、今回裁決申請がなされております。
普天間飛行場はよく知られているように、海兵隊のヘリコプター基地です。そしてこれまたよく知られているように、海兵隊は日本防衛を任務とする軍隊ではなく、その任務は極東の範囲をはるかに越えて、東アフリカや、湾岸地域にまで広がっております。この証拠はごまんとあります。これが安保条約6条に違反することは、明白であると言わなければなりません。したがって、仮に安保条約が合憲だとしても、海兵隊は安保条約違反の軍隊なのです。 ところで、使用認定の要件を定める駐留軍用地特措法第3条は駐留軍の用に供するためと定めていますが、どこを読んでもどう解釈しても、安保条約違反の駐留軍のために、日本の土地を、沖縄の土地を提供することを定めていません。
したがって、安保条約が合憲だとしても普天問基地にかかわる21筆の土地の使用認定は、すべて駐留軍用地特措法第3条に反する重大かつ明白な瑕疵があるものとして当然無効であり、その裁決申請はすべて却下されるべきであります。
第2に、瀬名波通信施設に関わる新垣昇一さんの所有する字瀬名波鏡地原896番の2の土地について述べさせていただきたいと思います。
同土地も使用認定され、裁決申請がなされております。
新垣さんの土地は、使用認定申請書においては、事務所用地として使用されているとされていますが、それは事実誤認であり、使用認定申請当時も、現在も実際に事務所用地としては使用されておりません。
去る2月13日付け、朝日新聞の夕刊はおそらく新垣さんの土地を意識して出されたと思われる防衛施設庁幹部の次のような発言を紹介しています。「嘉手納飛行場の滑走路のような場所なら分かりやすいが、事務所の横の土地が使えなくて、どんな支障があるのかと問われれば答えようがない。もともと米軍が管理している土地なので、ここなら支障があるとか、ないとか、振り分けられない」。こういうふうに言っておられます。誠に素直な発言であります。この人の本当の名前を私は知って証人申請をしたいぐらいであります。
駐留軍用地特措法第3条は駐留軍の用に供するため、土地等を必要とする場合と使用認定の要件を定めております。新垣さんの場合は、新垣さんの所有地が必要ではないのですから、使用認定は重大かつ明白な瑕疵があるものとして、当然無効であり、その裁決申請は却下されるべきであります。
収用委員会の審理の範囲に関連して、収用委員会が裁決申請を却下すべきかどうかが問題になるいくつかのケースについて述べてみたいと思います。
今回の強制使用手続きについて、多数の反戦地主にとって許せないと感じていることの一つは、防衛施設局が反戦地主の立会い、これを拒否し、反戦地主が署名押印を拒んでもないのに、署名押印を拒んだとして、一方的に土地調書の作成がなされたことです。土地所有者の現場立会権が憲法31条に由来する重大な権利であることを考えるならば、右防衛施設局の違法は重大な違法であります。
したがって、防衛施設局が収用委員会の現地調査を拒絶した場合、あるいは収用委員会の現地調査を認めても、土地所有者の同行立入りを認めなかった場合には、収用委員会は裁決申請に違法があるものとして、これを却下すべきであります。今回の裁決申請には、いくつかの地籍不明地が含まれております。そこで地籍不明地は強制使用手続きの対象となり得るかが問題となります。
例えば、島袋善祐さんの土地だとして、沖縄市、字知花曲茶原2291番で申請されている土地は、地籍不明地です。地籍不明地の場合は、その土地だけでなく、その周囲の土地も含めて位置や形状が不明確です。このような地籍不明地について駐留軍用地特措法、土地収用法が作成を義務づけている土地の調査や図面を作成することは不可能です。地籍不明地を強制使用することは、法がそもそも予定していないものと解するほかはないものと考えます。このことは、かつていわゆる地籍明確化法の立法過程において、政府自身が境界が明確でない土地は、駐留軍用地特措法、または土地収用法による通常の使用手続きが取れないので、手続きの特例を設ける必要があると政府自身が言明していたことからも明らかではないでしょうか。
したがって、地籍不明地の裁決申請は却下すべきであります。知花昌一さんの場合は、国が不法占有している土地は、強制使用手続きの対象となり得るかが問題となります。そもそも法は、国が不法占有となる以前に、強制使用手続きが完了することを予定しているのです。またそのような不法占有となる事態を回避するために、緊急使用の申し立ての制度も用意されているのです。しかし、知花さんのケースにおいては、国は法の準備したコースを利用することに、ことごとく失敗し、緊急使用の申し立てを却下した収用委員会を相手にして、行政訴訟を提起することができなかったではありませんか。
その上、「必ずしも違法とは言えない」などと口弁し、不法占拠状態を継続するとは、まさに言語道断であります。このような裁決申請を認めることは、国家は法を守らなければならないという法治国家の根本原理に反します。
したがって、知花さんの所有土地の裁決申請は、収用委員会により却下されるべきであります。
最後に私たちは県収用委員会に対して勇気を求めたいと思います。
収用委員会の会長先生は、去る11月11日の事前協議の場において、反戦地主の代理人から「歴史に残る審理をしていただきたい」という要望に対し、「自分もそのように考えている」と明言をされました。
また、私たちが聞いたように、本日冒頭、収用委員会は独立した公平な立場で実質審理を行いたいとはっきりと宣言をされました。この言葉を単なる言葉に終わらせないためには、収用委員会の委員の方々全員に勇気が求められていると私は思います。
過去の誤った県収用委員会の先例を克服し、審理の方法においても、審理の範囲においても、憲法と土地収用法に基づく新しい収用委員会のあり方を創造する道へ勇気をもってつき進んでいただくよう心から期待し、私の発言を終わらせていただきます。