意見書

意 見 書


 来年(1997年)5月に「国」の使用期限が切れる沖縄県の約3000人分の米軍用地の強制使用問題で、照屋秀伝・反戦地主会会長ら契約を拒否している土地所有者68人が10月2日、裁決申請の却下などを求める意見書をまとめ、土地収用法に基づき、県収用委員会に提出した。以下その全文(別紙を除く)。
 出典:反戦地主会 > 沖縄・一坪反戦地主会 関東ブロック 上原成信さん > 丸山 
 注:HTML化に際し、漢数字の一部を算用数字にかえた。原文は縦書き。

 1996年10月2日

            意見陳述人の表示 別紙土地所有者目録記載のとおり

 沖縄県収用委員会 御中

 被収用者らは、那覇防衛施設局長平成8年3月29日申請、同8年6月6月受理裁決申請事件(「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法」(以下「米軍用地収用特措法」という)第4条に基づく裁決申請事件)について、土地収用法第43条に基づき次のとおり意見を述べる。
 

第一 (本案の主張をはじめるにあたって)貴収用委員会の役割と使命について

  1.  収用委員会は「公共の利益の増進と私有財産との調整を図る」(土地収用法1条)ことを基本的任務とするものであり、そのための各種の権限を行使するものであるが、このような収用委員会の任務と権限は準司法的なものであり、委員会は独立してその職権を行わなければならない(同法51条2項)。すなわち起業者、被収用者いずれの立場にも偏ったものであってはならないことは勿論のこと、第三者からの不当な干渉、影響をうけてはならず、国の意向や時々の政治情況に左右されることがあってはならない。
     すでに貴収用委員会は、読谷村波平の楚辺通信所内の一部土地の緊急使用許可申立に関し、起業者の立場に偏することなく、公平・中立の立場に立った審理を行い、本年5月11日、那覇防衛施設局長の右許可申立を不許可とする極めて正当な判断を下している。私達もこれを高く評価するものである。
  2.  収用委員会は起業者の主張のみを偏重してはならず、土地所有者の主張にも十分耳を傾けなければならない。
     具体的には、
    1. 土地所有者及び代理人が公開の場において意見陳述する機会(同法63条1項)を十分に与える事。
    2. 土地所有者から申請のある参考人、鑑定人については積極的にこれを採用し、審問すると同時に土地所有者及びその代理人からの審問の機会をも十分に与える事(同法63条3・4項、65条1項)。
    3. 本件で使用裁決されようとしている米軍基地の利用状況がどうなっているのか、どの土地がどのような利用のされ方をしてるのか、実際に調査し(同法65条1項)必要な情報を起業者側に求める事。

    等である。

     改めて強調するものであるが、右のような審理に関する権限は、貴委員会が専権的に有し、かつ行使をなすべきものであって、他のいかなる権力からも不当な干渉を受けるものであってはならないのである。
     貴委員会がその独立性・中立性を最後まで維持され、公平・妥当な判断をされることを心より願うものである。
     以下に述べるとおり、本件裁決申請は違法・不当なものであって、貴委員会が判断するまでもなく防衛施設局長において直ちに撤回されるべきものであるが、申請人において撤回しないのであれば、貴委員会は次に述べるとおり本件申立を却下しなければならないのである。

第二 本件裁決申請は以下に述べる点から却下されなければならない。

 本件裁決申請は、平成7年5月9日、総理府告示第18号をもってなされた土地の使用認定にもとづくものである。
 貴収用委員会は、右使用認定を前提としつつも、同認定に「明白かつ重大な瑕疵」が存する場合には、同認定の拘束力を否定することができるものと解されるものであり(小澤道一著・逐条解説土地収用法改訂版(上)534頁以下)、少なくともこのような瑕疵が存在するか否かについては審査権を有しているのである。
 そして、本件での使用認定は左に述べるとおり憲法に違反するものであり、同認定には土地利用に関する適正性、合理性を著しく欠くものとして「明白かつ重大な瑕疵」が存するのである。

  1.  使用認定の根拠である日米安保条約及び駐留軍特措法が憲法に違反すること。同条地及び法律が土地所有者らの所有権、平和的生存権、その他の基本的人権を侵害し続けている現状。とりわけ沖縄における米軍基地を固定化させ、右人権侵害をさらに拡大・強化させる結果となる再定義後の安保条約は、同条約に関する憲法判断を示した砂川最高裁判決(昭和35年)にてらしてみても憲法違反であることは明白である。
  2.  現状の土地の利用状況に関して  現在、収用対象となっている土地は、米軍の飛行場、弾薬庫、射爆場等として利用されている用地内に存するものであるが、その中には米軍海兵隊(第三海兵遠征軍)の軍事基地として使用されているのもある。
     海兵隊の基本的任務は、戦時において相手国内においていち早く進攻し、なぐりこみをかける部隊である。アメリカが海外に唯一配置している第三海兵遠征軍は、アメリカの世界戦略の目的のためにのみ存するのであって、決して相手国からの攻撃に対し、日本国を防衛するものではない。
     このような戦略目的のために土地を米軍に提供することは、とうてい適正かつ合理的な土地の利用とは言えないのであって、その使用認定には「明白かつ重大な瑕疵」が存するものと言えるのである。
  3.  沖縄の「土地強奪」の歴史と半世紀を越える「長期使用」の違法性
    1.  本件各土地を含む沖縄の軍用地は、文字通り「銃剣とブルドーザー」による強奪によって、地主から取り上げられた土地である。沖縄における広大な軍用地は、その大半が米軍の軍事占拠によって強奪されたものであるが、講和条約が発効した後においても、土地接収は強行されている。ここにおける共通の特徴は、米軍武装兵士による実力行使という点であった。1953年4月の当時真和志村銘苅・安謝の接収、同年12月5日の小禄具志部落の接収、1955年3月13日の伊江村真謝部落の接収、同年3月11日及び7月19日の伊佐浜部落の接収等は、いずれも銃剣と完全武装した米軍によって強行されたものである。
       これらの土地強奪は、法的根拠を伴わない違法なものであった。1972年の沖縄復帰後もこのような国際法上も違法な土地の強奪によって奪い取られた土地は住民に返されず、同年の公用地暫定使用法、1977年の地籍明確化法によって強行的な使用は継続された。
    2.  1982年からは、事実上「死法」と化していた駐留軍用地特別措置法による強制使用がなされたが、それは、これ以前の米軍による違法な強奪を形式的には別の法律で継続させたものである。そして、その後の1982年からの第一回強制使用裁決、1987年からの第二回強制使用裁決によって、実に沖縄戦の強奪時から数えると50年以上(半世紀以上)も、「強制使用」が継続されている。これは、通常の「強制使用」が前提とする一定の区切られた期間の使用ではなく、極めて異常なものである。
       今回の強制使用手続は、右強制使用がようやく終える1997年5月以降も、再び土地を強制的に使用し続けるとするものであり、その期間の異常な長さは、もはや土地所有権を完全に奪うにも等しいものと言えるのである。そして右に述べた土地「強奪」の歴史をもあわせ考慮するならば、本件での使用認定は憲法29条3項に違反し、かつ駐留軍特措法の適正かつ合理的な利用の要件に、明白かつ重大に違反する違法がある。
    3.  さらに、1982年の第一回裁決では10年間の申請が5年に限られて裁決され、第二回裁決では20年間の申請が10年間に半減して裁決されたのは、もともと米軍基地としての利用は半永久的に認められるべきものでは決してなく(安保条約自体も、一年前の通告で終了することが条約上定められている)、右裁決の認容期間の限度で一応適正と判断されたものである(しかし、当時も、土地所有者らはこれを容認していたものではない)。しかるに、1987年に、再度、強制使用をいわば「更新」したばかりか、今回、再々度(三度も)強制使用することは、決して許されない。

       

    4.  本件土地の強制使用の必要性

       地主の意に反して、半世紀を越える異常な長期間の『強制使用』である以上、本件土地を米軍用地として提供すべき必要性は、極めて高度なものでなければならないが、本件各土地にはその必要性がない。

第三 違法な土地調書

 土地収用法47条本文により、「その他この法律の規定に違反するときは収用委員会は、裁決をもって申請を却下しなければならない」ところ、本件裁決申請には、以下の違法がある。

  1.  本件物件調書は、土地収用法第37条所定の土地所有者等の立会いがなく、その署名押印なき無効な調書である(内閣総理大臣、関係市町村長の代行署名押印にも瑕疵がある)。
  2.  本件裁決申請添付の土地調書及び物件調書、同調書添付の各図面は、本件使用認定の告示前に作成されたものであり、告示後における土地調書物件調書の作成を義務づけた土地収用法第36条同第37条に違反する違法な調書・図面である。
  3.  右調書及び図面の記載内容は現状及び上地の位置境界、面積形状等が真実の権利関係を反映しない不正確なものである。
  4.  知事、関係市町村長のなした裁決申請書等の公告縦覧手続には違法がある。

第四 本件対象土地の不特定、不明確性

 本件使用認定及び裁決申請対象土地は、調書上の土地と現地での土地は特定されておらず、あるいは不明確であり、真実の権利にも反する等の違法がある。

第五 その他

  1.  楚辺通信所の土地については、国は、現在使用権のないまま不法にこれを占拠し、米軍に提供している。クリーンハンドの原則から言っても、この土地については、一旦は所有者に返還して後に、使用権取得のための手続をとるべきである。
  2.  各土地の損失補償額、補償額の算出基準、算出期間等について合理的かつ正当な根拠がなく、不当である。
  3.  そもそも、本件裁決申請自体が違法であるが、本件裁決申請の使用の期間も、10年と不当に長期である。

第六 結論

 以上述べたとおり、本件裁決申請は違憲かつ違法であり、却下されるべきである。
 なお、意見陳述人は前述の各項目及び関連事項その他につき、追って、詳細に主張する予定である。


声明・決議等][沖縄・一坪反戦地主会 関東ブロック