日本環境会議沖縄大会宣言

日本環境会議沖縄大会宣言


 日本環境会議は、1988年3月に第8回日本環境会議沖縄大会を開き、軍事基地の重圧と公共事業に過度に依存した当時の地域開発の問題点を指摘するとともに、今後の発展の方向として、自然環境の保全、人材育成、軍事基地の早期返還を求める[沖縄宣言」を発表した。その後、バブル経済の崩壊とともにリゾート開発は下火になり、知事の交替によって新石垣空港建設も新たな展開をみたが、沖縄の開発と環境をめぐる基本的状況にかわりはなく、1988年に提起された問題はほとんど解決されていない。

 一方、昨年9月の米兵による少女暴行事件をきっかけに、知事の軍用地強制使用手続きにおける代理署名拒否とあわせて県ぐるみで展開された基地の重圧からの解放を求める県民運動は県内外に大きな影響を及ぼし、波紋を巻き起こした。その間、普天間飛行場の代替施設設置条件付きの返還が日米間で合意され、県はアクションプログラムによる沖縄の軍事基地の段階的全面撤去と平行して、沖縄経済の自立のための国際都市形成構想を打ち出した。

 沖縄には、今、基地返還と跡地利用を契機として、復帰時以降最大の新たな公共投資がなされようとしている。この時にあたり、日本環境会議は沖縄の環境問題が重要な局面にたたされているとの認識のもとに、第16回目の日本環境会議を[環境と平和」というテーマを設定して再び沖縄で開催し、11月23日、24日の2日間にわたって、外国からの招待者や若者を含む約600人が6つの分科会において討議をつくした。その結果、われわれはまず、次のような状況認識をあらたにした。

 それは、戦争と米軍支配、そして復帰後の開発による自然破壊により、沖縄の自然が瀕死の状況にあり、また、基地は依然として諸悪の根源をなしており、沖縄の発展のためには、基地を早急に整理・縮小・撤去するとともに、環境の維持可能な内発的発展を達成することが必要であるということである。

 亜熱帯の島々は世界でそこにしかいない貴重な生物群を持っており、種の多様性がきわめて高い。それらは、雨林とサンゴ礁の生態系に支えられて生存しているが、その生態系は高温・多雨の環境下できわめて壊れやすいものである。

 琉球列島は、去る第二次世界大戦で景観を変えるほどの凄惨な地上戦と戦後の巨大な軍事基地の建設により破壊され、沖縄本島中南部に生息する動植物は壊滅的な打撃を受けた。次いで復帰後の国援助の「開発」によって、かろうじて戦争の被害を免れた地域の自然生態系も破壊が進み、いまや、沖縄の自然は瀕死の状態にある。

 このような認識のもとに、われわれは、下記の政策提言を行う。

  1. 可及的速やかな軍事基地の撤去と基地内の汚染状況の立ち入り調査の実施
     環境問題と平和問題、そして人権問題は水面下でつながっている氷山にたとえられる。沖縄の戦時体験および戦後の環境破壊の歴史をふり返る時、基地被害の人権的側面の救済と貧困からの脱却が大きな課題であっただけに、環境破壊の側面の認識が十分でなかったことが、環境政策の進展を阻んできたことを認識しなければならない。
     冷戦の終結に伴い、沖縄の軍事基地の存在そのものの意義が問われている。過大な基地の重圧は諸々の人権問題、環境問題を惹き起こしているばかりでなく、県民生活を圧迫し、行政の負担を増し、合理的な土地利用を阻害し、企業の事業機会を制限している。そして、基地自体の内部に深刻な汚染が存在することも明らかになった。基地の撤去が求められるとともに、当面、緊急に基地内汚染について、立ち入り調査が行われなければならない。
  2. 高率国庫補助の効用と限界を認識した住民参画型地方自治による環境の維持可能な産業振興策の立案
     量的な意味での豊かさが達成された現代においては、市民(住民)は自然豊かな生活環境や福祉サービスなど生活の質の向上を求めている。自立とは、自己決定権と相応の責任をもつことであり、高率国庫補助の公共事業に依存する沖縄県の経済体質を自立的なものに移行するためには、市町村の自治能力を高める方向で各自治体への大幅な権限委譲が必要である。現場にもっとも近い政策担当者である自治体への権限委譲とあわせて情報を公開し、市民(住民)参加型のまちづくり、公共投資に依存しない新たな事業機会と雇用の場の創出が求められるとともに、循環型社会をめざす新たな産業振興策が検討されねばならない。その際、実質的な環境アセスメントをきちんと実施することも不可欠である。
  3. これまでの自然破壊の修復と未来世代への豊かな自然環境を残す施策の実施
     世代負担の公平性を考え、未来世代にツケを回す形での開発方向や財政のありよう、生活様式を見直さねばならない。われわれは、これまでの環境汚染による自然破壊をできるだけ回復して次世代に継承する責任を負っており、亜熱帯の森やサンゴ礁など沖縄本来の生態系の再生・復元に努め、その目的のもとに自らの生活を見直すことこそ緊急かつ重要な課題である。当面、大規模な人工物の構築は凍結して開発は未来世代に委ねるべきであろう。
  4. 「沖縄環境ネットワーク」の創設
     今、環境の世紀といわれる21世紀を目前にして、人間の都合ばかりを優先させるのでない地球規模の環境問題を視野に入れた環境の維持可能な発展(持続可能な開発)のあり方が模索されている。自然的多様性は文化的多様性の基盤でもあり、地域の文化的アイデンティティを育んできた。世界的な環境と人権重視方向の時代にあって、軍事基地の整理・縮小・撤去を求めるとともに、アジアの国際交流拠点の形成をめざす沖縄県にとっては、環境保全こそ今後の発展の基礎となる。平和を求める「沖縄のこころ」をタテ軸とし、「環境の維持可能な発展」をヨコ軸とするサステイナブル・エリアの形成が目標とされよう。軍事的手段に頼らない地域紛争解決の場として、また亜熱帯気候・島しょ地域に適合した経済や環境保全技術の開発の場として、沖縄に期待される役割は大きい。これを実現する方策の一環として、日本環境会議は国内外の環境NGOとの草の根交流・連携をはかっていく「沖縄環境ネットワーク」の創設を提唱する。

 沖縄において、環境の維持可能な発展が実現されれば、それは沖縄だけでなく、日本、アジア、ひいては地球規模の開発のあり方と環境問題の解決に寄与するであろう。良好な環境・自然との共生、近隣諸国との平和的共存を中核にすえた自主的・自律的で環境の維持可能な開発こそ、真に明るく豊かで平和な21世紀の沖縄・日本・世界を切り拓くものであることをわれわれは確信する。

    1996年11月24日

                  第16回日本環境会議


声明・決議等][沖縄・一坪反戦地主会 関東ブロック