劣化ウラン研究会代表:山崎久隆
劣化ウランはれっきとした「核のゴミ」である。
「核のゴミ」とは、法令により放射性廃棄物として処理、処分をしなければならない放射性廃棄物ないし放射性廃棄物に汚染された物質と定義できよう。劣化ウランはこのうち放射性廃棄物そのものということになる。
これまで「核のゴミ」には敷居が無かった。言い換えるならば、放射性廃棄物であれば全て原則的に核のゴミになるということになる。もちろん、測定限界以下というのであれば別だが。
また、個別に計測することが難しいような場合は、一律「核のゴミ」として扱うという考え方でもあった。例えば原発の放射線管理区域内で発生したゴミは原則的に核のゴミすなわち放射性廃棄物として処理されていた。
原発廃炉の時代を控え、膨大な核のゴミ発生を回避しようと考え出されたのが「クリアランスレベルの導入による放射性廃棄物すそきり」である。つまり一定基準以下の廃棄物は放射性廃棄物として処理せず一般産業廃棄物として処理したり、有用物(金属材料やコンクリート廃材)は再利用するというものである。 この場合、全く放射性物質に汚染されていないものだけが一般産業廃棄物に回されるのであればまだしも、危惧されるのは放射性廃棄物が一般産業廃棄物に紛れて処分場を通じて汚染が広がったり、ひどい場合は有用物に紛れ、放射性廃棄物が再加工された金属材料に紛れて身近に現れることである。
そのような未来を予見させるような事件がたびたび起きているが、最も最近の事例を紹介しよう。
日本発 ロシアで見つかった核のゴミ
2002年1月30日に、時事通信と毎日新聞が、放射性廃棄物の混入した金属スクラップがロシアで見つかった事件を報じた。
ロシアのインターファクス通信は、ロシア極東の税関当局が2001年12月3日に日本からウラジオストク近郊のボストチヌイ港に到着した貨物から自然界のレベルを130倍以上にものぼる放射線を検出し、押収したと報じた。
貨物は鹿島港から積み出されたロシアの商社あての346トンの金属スクラップで、申告書には「航空機のエンジンおよび部品」と記載されていたが、検査の結果、非鉄金属の放射性廃棄物と判明したという。
税関当局は輸送した「ペトラボストーチヌイ」社に対し、放射性物質の排除を求め、同社は日本側関係者と話し合い、放射性物質をポリエチレンに包んで木箱に入れた上、さらにコンテナに入れ、日本に送り返すことで合意したという。
その後の調査で、航空機のエンジンという表記には誤りは無く、自衛隊で使っていた米国設計の航空機「T−33練習機」のエンジンであることが分かった。エンジン部品に強度を増すために放射性物質のトリウムを添加していたのだという。
航空自衛隊で廃棄されたエンジン6基が、リサイクル金属として業者に払い下げられ、それがロシアに輸出されたものであるということだった。
しかしどうしてそんな危険なものが易々と日本の税関を通り抜けたのかと疑問に思っていると、意外なことが記事に書いてあった。「空自によると、T33のエンジンには、放射性物質のトリウムが含まれているが、放射線濃度などは国内基準を下回っており、規制対象外。」「空自では「税関の問題なので詳しくは分からないが、日本とロシアでは放射性物質に関する基準値が異なっているのでは」と話している。」
ロシアのほうが日本よりも放射線管理が厳しいというのだ。しかし検出された放射線量は環境値の130倍以上というのだから、にわかには信じられない。日本で本当に計測した上での話なのか、それとも仕様上のデータだけでものをいっているのか。
とりわけこの場合、軍用機に使われていた放射性物質であることが、疑惑を深める理由の一つになる。
民間航空機の場合、乗務員や整備員の被曝問題があり、部品に放射性物質を使うことは避けるようになってきている。1985年8月に発生した日航機の御巣鷹山墜落事故で、劣化ウランの部品が飛び散ったことから、航空機の部品に劣化ウランを使わなくなった。
しかし世界のエアラインで使われているボーイング747型機のおよそ半分はまだ劣化ウランを付けたまま就航しているため、外国の航空機が事故を起こすと劣化ウラン汚染事故になる恐れはまだある。
軍用機と放射性物質
軍用機の場合、自衛隊機には劣化ウランは使われていないといわれているが、今回のように劣化ウラン以外の放射性物質がどこにどれだけ使われているのか一般に利用可能な情報はない。在日米軍機ともなると、機種も多様で製造年代も古いものから最新鋭のものまで多岐にわたるため、ますます詳細は分からない。
自衛隊は1999年11月22日に埼玉県狭山市で墜落事故を起こしたT−33練習機について、「劣化ウランは使っていなかった」としている。しかし別の放射性物質を使っていたことは明らかにしていない。エンジンの被災状況がどの程度だったかは今でははっきりしないが、放射性物質を巻き込んだ事故であったことは間違いないのである。
装備品に劣化ウランを使っていた明白な証拠としては、これまで米海軍攻撃機A−7コルセアの操縦桿のカウンターウエイトという例がある。
2000年6月に岡山県玉野市の鉄工所で、表面に「Depleted Uranium」(劣化ウラン)の刻印のある金属物が見つかるという事件があった。米国から輸入したスクラップ金属の中に混じっていた。
NHK広島支局が調査したところ、これは米国製攻撃機A−7コルセアの操縦桿に取り付けられていたものであることが分かった。それに対し当時の科学技術庁は、何らまともな調査もしようとせず、鉄工所には保管を指示しただけだった。
その劣化ウランは1年半もたった今年1月23日に、文部科学省原子力規制室の係員がやってきて撤去したという。一年半も放置した理由について原子力規制室は「引受先を探すなど手続き上、時間がかかった」などと説明したという。
このように放射性物質が見つかると、被曝を防ぐための管理や遮へいなどは見つけた側に負わせられる。国の規制当局は、そのことがどれだけの負担になるかを考える姿勢に欠けている。これでは不法投棄を誘発するだけである。
核のゴミが氾濫する
クリアランスレベルの検討により、切り捨てが合法化されれば、一定基準以下の放射性物質は放射性物質としての処分さえ必要なくなってしまう。
これは、高レベル放射性物質ではない劣化ウランを含む廃棄物が、これまで以上に私達の周りに存在する恐れが高まったということでもある。
玉野市の鉄工所では、溶解される前に発見できたが、劣化ウランを溶かし込んでしまったら、放射線からそれを見つけるのは非常に困難になる。
基準以下の放射線管理が無くなるなかで、劣化ウランが使われ続ける現実は、これまで以上に劣化ウランの環境への放出を招く抜け穴になる。
ロシア放射性物質事件は、そのことを強く警告している。
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