(APC)ポリシー解説:サイバー犯罪とジェンダー


ポリシー解説:サイバー犯罪とジェンダー

進歩的コミュニケーション協会(2024年)
コーディネーションおよび編集: Verónica Ferrari and Paula Martins (APC) 校正:Lori Nordstrom (APC)
Design and layout: Cathy Chen (APC)
本解説書の作成を支援した外部調査員のMaia Levy Danielに感謝する。


《目次》

  • サイバー犯罪に対するジェンダー・アプローチとは何か?
  • 問題点
  • 私たちが望む変化
  • APCはこの問題にどのように取り組んでいるか
  • どこで議論が行われているのか?
  • 国連アドホック委員会
  • この問題に取り組んでいるいくつかの組織
  • 更に詳しい情報

サイバー犯罪に対するジェンダー・アプローチとは何か?

サイバー犯罪法は、デジタル上とアナログ上の両方の領域において人権を保護するために必要であると考えられているが、歴史的に社会から排除されてきた集団に対する監視や検閲を正当化する道具として使用される可能性もあり、既存の構造的不平等を助長する可能性もある。人権を効果的に保護するためには、サイバー犯罪の規範を慎重に作成し、国際人権基準に沿ったセーフガードと保護を確保すべきである。ジェンダーへのアプローチも重要である。デジタル犯罪の多くは、女性や支配的なジェンダーの基準と適合しない人々を不当に標的としている。サイバー犯罪をジェンダーの視点から見るということは、女性や多様なセクシュアリティや性表現を持つ人々の生活体験を認識し、考慮することであり、彼らのニーズや優先事項を理解し、他の交差性と合わせてジェンダーに基づくサイバー犯罪の差別化された影響に対処することである。

問題点

国家は、デジタル上の人々の権利を保護するために真摯に行動する国際的な人権保護義務を負っており、これは、オンラインとオフラインの両方で権利が脅かされている女性やLGBTQIA+の人々など、歴史的に排除されてきた集団にとって特に重要である。
ジェンダー・ギャップ(およびその他のデジタル・デバイド)は、多くの女性やジェンダーに多様性を持つ人々にとって依然として現実であり、何とかつながったとしても、ハラスメントや差別、暴力(テクノロジーによるジェンダーに基づく暴力(TFGBV)としても知られる)にさらされることがあまりにも多い。

国連人口基金(UNFPA)によれば、「テクノロジーによって助長されるジェンダーに基づく暴力(TFGBV)」とは、情報通信技術やデジタルメディアの使用によって、その一部または全部がその人のジェンダーに基づいて行われ、支援され、悪化し、増幅される、1人または複数の個人による暴力行為である。TFGBVは、身体的、性的、心理的、社会的、政治的もしくは経済的な危害、またはその他の権利と自由の侵害をもたらすか、またはもたらす可能性がある。

サイバー犯罪は、集団によって異なる影響を与える可能性がある。例えば、保健医療システムに対するランサムウェア攻撃は、社会的差別のため、女性やその他の社会から疎外された集団にとって特に有害である可能性がある。従って、このような側面が考慮されない場合、サイバー犯罪法のような解決策は結局効果がなく、不釣り合いであり、保護しようとする人々をリスクにさらすことになる。

ジェンダーを考慮しないサイバー犯罪関連法は、女性、LGBTQI+の人々、その他歴史的に排除されてきたグループが刑事司法制度の中で扱われる際、そして/またはサイバー犯罪に対する脆弱性を経験する際、その能力、ニーズ、優先事項における重要な違いを無視している。ジェンダーと交差する視点がなければ、既存の構造的不平等は、デジタルテクノロジーとそれを管理する法律や規範によって悪化し、永続化する可能性がある。

さらに、行為を曖昧に類型化した広範な規制は、特定の文脈におけるサイバー監視や検閲を合法化し、裁量的な解釈や実施を促進する可能性がある。世界各地では、市民社会組織、人権擁護活動家、デジタルセキュリティ研究者、内部告発者、ジャーナリストを標的に、人権を弱体化させ、合法的な活動を犯罪化するツールとして、国内のサイバー犯罪に関する立法行為が乱用されている。サイバー犯罪に関する立法は、反対意見や声を上げようとする女性を黙らせ、表現の自由を脅かし、国家による監視を正当化するためにも使用されてきた。

このような理由から、各国の状況の多様性や、特に歴史的に疎外されてきた団体の人権保護のためのセーフガードを考慮することなく、サイバー犯罪に関する国際的な基準を進めることは危険なのである。

女性やLGBTQIA+の人々など、歴史的に排除されてきた集団に影響を与える不平等を悪化させないために、サイバー犯罪に関する議論や規制にジェンダーの視点を含める必要がある。ジェンダーの視点は、女性や多様なセクシュアリティや性表現を持つ人々の具体的なニーズや優先事項、そして他の交差性と合わせて、ジェンダーに基づくサイバー犯罪の差別化された影響に対処することができる。

この点に関して、デジタル時代におけるプライバシーの権利に関する最新の国連総会決議(A/RES/77/211)において、同総会が、デジタルおよびオンライン空間で起こりうるあらゆる形態の差別だけでなく、ジェンダーに基づく暴力を防止する方法として、プライバシーの権利の促進と尊重の重要性を認識していることをここで強調しておきたい。同決議において、総会は各国に対し、デジタルテクノロジーと関連ポリシーの概念化、開発、実施において、ジェンダーの視点を重視するよう奨励している。

サイバー犯罪の状況をジェンダーの視点で分析することは、ジェンダーで区別できるリスクや危害を特定するのに役立つ。すべての政治的、経済的、社会的領域におけるポリシーとプログラムの設計、実施、モニタリング、評価において、一人ひとりの懸念と経験を不可欠な次元とするために、ジェンダーを主軸とし、不平等が永続しないようにすべきである。さらに、ジェンダーの視点が効果的であるためには、必然的に交差的でなければならない。これは、排除のパターンを生み出すアイデンティティを構成する複数の要素――社会階級、人種、民族性、性的指向、ジェンダー表現など、――とジェンダーの相互作用を考慮することを意味する。

人々とジェンダーを公共政策と行動の中心に据える強力なサイバーセキュリティ戦略は、TFGBVへの重要な対応であり、サイバー犯罪規範を使用することに代わる重要な選択肢である。

サイバー犯罪に関する法律や規範の議論に市民社会が参加することは極めて重要であり、また、女性やその他社会から疎外されたグループのために、様々な専門家や代表の参加を保証する有意義な参加を確保することも重要である。市民社会組織は、一般的な人権および特にデジタルの権利に関する彼ら独自の専門知識を提供するだけでなく、デジタル環境に関連する多くの技術的な問題に関する重要かつ最新の情報をもたらしてくれる。

APCはどのようにこの問題に取り組んでいるか

APCは、この問題に関する調査・分析を展開している。2008年、APCはジェンダーの視点からサイバー犯罪に関する立法問題に焦点を当てたGenderITの特集版を創刊した。この出版物は、さまざまな地域でサイバー犯罪に関する法律が浸透しつつあり、それが女性の権利に与える潜在的な影響について、私たちのネットワークから提起された懸念に応えようとするものであった。

ラテンアメリカ・カリブ海諸国(LAC)におけるAPCのポリシー・モニターが2010年に発表したインタビューによると、同地域ではサイバー犯罪法案が女性の権利行使を直接的・間接的に制限するために使用されていることがわかった。これらの法案は、犯罪行為の容疑に対処するという正当な理由の下、裁判所の命令なしに通信傍受や人々の私生活を調査する裁量的メカニズムを通じて、個人の権利、特にプライバシー権を制限する必要があると考えられていた。また、おとり捜査官の使用などに関して、正当な法的手続きを受ける権利など、特定の憲法上の保障に抵触する法律もあった。これらの状況はいずれも、ジェンダーの権利行使の制限に関連している可能性がある。

2017年、APCは「Unshackling Expression」を立ち上げた。これは、アジアにおけるオンライン表現を犯罪化する法律に関する研究である。この報告は、オンラインにおける表現の自由や意見が、刑罰法規やインターネット特有の法規の助けを借りて、ますます犯罪化されていることを指摘している。オリジナルの報告書は、アジア6カ国のオンライン表現の犯罪化に関する分析について、カンボジア、インド、マレーシア、ミャンマー、パキスタン、タイである。その後の版では、フィリピンインドネシアネパールを取り上げた。

2023年、APCはチリのメンバー組織であるDerechos Digitalesとチームを組み、このテーマを再検討し、世界中の女性やLGBTQIA+の人々を沈黙させ、犯罪化するために各国のサイバー犯罪法がどのように使用されてきたかについて、新たな調査を行った。各国で採択されている法的枠組みの分析に基づき、キューバ、エジプト、ヨルダン、リビア、ニカラグア、ロシア、サウジアラビア、ウガンダ、ベネズエラの11の事例を特定した。

さらにAPCは、世界、地域、国家レベルでのこのテーマに関するポリシー・ディスカッションをフォローし、直接関与している。私たちはDerechos Digitalesとともに、国連の「犯罪目的の情報通信テクノロジー使用に対抗するための包括的国際条約を策定するための特別委員会」に貢献した。この提出文書では、人権を弱体化させる道具としてサイバー犯罪に関する立法が乱用されることへの懸念が強調され、あらゆる規範的提案が、国際人権法において加盟国が負う義務との一貫性を確保することの重要性が強調された。

議論はどこで行われているのか?

国連総会は決議74/247により、犯罪目的での情報通信テクノロジーの使用に対抗するための包括的な国際条約を策定するため、オープンエンドのアドホック政府間専門家委員会を設置した。包括的国際条約を精緻化するための特別委員会は、2022年2月28日から3月11日まで開催された第1回会合において、委員会のロードマップと作業形態を承認した。国連には、アドホック委員会のセッションへのマルチステークホルダー参加に関する情報を掲載した特別のウェブサイトがある。APCとDerechos Digitalesチャタムハウス電子フロンティア財団(EFF)など、さまざまな組織が条約の草案について、特に女性やその他の歴史的に排除されてきたグループへの影響について、コメントを寄稿している。共同声明において、100を超える市民社会組織と独立した専門家は、条約の最新草案には効果的なジェンダー主流化が欠けており、この条約がジェンダーに基づき人々の人権を損なうために使用されることのないようにすることが重要であると述べた。
このことは、条約がジェンダーに基づく人権の弱体化に利用されることのないよう、極めて重要である。

国連アドホック委員会

犯罪目的の情報通信テクノロジーの使用に対抗するための国際条約を作成するための国連特別委員会(UN Ad Hoc Committee to Elaborate a Comprehensive International Convention on Countering the Use of Information and Communications Technologies for Criminal Purposes)

この問題に取り組んでいるいくつかの組織

Chatham House
Derechos Digitales
Electronic Frontier Foundation (EFF)
Foundation for Media Alternatives(FMA)
Global Partners Digital(GPD)
Human Rights Watch
Red en Defensa de los Derechos Digita les(R3D)

更に詳しい情報

When protection becomes an excuse for criminalisation: Gender
considerations on cybercrime frameworks
(保護が犯罪化の口実になるとき サイバー犯罪の枠組みにおけるジェンダーへの配慮)(APCおよびDerechos Digitales)

Joint statement on the proposed cybercrime treaty ahead of the concluding
session
(最終会合に向けたサイバー犯罪条約案に関する共同声明)(APC他)

Contribution to the Ad Hoc Committee to Elaborate a Comprehensive
International Convention on Countering the Use of Information and
Communications Technologies for Criminal Purposes
(犯罪目的での情報通信テクノロジーの使用に対抗するための包括的な国際条約を精緻化するための特別委員会への貢献)(Derechos DigitalesおよびAPC)

Unshackling Expression: A study on laws criminalising expression
online in Asia
(表現の束縛を解く: アジアにおけるオンライン表現を犯罪化する法律に関する研究)(APC)

Unshackling Expression: A study on online freedom of expression in Indonesia(表現の束縛を解く: インドネシアにおけるオンライン表現の自由の犯罪化に関する研究)(Alghiffari Aqsa, APC and the Cyrilla Collaborative)

Unshackling Expression: A study on criminalisation of freedom of expression online in Nepal(表現の束縛を解く:ネパールにおけるオンライン表現の自由の犯罪化に関する研究)(Body & DataおよびAPC)

Unshackling Expression: The Philippines Report(表現の束縛を解く: フィリピン報告)(Foundation for Media Alternatives、APC、Cyrilla Collaborative)

Cybercrime legislation and gender(サイバー犯罪に関する立法とジェンダー)(GenderIT.org)

Integrating gender in cybercrime capacity-building(サイバー犯罪の能力開発におけるジェンダーの統合)(Chatham House)

Gender mainstreaming and the proposed cybercrime convention: Commentary
on the consolidated draft
(ジェンダー主流化とサイバー犯罪条約案: 統合草案の解説)(Chatham House)

https://www.apc.org/sites/default/files/policyexplainer_cybercrimegende…