6. 出版記念会のご報告とお礼 (1999.4.2. 掲載)
『いい人はガンになる』の出版記念会は、1999年3月14日午後、東京全日空ホテルで開かれ、200人もの方がご出席くださいました。ありがとうございました。
この会については、1999年3月30日の『毎日新聞』夕刊、学芸欄の「人・模・様」欄に以下のように報道されました。
いい人たちの「がん連帯」
膀胱がんの次は胃がん、さらにはイレウス(腸閉塞)と病を克服して市民運動を続ける元べ平連(ベトナムに平和を!市民連合)事務局長、吉川勇一さん(68)=写真=が、その体験をカラリとつづった「いい人はガンになる」(KSS出版)を出版した。
東京で開かれた出版記念会には“いい人”仲間ら200人がつめかけ、にぎやかに祝った。 武藤一羊、吉武輝子、下重暁子、石坂啓、藤本義一(洋酒研究家)、高木仁三郎、針生一郎さんらから祝辞”連帯のあいさつ”が送られた。
吉川さんは「いい人たちの『がん連帯』ネットワークができています。ガイドラインとは闘わねばなりませんが、私は闘病とは使わずに、共存を考えている。病気でガックリ来ないように連帯を」と呼び掛けた。【桐原良光】
お礼状
まず失礼へのお断り
本来なら、お一人、お一人に別々のお礼のお手紙をお送りするのが当然の礼儀であることは重々承知いたしております。
ところが、一四日の会においでくださった二百人余の方々のほかに、当日どうしても所用があってゆかれないがというお便りとともに、花束、祝電、地方特産の銘酒、焼酎、干物、お菓子などをお贈り下さった方、また集まりにおいで下さった後、あらためて拙著『いい人はガンになる』についてや、当日の集まりについての心温まるご感想、ご意見などを、お手紙、お電話でお伝え下さった方、貴重なご労作の著書をお贈り下さった方、あの集まりの記念の写真をたくさん引き伸ばして送ってくださった方、田舎道を散策しながら出たばかりの蕗の薹を摘んでお持ち下さった方、さらには、疲れを休めろとおっしゃって温泉旅館へのご招待券をお贈りくださった方などなど、実に数多くいらっしゃり、お一人お一人に個別にお礼の手紙をさしあげておりますとかなりの時日を要し、中には欠礼のまま長い時間がうちすぎてしまう方もおられることになってしまいそうで、かえって失礼になるかもと考え直し、お礼状をまとめて記してしまうという、はなはだ不躾なことを思い至った次第です。おゆるしください。
心配だったこと、嬉しかったことと、ガッカリしたこと
実は、当日は、福富節男さん、吉岡忍さん、斉藤浩司・美加代さん、水口義朗さん、それに「市民の意見の会・東京」の事務局のみなさんをはじめ、司会や運営に当たってくださった多くの方々にすっかりお任せしてしまい、私自身は、ご参加の方々と(中には大学を去って以来はじめて顔を合わせたという人もおり)、ついつい懐かしさのあまりに話に夢中になって、全体がどんな雰囲気だったのかがよくわからず、せっかくおいでいただきながら、私の至らぬ点などから何かご不快な感じを抱かれることなどなかったろうか、と終ってからいささか不安な思いがしておりました。
しかし、いただいたご感想やご意見によりますと、すべての方が、愉快な楽しい時間であったとおっしゃってくださり、ホッとしているところです。
ただ、よかったとおっしゃってくださった方の多くは、私の話や応対などよりも、最後に飛び入りで出てきた私の母親の話がずっとよかった、と言われておりますのには、嬉しさ半分、ガッカリ半分といった複雑な気持ちもちょっとしたのでありました。
それにしても、実にたくさんの方々が、私の健康をご心配下さっており、また、あの本がいくらかは役に立つとお認めくださったことに、本当にありがたい気持ちでいっぱいです。
温泉に行ってきたこと
このへんから、文体が少しずつ変わり、内容も、調子に乗った軽薄、おっちょこちょいになります。以下は、ご用とお急ぎでない方のみお読み下されば幸いです。
三月一四日は、正直言っていささか疲れたことも確かでしたが、その疲れをのんびり休めようかと、学生運動時代の友人からもらった招待券を用いて、先週、福島県の山中の超豪華温泉旅館へ行ってきました。東北自動車道を、だいたい時速一四〇キロ、ときには一六〇キロという違反スピードで飛ばし、早春のドライブの楽しさを満喫してきたところです。大好きな露天風呂もあるその旅館のオーナーご夫妻とも話す機会がありましたが、そのお二人とも「いい人」の仲間で、拙著を献呈してきたのですが、ご主人は手術後一五年になるというガンの先輩で、その人からは、「あなた元気そうだネ。ガンじゃないんじゃないの、誤診だったんだよ」などと言われる始末でした。
鶴見さんと飯沼さんからの評
大先輩の鶴見俊輔さんからは、お電話で、「吉川さん、文章、うまくなったネ。読ませるよ、笑いだけじゃないしね、那須さんの死のところなんか、グッときたよね」と言われたのには、誉め上手の鶴見さんのことではありますが、やはり嬉しく思いました。同じく京都の、元べ平連代表、飯沼二郎さんからは、長文のお手紙をいただきましたが、その一部を引用させていただきますと、
「……私の八十年の前半、四十年はお江戸両国の時計屋の次男坊、後半四十年は大学の教師、私は京都が気に入って四十年前からこの京都の地に、ずっしり腰をすえていますが、、この濃密な人情の世界よりも、やはり東京のあっさりとした人情の世界のほうがすきです。但し、江戸ッ子の軽薄さはどうも好かないので、それよりは京都人の深みのあるコッテリした内容のある話し方のほうが好きなので、東京よりも京都ということになりますが、今度の吉川さんのご本の冷静でスピーディで、ユーモアにとんだ文章は、まさに江戸ッ子の文章だと思いました。大病の文章を「イキ」だなどというと吉川さんは怒るかもしれませんが、私は久しぶりに、なつかしい江戸ッ子のイキのいい文章に接したおもいで、なつかしく思いました。……」
怒るどころか、「江戸ッ子の文章」などという誉め言葉は、初めてで、嬉しく思いました。
東さんと笠野さんからの評
一方、私などよりもずっと若い「浦和市民連合」の東一邦さんからは、電子メールで、「一気に読ませてもらいました。たいへんだったんだなぁと、あらためて思わせられましたが、なんといっても吉川さんの『鉄の事務官僚』という一般的なイメージ(私のではありません)が、この、タフで、ユーモアにあふれ、知的な文章群によって『いい人』という方向に、大幅に変わるのではないかと思いました」と言われました。大先輩からのお褒めの言葉も嬉しいですが、年下の人からの、こういう便りも、「そうですよ、やっとわかってくれましたか」と鼻のわきがピクピクしないではありませんでした。
また、当日ご参加くださった方の中の異色は、かつてべ平連時代のデモの際の「正面の敵」、元赤坂警察署長の笠野孝さん(現在、田辺製薬顧問など)ですが、笠野さんからは、「よその同窓会ないしクラス会に紛れ込んだ感じはしましたが……」「客観的でありながら、軽妙な文章で、興味津々一気に読み終わりました。『いい人』の寓意も読み終わってわかりました。……とても爽やかの思いがしました」とのお便りをもらいました。
また、あの本の中で少し触れた、故 安東仁兵衛さん、井出佐武郎さん、鶴見良行さん、松村雄さん、丸山眞男さんの奥様、庄司洸さんのご母堂からも、丁重なご挨拶のお便りをいただきました。
まだガンには誤解・偏見もあるということ
こうして、いろいろな方からご意見を伺っていると、あの本の「続編」を書いてみたい気持ちが次第に強くなってきています。ガンとの付き合い方について共感のお言葉も多くの方からいただき、大いに心強ようしたことも確かですが、同時に、なかには、ご自分のガン診断にかなり気落ちをされている方、病気や医師や病院に対して積極的な対応ができておられない方、そして身内の方のガンに狼狽されている方などからも、いろいろ相談を受けました。さらにそういう相談の後、「このことは他人には絶対に言わないでくれよな」などという念押しの言葉がついてくる場合もありました。こうなると、慰めや激励だけではなくて、もう「叱咤」が必要ではないかとさえ思えるような場合も少なくありませんでした。まだまだ「ガン」という病気への誤解や偏見がこの社会には強くのこっているんだな、とあらためて思ったからです。
三月一八日の『毎日新聞』にKSS出版の大きな書籍広告が載り、この本もかなりの活字で宣伝されたのに続き、『朝日』、『読売』、『日経』、『読書人』等各紙にも広告が載りましたので、ウンと売れるといいな、と虫のいいことを願っています。皆様もご宣伝下さればありがたいと思います。
いろいろ書きつのりましたが、とりあえずのお礼のお便りといたします。ありがとうございました。