4 香田証生さんの殺害について (2004年11月02日記)

1. このサイトやベ平連、市民の意見30の会・東京のサイトへのアクセス激増

 私は、いま、4つのホームページの管理や運営にかかわっています。一つは、私個人のこのサイトです。あとは、「旧ベ平連運動」、「市民の意見30の会・東京」そして、「市民意見広告運動」です。内、最初の三つは、アクセスされた回数が記録されるようになっており、毎日、その数を記録しています。この私個人のサイトは1999年2月に開設したものですが、11月1日午後2時現在で、62,701件、旧ベ平連運動(1997年4月開設)のものが88,803件、そして市民の意見30の会・東京のものが30,698件です。
 1日あたりのアクセスの数は、いずれも徐々に増加していますが、最近では、私個人のものと、ベ平連のものが1日平均で約60件、市民の意見30の会・東京のもので、約30件のアクセスがあります。ところが、 一昨日、その数がいずれも倍ちかくに急増しました。それぞれ100件を超えるアクセス数を記録しています。その理由は、断言はできないのですが、イラクにおける香田証生さんの殺害の報道と関係があるのではないか、と推測しました。この悲劇的なできごとを、吉川は、あるいは旧ベ平連運動の関係者は、そして市民の意見30の会・東京という市民グループは、どう受け取り、どう考えているか知りたい、そう思った方が、各ホームページを開いたのではないかと思えるのです。
 私の関係する4つのサイトのうち、この香田さん殺害問題に触れているのは、市民の意見30の会・東京のものだけでした。ここには、市民の意見30の会・東京のこの問題に関する声明全文が掲載されています。私も、この声明に賛成しましたので、まだご覧になっていない方は、http://www1.jca.apc.org/iken30/ のサイトを見てみてください。
  香田さん殺害についての私の意見は、その声明のとおりだ、と言っていいのですが、同時に、そこには直接のべられていないことで、考え込んでいることがあります。それは、 香田さんを殺害した「武装集団」なるグループに対する評価と、それへの態度です。

2.. 殺害行為自体への評価の有無

 市民の意見30の会・東京以外に、おおくの政党や団体、市民組織が、この問題について声明を発表しています。たとえば、イラク反戦の大きな大衆行動の中心になってきた「ワールド・ピース・ナウ」(以下、WPNと略称)です。市民の意見30の会・東京も、それに加わっている共同行動のための協議体です。 WPNの声明は、そのサイトに全文が掲載されています。 → http://www.worldpeacenow.jp/ 
 その声明は、「もし香田さんが殺害されたことが事実であれば、これは、いかなる人びとのいかなる理由によるものであれ重大な犯罪行為です。私たちは心からの悲しみと怒りを込めて、この人道にもとる行為に抗議します。」で始まり、「同時に、今回の不幸な事態を招いた最大の原因は小泉首相と日本政府による米英のイラク攻撃支持、そして自衛隊のイラク派兵にあることを強調しなければなりません。すでに明らかなように米軍などのイラク攻撃と軍事占領には正当性のかけらもなく、それに無批判に追従した小泉内閣の責任は重大です。」と続きます。つまり、殺害したグループに対する「心からの悲しみと怒り」を込めた抗議が表明され、ついで、小泉内閣の責任を追及しています。
 日本共産党の態度はもっと強いものです。1日付の『赤旗』は、1面で志位委員長の記者会見での談話が紹介されていますが、それには、「絶対に許せない蛮行」という6段の大見出しがつけれられ、つぎにそれより小さいフォントで、「自衛隊撤兵、イラク政策転換を」という見出しが並んでいます。談話は、「日本共産党は、この蛮行をきびしく糾弾する」とのべています。1面下のコラム「潮流」では、「占領の当事者とは無縁の、イラク人に敵対するところはなにもない一旅行者を襲った、血に飢えたような犯人たち。」という表現もあります。さらに2面の「主張」は、「残虐非道なテロを憤る」という題で、やはり「犯行は、残虐なテロ殺人以外のなにものでもありません」とのべて、この行為を糾弾し、最後の節で、「アメリカのイラク侵略戦争を支持し、加担してきた日本政府の責任も重大です。」と日本の対イラク政策の転換を要求することがのべられます。
 私の参加する市民の意見30の会・東京の声明は、この殺害行為自体についてはなにも触れていません。市民の意見30の会・東京や私の個人サイトにアクセスされた方は、この問題に対する評価はどうなんだろう、と知りたくてそこを覗かれた方も少なくなかったのではないか、とも推察されます。

3. 市民の意見30の会・東京の声明が殺害行為自体への抗議に触れていない事情
 (1) 事件の詳細がまだ不明であること

 私たちの声明で、この点になにも触れなかったということには、二つの事情があると、私は思っています。
 一つは、事態がまだ十分に明らかになっていないということです。『アルジャジーラ』で最初に報道された香田さん人質に関するビデオ映像では、拘束している日本人が、「日本自衛隊に関係」する者だ、という趣旨のことがのべられていました。これは明らかに事実誤認であって、香田さんは、日本自衛隊とはまったく関係を持たない民間人旅行者でした。とすると、最初のビデオで流された「日本自衛隊関係者」を拘束、という表現は、この武装集団の何らかの誤解だったのか、あるいは、意図的についた虚偽の声明だったのか、そして、かりに誤解だったとすれば、その誤解は香田さん殺害に至るまでの間に、解けなかったのかどうか、つまり自衛隊関係者と誤認したままに、期限切れとして殺害したのか、あるいは、それが誤解であり、香田さんが民間人だと判明しても、それでもあえて殺害に及んだのか、その辺は、この武装グループとの接触がこれまでまったく不可能であり、また、その後もこのグループからの発表が何もないことから、まったくはっきりしません。かりに誤解が解けぬまま、自衛隊関係者だと思い込んでの殺害だったとしたら、その行為は容認される、などということを言いたいのではありません。しかし、多くの抗議や糾弾の声明が、「自衛隊となんらの関係もない一民間人旅行者」を殺害するとは……、という表現を用いていることを見れば、そこに何らかの違いを前提としていると思わざるをえません。とすれば、殺害行為が、誤解の上のま まだったのかどうかは、私たちの判断にかなり大きな影響を与えるのでしょうが、それが現在では、まだまったくハッキリしていない、という事情です。
 それと関連して、この香田さんを殺害した「武装集団」なるものの性格も明らかでない、ということもあります。イラクには、アメリカ、およびそれに追随する国の軍隊の占領に反対し、それに抵抗している実にさまざまの勢力が存在していますが、この武装集団は、どういう主張を持つどういうグループかが不分明です。占領という不当行為に対抗している「イラク抵抗勢力」といえるのか、それともイラク外部から入ってきた非イラク人の武装集団であって、イラクからの占領軍撤退、イラクの自立以外の別の目的を持っているグループであるのか、という問題です。
 (2)『週刊読売』が報じた、橋田さんら殺害の真相は、CIAとの誤認だったとの説
 
今年の5月27日、イラクで、二人の日本人ジャーナリスト、橋田信介さん、小川功太郎さんとイラク人通訳の計三人が殺害されましたが、この事件もいまだハッキリしない点が多々残されままになっています。知らない方が多いと思いますが、『週刊読売』の9月12日号(左の写真)には、『橋田信介さん殺害の真相は『CIAと誤認』」という記事が出ています。
 それは、同誌の記者のインタビューに答えた橋田さんの妻、幸子さんの話を伝えるものですが、それによると、4人のCIA要員の乗った車を待ち伏せしていた武装勢力が、それとまったく同じ、米国ゼネラル・モーターズ社製の黒色GMCに乗った橋田さんたちの車を,CIAのものと誤認して襲撃したのだ、というのです。橋田幸子さんは、この「CIA誤認説」の裏づけとなる「極めて重要な情報」も入手したとして、それも紹介されています。さらに、この記事は、「夫たちが誤射されたという事実をつかんだ幸子さんのもとには、犯人グループが謝罪の意思を持っている、とも伝わってきた」とも報じており、「今回のように犯人側が謝罪をしてきたのは初めてのケースだ。」とも書いています。
 私は、つい最近、友人からこの記事のコピーをもらって初めて知ったのですが、こんな重大なニュースが、なぜ、『週刊読売』だけで、他のマスメディアがまったく報じていないのか、理解に苦しんでいます。今回の香田さん殺害の背景にも、こんな事情が潜んではいないのかどうか、私たちは十分に検討しなければならないでしょう。
 (3) 抵抗の手段についての要求や抗議の問題に関する論議
 第二はもっと微妙な問題です。それは、この前、二人の日本人ジャーナリストがイラクで殺害された際の、日本反戦運動の声明を巡ってすでに表面化した問題点です。それは、米英軍、それに協力する自衛隊を含む各国軍隊のイラク占領がまったくの無法行為であり、侵略されたイラクの民衆には、それに抵抗する当然の権利があるが、その際、侵略軍を送り込んでいる国の運動が、それに反対しているにせよ、抵抗するイラク人民のとる抵抗の方法、手段について、要求したり、抗議・糾弾したりすることができるのか、といった、かなり道徳的側面を持つ問題点です。
 WPNが同月30日に出した声明の文中に、「このたびの事件を深く悲しむと同時に、こうした攻撃に対し、心からの怒りと抗議の意思を表明します」とあった点に、福岡のカトリック正義と平和協議会の青柳行信さんが提出した意見をめぐって、議論が行われてきています。このやりとりは、「市民の意見30の会・東京」の機関紙 No.85 の上に公表されており、青柳さんの意見と、それに批判的な国富建治さんの意見とを、この会のサイトの「ニュースから(2)」の欄で読むことができます。
→ http://www1.jca.apc.org/iken30/n-main2.html 
  国富さんの主張は、論旨明確であり、かなりの説得力を持つものだとは思いますが、しかし、結論が出たとは言えず、この問題は、そう簡単に決着のつくことではないと思います。
 私たち自身の運動は、非暴力(何度もこれまで書いてきたことですが、これは無抵抗や、合法手段のみに限るということとはまったく違うことです)を守っており、罪のない人びとを殺傷するような手段をとることは決してしませんが、しかし、私は、合法的、平和的方法での解決が不可能のような状態に置かれた抑圧された人びと(その一部にせよ)がとるあれこれの抵抗の手段に対し、注文をつけたり、ましてや「残虐非道なるテロ」と断じて「強い憤り」や「心からの怒り」を表明する気持ちには、容易にはなれないのです。

4. 今後も検討を続けてゆきたい

 最近読んだ酒井隆史さんの『暴力の哲学』(河出書房新社、04年5月刊 \1,500)にこういう言葉がありました。

……2001年の9月11日のいわゆる「同時多発テロ」とその後のアメリカによるアフガニスタンへの攻撃に際して、この戦争に反対する立場から「テロにも戦争にも反対」という圧倒的に「正しい」スローガンが掲げられました。確かに「テロ」は賛成、「戦争」は反対というのでもないし、「テロ」は反対、「戦争」には賛成というのでもない、暴力はやっぱりイヤだし、テロも戦争もどっちもイヤだ……でもなにかこのスローガンでは割り切れなさが残る…… (同書 14ページ)

 まず、香田さんの誘拐と殺害は「断じて許せない悪逆非道な行為」「重大な犯罪行為」あるいは「人道にもとる行為」として「強い憤りをもって抗議」し、つぎに、「しかしながら……」として、アメリカと小泉政権のイラク侵略に責任があるとして、それを批判する、という展開の仕方に、この「テロにも戦争にも反対」のスローガンに感じ取れるとされたのと同じような割り切れなさを、私は拭いきれないのです。もちろん、それが人道にかなう行為だなどと思っているわけでは決してありませんが、しばらく、考える努力をしてみたいと思っています。『暴力の哲学』はすんなりと読める易しい本ではありませんが、もう一度読み直し、また、月刊『情況』が、その10月号でこの本をめぐって特集を組み、著者の酒井さんを含め、多くの人の論考や討論が載っていますので、それも読み、検討を進めてゆきたいと思っています。運動としても、この問題は、まだ今後の議論の深化が必要であり、 市民の意見30の会・東京の『ニュース』の上でも、まだ継続掲載が計画されています。

5. 韓国の運動体の声明とイラクのある医師からのメッセージ

 あるメーリングリストの上で流されてきた声明の一つに、韓国の「イラク派兵反対非常国民行動」が発表したものがありました。ご参考に以下にご紹介しますが、この声明では、香田さんを殺害した武装集団に対する評価はなされておらず、抗議の意思の表明もありません。



イラク派兵反対非常国民行動(韓国)

 <論 評> 誰が香田証生さんを死に追いやったのか? ―― 自衛隊がイラクに行かなければ起こらなかった悲劇 ――

 イラク武装兵力によって拉致された日本人・香田証生氏(24歳)が、31日に遺体で発見されました。他人事とは思えない悲劇です。悲しみに沈む遺家族と日本国民の皆さんに深い弔意を表します。
 日本の町村外務大臣は、「今回のテロは許すことのできない、とても卑劣な行為だ」と述べました。しかし、日本の外相は、一つも鮮明な事実を語っていません。
反人類的な暴力で、その悪循環に火をつけたのは、侵略戦争を強行した米国ブッシュ行政府と自衛隊を派遣した日本の小泉政権自身だという点です。
 日本民主党の岡田代表が述べていましたが、今回の事件は自衛隊が派遣されなければ、起こらなかった事件です。
 日本政府も、盧武鉉政府のように「テロに屈して、自衛隊を撤収することはない」とし、12月予定されている「自衛隊派遣延長同意案」処理の強行を示唆しています。しかし、このようなことは、虚しさに嘆く日本国民を説得することはできません。派兵、これこそ侵略と虐殺の提案に屈服したことであり、血の悪業に同賛したことであるためだからです。
 英国の医学週刊誌は、「イラク戦争の余波で死亡したイラク民間人は、保守的に見積もっても約10万名に達する」と明らかにし、「米国の集中爆撃があったファルージャを含めた場合、この2倍の20万名水準に達する」と指摘しました。
 米国が主張した、すべての戦争名文が偽りだったと分かった今、果たして、どれくらいの日本国民が、イラク人犠牲者と日本人をはじめとした外国人犠牲者を、「不可避的なこと」として受け入れるでしようか?
 韓日両国政府が暴力に屈せず、真正な勇気を発揮するならば、まず「米国のイラク侵略と占領の不当性」に対して述べなければなりません。
 もう一度強調します。
韓国の故キム・ソニルさん事件と日本の香田さん事件は、韓日両政府が侵略戦争の犯罪に同賛したために発生しました。今回の事件は、今後も発生するより多くの悲劇の始まりのみならず、韓日両国政府のイラク侵略支援は、韓日両国国民をより危険にさらすことになります。
 韓日両国の派兵は、韓日両国民とイラク国民たちの間に、回復することのできない傷を残すことになります。
 小泉政府と盧武鉉政府に問います。なぜ私たちの若者がイラクに行かなければならないのか?
イラク駐屯自体が紛争の原因を提供するこの状況で、もうこれ以上「イラク平和再建のために占領部隊を継続駐屯させなければならない」と国民に嘘をついてはいけません。
 イラクに派遣している自衛隊と韓国軍を、即時撤収しなければなりません。
2004年11月1日

イラク派兵反対非常国民行動 (韓国) (翻訳:韓統連大阪本部)
 

 また、それ以前ですが、同じMLの上では、以下のような、イラクの医師からの日本人宛メッセージも紹介されていました。

Hです。

 バグダッドのセントラル子供病院、モハメド医師から、今回の事件についてもメールをもらったので、取り急ぎ翻訳して送ります。
 彼は、今年2月から半年間、名古屋大学病院で研修医として、医療技術を学び、8月末にイラクに帰国しました。僕も彼の招聘を手伝っています。
------------------------------------------------------
親愛なる友人へ

 現在、かなり多忙なのですが、日本人男性の誘拐・殺害事件の背景を説明しなければいけないと思っています。

 イスラム教の指導者たちの調整が機能していない状態にあり、事態は最悪です。その原因は、ほとんどの指導者が刑務所に送られ、残りはイラク国外に逃げてしまったことです。だから、イラク国内には、アメリカ軍のための軍隊か、テロリストしかいないんです。私たちの現状を想像できますか? お金のための軍隊か、米軍をイラクから追い出すための軍隊しかいないのです。もうイラクに日本の人を送らないでください。バグダッドで私たちは、より困難な生活を送っています。
 毎日、バグダッドの市民に対して、3〜4回の爆撃が行われています。昼でも夜でもです。とくに早朝に爆撃されます。アメリカ軍の戦車が一日に何度もハイウェイを通過し、よく彼らは攻撃されます。だから、ハイウェイを使うことができません。ハイウェイで攻撃に会う可能性がきわめて高いので、緊急事態でない限り、誰もハイウェイを使いません。また、イラク国軍はアメリカ軍に指揮され、彼らの命令下で働いています。だから、彼らも攻撃の対象にされるのです。不思議に思ったかもしれませんが、先週、Dialaで49人ものイラク人兵士が殺されたのは、このためです。さらに、イラク国外に逃げようとした、医者や科学者も殺されています。イラク国内にいるイラク人も殺されるかもしれないという脅威にさらされています。とりわけ特別な立場にいる人、例えば政府機関で働いている人や特定分野で有名な人にとっては、その危険性がより高くなっています。

 もちろんのこと、外国人が殺される確率は、それよりも高くなっています。だから、全ての日本の方に、自重してイラクから離れることをお願いしています。そして、日本軍の早期撤退をお願いします。イラクの状況はより悪化していくので、軍人だろうと安全ではなくなるでしょう。彼らの命も守ってください。

 日本とイラクの良好な関係を維持したいので、日本人殺害事件のことを残念に思っています。イラクの人々を責めないでください。私たちは、あなた方の親愛なる兄弟でありたいのです。日本人の中には、私たちイラク人のことを憎む人がいるだろうと思っています。しかし、私たちは何をすればよいのでしょうか? 最後にいっておきたいことは、今まで、イラクにとって、いい兆しはなにもありませんでした。イラクのリーダー、アラウィが選挙のことを話している一方で、ファルージャではアメリカからの大規模攻撃を待ち受けているんです。じつに皮肉なことではないですか。