条例制定請求に対する保谷市長の意見書ほか (2000/04/21掲載)  

 4月19日の臨時市議会に市長が提出した議案第48号、およびそれに付した市長の意見書全文は以下のとおり。

議案第48号

     保谷市が田無市と合併することについての可否を住民投票に付するための条例

 上記の議案を提出する。

 平成12年4月19日

                    提出者 保谷市長 保谷高範

 

 保谷市が田無市と合併することについての可否を住民投票に付するための条例

(目的)

第1条 この条例は、保谷市が田無市との合併をしようとする場合、その合併の可否について、市民の意志を確認するための住民投票(以下「住民投票」という)を行うことを目的とする。

(住民投票の実施)

第2条 市長は、この条例の施行後、保谷市と田無市の合併に関する賛否について、保谷市に在住する市民が、直接投票をする方法をもって、意思を表明する機会を設けなければならない。

2 市長は、投票の期日を定めたときは、投票日の20日前までに、告示しなければならない。

(投票資格者)

第3条 前条の住民投票を行うことができる者(以下「投票資格者」という。)は、告示日の前日まで、保谷市に引き続き3月以上在住していることが確認される者であって、告示日の前日に、満20歳以上すべての者とする。

2 市長は、投票資格者について、合併手続に関する住民投票資格者名簿を、作成するものとする。

(投票の方法)

第4条 投票の方法は、市長が定める投票用紙に、合併に賛成するときには、投票用紙の賛成欄に「○」、合併に反対するときには、投票用紙の反対欄に「○」の記号を記載するものとする。

(住民投票結果の告示)

第5条 市長は、住民投票の結果が判明したときは、これを速やかに告示するとともに、市議会議長に通知しなければならない。

(住民投票結果の尊重義務)

第6条 市長は、第2条に定める住民投票の結果、有効投票数の過半数を超えた合併に対する賛成又は反対の市民の意思を尊重しなければならない。

(運用の公正)

第7条 住民投票に関する必要な事務は、この条例に定めるもののほか、保谷市選挙執行規程(昭和47年保谷市選挙管理委員会告示第28号)を準用するものとする。

(委任)

第8条 この条例の執行に関し、必要な事項は規則で定める。

付則

(施行期日)

1 この条例は、公布の日から施行する。

(失効)

2 この条例は、投票日の翌日から起算して90日を経過した日にその効力を失う。

(提案理由)

 平成12年4月6目保谷市条例制定請求代表者中川雄一郎外2名から、地方自治法(昭和22年法律第67号)第74条第1項の規定により、保谷市が田無市と合併することにっいての可否を住民投票に付するための条例の制定の請求があったので、同条第3項の規定により、別紙のとおり意見を付して付議する。

 

別紙

意見書

 今回付議する「保谷市が田無市と合併することについての可否を住民投票に付するための条例」(以下「本件条例」という。)は、「保谷市が田無市との合併をしようとする場合、その合併の可否について、市民の意志を確認するための住民投票を行うことを目的」(第1条)として、市長に対し、「有効投票数の過半数を超えた合併に対する賛成又は反対の市民の意思を尊重」(第6条)することを義務付ける内容のものである。本職としては、次の3つの観点から、本件条例の制定は、必要がないものと判断する。

1 地方自治法(昭和22年法律第67号)からみた本件条例の適否

 市町村の合併は、廃置分合の一態様として、地方自治法にその法的手続が定められており、保谷市と田無市との合併は、両市の市議会の議決に基づく都知事への合併申請、都議会の議決に基づく都知事の合併処分を経て、自治大臣がその旨の告示をすることにより効力を生ずるものとされている。すなわち、合併をするか否かの判断と意思決定は、いわゆる議決事件として、市議会及び都議会の権能に属する事項となっている。

 本件条例は、法制度上、市議会及び都議会の権能に属する事項とされている合併の是非の判断について、市長に対し、住民投票の実施とその結果の尊重を義務付けるものである。そうした内容の制度を市議会自らが議決をして定めるということは、合併に関する手続を定めた法体系との整合性に基本的に欠けるものといわざるを得ない。条例による住民投票を実施した先行事例においても、議決事件を対象にしたものは存在しない。住民投票制度については、国の地方分権推進計画(平成10年5月策定)の中でも、慎重に検討を進める事項として、立法論としても、未だ結論をみていないことは周知のとおりである。

2 市町村の合併の特例に関する法律(昭和40年法律第6号)からみた本件条例の適否

 現行法制度は、地方自治法の特別法として、市町村の合併の特例に関する法律(以下「特例法」という。)を定め、特例法第3条第1項において、合併をしようとする市町村は、地方自治法第252条の2第1項の規定により、市町村建設計画の作成その他市町村の合併に関する協議を行う協議会を置くものとして、合併に至るまでの関係市町村の合意形成に関し、入念で慎重な検討の場を設けている。このことは、合併が関係市町村の住民にとって非常に重大な影響を持つものであることから、当該合併が当該地域住民の福祉の向上に資するか否かを関係市町村の間で公正かつ慎重に検討し、十分将来の見通しを立てた上で行われるべきものであるとの趣旨によるものと解される。本規定に基づき、去る平成11年9月20日に、田無・保谷両市議会の議決をいただき、同年10月11日に田無市・保谷市合併協議会として正式に発足したところである。

 次に、協議会の構成員について、地方自治法第252条の3第2項の規定は、「会長及び委員は関係普通地方公共団体の職員の中から、これを選任する」とされているところ、上記のごとき協議会の任務の重要性に照らし、特例法第3条第3項及び第4項は、関係市町村の議会の議員及び学識経験を有する者も、構成員とすることができるよう規定をしている。田無市・保谷市合併協議会の設置に当たっても、この規定の趣旨に則り、両市の市長・助役のほか、両市議会議長、両市議会全会派からの代表議員、学識経験者(住民及び東京都の関係部署の職員)の合計28人のメンバーを構成員としている。

 このように、保谷市・田無市の合併に関しては、広範で多角的、公正でかつ慎重な審議が行えるよう特段の配慮がなされている。

3 全国初の試みとしての「投票方式による全有権者アンケート」の実施

 合併協議会は、合併の是非も含め、住民の意向を確実に把握することが当然の任務であることから、協議会設置当初からその具体的な実施方法について、議題として設定し、検討を重ねてきた。平成12年1月27日の第8回協議会では、調査方法として、5つの案が提示された、すなわち、「有権者の5%を抽出したアンケート調査」、「郵送回収による全有権者アンケート」、「訪問回収による全有権者アンケート」、「投票方式による全有権者アンケート」、「条例による住民投票」の5つである。そして、平成12年2月10日の第9回会議において、おおむね次のような方法及び内容により、全国初の試みとして、「投票方式による全有権者アンケート」を実施することとした。

 意向調査の方法 投票方式
 実施主体 田無市・保谷市合併協議会
 目的 市民意向の確実な把握と結果の尊重
 調査対象者 18歳以上(告示日現在)の保谷市及び田無市の市民
 投票時間 午前7時から午後10時まで
 不在者投票時間 午前8時30分から午後140時まで
 不在者投票の事由 特に間わない。
 調査項目 両市合併に対する賛否
         新市の名称
        新市に期待する施策の方向性
 根拠規定 合併協議会要綱
 結果の取扱い 合併の賛否に関する項目
           有効投票の過半数が合併に反対であれば、合併の期日を始め、現在進めている合併の協議について見直すものとする。
           新市の名称に関する項目 協議会は、結果を尊重して新市の名称を定める。
             新市に期待する施策の方向性
           結果を尊重し、今後の施策方針等に反映する。

 情報等の周知 協議会の協議結果の情報を提供し、市民説明会を開催する等、その周知徹底に努めるものとする。

 この調査方法は、本件条例との比較でいえば、住民の意見表明の秘密保持、公正性の確保の点、及び全有権者に意向表明の機会が与えられる点では差異はない。しかしながら、「投票方式による全有権者アンケート」方式は、@有権者の範囲を18歳以上までに拡大し、新市の将来を担う若者の意見を広く反映することができること、A調査項目は、単に合併の賛否だけではなく、住民の関心の高い新市の名称や新市に期待する施策についても調査できること、B投票時間の延長、不在者投票の要件緩和等、利便性の向上を図っていることなど、本件条例よりも、市民の意向をより広く、確実に把握できるよう設計されている点で、格段に優れたものであると自負している。

 以上のとおり、保谷市と田無市との合併については、地方自治法及び特例法の規定により、十分公平で客観的な検討の機会と仕組みが整備されていることに加え、全国初の試みとしての「投票方式による全有権者アンケート」を実施することとしている。いずれにしても、最終的には直接選挙で選ばれた住民の代表者からなる議会において、その是非が判断されることから、住民意向の把握は、これらの仕組みを通じて万全になし得るものである。

 本職は、以上述べた理由により、本件条例の制定について、法制度上の観点からも、実務上の観点からも積極的意義を見い出すことができないものと考える。

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(資料)

保谷市条例制定請求書

 保谷市が田無市と合併することについての可否を住民投票に付するための

条例制定請求の要旨

1 請求の要旨

 保谷市が田無市との合併をすすめるにあたって、その賛否を住民投票に付することを求めるものです。

 保谷市では田無市との合併に向けて1999年10月、「法定の田無市・保谷市合併協議会」を発足させ、合併の目標を2001年1月と決め、新市名の公募を行うなど準備をすすめています。

 しかし、市民の間には「両市の合併に賛成」「合併の必要なし」「合併はもっと慎重に検討してほしい」など、さまざまな意見があります。

 合併は、私たちの暮らすまちの存廃にかかわる重大問題です。このようなまちの将来を決める重要な問題には、自治体の主権者である市民ひとりひとりの意思を問う必要があります。合併に賛成であっても、反対であっても、市民ひとりひとりの意思を問うという民主的な手続きを経て、市民が自分たちのまちの将来に対して責任を負うということが地方自治を担う市民のひとりとして大切なことであると思うからです。

 この住民投票は「議会制民主主義制度の下では住民投票は慎重であるべき」とする行政法の学者でさえも、『合併といった、自治体存立の基礎的条件にかかわる基本的な選択について、住民投票は用いるべき』といっています。また、地方分権推進委員会第二次答申においても、「住民参加の機会拡大のために有効」との認識も示されており、住民投票は合併について市民の意見を反映させ、合意形成をはかるうえでも有効な手段です。

 そこで、市民ひとりひとりの意思を確認し、今後のまちづくりにいかしていくために、ここに地方自治の本旨にもとづき住民投票条例の制定を請求いたします。

2 請求代表者 

東京都保谷市中町3丁目3番3号 大学教授 中川雄一郎 (印)
東京都保谷市東町3丁目番9号 弁護士 鈴木幸子 (印)
東京都保谷市東町1丁目3番5号 主婦 下田律子 (印)

 上記のとおり地方自治法(昭和22年法律第67号)第74条第1項の規定により別紙条例案を添えて条例の制定を請求いたします。

2000年4月4日

保谷市長 保谷高範殿