受けている女性の数と年齢
国連機関の発表によれば、2024年現在、2億人以上の女児・女性がFGMを受けている。アフリカでは少なくとも29ヵ国、中東、アジア、南米の数ヵ国、さらにはヨーロッパ、北米、オーストラリア、ニュージーランドなどのアフリカ系移民社会の一部で行われている。FGMの対象になるのは、主に乳児から初潮前の少女だが、時には結婚直前や分娩直後の女性も含まれる。
FGMを受けている女児・女性の数は、9年ほど前までは1億4千万人以上とされていたが、インドネシアからのデータが新たに加わったため大幅な増加となった。FGMを受けた半数がインドネシア、エジプト、エチオピアの3か国に集中している。
FGMなどの有害な慣習の廃絶はSDGs(持続可能な開発目標)ターゲットの一つだが、伝染病、気候変動、武力紛争などによりその達成が危うくなっている。国連によると2024年には世界中で約440万人、毎日12,000人以上の少女がFGMの危険にさらされるという。
FGMと「女子割礼」
以前は「女子割礼」と呼ばれていたが、NGO『インター・アフリカン・コミッティ(IAC)』が1990年に開いた総会において、アフリカの女性たちが「女子割礼ではなく女性性器切除(FGM)という言葉を使う」ことを決めた。
「女子割礼」では男子割礼と同一視され、FGMの実態や女性の心身に与える被害を見え難くするからである。それ以降国際機関をはじめとして廃絶運動においては、「女子割礼」ではなく“FGM”という用語を使用して、この慣習が人権侵害であるという事実を訴えるようになった。
(「
"FGM"という用語に関する宣言」もご覧ください。)
切除者(施す人)
切除者の多くは、伝統的助産師といわれる女性や「割礼師」と呼ばれる人々。大抵の場合、麻酔なしで、ガラスの破片、かみそりの刃、ナイフ、缶詰の蓋、鋭利な石、アカシアのトゲなどを使って少女の性器を切り取り、時にはカラタチのトゲなどで大陰唇を縫い合わせる。止血や傷を癒すために、植物樹脂、灰、植物の溶液、ハーブなどを混ぜ合わせたものが使われることもある。
切除者は地域によっては、床屋の男性、医師や看護師という場合もある。FGMを施すことによって、こうした切除者は報酬を得ることができる。
行なわれる理由
地域によって異なるが主な理由としては、「伝統的慣習だから」「女性の成人儀礼として」「宗教的な儀式だから」「女性の処女性と貞節を守るため(FGMを受けていないと結婚できない)」「クリトリスは男性的特徴(ペニス)だから女性には適切でない」「女性の外性器は不潔で見苦しいから」「多産と安全な出産のため」「性欲が抑えられ貞節になる」などで、FGMを受けないと地域社会から排除されるおそれもある。
FGMの影響・後遺症
FGMの施術は、一般的に剃刀や鋭い石などを使い、麻酔も薬も用いず行なわれる。そのため、激しい痛みや出血によるショック、感染症で死に至ることもある。また、HIV/エイズ感染の危険もある。
後遺症も深刻であり、尿道の損傷、慢性の感染症、貧血、腎障害、月経困難症、失禁、傷跡(ケロイド)による難産、腟狭さく及び陰唇裂傷、ろう孔(フィスチュラ:腟と膀胱、腟と直腸の間に穴が開いてつながってしまう疾病)、性交時の激痛、性行為への恐怖、うつ症状など女性の身体と人生に大きな影響を与える。
FGMの"医療化"
「FGMは不衛生な環境で行われることもあり女児の健康に多大な害をもたらす」と訴えるFGM廃絶キャンペーンの影響から、その害を減らすために医療専門家に娘の施術をゆだねる親も多い。
国連のデータによれば、特にエジプト、スーダン、ギニア、ケニア、ナイジェリア、イエメンで、“FGMの医療化”が拡大している。WHOによると、FGMを受ける少女のうち約4人に1人(5200万人)は医療従事者の手によって切除されているという。
しかし、医療専門家によって行われたとしても、FGMの程度や長期的な合併症が軽減されるわけではない。かえって、施術が医学的に適切であり、女児や女性の健康に有益であると正当化されるおそれがある。
どのような方法であれ、どの程度の切除であれ、この慣習は女性の人権を大きく侵害するものに変わりはない。