ダイオキシン問題をめぐる厚生省の7つの大罪
1.欧米に比べて20年以上取り組みが遅れたこと
ごみ焼却の過程でダイオキシン類が生成されることは、ヨーロッパではすでに1975年にオランダのオリエらの調査によって判明しており、それ以来対策が取られてきた。日本では1979年にカナダの学者が、京都市のごみ焼却炉の焼却灰を分析した結果、ダイオキシン類を検出していた。したがって、厚生省は1979年時点ですでに、日本のごみ焼却炉でもダイオキシン類が生成していることの認識はあったはずである。
ところが、厚生省が表立って取り組みを開始したのは、1983年11月、愛媛大学の立川涼教授らが日本の9箇所のごみ焼却炉の焼却灰からダイオキシン類を検出したとの発表がされたことがきっかけとなって、その年の12月に「ダイオキシン専門家会議」を発足させたのが最初である。しかし、この専門家会議は、翌年84年5月に評価指針値を提案し、この値に比べて労働者や住民の摂取量は相当低いから安全であるとの「安全宣言」を出して解散してしまった。
その後、1990年8月にNHKがごみ焼却場からダイオキシン類が高濃度に排出されているとの報道を行ったことが契機となって、厚生省は90年9月に「ダイオキシン類発生防止等ガイドライン検討会」を設置し、その年の12月に「ガイドライン」を決めて公表したが、ダイオキシン類の規制基準を法律で決めるには至らなかった。そして、法律でダイオキシン類を規制したのは、昨年(1997年)12月1日からのことで、欧米に比べて20年以上、愛媛大学の発表から数えても15年近く経ってしまった。
2.耐容1日摂取量の設定が欧米に比べて10年も遅れたこと
欧米では、1989年から90年代当初にかけて耐容一日摂取量(TDI)を設定してるが、日本が設定したのは1996年6月のことで、10年近く遅れた。
1984年12月に厚生省が設置した「ダイオキシン専門家会議」は、85年5月に人体に対する安全指針値(評価指針)として100pg/kg/日を決めたが、この値は、WHOをはじめヨーロッパ各国の許容一日摂取量(TDI)と比べて10倍から100倍も緩い値であった。米国EPAの基準値と比べると、1万倍も緩い基準値であった。
私が以前所属していた廃棄物を考える市民の会では、専門家会議が決めた直後から厚生省に対して欧米並みに厳しく見直しをするよう、厚生省の歴代の担当課長に要求してきたが、その都度、海外の情報を取り寄せて検討中であると繰り返すだけで、結局10年間、厚生省は100pgのまま放置してきた。
また、96年6月に設置するに当たって、WHOやドイツ、オランダなどではTDIの見直しがされる動きがあることを当然知りながら、10pgという緩い基準を設置した。
3.実態調査の把握が遅れたこと
厚生省が都市ごみ焼却炉から排出されるダイオキシン類の基準値を定めたのは、1990年12月のガイドラインが最初だが、このときにはただ市町村に通達を出しただけで、特にダイオキシン類の実態調査を指示することはなかった。厚生省が全国の市町村のごみ焼却炉実態調査を指示したのはそれから6年近く経った1996年7月12日のことである。
4.市町村のデータのねつ造や改ざん、意図的な操作等を見過ごしてきたこと
この実態調査は1回だけの調査であったが、市町村の中には測定日にダイオキシン類の濃度が低く出るようにごみの燃やし方を操作したり、あるいはその日だけ除去装置を設置したり、さらには高い数値を隠して低い数値しか厚生省に報告していなかったことなどが相次いで発覚し、調査全体の信頼性を損なうような行為が行われていたにもかかわらず、厚生省は調査のやり直しを指示していない。
5.労働者や住民の疫学調査をはじめ健康調査を全く実施してこなかったこと
厚生省は、ダイオキシン汚染問題が新聞等で取り上げられて社会問題になる都度、「国民の摂取量から考えて健康障害が発生するレベルではない」と「安全宣言」を出して”火消し”を図ってきた。しかし、労働者や住民の健康調査も疫学調査も一切実施することはなく、なぜ「国民に被害は出ていない」ということが断定的に言えるのか。私たちは、所沢や新利根における住民の健康被害の発生のおそれが現実のものとして考えられるようになってからも、厚生省に対しては繰り返し実態調査を実施するように要求してきたが、担当者からは「その考えはない」と拒否され続けてきた。
6.コプラナーPCBや臭素化ダイオキシン類に対する規制を全く考えてこなかったこと
日本の国内で、一部の学者や研究者からコプラナーPCBの毒性について評価対象に加えた上で、規制や削減対策の必要性が叫ばれてきたにも関わらず、厚生省はこれを現在も無視し続けている。また、ドイツでは、臭素化ダイオキシン類についても規制対象にしているが、日本では厚生省も環境庁も全く無視している。
7.日本のダイオキシン汚染実態を考慮すれば、焼却処理を直ちに止めるべきであるにも関わらず、ますます大型の焼却施設づくりを推進しようとしていること。
日本の都市地域の大気中のダイオキシン類の濃度は、中小都市も大都市も欧米各国の都市と比べても10倍以上も高く、しかも環境庁が決めた環境指針値の空気1立方メートルあたり0.8pgを大幅に超えている実態にあること、特に大都市の大坂人の母乳中のダイオキシン類の濃度はコプラナーPCBを除いても51pg/gと世界一高いこと、また、今回明らかになったように、竜ヶ崎市・新利根町のごみ焼却場の周辺の住民の血液中のダイオキシン類濃度は、世界の平均濃度と比べても10倍から20倍近くも高いことが判明したこと、また、大都市地域の住民のダイオキシン類の平均摂取量は、今回WHOが見直したTDIをすでに現状で超えていること、大阪湾や東京湾の魚介類中には相当高い濃度でダイオキシン類が検出されていること、ダイオキシン類の発ガン性や極めて低濃度で起こるとされている内分泌撹乱作用、そしてこれらの毒性の影響は胎児や乳幼児に強く現れることがわかってきたことなどを考慮するならば、日本においてはごみの焼却処理は今直ちにすべて中止すべきであるにもかかわらず、厚生省はごみ処理の広域化やごみ焼却施設の24時間連続稼動を前提とした大型化、中小規模の都市ではRDFの普及と
いった焼却処理にますます依存しようとしている。この施策は、ヨーロッパや米国、カナダなどの都市が目指している「脱焼却」「ゼロ・エミッション」の方向とは全く逆行している。これは、今日、地方都市に至るまで焼却炉の設置が進んだ現状で、次なるあらたな市場を形成するために、ダイオキシン対策に名を借りて大型の焼却施設を自治体に売り込みを図るための企業戦略に、厚生省が加担していることになるいってもよい。