プルサーマル公開討論会を実現する会 1999/05/07

 江戸東京博物館で軽水炉でプルトニウムを使用するプルサーマル計画に対する市民側と通産省・科学技術庁の公開討論会が行われた。脱原発派が呼び掛けたプルサーマルに関する討論会に通産省の担当者が出席するのは初めて。
 主催は「プルサーマル公開討論会を実現する会」(埼玉県新座市、高木章次代表)。同会は、原子力資料情報室や原水爆禁止日本会議、ストップ・ザ・もんじゅ東京など20余の団体で構成されている。

 市民側からは澤井正子(原子力資料情報室)、山崎久隆(福島原発・市民事故調査委員会)、広瀬隆(作家)、佐藤和良(脱原発福島ネットワーク)が出席。国側からは鈴木孝信(通産省資源エネルギー庁原子力産業課課長)、土井良治(通産省資源エネルギー庁原子力産業課課長補佐)、杉本孝信(通産省資源エネルギー庁原子力産業課)、その他に5人の担当者が出席した(全て敬称略)。


公開討論会の様子。左側が市民、右側が通産省・科学技術庁



[討論会内容・概略] (文責:管理人)

○澤井正子氏
 輸送の問題点を中心に論議を行った。プルトニウム軽水利用に用いる燃料体MOX燃料は2隻の輸送船を武装し、相互に監視する方法を選択している。輸送船はイギリスの輸送会社が改造し、イギリス原子力庁の警察隊が警備にあたる。この方式には防護上問題が有るのでは無いかとの指摘が有る。
 また、海上輸送に対しては、諸外国から懸念の表明、輸送の中止を求める声が高い。特にカリブ共同体各国政府は、パナマ運河の通行禁止をアメリカ政府に訴え、さらに日英仏に対しては輸送中止を要求している。カリブ諸国連合も、首脳会議でサントドミンゴ宣言の中に放射性廃棄物の輸送の抗議をもりこんだ。

 Q:防護上問題はないのか
 鈴木氏:2隻で十分
 Q:事故時の損害賠償や事故時の緊急対策は決めているのか。
 鈴木氏:今まで事故が起きていないので安全性が高い。
 Q:事故アセスを行っているのか
 鈴木氏:十分な安全性があるので通産省としてはしていない。

事故時のアセス、賠償、緊急対策がまったく決まっていないのは、正直驚きであった。「安全である事を理解していただく」という型通りの回答が気になった。他国の鼻先で危険物を通過させる事が国際社会との協調を反する事は言うまでも無い。事故アセスさえしていない、この希望的観測はどこからくるのであろうか。

○ 山崎久隆氏
「もんじゅ」事故以後のプルトニウムの需給見とおしを中心に論議を行った。日本のプルトニウム計画は高速増殖炉「もんじゅ」の事故による停止、ATR「ふげん」も運転停止が決まった現在、原子力開発利用長期計画はまったく実態に合わなくなっている。
 プルトニウムを消費する手段として軽水炉でプルトニウム燃料を使用するプルサーマル計画があるのだが、この計画でも再処理される全てのプルトニウムを消費する事は出来ない。

Q:プルサーマル計画でプルトニウムは減るのか
片岡氏:プルトニウム燃料はプルトニウムの有効利用で、プルトニウム燃料も再利用する。
Q:英仏で現在再処理によってプルトニウムは増加しつづけている。計画利用がないのなら再処理中止をすべき
片岡氏:抽出したもののみ利用する。六ヶ所は2005年の操業に向けて推進する。そこでの再処理プルサーマルは一部は研究、そしてプルサーマル計画に使う。
Q:ドイツはコジェマに依頼していた再処理を中止して貯蔵しているが、日本も今止まって考えるべき。
片岡氏:再処理を止める気は無い。

「プルトニウムが必要だから、再処理をする」のではなく「プルトニウムが出てくるので、プルサーマルを行う」というまったく逆の論理が働いているようだ。「プルサーマル計画でプルトニウムは減少します」という明確な答えは得られなかった。プルトニウム利用計画が破綻した今、立ち止まって国民的論議をするべき時ではないのだろうか。

○ 広瀬隆氏
高レベル放射性廃棄物最終処分場問題を中心に論議を行った。再処理により使用済み燃料はプルトニウム、回収ウラン、高レベル放射性廃棄物、中低レベル放射性廃棄物に分類される。高レベルに対し中低レベルは4〜5倍発生すると言われている。これらの核廃棄物は処理・処分する先はまったくない。六ヶ所村には高レベル放射性廃棄物が一時貯蔵として冷却保存されている。もちろん、引き取り先は存在しない。
使用済み燃料も現在あふれんばかりに溜まっている。これらの使用済み燃料は六ヶ所村再処理工場で再処理される予定だが、抽出されたプルトニウムは現在余剰のためプルサーマルで燃料に使用されるもの。再処置方針が行き詰まった今、見直しを計るべきなのだが、中間貯蔵施設を建設するのは、原発からあふれ出る使用済み燃料問題を先送りにする事になる。

Q:高レベル放射性廃棄物はどこへ持っていく気か?
土井氏:2030〜2045まで冷却する。それまでに処分場を見つける。

「核廃棄物の最終処分場が決まらないまま計画を進めるのは、着陸する飛行場がないまま飛行機を飛ばすようなもの」広瀬さんは指摘する。飛行場が出来るだろうと、あわい期待を抱きながら計画を進める行政に大きな疑問を感じる。せめて再処理は中止するくらいの処置は出来ないのだろうか。


○ 佐藤和良氏
プルサーマル実施に伴う合意形成を中心に討論を行った。福島県知事が1998年11月にプルサーマル受け入れ表明に対して「国民、県民の合意・理解に関しては、国と事業者が真剣に取り組んでいただきたい」と述べた。県議会の判断のみでは県民の合意としても不充分で有ることを示唆している。

Q:国民的合意を得てから進めるべきでは無いか
土井氏:答えれない。

Q:プルサーマルを行ったらプルトニウムは減るのか?
A:高速増殖炉への開発への第1歩


 通産省・科技庁側のコメントは、建前が殆どであったが、質問によっては本質的な回答が得られた。討論会では、会場からのヤジも無く素晴らしい討論会だった。今後も市民と国との討論会が全国で開催される必要がある。

会場の様子。約300人の参加者が熱い論議に耳を傾けた。


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