講演をする宮田教授。
○宮田秀明 摂南大学薬学部教授 の要約(文責:管理人)
ダイオキシンは免疫抑制、肝臓障害、ホルモンかく乱、生殖毒性などに強い働きが有る。ラットでは1000pgTEQ/kg/日が無害性量(これ以下なら問題ないとされている)だったが、アカゲザルに対する子宮内膜症の試験では飼料5pgTEQ/gで43%の発症率となった。この飼料でのアカゲザルは126pgTEQ/kg/日に相当の汚染となる。大都会の魚の7pgTEQ/g、ムール貝は9pgTEQ/g、松の葉は20pgTEQ/gとなる為、食事には十分気をつける必要がある。
アメリカ、日本では子宮内膜症が増えているが原因が同定できていない。アメリカでは500万人以上の人(10人に1人)と言われ、この中の30〜40%は子宮内膜症と言われている。その原因にダイオキシンが疑われている。
現在の日本の耐容一日摂取量(TDI)は10pgTEQ/kg/日である。WHOはCO-PCBを含めたTDIを1〜4pgTEQ/kg/日に変更した。日本もWHOの数値に追従する。米国環境保護庁はダイオキシン類を発ガン性物質として、閾値無しの立場でTDIを0.01pgTEQ/kg/日と設定している。
日本では母乳のダイオキシン濃度は15〜50pgTEQもある。ダイオキシン濃度の高い母乳は、甲状腺ホルモン(エネルギー代謝に必要なホルモン)が減少している。甲状腺ホルモンは成長を促し、赤ちゃんは作れない重要な物質である。そのため、赤ちゃんに成長の低下に伴う知能低下などが現れている。実際に油症患者には赤ちゃんに成長抑制・知能低下がおこってしまった。ダイオキシン濃度にともない、アトピーもダイオキシン濃度と共に増加し、アトピーと同じ免疫作用も見られやすくなる。アメリカでは糖尿病の発症率もダイオキシン濃度の高い人ほど多いというデータがある。
大気中のダイオキシン濃度は欧米(最大でも0.18pgTEQ/m3)に較べて、日本は1桁大きい(最大1.76pgTEQ/m3)。宮田教授は大気中のダイオキシン濃度測定の指針値として松針葉中(松脂)のダイオキシン濃度の調査を行っている。北海道では1.42pgTEQ/gでだが、神奈川県藤沢市では21.0pgTEQ/g、所沢では100pgTEQ/g近くもあり、日本国内でも数値には100倍もの差がある。この事は空気の濃度も100倍もの差が有る事を示唆している。
一方、海の汚染はムール貝(ムラサキ貝)を用いて調べる。大都会では平均7pg/TEQ/gだが、愛知県東海市では9.9pgTEQ/g、沖縄県今帰仁では0.2pgTEQ/gとその差は50倍もの差が有る。ムール貝は一般に汚染に強い貝だが、綺麗な環境では10cmほどの大きさになるのだが、大阪のムール貝は5cmより大きくなれない。
魚に較べ、松針葉中ダイオキシン濃度は高い。その理由は葉は大気から出来る事に起因する。毒性の高い塩素の少ないダイオキシンはガスとなっているため、光合成の段階で葉っぱに入ってしまう為だ。毒性の低い塩素の少ないダイオキシンは粒子にくっ付いてやはり葉っぱに取りこまれる。
新利根・竜ヶ崎の血中ダイオキシン濃度は男性で68pgTEQ/g、女性で91pgTEQ/gとなり一般のダイオキシン濃度20pgTEQ/gに較べて高い。一般にダイオキシンは食品を通じて人体に取りこまれるのだが、空気からの汚染、野菜からの汚染が大きいと思われる。
大阪府豊能郡能勢では灰を扱っていた人の血中ダイオキシン濃度は平均で346.5pgTEQ/gであり、普通の人に較べ10倍も高い。足が黒くなったり、塩素ニキビが出てカネミ油症と同じ症状が出ていた。焼却場では灰の中にはマンガン、クロム、砒素、ニッケルの毒性の強い金属もあり、ダイオキシン以外にも数万種類の物質が出来てしまう。これらの多種類の物質とダイオキシンの相乗効果でより悪影響が出るのではないかと考えられる。
化学物質を暴露すると20年後にガンになると言われている。セベソの事故でダイオキシンに汚染されてた人は1年でガンになった人がいた。この人はすい臓ガンだったのだが、すい臓のダイオキシン濃度が高かった。ダイオキシンはガン促進作用が強く、暴露しなければもう少し後にガンの症状が出たと考えられる(つまり、ダイオキシンがすい臓ガンを促進した)。複合汚染の為、ダイオキシン濃度が数100で影響が出ると考えられる。
大都市域におけるダイオキシン類の摂取量は1996年の時点で約2pgTEQ/kg/日である、1997年の調査では12pgTEQ/kg/日であり、1/6まで減少した。これは、汚染の少ない外国からの輸入が増加したためで、日本の環境が良化したわけではない。日本の環境は1980年から悪いままである。もう10年経つと日本の食料は食べれないほどの汚染になってしまう状況が出てくる。
現在、日本の食料自給率は40%をきっている。また、食料の枯渇が現在問題になっている。日本では一年間に穀物450kg/年だが、発展途上国では200kg/年と言われている。この差は食肉の差で有り、経済発展にともなって食生活が変わっていく。中国はかつてトウモロコシ、大豆輸出国だったが、今では輸入国になっている。中国は現在300kg/年食べている。穀物を輸出できる国は限られており、食物の高騰は避けられない。また、人口は8000万人/年増加している。食料の枯渇が近いうちに起きるだろう。
日本は安い食料を外国から輸入して、農家がつぶれている為、食料の枯渇が訪れた時、食料が作れない状態となっているだろう。そして、食料の破綻がまず訪れるだろう。先進国で自給出来ないのは日本だけで、ドイツ、イギリスは100%以上である。
外国からの食物の摂取により、食物中のダイオキシン濃度は減ったが、母乳のダイオキシン濃度は変わっていない。乳児のダイオキシン摂取量は現在の耐容一日摂取量10pgTEQ/kg/日の7倍〜15倍もの高い値となっている。埼玉の最大値は340pgTEQ/kg/日、福岡では225
pgTEQ/kg/日という高い値となる。安全な摂取量は乳幼児の時期では実験を行っていない。ネズミなど、動物実験は青年期に行っているため、一般に言われている安全摂取量は大人に対する値となる。
母乳は非常に危険な状態であるし、赤ちゃんは一般に成人に較べ耐毒性が低い。一方、母乳は免疫抑制、スキンシップ、たんぱく質など良い面がある。母乳を飲んで良いのか悪いのかの議論は起きるが、母乳が安全か、危険かの調査が行われていない。現段階では母乳を飲んだら良いとも悪いとも無責任に言えない。
母体血とさい帯血は同じ濃度であり、ダイオキシンは胎盤をほとんど素通りして胎児に移動する。母乳より胎児への影響が高いと現在は考えられている。厚生省は平成4年度に1万6000人を対象に思いだし調査を行った。生まれた時アトピーがあったのは6%(現在では10%と言われている)、その後母乳ありでは8%,母乳無しでは6%となり、その差は2%であった。つまり胎児での暴露が大きな原因で、母乳は追い討ちとなっていると考えられる。
サリドマイド症では骨格が出来る時期に睡眠薬が胎児に影響を与えた事件であった。実際にビタミンAでネズミで実験を行うと頭蓋骨の無い子どもが生まれたりする。このため、妊娠中は風邪薬も飲んではいけないと言われている。ところがダイオキシンは体に蓄積されており、母体が選択をして汚染を避けられない。世界的に汚染を1/10にしないと行けないと言われている。汚染の少ない食物を選ぶ必要もある。魚では汚染の低い遠洋魚とか適切な産地を選ぶ必要がある。
ゴミの量を半分に減らせばダイオキシンは半分になる。いかにゴミを出さないようにするか考える必要が有る。現在の生ゴミは野菜は虫一つ食っていない。堆肥に使用としても菌が死んでしまう為、堆肥にできない。虫が多少食っていても安全な野菜を食べて生ゴミは堆肥化する生活を選ぶ必要が有る。カンもやめてリターナブルの物品を購入してゴミを出さない生活を行う必要があるだろう。