東京平和運動センター61-1

TKOPEACENEWS

　1面　NO.60　06.2発行

自民党「憲法改正草案」を葬り去ろう！
「日本国憲法について」

衆議院議員　横路　孝弘氏講演�

　現在、憲法を巡っていろんな議論があり、今の憲法はアメリカ占領軍（GHQ）に押し付けられたものだとか、あるいはもうすでに自衛隊がこのように存在しているのだから、それをきちんと認める必要があるのではないかとか、いろんな議論があります。しかし改正の狙いは憲法９条です。そこで日本国憲法、特に憲法９条が出来た背景について述べさせていただきます。
　明治維新によってできた明治政府は富国強兵を掲げてスタートし、明治７年には台湾に兵隊を送り出し、明治８年には江華島事件で開国を拒む朝鮮に対し軍艦を出動して示威行動を行い、その後、甲申事変、東学党の乱など、日本の国民保護を名目に朝鮮に対して兵隊を送り、日韓併合に至って、植民地という形で終戦を迎えた。他方、明治27年(1894年)の韓国の東学党の乱に清国が出兵したのに対して、日本も居留民保護ということを名目に出兵し、日清戦争が始まった。そして義和団の乱、アモイ事件、山東出兵。日露戦争、シベリア出兵、第１次大戦での青島攻略もあり、中国大陸に兵隊をたびたび送り、1931年満州事変そして上海事変ということで、日本は満州国を成立させて中国の侵略を進め、結局、日中戦争に突入したわけです。さらに真珠湾攻撃からアメリカ相手に戦争を引き起こし、最後は広島・長崎の原爆で終わった歴史を持っている。明治以降の日本は中国や朝鮮半島の国々が日本を侵略したということは一度もない。むしろ朝鮮を植民地化し、中国に満州国を成立させ、兵隊をたびたび送って侵略してきたのは日本である。広島・長崎の原爆、ポツダム宣言の受託であの戦争は終わりを告げました。
　これを機に日本は軍国主義の体制と決別し、平和で民主的な国家に生まれ変わろうとしました。これが日本国憲法の出発点となりました。ですから民主化を進めること、脱軍事化を進めること、脱植民地化を進めることが国際的な公約だったわけです。明治以降、特に昭和になってから、日本政府は戦争を遂行するため、人やモノや情報やお金など全部国家に集中し、国家総動員体制をとり、人々はどんどん徴用されました。物価も物価統制令のもとでコントロールされ、基本的人権は抑圧され、表現の自由もなかったし、治安維持法が制定もされました。つまり戦争を遂行するための国家体制というのは、国家が第一で国民は第二なのです。その結果、戦争を引き起こし、アジアの人々に多大なる迷惑をかけ、その死者は2000万人以上といわれ、日本人も313万人、うち軍属242万人以上といわれています。

　戦争を遂行する体制、これへの反省、それから明治以降の日本の近代史の反省、さらに広島・長崎の原爆の衝撃。こういったものが新しい憲法に本当に反映しているわけです。もともと戦争というのは、国家主権の行為の一つとして、例えば18世紀19世紀に資源を獲得する、領土を拡大するということで戦争が行われてきました。しかし、だんだんと軍事的技術が発展してきて、一般市民にも影響が及ぶようになってきて、「戦争を違法化しよう」という考えや世界の平和をどうするかという動きがだんだん生まれてきました。第１次大戦のあとにアメリカはでは「戦争というのは違法なもので、非合法化しよう。自衛戦争を含むあらゆる戦争を認めない」という動きが出てきましたし、欧州では集団的な安全保障によって戦争を抑止していこうという動きが出てきました。それが国際連盟であり、パリの不戦条約でありました。
　国際連盟は日本も参加しており、集団的で国際的な社会秩序の中で戦争を抑止しようとしました。しかしその後、日本は脱退して戦争に突入していきます。不戦条約は1928年、パリで署名され「パリ条約」といわれていますが、その第１条に戦争放棄が謳われていて、「締結国は、国際紛争解決のため戦争に訴えることを非とし、かつその相互関係において国家の政策の手段として戦争を放棄することをその人民の名において厳粛に宣言する。」　第２条は紛争の平和的解決で、「締約国は、相互間に起こることあるべき一切の紛争または紛議は、その性質または起因の如何を問わず、平和的手段に依るの外これが処理または解決を求めざることを約す。」日本もこの条約に署名しました。そのときの日本の外務大臣は幣原喜重郎でした。しかし、第２次大戦が起きたわけです。第２次大戦で大きな被害を受けて、やはり戦争をなくすように、平和を国際的な話し合いの場で解決できないかということで国際連合、つまり国連が誕生したわけです。国連憲章の目的と原則を見ると、第２条で「加盟国は国際紛争を平和的手段によって解決しなければならない。」その国際関係において２条４項で「武力による威嚇または武力の行使を慎まなければならない。」戦争や紛争を平和的に解決する、あるいは侵略行為が行われたときには安全保障理事会を中心にして、まずは非軍事的な措置、それでもだめな場合には軍事的な措置をとって平和を維持するというのが国連憲章の内容です。つまり国連には「戦争は違法だ」ということを認めた国が参加し、その約束を破った国に対しては共同で制裁を課す仕組みとなっています。国連がスタートしたときに国連軍を作り、秩序維持に当たろうとしたわけですが、その頃すでに米ソの対立が生まれていて、国連軍を作ること出来ませんでした。その後の冷戦で安全保障理事会も機能しなくなります。国連が認めている例外的な軍事行使は国連憲章第51条の自衛権で、これは国連の安全保障理事会が何らかの措置をとるまでの間、攻撃を受けた、侵略を受けた国はそれを跳ね返す権限の行使をしてよい規定されています。
　日本国憲法は国連憲章のあとにできた訳で、こうした歴史的な日本の国の反省、そして同時に世界的に大きな戦争違法化の流れの中で憲法９条は誕生したわけです。1946年（昭和21年）１月24日、「マッカーサー・幣原喜重郎会談」行われました。その後のマッカーサーの証言によると「日本の首相、幣原氏がやってきてこう言ったのです。『私は長い間熟慮して、この問題の唯一の解決は戦争をなくすことだという確信に至りました。私は非常にためらいながら、軍人であるあなたのもとにこの問題の相談にきました。なぜならば、あなたは私の提案を受け入れないだろうと思っているからです。しかし私はいま起草している憲法の中にそういう条項を入れる努力をしたいのです。』と述べている。また、幣原さんは「外交50年」の中で、「私は総理の職に就いたとき、憲法のなかに未来永劫戦争をしないようにし、政治のやり方を変えることにした。つまり戦争を放棄し、軍備を全廃して、どこまでも民主主義に徹しなければならないという見えざる力が私の頭を支配したのであった」「日本の生きる道は、軍備よりも何よりも、正義の大道を辿って天下の公論に訴える、これ以外にないと思う。」と記しています。日本国憲法９条１項２項、国際紛争を解決する手段としては武力を行使しないという１項、そのための戦力は持たない、交戦権は行わないという２項の根底には、世界的な流れ、そして日本の反省、とりわけ原爆の衝撃というのが非常に大きくあると思います。そうした背景の中で憲法９条は誕生したのだということをしっかり見なければなりません。
　そして９条のあったおかげで、戦後日本の繁栄は軍事産業に頼ることなく、自動車産業だとか電機産業というような民間の技術、民需によって発展してきたわけで、その間、朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争に参加することなく、また国家の戒厳令のようなことと無縁な自由社会として日本は60年間過ごすことができたわけです。
　今憲法改正論がいわれています。憲法９条の下で自衛隊がこれほど大きな軍事力としてあるのだから、それを認めるように憲法を改正して規定しようという意見もあります。現実がこうだから憲法を現実に併せようとするならば憲法はいりません。憲法というのは国としての理想とか目標、国の大きな形を決めている、それが憲法なのです。それゆえ、憲法を改正しなければ出来ないことはかなり限られており、天皇を元首にするとか大統領制にするとか、首相公選制にするとか、二院制を廃止して参議院をやめてしまうとか、憲法裁判所を新設するということはできません。また９条があるために、集団的自衛権の行使や海外での武力行使もできません。緊急事態宣言いわゆる戒厳令を敷くこともできませんし、基本的人権の大幅な制限もできないのです。憲法改正論の真の狙いは、憲法９条の下で、できないことをやれるようにするということです。ひとつは、例えばアメリカのパウエル前国務長官やアミテージ前国務副長官が日本に対して「憲法９条は日米同盟の障害になっている」ということを言いました。アメリカの要求は、アメリカが軍事力を行使したときに、いつでも日本も一緒に行動してもらいたい、いわゆる集団的自衛権の行使を要求しているわけです。つまり日本の自衛隊は「日本を守る」ことから、「日本とアメリカを守る軍隊になる」ということです。あるアメリカの高官が「日本は保安官（アメリカ）の助手になってもらいたい」と言いました。これは露骨な言い方で、属国扱いです。そういう点がひとつ。憲法９条１項２項の中で、60年間論議してきた憲法論があります。そしてその結果確立した原則は何かというと、国際紛争を解決する手段としての軍事力は持たないけれど、日本の国が攻撃されたときに自衛権を行使することは国の基本的権利であり、そこまで放棄したのではないという解釈で自衛隊を認めてきました。
　したがって一番の基本は何かといいますと、まず自衛権を行使する３要件というのがあります。それは、日本の国土に対して外国からの攻撃があって、それを避けることができない時に、反撃する力なのです。あくまでも日本の国土に対する攻撃から守る「国土防衛」の組織が自衛隊なのです。国土を守るだけですから海外に出て行くことはないわけです。守るだけですから、中距離ミサイルだとか核兵器、航空母艦、攻撃的な兵器は持たないということになります。それがいわゆる「専守防衛」という考え方です。これらの９条１項２項の下で、日本は武器を輸出しない国になりますよ、徴兵制度もとりませんという原則が作られてきたわけです。ですから自衛隊があるから自衛権の存在だけ規定すればいいではないかといいますが、９条１項２項を削除してしまったら、その瞬間から今まで積み重ねてきたこうした考え方がゼロになります。
新しくそこから始まるのは、普通の軍事論です。それは「攻撃は最大の防御なり」です。先制的攻撃論、相手に脅威を与える軍事力を持たなければいけない、つまり抑止力を持とうということなるのです。抑止力というと、まわりに国よりも常に大きな力を持つ。周辺国が核を持てば日本も核を持つ。ミサイルを持てばこちらも持つ。こういう考え方になっていきます。米ソの核ミサイルを巡る競争などもまさにこうしたものです。ですから９条がなくなったら、まさしく軍事力は歯止めがなくなりどんどん広がっていきます。

　しかも日米同盟の強化という名のもとに、日米の軍隊の運用の一元化が、ますます進められていきます。戦後の憲法原則は、最近のアフガニスタンやイラク戦争への自衛隊の参加によって、基本原則そのものが危うくなっていますが、ここで憲法を改正してしまえば、もう全く今までの原則がゼロになって、軍事論に立脚する考え方になるわけで、非常に大きな問題だといわざるを得ません。
　そしてもうひとつ、９条を改正することによってどうなるか。今まで発表された憲法改正論に共通しているのは、９条改正、集団的自衛権の行使、総理大臣への権限を集中して戒厳令を敷く、戒厳令を敷いた場合には基本的人権に制限を加えるというものなのです。つまり９条を改正することによって、戦争ということが現実化してきます。戦争状態になった時にどうするかというと、国民保護法制があるわけですが、総理大臣に非常に大きな権限が与えられることになるわけです。そしてその結果、基本的人権が制限されるということです。ドイツのワイマール憲法というのがあり、第１次大戦後にできた非常に民主的な憲法です。この憲法では生存権や労働者の権利といわれるものが規定された、先進的な憲法です。ワイマール憲法48条２項では、「公共の安寧秩序に著しい障害が生じ、またその恐れがあるときは、大統領は公共の安寧秩序を回復させるために必要な措置を取ることができ、必要な場合には武装兵力を用いて介入できる。この目的のために大統領は一時的に人身の自由、住居の不可侵、信書郵便・電信電話の秘密、意見表明などの自由、集会の自由、結社の自由に定められている基本権の全部又は一部を停止することができる」と。これでヒットラーは武装兵力を使って人々の基本的権利を侵害しながら政権を取って、あの第２次大戦起こしていったわけです。日本の憲法９条は世界的な流れと日本の歴史のなかで生まれたと先ほど申し上げました。では国連は何を目指しているのでしょうか。国連は国連軍をつくって平和秩序維持に当たろうということで、いろんな規定が国連憲章の中にあります。例えば47条では軍事参謀委員会をつくって安全保障理事会の下でいろいろ行動をしていこうということや、43条では特別協定を結んで各国に軍隊をだしてもらい、その軍隊によって秩序維持を図っていこうということが規定されています。
その国連憲章の精神をさらに明らかにしたものが、1961年９月20日の「軍縮交渉の８原則」という、軍縮交渉の基礎となる原則について合意され、第16回国連総会に報告された「米ソ共同声明」があります。そのベースになっているのは「マクロイ＝ゾーリン協定」という条文案です。これは３つの段階を経て各国の軍隊をなくしていこうとする考えです。その米ソの共同声明を少し紹介しますと
１、軍縮とは全般的かつ完全であって、戦争がもはや国際問題を解決する手段ではない。
２、軍縮は、紛争の平和的解決のための信頼できる措置並びに国連憲章の原則に基づく平和維持のための有効な取り決めの確立が必要だ。
３、全般的・完全軍縮のための計画は、それぞれの国家が国内秩序を維持して国民の個人的な安全を守るために必要であると合意される非核兵器、兵力、設備、施設のみを保有し、またそれぞれの国家は国連平和運動のために合意された人員を維持して提供することを保障すべきある。
　とあります。そして完全軍縮のための計画は、まず軍隊の解散、基地を含む軍事施設の撤去、武器の生産中止並びに武器の廃棄または平和的目的への転換、核科学細菌兵器などの大量破壊兵器の全て貯蔵の廃棄、生産の停止、これらを送達する手段（ミサイル）の廃棄、各国の軍事目的を組織することを狙いとした機構的機関の廃止、軍事訓練の停止、軍事支出の停止、など必要な規定を含むべきとしています。

　つまり国連平和維持軍をつくって、各国は国内秩序を維持するための警察力やコーストガード、海上保安庁を残し完全軍縮を達成していこうというのがこの1961年９月20日、ソ連のフルシチョフとアメリカのケネディという二人の平和共存の時代の協定だったのです。しかしその後、ケネディは暗殺され、ソ連はブルジネフに代わり、今日まで来ています。私は、日本の憲法はそうした国連憲章の目標・理想を具体化しようとした努力の表れだと思っています。世界各国の憲法は、それぞれの各地で勝ち取られてきた人間の、人類の知恵の魂なのです。イギリスは王政のもとで国王の権力をコントロールしながら議会制民主主義という制度をつくり上げて、それが各国に広がっています。フランスは何と言っても人権宣言で、自由と平等です。ドイツではワイマール憲法で生存権や労働者の権利を制定しました。アメリカは、何事よらず法律の手続きによらなければ身柄を拘束されたり逮捕されたりすることはないという「due process of law」という「法律による手続き」という原則を世界に向かって広げました。ですから日本の憲法というのは、これらのイギリスやフランスやドイツやアメリカでいろいろと勝ち取ってきたものを全部包含している憲法です。そして唯一新しいものとして付け加えられているのが憲法９条です。
　ですからこの９条は、国際社会、国連の大きな目標であり理想であるということ、そして日本の国としてそれを決して放棄することなく、それを掲げて日本政府も日本国民も努力していくということが大変大事なことなのだということを忘れてはいけないと思っています。冷戦が続いている間も、国連は国連で国連憲章の規定外に、ともかく平和を維持するための努力をしてきました。ＰＫＯもそうです。1940年代からインド・パキスタンの国境であるカシミール地区、それから中東地域、こういうところでお互いの紛争が再発しないように国境監視でするとか、兵力を引き離すこと、中立地帯を援護するという形でＰＫＯ活動が行われてきましたし、イラクがクウェートに侵攻したときはそれを認めることができないということで、多国籍軍という形でその活動が行われました。ＰＫＯは国連の指揮下において、国連の「ＵＮ」という旗の下に活動を行っています。多国籍軍はまだそこまでいっていません。湾岸戦争のときのような多国籍軍は、どちらかというとアメリカが国連軍という標章をしないで、同盟軍という形で、国連旗も使わないでやったわけです。それに対する批判もありまして、その後、期間を短くするとか、あるいは行動記録を１週間ごとにきちっと報告するとか、使用できる武器を制限するという形で多国籍軍にも制約を加えつつあります。だんだんとＰＫＯと多国籍軍が統合していって、あとは各国が自分の国の軍備を縮小するという動きになっていけば、日本国憲法の９条の理想が出来上がっていくわけです。そこまでまだまだ時間がかかりますし、とくにアメリカは今のブッシュ政権下ではとても無理なことです。ブッシュ政権というのは国連を全く相手にせず、同盟国と共に自分のやりたいことだけやるということですから、これはダメですが、しかし湾岸戦争のあとにアメリカ上院外交委員会でも国連の特別協定に基づく国連軍をつくろうではないかというようなことの決議をしたこともあるのです。人々が生きていくために大事なのは何よりも平和ですから、そのための枠組みをしっかりつくっていく努力をする、そのために憲法９条はなくてはならないものだと考えています。

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