●特集 反原発の闘い 2
原子力資料情報室
西 尾 漠
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■ 増え続ける高レベル廃棄物 ■
放射性廃棄物とは、文字通り放射性の廃棄物です。放射能(放射性物質)そのもの、放射能をふくむもの、放射能で汚染されたものがあります。放射性廃棄物の特徴は、種々雑多で、それぞれ異なった問題点を抱えていること、対処の仕方も違ってくることです。数百年から数万年以上にわたって放射能毒性をもちつづけるものも多く、将来の世代への大きな負の遺産となります。放射性廃棄物は、その放射能の大小で、高レベル、中レベル、低レベルなどと分けることができます。
しかし、各国でこのように分類されているわけではなく、各レベルの区分値となる放射能の濃度もまちまちです。日本では、原子力で燃やされて「死の灰」のたまった使用済み燃料を再処理したあとに残る廃液を耐熱ガラスと混ぜてステンレスの容器に固め込んだガラス固化体だけを、高レベル放射性廃棄物と呼んでいます。それ以外は、すべて低レベル放射性廃棄物です。それも、一般的な呼び名であって、日本の法令では、高レベル放射性廃棄物や低レベル放射性廃棄物といった言葉は、つかわれていません。高レベル放射性廃棄物のガラス固化体のことは、法律上は「特定放射性廃棄物」と呼びます。
なお、世界的には再処理せず、使用済み燃料をそのまま高レベル放射性廃棄物とするほうが主流です。
低レベル放射性廃棄物は、原発からも他の原子力関連施設からも、発生します。原発で生まれる低レベル放射性廃棄物には、核燃料から漏れてきた死の灰や、原子炉内の鉄のさびに放射線が当たって生まれた放射能などがふくまれています。実際には、低レベル廃棄物のなかに、他の国でなら中レベル廃棄物に区分されるものもあります。
そのため、最近になって「放射能濃度の高い低レベル廃棄物」などという奇妙な言葉まで生み出されました。原子炉内の機器などの廃棄物が、これに該当します。一方、低レベル廃棄物の一部を「極低レベル廃棄物」として新たに区分したり、さらに「放射性廃棄物として扱う必要のない廃棄物」として産業廃棄物と同じように捨てたり再利用をしたり、ということもはじまっています。これらは、主に、廃止された原子炉の解体から大量に発生する放射性廃棄物です。
原発で発生した固体の低レベル廃棄物は、まずは原発の敷地内で保管され、その後、六ヶ所村の「低レベル放射性廃棄物埋設センター」へ運ばれて処分されます。埋設センターでは、コンクリート・ピットと呼ばれる浅い地中の施設(図参照)にドラム缶を埋設し、埋設後300年のあいだ段階的に管理しながら捨てていくことになっています。といっても、実際には管理らしい管理をするのは、最初の「貯蔵」の段階だけ。要するに埋め捨て以外のなにものでもありません。
さて、高レベル廃棄物です。高レベル廃棄物については、30年から50年の間貯蔵して、放射能の量が少し減り、熱も半分くらいなるのをまって地下の深いとこに埋め捨てようというのが、政府や電力会社などの考えです。これを「地層処分」あるいは「深地層処分」と呼びます。
2005年5月31日、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」(以下、高レベル廃棄物処分法)が成立してしまいました。9月29日、同法にもとずいて政府は、基本方針と最終処分計画を閣議決定しました。10月18日には処分実施主体として「原子力発電環境整備機構」の設立が認可されて業務を開始、2002年12月19日、処分場候補地の公募を開始しました。同機構が2003年4月に明らかにしたところでは40自治体から問い合わせがあったということですが、8月末現在、立候補した自治体はありません。
高レベル廃棄物処分法では、驚くべきことに、処分の安全の確保ではなく、原子力発電の推進をその目的として掲げています。「トイレなきマンション」という原子力発電に対する批判に対し、「トイレをつくる体制が整った」(実際にトイレができるわけではない)として、さらに原子力発電を進めていくための環境整備が強く打ち出されているのです。
もちろん、原子力発電を続けるか否かにかかわらず、少なくとも現在ある高レベル放射性廃棄物のあと始末は急務でしょう。であればこそ原発推進とは切り離す必要があります。
法律は、地層処分を唯一の方法としています。深い地層に処分したあとは、後の世代は何もしなくてよい、後世代に負担を残さないことで、現世代の責任をまっとうできるというのが、地層処分の考えです。しかし、実際には、後世代にまったく負担を残さないなどということはありえません。深い地下のことは、ほとんど何もわかっていないに等しいのです。「後世代に負担を残さない」と地層処分を急ぎ、あとになって大きな自然災害や事故に見舞われたり、その回避のために高レベル放射性廃棄物の回収が必要になったりしたら、環境汚染や労働者の被爆、膨大な費用など、かえって莫大な負担を強いることになります。地上にせよ浅い地下にせよ、初めから管理・回収が容易な形で貯蔵つづけるほうが、結局負担は小さく、堅実です。
この法律には他にも数々の欺瞞・欠陥があり、後世代への「負の遺産」を最小のものとすることはとてもできません。何より最大の害悪は、高レベル放射性廃棄物を埋め捨てできると思わせ、「負の遺産」の大きさを見えにくくすることで、だれも本気で問題の解決を考えなくさせてしまう点にあると言えるでしょう。私たちが無関心でいれば、高レベル放射性廃棄物に限らずあらゆる放射性廃棄物が生み出されつづけます。どこかに最終処分場が押付けられ、将来の世代に時限爆弾を仕掛けるような乱暴な処分が行われてしまいます。
■ 核融合とトリチウムの危険性 ■
核融合はよく「地上の太陽」と呼ばれます。水素同志あるいは水素とヘリウム、水素とリチウムといったように、軽い原子の原子核が一緒になって別の原子に変わるのが核融合で、そのときに大きなエネルギーを出します。太陽などの星で起きている核融合を地上で起こして、エネルギーを発電に利用しようというのが、核融合発電。とはいえそれは、簡単なことではありません。
核融合を実現するには、プラズマと呼ばれる状態を一秒間以上にわたり保持することが必要となります。プラズマとは、原子核とその周りを回っている電子がばらばらになって飛びまわる状態をいいます。原子核はプラスの電気をもっているので、原子核同志がお互いに反発しあって融合してくれません。そこで、原子核が激しく動き、反発する力を振り切って衝突するように、数千度以上の高温でプラズマ状態をつくり出すのです。この状態を持続させるには、核融合で生じたエネルギーの一部がプラズマ粒子の拡散や放射線として外部に逃げ出す損失分とつりあったエネルギーを外部から注入しなくてはなりません。外部からのエネルギー注入により核融合反応を維持できる条件を臨界プラズマ条件といいます。さらに、外部からの注入エネルギーがなくても核融合反応を維持することができるようになる条件を自己点火条件といいます。
核融合発電は、まだ実験炉以前の段階で、実験装置のいくつかで臨界プラズマ条件を達成したにすぎません。核融合の実験炉は、アメリカ・ロシア・ヨーロッパ連合・日本の共同開発による国際熱核融合実験炉ITER(イーターと読む)が、ようやく建設地を決めようとしている段階です。アメリカは、その前に、共同開発から脱落しましたが、2003年2月に復帰しました。同時に中国が新たに参加しています。日本政府は2002年6月、青森県六ヶ所村への誘致を表明。他の候補地としては、カナダのクリントン、フランスのカダラッシュ、スペインのバンデリョスがありますが、これら3ケ所は1ケ所に絞り込まれるといいます。
ITERは、本体建設費が約4,460億円。その額を大きく上回る運転費、環境整備費、廃炉の解体費、放射性廃棄物の管理費など、控えに見積もっても1兆数千億円にのぼる費用となります。その大部分は誘致国の負担です。ITER建設に多額の投資が必要となるため、文部科学省では2003年1月、各大学や研究所などが独自におこなってきた核融合研究の拠点をJTー60U、LHD、激光XIIに集約し、他の施設は数年後をめどに廃止することを決めました。
核融合を原子力発電と比べて「クリーン」だという人もいます。大きな事故のときに出てくる放射能で比べれば、原発より少ないことは確かでしょう。ただし、日常的な放射能漏れは、原発を上回りそうです。原発では、放射能の多くは、いちおうは燃料棒の中に閉じ込められています。ところが、核融合炉では、半減期が12年の放射性物質である燃料のトリチウムが「裸」の状態で炉心に注入され、装置内のいたるところを気体や液体の形で動き回っているのです。放射化された機器などの放射性廃棄物も、原発よりさらに多く発生します。
気体のトリチウムは、吸入により肺組織を被曝させるほか、腸内の細菌などによる酸化によってトリチウム水となり、体内にとどまります。環境中にでたトリチウムは大部分がトリチウム水となり、経口摂取、トリチウム水蒸気の吸入、および皮膚からの吸収によって容易に体液に取り込まれます。体液中のトリチウムの一部は、細胞内で有機物に取り込まれ、有機結合性トリチウムとなります。有機結合性トリチウム化した食物の摂取などでも体内に取り込まれます。
生物に与える被曝の影響をセシウムー137などと比べた場合、トリチウムでは2倍以上大きいことが、多くの研究であきらかになっています。有機結合性トリチウムは、気体のトリチウムやトリチウム水より、さらに影響が大きくなります。特定の器官にとどまり、長期にわたって被曝をもたらすのです。
強い放射線が当たって機器が放射能をもってしまうため、放射性廃棄物も原発よりさらに多く発生します。発生当初はとくに放射線レベルが高く、人が触れれば死にいたるような危険きわまりないものです。ITERは国際協力による実験炉ですが、放射性廃棄物のあと始末は、誘致国の負担となります。仮に事故を起こすことなく運転が終了したとしても、海外からの研究者が帰ってしまった後には、膨大な放射性廃棄物と使う人のいなくなった各施設と借金の山が残るのは明らかです。
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