人事委員会
平成10年(不)第3号懲戒戒告処分事案
裁 決 書
2001年8月2日(木)
(Web管理者記)
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平成10年(不)第3号事案
裁 決 書
審査請求人 ■■■■■■■■■
竹永 公一
処 分 者 埼玉県教育委員会
埼玉県人事委員会は、平成10年5月22日付けで上記審査請求人が行った審査請
求について、次のとおり判定する。
主 文
処分者が、平成10年3月26日付けで審査請求人に対して行った戒告処分を取り
消す。
事 実 及 び 争 点
第1 事実の概要
審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成10年3月18日開催の埼玉県
立所沢高等学校(以下「所沢高校」。という。)入学許可候補者説明会(以下「本
件説明会」という。)において、内田達雄所沢高校校長(以下「内由校長」。とい
う。)が「「入学式」及び「入学を祝う会」の御案内」という印刷物をその場で配
布し、入学には内田校長が行う入学許可を受けることが必要であり、「入学を祝う
会」は入学式の終了後に実施すると説明したところ、その説明に反し、午後2時4
5分ごろ、内田校長の了解を得ることなく、学年関係の説明の際、4月9日は「入
学を祝う会」のみを行い、教職員も内田校長の行う「入学式」に反対するという主
旨の発言をしたこと(以下「本件行為」という。)を理由に、地方公務員法(昭和
25年法律第261号。以下「地公法」という。)第33条の規定に違反するもの
として、同年3月26日付けで戒告処分(以下「本件処分」という。)を受けた。
これに対し、請求人は、本件処分は取り消されるべきとして、同年5月22日付
けで当委員会に対し、審査請求を行ったものである。
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第2 争点
1 本件説明会における請求人発言の主旨について
〔請求人の主張の要旨〕
処分者は、請求人が、本件説明会において、第1学年団代表として内田校長の
了解を得ることなく、内田校長の説明に反し、4月9日は「入学式」は行わず
「入学を祝う会」のみを行い、教職員も内田校長の行う「入学式」に反対すると
いう主旨を述ベたとして、このことを処分事由としている。
しかし、請求人は、「4月9日の心配をしていることと思う。現時点では、教
職員も生徒も4月9日は「祝う会」のみを行いたいと考えている。私たち教職員
は、4月9日に向けて、校長に生徒の取り組み、教職員の考え方、1学年団の考
えを理解してもらい、「祝う会」のみでできれば良いと思っている。しかし、現
時点では、校長が入学式を行うと言っているので、当日混乱のないよう最大限の
努力をしたい。まだ、時間があるので安心して4月9日を迎えてもらいたい。決
して混乱はありません。」などと本件説明会において、第1学年団代表として説
明をしたのである。
また、請求人は、「「入学式」は行わず、「入学を祝う会」のみを行い」とは、
発言していないし、「教職員も校長の行う入学式に反対する旨」の発言をしてい
ない。請求人の発言には、「入学式に反対する」との文言は全く現れない。
それに対し、内田校長は請求人の説明に先立って行ったあいさつに際し、それ
までの経過に全く触れず、「入学式の中で入学を許可する」ことのみ強調した。
そして、時間に遅れないようにとあえて付け加え、入学式の出席が入学の条件で
あるかのよう、な印象を、保背者らに与えて不安をかきたてたのである。
請求人の説明内容は内田校長の立場にも十二分に配慮し、現状の説明と、今後
の努力の方向を表明したものとして情理を尽くしたものであり、かつ必要なもの
である。
〔処分者の主張の要旨〕
本件説明会において、内田校長が入学許可候補者とその保護者に対し、「「入
学式」及び「入学を祝う会」の御案内」という印刷物をその場で配布して、入学
には校長が行う入学許可を受けることが必要であり、「入学を祝う会」は「入学
式」終了後に実施することにすると伝えたところ、請求人は、午後2時45分頃、
内田校長の了解を得ることなく、学年関係の説明のときに、内田校長の説明に反
し、4月9日には「入学式」は行わず「入学を祝う会」のみを行い、教職員も内
田校長の行う「入学式」に反対する旨述べた事実が、本件処分対象事実である。
すなわち、請求人は、内田校長の説明の後「現在私ども教職員も、うん、後で
説明があると思いますが、えー生徒も、4月9日が「入学を祝う会」のみで行い
たいというふうに考えております。」、「で、あの、実際には入学を祝う会、か
なり細かい点まで詰めてはあるのですけれども、現在校長との意見が分かれてい
る段階で、この場でですね、4月9日の時程を出すことは好ましくないであろう
というふうに考えました。私たち教職員はこれから4月9日に向けて、学校長に
今までの生徒ゐ取り組み、教職員の考え方、そしてもちろん1学年団の教員の考
え方を、できるだけ理解していただいてね、4月9日には祝う会のみでできれば
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いいなというふうに考えています。」と述べているのである。内田校長が、校長
として、「4月9日は入学式を行い、入学を祝う会は入学式後行う」旨を述べ説
明した後に、請求人が、「教職員も4月9日は「入学を祝う会」のみで行いたい
と考えている」旨発言することは、教職員は、内田校長が行うという入学式には
反対であり、4月9日には入学式は行わず、「入学を祝う会」のみを行いたいと
いうことを述べていることになるものである。
2 校長の職務権限と職員会議について
〔請求人の主張の要旨〕
処分者が定めた「埼玉県立高等学校管理規則の解説と運用方針」においても、
「校長は、学校管理の最終責任者たる責任を自覚するとともに、職員会議におい
ては、職員をして十分その議をつくさせ、その意見は十分尊重して学校経営にあ
たらねばならぬことはもちろんである」とされるのであり、そうしてこそ「校務
をつかさどる」権限が全うされるのである。
内田校長は、このような学校教育法等の趣旨に反し、自分の考えは、それ自体
即ち校長の決定であり、職員会議でいかなる決定がなされていようとも教職員は
校長の考えに従わなければならないと判断したのである。
3月18日の本件説明会の時点では、入学式の代わりに入学を祝う会を行うと
の職員会議の決定があり維持されていたが、これに対し入学式を行いたいという
内田校長の意見が職員会議の際に表明されていたにとどまっている。したがって
内田校長を含めた学校全体の意思としては未だ統一されていない時期である。
内田校長は、3月23日の職員会議の席上、教職員に4月9日に入学式を行う
ことを決めたとして具体的な職務分担につき初めて職務命令を発し、教職員との
討議を一方的にうち切ることになる。しかし、それまでは職員会議の決定と内田
校長の意見が表明されていたにとどまっているのであり、職員会議議事録の記載
に照らしても明らかである。
〔処分者の主張の要旨〕
内田校長は、平成9年10月23日に行われた同校の職員会議において平成1
0年度の入学式のことについて「入学式は行わない、生徒が主催する入学を祝う
会を行う」ということを職員会議が議決したことに対し、「入学式はやって下さ
い、入学式をやらないことは認めません、入学式を入季を祝う会に代えることは
できません」と述べて、校長として平成10年度の入学式を行うということを決
定し、その意思を教職員に表明し、伝えているのである。
また、その後開催された数次にわたる職員会議においても、内田校長は「入学
許可が入った入学式を学校行事として行うことが大切である」、「入学を祝う会
の前に入学式を行う、時間調整してもらいたい」、「平成10年度の入学式は学
校行事として体育館で行う」、「入学を祝う会の前に入学式を資料のように行い
たい」、「入学式ができない入学を祝う会は認めません」、「入学式を妨げるよ
うな部分の役割分担でなくお願いします。入学式は本日配布した資料の通りです」
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などと発言をしているのである。
以上のことから見ても、内田校長が平成10年度の入学式を行うことを決定し、
このことを職員会議で示し、各教職員らに伝えていたということは明ちかになる
のである。
しかるに、請求人を含めた教職員らの一部の者は、内田校長が入学式を行うこ
とを決定し、示しているにもかかわらず、平成9年10月23日の職員会議で
「入学式は行わない、入学を祝う会のみを行う」ということは決定されたことで
あるとして、内田校長が決定した入学式を行うことについては、その後も一顧だ
にせず無視してきたものである。
本件説明会のときにも、請求人らは、入学式を行うということは全く考えてお
らず、そして、請求人も本件説明会に臨み、本件処分の対象となった行為を行っ
ているものである。
なお、平成10年3月23日付けで内田校長が出した平成10年度の入学式に
関する職務命令は、入学式を行うことを命じたものではなく、既に決定していた
平成10年度入学式の役割分担についての具体的な職顔を行うべきことを命じた
ものである。
高等学校長は、教育を行う組織としてめ高等学校を管理し、運営する最終責任
者である。高等学校における儀式的行事の一つである入学式の実施は、諮問機関
である職員会議の議を経ながらも、校長がその権限で決定できるものである。
3 本件行為の地公法第33条違反に関する具体的主張について
〔請求人の主張の要旨〕
請求人は、本件説明会において、直前に新聞報道等で話題になった「卒業式」、
「卒業記念祭」をめぐる経過を説明し、入学許可候補者及び保護者が不安を抱か
ないよう4月9日に予定された「入学式」、「入学を祝う会」をめぐる経過を説
明し、教師や生徒、内田校長の考えを説明したのである。本来、このような説明
は内田校長が行ってしかるべきであるが、内田校長は本件説明会のあいさつに際
し、上記のごとき経過に全く触れず、「入学式の中で入学を許可する」ことのみ
強調した。そして、時間に遅れないようにとあえて付け加え、入学式の出席が入
学の条件であるかのような印象を保護者らに与えて不安をかきたてたのである。
したがって、請求人の行為は何ら地公法に違反しない。それにもかかわらず、
地公法第33条の規定に違反するとして地公法第29条第1項第1号及び第3号
の規定に該当するとした本件処分は取消を免れない。むしろ喜びの反面不安を抱
いている入学許可候補者及び保獲者を前に、自ちは経過について一切説明しなか
った内田校長の態度こそ、「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」であり、
信用失墜行為と言うべきである。
〔処分者の主張の要旨〕
校長は、教育活動を行う組織としての学校を管理し、運営する最終責任者であ
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る。その校長が説明したことについて、その学校という組織の一員である教職員
が、その校長の説明したことに反することを言えば、市民、生徒、保護者のその
学校における教育に対する信用を傷つけ、その信頼を失うことになることは明ら
かである。高等学校における儀式的行事の一つである入学式の実施は、諮問機関
である職員会議の議を経ながらも、校長がその権限で決定できるものである。
そのような地位・権限を有する内田校長が、本件説明会において、前記したよ
うに入学許可候補者とその保護者に対し「「入学式」の後「入学を祝う会」を行
う。」と説明したのに対し、請求人が、その後、第1学年団の代表として、内田
校長の説明に反し、教職員は内田校長が行うという「入学式」には反対であり、
「入学式」は行わず「入学を祝う会」のみを行いたいという主旨の発言をしたこ
とは、市民、生徒、保護者に対し、学校の方針はいずれであるかについて混乱や
疑念を生じさせるものである。このような請求人の行為は、その学校における教
育に対する市民、生徒、保護者の信用を傷つけ、その信頼を失うことになること
は明らかである。よって、請求人の行為が地公法第33条の規定に違反すること
は明らかである。
請求人の発言が信用失墜行為に該当するかどうかについては、請求人も述べる
ように、発言の機会、性格、発言内容等を考慮して判断されるべきである。
この点、請求人は、内田校長がその学校の入学許可候補者説明会という公式の
場で、入学許可候補者及びその保護者らに対し、校長が学校の最終責任者として
すでに決定していた学校行事である入学式を行うことについて述べ説明したこと
に対し、同じ場で、学年関係の説明のときに、内田校長の説明に反する内容の発
言をしたものであり、このような行為は許されないものである。
4 本件処分の手続上の瑕疵について
〔請求人の主張の要旨〕
処分者は当事者である請求人に対し、本件説明会当日の発言の主旨につき何ら
確認する機会を与えなかったばかりか、弁明の機会を一切与えていない。そして、
一方当事者である内由校長の報告のみを鵜呑みにして、わずか8日後の3月26
日に突然本件処分を強行したものであって、適正手続のかけらも見られないので
ある。
一定の行政処分に先立って当事者から意見を聞く「聴聞」手続を行うことは憲
法第31条の要請でもある。不利益処分を受ける当事者に対しては少なくとも
「弁明の機会」が保障されなければならず、これを経ないでなされる不利益処分
は違法な手続として取り消されなければならないのである。
また、埼玉県教育委員会会議規則(昭和31年7月12日教育委員会規則第3
号。以下「教育委員会会議規則」という。)には第2条第2項に、「委員長は、
会議招集の日時、会議開催の場所及び会議に付議すべき事件を開会日の5日前ま
でに告示しなければならない。」とある。これは会議案件を予め委員に通知し、
その判断を慎重に行うべきことを定めた規定である。同規則第2条第2項ただし
書には、「但し急施を要する場合はこの限りでない。」とあるが、特に5日前に
告示をすることができず、かつ緊急に案件としなければならない事項について、
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告示の期間制限を解除する規定であるが、「急施を要する場合」である必要があ
り、その点は、審議上の判断事項となるのである。同規則第15条第1項第8号
には、「発言の趣旨及び発言者の氏名」を会議録に記載することを求めているが、
懲戒処分手続に慎重を期し、かつ、請求人の権利保護のために、その審議内容を
明示することを求めた規定である。会議録に記載のない事実は「審議されていな
いこと」を意味するものである。
また、本件事故報告書は、その決定的要件を欠如した、重大な欠落が存在する。
学校長の事故報告書が教育委員会の定める様式に従っていない事実は、事実認定
の正確さ担保及び懲戒処分の適正手続確保という最低限の要件を欠落させている
ことを意味する。
事故発覚の経緯は、「所沢高校の本件説明会に出席した保獲者から、内田校長
の説明と学年代表の説明が異なり一体どうなっているのかとの苦情電話があり、
内田校長に確認して事故が判明した。」とあるが、苦情電話の事実を確定するこ
とができない。「事故発覚の端緒」にある「保護者からの苦情電話」に係る資料
が全く存在しない。「保護者からの苦情電話」は、現場に混乱があったことを強
調する意図による起案者の創作であることを窺わせるのである。
さらに、教育委員会会議における本件処分に関する審議において、本件説明会
における請求人の発言を録音したテープを提出せず、教育委員に審議させ、本件
処分が決定されたものであり、手続上の違法は極めて重大なものである。
〔処分者の主張の要旨〕
請求人は、本件処分には、適正手続の保障に違反した違法がある旨主張する。
しかし、本件処分のような、公務員の職務又は身分に関してされる処分について
は、行政手続法上の聴聞、弁明の機会の付与に関する規定の準用はないのである。
本件処分については、地公法第29条第2項に基づき制定された職員の懲戒の
手続及び効果に関する条例(昭和26年条例第52号)が適用されるが、当該条
例にも聴聞や弁明の機会の付与を義務付ける規定はない。同条例第2条は、戒告
処分は、その旨を記載した書面を当該職員に交付して行わなければならないとし
ているが、本件処分はこの手続に欠けるところはない。また、地公法第49条第
1項は、任命権者が職員に対し懲戒処分等の不利益処分を行う場合に処分事由説
明書の交付を義務付けているが、本件処分については、この手続にも欠けるとこ
ろはない。
処分者は、本件の事実関係を確認するとともに、請求人から事情を聴取するた
め、平成10年3月20日及び同月23日の両日、それぞれ2名の教育局職員
(主任管理主事等)を所沢高校に派遣した。教育局職員は、内田校長と遠藤孝一
所沢高校教頭(以下「遠藤教頭」という。)から、同月18日の本件説明会の状
況について確認した後、校長室において、請求人から事情を聴こうとしたが、請
求人とともに多数の教職員が押しかけてきたことなどのため、請求人から事情を
聴取することができなかったものである。
したがって、処分者は、処分の適正を期するため、処分に先立ち請求人から聴
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聞を行おうとしたが、、請求人の同僚教員らの妨害によりこれを実行できなかっ
たものである。請求人は、同僚教員らの妨害行為を制止しなかったものであり、
請求人に対する聴聞を行えなかったことについて処分者には責任はない。
結局、本件処分について、聴聞や弁明の機会の付与を義務付けた法令の規定は
なく、処分者がこれらの手続を行わなかったとしても、本件処分が違法になるわ
けではない。
また、本件処分を決定した平成10年3月25日開催の埼玉県教育委員会定例
会の招集告示は、平成10年3月20日付けでなされ、本件処分については、そ
の告示後に追加上程されたものではあるが、これは教育委員会会議規則に基づき
追加議案として提案されたものである。そして、定例会の当日は、事故報告書等
に基づいて作成した資料が提出され、担当の高校教育第一課長から本件処分案及
び処分事由について説明を受け審議を行い、本件処分案が異議なく可決されたも
のである。
したがって、本件処分の手続には、何ら違法又は不当な点はない。
理 由
当委員会は、本件処分について、両当事者の主張、釈明、証拠調べの結果及び口頭
審理の全趣旨を総合し、次のとおり認定し、判断する。
第1 当委員会の認定した事実
1 請求人の経歴について
請求人は、昭和50年4月1日埼玉県立公立学校教員に任命され、埼玉県立小
鹿野高等学校教諭に補され、同57年4月1日同狭山高等学校教諭に補され、平
成4年4月1日所沢高校教諭に補され、同13年3月31日まで同校に勤務し、
同13年4月1日に同狭山清陵高等学校教諭に補され、以来同校た勤務している
ものである。
2 校長のあいさつについて
本件説明会における内田校長のあいさつについては、次のとおり認められる。
具体的に示すと、
(1) 「今日は‥‥これから本校に入学した後ですね、高校生生活を送るについ
て、いろいろな係の者から御説明をさせていただきます。‥‥後で御質問
をいただく時間がございますので、‥‥その時に、何かありましたら出し
ていただきたいと、‥‥思います。」
(2) 「今お配りした、‥…入学式の時の資料、‥‥後まで回りましたですか。
‥‥今お配りいたしましたようにですね、次にお集まりいただくのは4月
の9日になります。‥‥9日の日程につきまして、‥‥そこに上げさせて
いただきましたが、‥‥4月9日の木曜日が入学式があって、その後入学
を祝う会ということの校長からの御案内でございます。‥‥8時45分か
ら9時25分まで受付をさせていただきまして、‥‥、そのままお待ちい
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ただきまして、9時半から10時半まで入学式というふうに計画をしてお
ります。」
(3) 「まだ君たちは、高校へ行く生徒は、入学許可のまだ廠補者なのだから、
‥‥最終的にですね、私の方で、入学式の中で校長の方から入学を許可す
ると、こういう形になっておりますので、そのへんは十分御理解をいただ
いて、時間に遅れないようにお集まりいただきたいと思います。」
(4) 「今、‥‥、資料をお配りしましたので、後で御覧いただきまして、よろ
しくお願いしたいと思います。」
(5) 「なお、‥‥その後、入学を祝う会というのが、これ生徒が中心になって
いろいろ企画をしまして、先生方の適切な御指導の中で行われるわけです。
‥‥学校の方としましては、初めての催しでございますので、入学式に続
いて入学を祝う会もですね、素晴らしいものになればと、こういうふうに
思っております。」
以上のような発言を認めることができる。
3 請求人の発言について
本件処分対象事実である平成10年3月18日の所沢高校における本件説明会
の請求人発言自体は、次のとおり認められる。
具体的に示すと、
(1) 「3月9日の‥‥さまざまなことが卒業式、卒業記念祭という新聞報道等
があったので、いろいろその興味や関心をもたれている方が多いのではな
いかと思います。この後、その映像とか生徒会の方からも生徒の説明もあ
りますが、えー教職員の方として概要をきちっと抑えておきたいというふ
うに思います。生徒の側は‥‥昨年の8月から‥‥準備を始めまして‥‥
各クラスの討議を経て11月の生徒総会で卒業式に代わる卒業記念祭を行
おうと‥‥生徒の自主活動として体育祭や文化祭だけではなくて学校全般
の行事を考えた時に、学校生活の入口である入学式、そして最終の門出で
ある卒業式、それに代わるものを生徒主体でやってこそ本当の意味の生徒
の自主活動なのではないか、そういう思いが込められていたとそう思いま
す。‥‥教職員も‥‥生徒の決定にただただ従ってきたわけではありませ
ん。例えば卒業式を行わないということが可能なのかどうなのか。もちろ
ん職員会議でもずいぶん討議しました。で、その中で‥‥職員会議でもそ
れに代わる卒業記念祭でやっていこうと決めたんですね。‥‥残念ながら
何度にもわたって‥‥校長との話し合いをしましたが、最終的には3月9
日、最終最後の日まで平行線になってしまいまして、‥‥、報道にも書い
てあるような状態になってしまったのを非常に残念に思っております。」
(2) 「あと3週間後の4月9日にですね。やはり皆さんも非常に心配している
のではないかと思いますが、現在私ども教職員も、うん、後で説明がある
と思いますが、えー生徒も、4月9日が入学を祝う会のみで行いたいとい
うふうに考えております。えーただあの今日の冒頭の学校長の挨拶の中で、
えーこういう時程で入学式をやるのだということが伝えられましたので、
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それではどうなってしまうのだろうというふうにおかあさんがた思います
が、あの、正直に申し上げまして、3月9日卒業記念祭、あのこれは非常
に大変な取り組みでした。初回である、初めてであるということで。卒業
記念祭の終わった翌日からは学年未の試験が4日間も引き続いてありまし
た。で、あの、実際には入学を祝う会、かなり細かい点まで詰めてはある
のですけれども、現在学校長との意見が分かれている段階で、この場でで
すね、4月9日の時程を出すことは好ましくないであろうというふうに考
えました。私たち教職員はこれから4月9日に向けて、学校長に今までの
生徒の取り組み、教職員の考え方、そしてもちろん1年学年団の教職員の
考え方を、できるだけ理解していただいてね、4月9日には祝う会のみで
できればいいなというふうに考えています。そのためには最大限努力をし
てゆくつもりです。ただし、ま、記念祭もそうでしたが最終的に、折り合
いがつかないことも万一あるかもしれません。で、その場合はですね、こ
の点だけはお約束しておきたいと思うのですが、4月9日、えー皆さんみ
えて、迷ったり、混乱したりするような事態は1年の学年団としては絶対
に避けたいというふうに思っております。ですからあの、今日の時点で詳
細を御説明できないのは非常にそのー私どもとしても残念なのですが、4
月9日当日には何とかそのいい方向へ、所沢高校の入学を祝う会ができる
ような状態になるように最大限努力しようと思いますし、決してえーその
日に混乱はありませんので、そのへんは御安心をして4月9日を迎えてい
ただきたいというふうに思っております。」
(3) 「入学許可・卒業の認定これは校長がやることになっています。‥‥入学
許可候補者から新入生になる入学許可については‥‥4月9日をもって、
当然所沢高校の新入生となります。ただ、その‥‥けじめとして‥‥全体
で合意をして‥‥これこれの生徒は合格なのだ‥‥その代表として‥‥校
長が入学許可をするということですから、‥‥入学許可を与えないから、
出られないから‥‥所沢高校に入学できないというようなことはありませ
ん。」
以上のような発言を認めることができる。
4 請求人発言後の会場の状況について
平成10年3月18日の所沢高校における本件説明会において請求人発言後の
会場では、保護者から「すいません。‥‥あの所沢高校のこと、これから新しく
知るというお母さんたちもいらっしゃいます。お子さん達もいらっしゃいます。
この用紙では、私たちはどちらに参加するにあたっても、何時に来たらいいのか、
はっきりわからいと思うんですよ。ましてや、もし入学を祝う会を受けるとなっ
たらば、‥‥このとおり8時45分受付をし体育館の中で待っていたら、入学式
を受けることになるんですよね。じゃ、この用紙を見て、私たちは何時に、いっ
たい何時に用意して、何時に家を出て、何時にここに着いたら良いのかという‥
‥素朴な疑問なんですけど、お答えいただきたいと思います。」との発言があっ
た。
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これに対し、請求人からは、「‥‥あの学年の方からお答えいたします。先程
はちょっと控えたんですが、えー実は時程の詳細等は配布する予定で、職員会議
に諮っております。‥‥現在考えていることはですね、8時45分ですか、えー
そこをめどに学校に来ていただければ混乱のないように最大限努力したいという
ふうに考えております。」との説明があった。
また、内由校長からは「はいやります。‥‥最初にも挨拶しましたんですが、
えー本校の校長としてですね、資料を、4月9日の日程につきましてお配りをい
たしました。私は、本校の校長であるということは、本校の最終由な責任者であ
りますので、そういうことで御理解をいただきたいというふうに思います。えー、
本校の校長として、その日の日程についてお配りしたわけでございますので、そ
れはみなさん、ご判断をいただきたいというふうに思います。」と説明するとい
うような状況があったことが認められる。
5 職員会議について
所沢高校において、入学式及び入学を祝う会の実施について、両当事者の主張、
釈明、証拠調べの結果及び口頭審理などから総合的にみると、生徒会、職員会議
では、「平成10年度は入学式は行わない、入学を祝う会を行う」として、その
実施に向けて準備し、平成9年10月23日の職員会議で初めて「平成10年度
の入学を祝う会」が議題になった際に、「平成10年度は入学式は行わず、入学
を祝う会のみを行うこと」が賛成多数で議決されたが、これに対し内田校長は
「入学式はやってください。入学式を入学を祝う会に代えることはできません」
と述べ、その後の平成10年1月16日及び22日、2月12日及び19日、並
びに3月5日の職員会議でも一貫して内田校長は「入学式」実施の方針を述べて
きた。
このように、入学式及び入学を祝う会の実施についての両者の主張は平行線の
まま議論がなされていたことが認められる。
6 事情の聴取について
処分者は、本件の事実関係を確認するとともに、請求人から事情を聴取するた
め、平成10年3月20日に、2名の教育局職員を所沢高校に派遣し、内田校長、
遠藤教頭から、同月18日の本件説明会の状況について確認した後、校長室にお
いて、請求人から事情を聴こうとしたが、請求人に多数の教職員が同行したこと
などから、請求人から事情を聴取することができなかった。また、同月23日に
再度2名の教育局職員を所沢高校に派遣し、校長室において、請求人から事情を
聴こうとしたが、請求人に多数の教職員が同行したことなどから、請求人から事
情を聴取することができなかったことが認められる。
第2 当委員会の判断
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当委員会は、以上認定した事実に基づき、次のとおり判断する。
1 本件説明会における請求人の発言の主旨について
本件処分対象事実である平成10年3月18日の本件説明会における請求人の
発言自体については、上記において認定した事実から、明らかである。
処分者側は、「請求人は、内田校長の了解を得ることなく、学年関係の説明の
ときに、内田校長の説明に反し、4月9日には「入学式」は行わず。「入学を祝
う会」のみを行い、教職員も内田校長の行う「入学式」に反対する旨述べた。」
と主張する。しかし、請求人は「私たち教職員はこれから4月9日に向けて、学
校長に今までの生徒の取り組み、教職員の考え方、そしてもちろん1年学年団の
教員の考え方を、できるだけ理解していただいてね、4月9日には祝う会のみで
できればいいなというふうに考えています。そのためには最大限努力をしてゆく
つもりです。ただし、ま、記念祭もそうでしたが最終的に、折り合いがつかない
ことも万一あるかもしれません。で、その場合はですね、こめ点だけはお約束し
ておきたいと思うのですが、4月9日、えー皆さんみえて、迷ったり、混乱した
りするような事態は1年の学年団としては絶対に避けたいというふうに思ってお
ります。ですからあの、今日の時点で詳細を御説明できないのは非常にそのー私
どもとしても残念なのですが、4月9日当日には何とかそのいい方向へ、所沢高
校の入学を祝う会ができるような状態になるように最大限努力しようと思います
し、決してえーその日に混乱はありませんので、そのへんは御安心をして4月9
日を迎えていただきたいというふうに思っております。」と述べており、当該発
言の主旨は、「4月9日には入学を祝う会のみを行いたい」という本件説明会時
点における教職員の考え方、そのために4月9日に向けて校長とさらに話し合い
を続けること、そして校長との折り合いがつかない場合の対応について述べたも
のであると認められる。
したがって、公の場である本件説明会において、所沢高校の管理運営の最終的
責任者である内田校長の上記において認定したあいさつの後に、請求人が行った
内田校長のあいさつと異なる発言は、適切でないものもあるが、処分者主張のよ
うに内田校長の行う入学式に反対するという主旨を述べたものとは認められない。
2 処分事由の追加について
請求人側は、「処分者側が平成11年11月25日付け準備書面にて、不当に
も、処分事由として、処分事由説明書に記載された処分事由とは異なる事由、す
なわち (1)校長が決定していたことに反する説明をしたこと、(2) 入学許可問題
に関する発言、の2点を付加してきた。言うまでもなく、本件処分の当否の判断
に際しては、その対象事実が処分時に処分事由とされた事由に限られることは当
然すぎるほど当然であり、処分者による新たな処分事由の追加は不当極まりない
というべきである。」と主張するので、以下判断する。
懲戒処分は、一定の行為に対する処罰で一ぁって、その本質に照らしておのず
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から処分事由は特定されるべきであり、処分事由説明書にはその処分事由が特定
列記されているはずである。
したがって、人事委員会の懲戒処分に関する審理はあくまで処分時に処分の対
象になった事実について審理が行われるべきであり、処分事由の追加が許される
場合があるとすれば、処分時に処分の対象となった事由であって、単に処分事由
説明書に記載を遺脱した場合などに限ると思料される。
本件について処分者側の陳述、処分事由説明書及びその他証拠を検討するに、
処分者が追加しようとする処分事由については、本件懲戒処分時に処分の対象と
なった事実とは認められず、当審理の対象としないことを妥当と判断する。
第3 結論
以上のことから、本件処分は処分の基礎となる事実の存在が認定できない以上、
事実の認定を誤ったものであり、これを取り消すのが相当と判断する。
よって、地公法第50条第3項及び不利益処分についての不服申立てに関する規
則(埼玉県人事委員会規則11−1)第14条の規定に基づき、主文のとおり判定
する。
なお、当事者のその余の主張については、本件処分の当否の判断に直接関係がな
いので、当委員会はそれを判断する必要はないものと認める。
平成13年8月2日
埼玉県人事委員会
委員長 坂 巻 幸 次 [印]
委 員 久保木 宏太郎 [印]
委 員 渡 邉 圭 一 [印]
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(Web管理者記)
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