『埼玉新聞』2001年1月30日

思想良心の自由侵害
日弁連が要望書

2001年1月30日(火)


(Web管理者記)

======= 埼玉新聞 2001年1月30日(19面) =========             思想良心の自由侵害      所沢高校問題  日弁連が要望書           「主張認められた」生徒ら  県立所沢高校の生徒と卒業生百八十九人が一九九七、九八年度の入学・卒業式 に絡み内田達雄校長(当時)や県教委、町村信孝文相(当時)に人権を侵害され たとして日弁連(久保井一匡会長)に人権救済を申し立てていた問題で、日弁連 は二十九日までに同校や県教育委員会に対して校長らの人権侵害を指摘、生徒と 話し合うよう「要望書」を提出した。要望書の中で日弁連は、県教委、学校の新 入生らへの態度について「思想良心への侵害に当たる」としている。この日、生 徒ら十七人が東京都内で記者会見し「自分たちのやってきたことが認められた」 と顔をほころばせた。  申し立てから二年三カ月。待ち望んだ答えがやっともたらされた。申し立て当 時の生徒会長で大学生の淡路智典さん(二○)は「自分たちがやったことは自由 のはき違えでも権利の乱用でもなく正当な権利だったと日弁連に認められたのは 大きい。結論が出るのは遅かったが、素直に受け止めたい」。  うれしさの半面、複雑な胸中を語る生徒も。三年生男子生徒は「心ないバッシ ングに悩み、正しい行動だったのかはっきり答えを持てないまま卒業した生徒も 多い。貴重な体験だったが心にしこりも残った。結果が出て安どしている。これ が後輩の道しるべになり、ほかの学校の生徒にもよりどころになれば」と感慨深 げに語った。一方、申し立て当時は在校していなかった二年生は「学校生活はと ても楽しくやってます。授業の改善についてなども先生と話し合いながらやって いる」と活発に生徒会活動が行われている様子を報告した。  弁護団の津出玄児弁護士は「意見表明権が明確に認められ、立派なものを出し てもらった。文相に対しても人権侵害は認めなかったが言動を不適切だったと踏 み込んだ指摘をしている。最近子ども問題で子どもを押さえ込む方向で議論され るが、子どもにきちんと意見を言わせて解決していくのが国連の考え方。この要 望をきっかけに日本でも広がってほしい」と話した。           人権を侵害するものではない                          桐川卓雄・県教育長の話  平成十年三月三十一日付の保護者あての文書は、学習指導要領にのっとって実 施される入学式の意味について、客観的に説明し、入学式への出席をお願いした ものであり、新入生の人権を侵害するものではないと考えている。           文相にも「不適切な言動」  申し立ての発端は、一九九七年四月の入学式で、当時の内田達雄校長が生徒ら の反対を押し切って日の丸・君が代を実施し、翌年も話し合いにならないまま独 断で卒業・入学式を実施したことだった。その間、県教委と校長は新入生に式に 出なければ入学が許可されないと取れる内容の手紙を送付したり、町村文相(当 時)が同校を「特定の政党に牛耳られている」などと中傷。生徒らはこれらの行 為について同年十月、人権救済を申し立てた。  日弁連は、校長について「生徒との話し合いを拒否して生徒らの意見表明の機 会を否定、誠実に応答し説明する義務を尽くさなかった」として「意見表明権と 参加権を侵害した」と判断。  新入生の手紙についても「新入生の思想・良心の自由の侵害にあたり、憲法・ 子どもの権利条約違反」とし、県教委と校長に同様の行為をしないよう「要望」 を行った。  文相の発言については「申立人個々人の名誉侵害とまで結論づけるのは困難」 として侵害を認めなかったが、「本来なら生徒の意見表明権や参加棒の尊重を指 導すべき立場の教育行政の責任者の発言として不適切な言動」と厳しく指摘した。 --------------------------------------『埼玉新聞』2001年01月30日(18面) 「学校運営に画期的判断」  林量俶埼大教授                   子どもの「意見表明権」と学校運営への「参加権」を認めた意義は大きい。日 本で公的な機関が見解を示したのは初めてで、従来の学校運営の在り方や生徒と の関係に見直しを迫るものだ。  両権は「子どもの権利条約」が保障しているが、日本では法的に制度化されず、 どう解釈するかはっきりしていなかった。そのため、学校では生徒会活動なども 「指導」の対象で、話し合い、ともに学校をつくり上げるパートナーにはなって いない。  今回の日弁連の「要望」は、校長に生徒との協議システムを尊重し、話し合い を持つよう求めるなど生徒の申し立てを全面的に認め、学校でも両権が保障され なければならないことを明確にした。  「要望」に拘束力はない。しかし、弁護士の全国組織であり特にここ十五年、 子どもの権利への取り組みに力を入れてきた日弁連が、国際的動向と国内的な法 解釈の中で出した見解。学校、教育委員会、文部科学省や子どもにかかわる機関 はよく尊重し、生かしていくべきだ。  また、県教委と校長が新入生に出した手紙の不当性も明らかになった。結論を 出すまでに申し立てから二年以上もかかったのは残念だったが、画期的な判断と 言える。  意見表明権、参加権  「子どもの権利条約」第12条で定められている権利。健全な発達のために、子 どもはあらゆる場で自分にかかわることについて自由に意見を述べたり決定に加 わる権利を持ち、大人はその意見を「聞く」だけでなく尊重する義務がある、と している。子どもは自分の意見が社会で真剣に受け止められる経験を積み重ねる ことで責任ある大人へ成長していける、との考え方の上に成り立ち、単なる「保 護対象」から「対等のパートナー」へ、社会の“子ども観”の転換を促している。 ============================================================================
(Web管理者記)
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