所沢高校 Non-Official 資料20000717a

第１４回口頭審理
意　見　書
林　量俶
埼玉大学教育学部教授
2000年7月17日(月)

(Ｗｅｂ管理者記)
　巷では、校長を会社の社長になぞらえて、校長のいうことに従うのは当然であるか
のような論がありますが、林量俶（かずよし）埼玉大学教育学部教授の意見書には、
その間違いが記載されております。　戦前の教訓から、

　この「教育をつかさどる」教諭の権限は、それ以前の国民学校令（１９４１年制定）
第１７条の「訓導ハ学校長ノ命ヲ承ケ児童ノ教育ヲ掌ル」という規定から、「学校長
--------------------------------------(09)------------------------------------
ノ命ヲ承ケ」という文言が削除されたものであるという歴史的意味を持つものであり、
「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われ
るべきものである。」という教育基本法第１０条の規定を承けたものであることは、
教育法学の、いわば常識に属する事柄である。

　となっているのですね。
　今、教育基本法改正が叫ばれていますが、この個所を戦前のように戻したい人がい
るということかも・・・。だから、「校長の権限強化」なのかも知れません。

　尚、従来は丸付き数字を、「(半角数字)」と変換しておりましたが、今回は変換
しておりません。変換した場合、「(1)」と「（１）」との区別がつきにくい、とい
うのが理由です。


　　　　　　　　　　　　　　平成１０年（不）第３号
　　　　　　　　　　　　　　不利益処分審査請求事案

　　　　　　　　　　　　　　　　意　　見　　書


　　　　　　　　　　　２０００（平成１２）年７月１７日

　　　　　　　　　　　　　埼玉大学教授　林　量俶

--------------------------------------(01)------------------------------------

　　　　　　　　　　　　　　　　意　　見　　書
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　林　量俶（埼玉大学教授）
第一　本意見書の目的
　本意見書では、処分事由となった請求人の行為が処分事由説明書に記されているよ
うに地方公務員法第３３条（信用失墜行為の禁止）に違反するものであり同法第２９
条第１項第１号および第３号の規定を適用し得るものか否かを考察するものであるが、
その前提的要素となる、入学式の法的位置づけ、校長権限と職員会議権限、教諭の
「教育をつかさどる」権限、生徒の意見表明権・参加権の関係、さらにまた本件懲戒
処分手続きの法的問題点を中心に検討する。

第二　「入学式を行うことは校長の権限である」か
　処分者側は、「入学式を行うことは校長の権限である。法的根拠は、学校教育法第
２８条、第４３条、第５１条、第１０６条、学校教育法施行規則第５７条の２並びに
高等学校学習指導要領である。」としている（平成１１年１１月２５日付準備書面）。
　この主張には、第一に、「入学式を行うこと」と「入学を許可すること」の混同が
ある。第二に、学習指導要領における入学式の位置づけについての認識に誤りがある。

　１．「学習指導要領」と「入学式」
　まず、処分者側が、「入学式を行うことは校長の権限である」とする法的根拠とし
て挙げている学校教育法第４３条、第５１条、第１０６条、学校教育法施行規則第５
７条の２並びに高等学校学習指導要領について検討する（学校教育法第２８条および
高等学校への準用規定である第５１条については後に検討する。）
　学校教育法第４３条、第１０６条、学校教育法施行規則第５７条の２は、文部大臣
が高等学校の教育課程の「基準」として高等学校学習指導要領を告示することを定め
たものに過ぎず、それらが「入学式を行うことは校長の権限である」とする直接的な
法的根拠となるものでは全くない。
　そこで、高等学校学習指導要領は「入学式を行うことは校長の権限である」とする
法的根拠となるものか否かが問われることとなる。以下、その点を検討する。

　（１）学習指導要領の法的拘束力について
　学習指導要領の法的拘束力をめぐっては、学説上は、今日では、法的拘束力の否定
説、大綱的基準説、および、全面的法規説が存在するが、教育法学界においては、法
的拘束力の否定説、および、大綱的基準説が圧倒的に多数説であり、全面的法規説は
少数説である。
　このうち、大綱的基準説は、教育という営みの本質に基礎をおきつつ、判例の動向
を踏まえたものである。
--------------------------------------(02)------------------------------------
　判例において、この点に関し最も権威ある判例は、学テ旭川事件最高裁大法廷判決
（最大判昭５１．５．２１．）である。その後の最高裁判決に、伝習館高校事件最高
裁小法廷判決（最小判平２．１．１８．）があるが、小法廷判決である。同判決は、
「高等学校学習指導要領（昭和３５年文部省告示９４号）は法規としての性質を有す
るとした原審の判断は、正当として是認することができ」としていることから、全面
的法規説を採用していると解する向きもあるが、それは誤りである。同判決は、「右
学習指導要領の性質をそのように解することが憲法第２３条、２６条に違反するもの
でないことは最高裁昭和５１年５月２１日大法廷判決（刑集３０巻５号６１５頁）の
趣旨とするところである」と、学テ旭川事件最高裁大法廷判決に則ったものであるこ
とを明記している。
　そこで、学テ旭川事件最高裁大法廷判決の内容はいかなるものかをみておく。        
┌─────────────────────────────────────┐
│〔学テ旭川事件最高裁大法廷判決〕　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　│
│　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　│
│◇「一の見解は、・・・教育行政機関も、法律の授権に基づく限り、広くこれらの│
│　事項〔「公教育における教育の内容及び方法」〕についても決定権限を有すると│
│　主張する。これに対して、他の見解は、・・・教授の自由は教育の本質上、高等│
│　教育のみならず、普通教育におけるそれにも及ぶと解すべき・・・と主張する。│
│　当裁判所は、右のいずれも極端かつ一方的であり、そのいずれも全面的に採用す│
│　ることはできない」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　│
│　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　│
│◇「一般に社会公共的な問題について国民全体の意思を組織的に決定、実現すべき│
│　立場にある国は、国政の一部として広く適切な教育政策を樹立、実施すべく、ま│
│　た、しうる者として、憲法上は、あるいは子ども自身の利益の擁護のため、ある│
│　いは子どもの成長に対する社会公共の利益と関心にこたえるために、必要かつ相│
│　当と認められる範囲において、教育内容についてもこれを決定する権能を有する│
│　ものと解さざるを得ず、　・・・もとより、政党政治の下で多数決原理によって│
│　される国政上の意思決定は、さまざまな政治的要因によって左右されるものであ│
│　るから、本来人間の内面的価値に関する文化的営みとして、党派的な政治的観念│
│　や利害によって支配されるべきでない教育にそのような政治的影響が深く入り込│
│　む危険性があることを考えるときは、教育内容に対する右のごとき国家的介入に│
│　ついてはできるだけ抑制的であることが要請されるし、殊に個人の基本的自由を│
│　認め、その人格の独立を国政上尊重すべきものとしている憲法の下においては、│
│　子どもが自由かつ独立の人格として成長することを妨げるような国家的介入、例│
│　えば、誤った知識や一方的な観念を子どもに植えつけるような内容の教育を施す│
│　ことを強制するようなことは、憲法２６条、１３条の規定上からも許されないと│
│　解する」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　│
│　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　│
│◇「子どもの教育が教師と子どもとの間の直接の人格的接触を通じ、その個性に応│
│　じて行われなければならないという本質的要請に照らし、教授の具体的内容及び│
│　方法につきある程度自由な裁量が認められなければならない」　　　　　　　　│
│　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　│
│◇「国の教育行政機関が法律の授権に基づいて義務教育に関する普通教育の内容及│
--------------------------------------(03)------------------------------------
│　び方法について遵守すべき基準を設定する場合には、教師の創意工夫の尊重等教│
│　基法１０条に関してさきに述べたところのほか、後述する教育に関する地方自治│
│　の原則をも考慮し、右教育における機会均等の確保と全国的な一定の水準の維持│
│　という目的のために必要かつ合理的と認められる大綱的なそれにとどめられるべ│
│　きものと解しなければならない」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　│
│　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　│
│◇「右指導要領の下における教師による創造的かつ弾力的な教育の余地や、地方ご│
│　との特殊性を反映した個別化の余地が十分残されており、全体としてはなお全国│
│　的な大綱的基準としての性格をもつものと認められる」　　　　　　　　　　　│
└─────────────────────────────────────┘

　つまり、学テ旭川事件最高裁大法廷判決は、教育の本質、憲法の基本的人権規定、
教育の地方自治の原則等に照らし、学習指導要領は、教師による創造的かつ弾力的な
教育の余地や地方ごとの特殊性を反映した個別化の余地を十分に残した「大綱的基準」
であるとしているのである。
　この判決を踏まえ、１９７７（昭和５２）年の学習指導要領改訂に際し、諸澤正道・
文部省初等中等教育局長（当時）は、「もともと学習指導要領が教育課程編成の基準
であるといっても、労働基準法に規定する労働基準のような厳しい基準を意味するも
のではない。それは教育の特質からいって当然に地域や学校の実態に応じて多様に、
弾力的に運用されるべきものである。」との見解を表明している（『季刊教育法』第
３０巻、１９７８年冬季号）。
　学習指導要領の全てが細部にわたり法的拘束力を持つかのように主張すること（＝
全面的法規説）は、最高裁判例で確立している学習指導要領を「大綱的基準」とする
法解釈にも反するものであり、学習指導要領の法的拘束力に関する誤った解釈である。

　（２）学習指導要領における特別活動・学校行事に関する記載
　処分者側が「入学式を行うことは校長の権限である」とする「法的根拠」と主張し
ている平成元年版「高等学校学習指導要領」の「第三章　特別活動」において、特別
活動の内容は、A.ホームルーム活動、B.生徒会活動、C.クラブ活動、D.学校行事の４
つに分類されいる。このうち、Dの学校行事は、(１)儀式的行事、(２)学芸的行事、
(３)健康安全・体育的行事、(４)旅行・集団宿泊的行事、(５)勤労生産・奉仕的行事
に区分されている。(１)儀式的行事の項の説明は、以下が全文であり、「入学式を行
うことは校長の権限である」
旨の文言の記載は全く存在しない。
┌─────────────────────────────────────┐
│（１）儀式的行事　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　│
│　　学校生活に有意義な変化や折り目を付け、厳粛で清新な気分を味わい、新しい│
│　生活の展開への動機付けとなるような活動を行うこと。　　　　　　　　　　　│
└─────────────────────────────────────┘

　また、「第三　指導計画の作成と内容の取扱い」には次のように記載されている。
┌─────────────────────────────────────┐
│１　指導計画の作成に当たっては、次の事項に配慮すること　　　　　　　　　　│
│　（１）学校の創意工夫を生かすとともに、学校の実態や生徒の発達段階及び特性│
--------------------------------------(04)------------------------------------
│　等を考慮し、教師の適切な指導の下に、生徒による自主的、実践的な活動が助長│
│　されるようにすること。・・・　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　│
│２　内容上の取扱いに当たっては、次の事項に配慮すること。　　　　　　　　　│
│　（４）内容のDについては、学校や地域及び生徒の実態に応じて、各種類ごと　 │
│　に、行事及び内容を精選して実施すること。　　　　　　　　　　　　　　　　│
│３　入学式や卒業式などにおいては、その意義を踏まえ、国旗を掲揚するとともに│
│　国歌を斉唱するよう指導するものとする。　　　　　　　　　　　　　　　　　│
│４　特別活動の指導を担当する教師については、内容のAは、主としてホームルー │
│　ムごとにホームルーム担当の教師が指導することを原則とし、活動の内容によっ│
│　ては他の教師などの協力を得ることとする。内容のB、C及びDは、学校の指導体 │
│　制を確立し、全教師の協力により適切に指導するものとする。　　　　　　　　│
└─────────────────────────────────────┘

　以上のように、「高等学校学習指導要領」の記載は、教師による創造的かつ弾力的
な教育の余地や地方ごとの特殊性を反映した個別化の余地のある「大綱的基準」であ
るべきであるとした最高裁判決の趣旨に基本的に沿ったものであり、「特別活動」に
関しては、「生徒による自主的、実践的な活動」の助長が強調されている点に特徴が
ある。そして、“入学式は必ず行うべき、そして校長が行う権限がある学校行事（儀
式的行事）である”旨の記載は全く存在していない。
　ちなみに、学習指導要領をさらに詳しく解説した文部省著作物である『高等学校学
習指導要領解説　特別活動編』（平成２年２月２０日初版発行）においてすら、「儀
式的行事には、入学式、卒業式、開校記念日における儀式、始業式、終業式などが考
えられる。このほか、対面式や朝会など、学校行事として行うものはここに含めるこ
とができる。」とされており（同書６７頁）、入学式は「考えられる」学校行事の例
としてあげられているに止まる。また、校長の役割や権限に関する記載も一切ない。
　以上のように、「学習指導要領」（および「同解説」）の具体的な記載内容から見
ても、学習指導要領が「入学式を行うことは校長の権限である」ことの「法的根拠」
であるとする主張は、根拠のないものであり失当である。

　２．入学許可と入学式
　（１）入学許可に関する当時効力を持った法規定
　処分者側は、校長が「入学許可は、入学式の中で校長が行う」と説明したのに対し、
請求人が「入学式に出席しなくとも入学できないということはない」旨述べたことを、
地方公務員法第３３条違反の理由に挙げている（平成１０年１１月１０日付準備書面）。
　学校教育法施行規則第５９条第１項は「高等学校への入学は、第５４条の三の規定
により送付された調査書その他必要な書類、選抜のための学力検査（以下本条中「学
力検査」という。）の成績等を資料として行う入学者の選抜に基づいて、校長がこれ
を許可する」と規定している。
--------------------------------------(05)------------------------------------
　この施行規則に基づき埼玉県立高等学校通則第１６条は「高等学校の入学は、校長
がこれを許可する」と、同通則第１７条は「校長は、入学志願者に対し、別に定める
ところにより、入学選抜を行うものとする」と規定し、同通則第１８条で志願手続き
が規定されている。そして第１９条（入学手続）において「入学を許可された者に対
して親権を行う者、若しくは親権を行う者のないときは後見人（以下「保護者」とい
う。）は、速やかに保証人が連署した在学保証書（様式第三）を校長に提出しなけれ
ばならない」と定めている。
　つまり、国および県のレベルの法規において規定されているのは、〈高等学校への
入学は入学者の選抜に基づいて校長が許可する〉ということ、〈入学を許可された者
の保護者は入学手続として在学保証書を提出しなければならない〉という２点だけで
ある。
　また、学校教育法施行規則第３条（学則の制定・届出）、および、第４条（必要記
載事項）に基づいて定められている埼玉県立所沢高等学校学則は、第１７条で「入学
選抜に合格し、必要な手続きが完了したものは入学を許可する」と規定しており、第
１８条で「必要な手続き」として規定しているのは、やはり、「在学保証書の提出」
だけである。
　このように、学校教育法施行規則、埼玉県立高等学校通則、埼玉県立所沢高等学校
学則のいずれを見ても、「入学式への参加」を「入学許可要件」とする法規定は、当
時、全く存在していなかったし、現在も存在していない。

　（２）校長権限で「入学式への出席」を「入学許可要件」とすることはできるか
　生徒の身分・権利保障上きわめて重大な「入学許可」は、法に厳密に準拠して行わ
れるべき覊束処分（法規に違反すれば違法の問題が生ずる）であり、校長が自由に決
定できる裁量処分ではない。法に照らしてみても、社会通念上からみても、入学式へ
の不参加は、卒業式への不参加と同様に、特別活動という「教育活動」への不参加
（１欠課）としてしか扱い得ないものであり、入学式への不参加（１欠課）をもって
「入学許可」が取り消される（「入学」が認められない）などという法的根拠および
前例はどこにも存在しない。

　（３）校長発言、請求人の発言と信用失墜行為
　校長の「入学許可は、入学式の中で校長が行う」という発言は、裏を返して言えば
「入学式に出席しなければ入学を許可しない」という違法な行為の実行の告知であり、
公務員の法令遵守義務（地方公務員法第３２条）に違反するものである。職証第１号
証および甲７８号証～８４号証、特に、甲７８号証～８３号証は、疑問・不安・不信
を引き起こしたのは「入学式に出席しなければ入学を許可しない」「いつまで続ける
のか」という父母の質問に誠実に応え不安・不信を取り除こうとしない校長の発言お
よび態度にあったことを如実に物語っている。それに対し、請求人が行った説明は、
「入学許可候補者」およびその保護者の疑問・不安を取り除こうとしたものであり、
かつ、関係諸法規に則った正当かつ適法なものであった。この点に関し、法令に反す
--------------------------------------(06)------------------------------------
る説明をし、「入学許可候補者」およびその保護者に不要な疑問・不安を与え、その
疑問・不安を解消する努力もせずに「教育公務員という職」および「学校に対する信
頼」を失墜させたのは校長の方であり、入学許可に関する請求人の発言を処分理由に
挙げる処分者側の主張は全く失当であると考える。


第三　校長権限と職員会議決定、教諭の「教育をつかさどる」権限、生徒会決定の尊重
　１．職員会議権限
　（１）学説および判例
　職員会議の権限に関しては、「議決機関」「諮問機関」「補助機関」とする説があ
る。２０００年１月２１日の学校教育法施行規則改訂により「設置者の定めるところ
により、校長の職務の円滑な執行に資するため、職員会議を置くことができる。」
「職員会議は校長が主宰する。」と規定されたが、それまで、国の法規において「職
員会議」に関する規定は存在しなかった。この施行規則改定の同日に発された文部事
務次官通知は、職員会議を「校長の職務の円滑な執行を補助するもの」とし、「補助
機関」説を採用した。しかし、それ以前には国法レベルの規定が存在しないことから、
文部行政当局は学校教育法第２８条第３項の「校長は、校務をつかさどる」という規
定に依拠し、議決機関説を否定し諮問機関説ないし補助機関説を採ってきた。
　学説上、および、判例上は、入学・進級や卒業の判定、生徒の懲戒処分、クラスや
学年・学校行事、学級活動や生徒会活動等、その内容により、職員会議の位置づけは
異なる、主として生徒の身分に関わる事柄は職員会議の議を経なければならないと解
されてきた。

　（２）当時効力を持った法規定
　「埼玉県立高等学校管理規則」（昭和３２年９月２６日付教育委員会規則第７号）
第１６条は「学校には、校務の民主的且能率的な運営を図るために職員会議を置く。
２　員会議は、校長が招集し、校務に関し校長の諮問その他重要事項について審議し、
又は職員相互の伝達、連絡、調整等を行うことものとする。」と規定している。そし
て、「埼玉県立高等学校管理規則の解説と運用方針」は「第１６条関係」において、
「職員会議の性格は、諮問機関とすることに決定した。簡単に言えば、学校教育法で
は、校長が、学校管理の最終責任者であることを明らかにしている。従って職員会議
に決定に拘束力を持たせることは・・・法律上不可能なのである。しかし学校経営の
民主化は、戦後の教育の最も重視するところであって、今回学校管理規則で職員会議
の設置を規定したのも、その趣旨にほかならない。従って校長は、学校管理の責任者
たる責任を自覚するとともに、職員会議においては、職員をして十分その議をつくさ
せ、その意見は十分尊重して学校経営に当たらねばならないことはもちろんである。」
と、諮問機関説を採用している。しかし、その中においても、「校務の民主的運営」
を明文規定し、「学校経営の民主化」を重視しているところに、その特徴がある。
--------------------------------------(07)------------------------------------
　所沢高校においては、１９８９（昭和６４）年２月１７日を施行日とする「職員会
議規程」〔甲第１２３号証〕が同校の内部規則として定められ、それに則った職員会
議運営・学校運営が慣行的にも確立していたと認められる。同規程は第１条において、
「職員会議（以下、「会議」という）は、校務に関する事項を審議決定することを以
て目的とする。」としており、いわば議決機関説に立つものと捉えられる。
　
　（３）入学行事をめぐる職員会議決定と校長説明および請求人の説明
　本件入学説明会が行われた１９９８年３月１８日当時、同校の内部規則として「職
員会議規程」が制定されており、同校において当該「職員会議規程」は慣行としても
確立・定着していた。内田校長も、当時、同校の職員会議規程自体に異議を唱えてい
なかった。そして、請求人の入学説明会における説明は、同校において明文規定され、
当時それに従った運営が慣行としても確立・定着していた同校「職員会議規程」に則
りなされた職員会議の決定、および、それに基づいた学年団会議の話し合い・確認事
項を学年団代表として説明したものであった。
　書証および証言に依れば、同校職員会議は１９９７（平成９）年１０月２３日の職
員会議において、「入学式は行わない。生徒主催で教員が参画した『入学を祝う会』
（仮）を行う」という決定を行っており（乙第５号証）、その後、１９９８年３月
１８日に至るまで、それと異なる（「入学式を行う」という）決定を行っていない。
　校長は、同校の職員会議規程が学校教育法・同法施行規則・埼玉県立高等学校管理
規則第１６条、「埼玉県立高等学校管理規則の解説と運用方針」（第１６条関係）に
反するものであり認められないと考えたのであったならば、同校の職員会議規程の無
効と改正を発議すべきであったが、３月１８日までにそのような行動は何ら取ってい
ない。
　同校長が、同校の職員会議規程第１条「職員会議（以下、「会議」という）は、校
務に関する事項を審議決定することを以て目的とする。」を埼玉県立高等学校管理規
則第１６条と基本的に同文の「職員会議（以下、「会議」という）は、校長が招集し、
校務に関し校長の諮問その他重要事項について審議し、又は職員相互の伝達、連絡、
調整等を行うことを以て目的とする。・・・この規程は、１９９８年１０月１６日よ
り一部改正施行する。」という文書を職員会議に提出したのは、本件説明会から半年
以上後のことであった。
　後になってこのような措置を校長が取ったということは、①１９９８年１０月１６
日以前も以降も同校長は同校の「職員会議規程」の同校内部規則としての有効性を認
めているということに他ならない。そのことは、つまり、②本件説明会当時には「改
訂」前の規程が有効であったことを校長自らが認識していたということに他ならない。
　なお、校則違反を理由にしての処分について争われた裁判において、各学校は内部
規則を制定することができること、制定された内部規則はその学校構成員を規律する
法的根拠となることを否定する判決例は存在しない。
--------------------------------------(08)------------------------------------
　このような同校の学校内部規則を越えるものとして校長の「校務をつかさどる権限」
（学校教育法第２８条第３項）があると処分者側は主張していると解される。しかし、
以上のような職員会議規程が学校内部規則として明文規定されかつ慣行としても確立
していた中にあっては、たとえ校長が提出したものであっても、校長が職員会議に提
出した文書（乙第７号証：平成１０年１月２２日付、校長名での「平成１０年度　入
学式について」、乙第８号証：同年２月１２日付、校長名での「平成１０年度　入学
式について」、乙第１０号証：同年３月５日付、校長名での「平成１０年度入学式に
ついて」）が、たとえ校長が提出したものであっても、職員会議規程に則り、審議・
検討のための「意見」・「提案」・「お願い」として取り扱われたことは、当然のこ
とといえる。
　処分者側は、入学説明会において校長は「既に決定したことについて述べ説明した」
（平成１１年１１月２５日付準備書面）と主張している。だが、３月１８日の時点ま
でに、職員会議は、前年１０月２３日の決定を変更する決定を行っておらず、入学式
問題に関して「校長の諮問その他重要事項について審議」（県高等学校管理規則）し
ていた途上にあったのである（入学式実施に関し校長の職務命令が出されたのは３月
２３日である。－乙第２９号証）。入学説明会において校長は「既に決定したことに
ついて述べ説明した」とする処分者側の主張は、事実に反しかつ根拠のない主張であ
る。
　このような状況下において、請求人の発言は、審議途中で結論を得ていない状況に
あることを「入学許可候補者」およびその保護者に不要な心配を生じさせないように
という教育的配慮を持って、かつ、正確に伝えたものであり、何ら非難されるべきも
のでもなく、「地方公務員法第３３条に違反するもの」（処分事由説明書）でもない。

　２．教員の「教育をつかさどる」権限
　（１）学校教育法第２８条第６項の規定
　処分者側は、前述したように「入学式を行うことは校長の権限である」とし、その
法的根拠として学校教育法第２８条を挙げている。ここで言われている学校教育法第
２８条とは、同条第３項の「校長は、校務をつかさどり、所属職員を監督する。」と
いう規定を指しているものと考えられるが、これは全く一面的な２８条解釈である。
　なぜなら、それは同法同条第３項規定されている「教育をつかさどる」教諭の権限
（同法５１条で高等学校に準用）を看過したものであるからである。
　学テ旭川事件最高裁判決も指摘しているように、「子どもの教育が教師と子どもと
の間の直接の人格的接触を通じ、その個性に応じて行われなければならないという本
質的要請」「教師の創意工夫の尊重」「教師による創造的かつ弾力的な教育」等の趣
旨から、教員の「教育をつかさどる」権限が規定されているのである。
　この「教育をつかさどる」教諭の権限は、それ以前の国民学校令（１９４１年制定）
第１７条の「訓導ハ学校長ノ命ヲ承ケ児童ノ教育ヲ掌ル」という規定から、「学校長
--------------------------------------(09)------------------------------------
ノ命ヲ承ケ」という文言が削除されたものであるという歴史的意味を持つものであり、
「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われ
るべきものである。」という教育基本法第１０条の規定を承けたものであることは、
教育法学の、いわば常識に属する事柄である。
　この「教育をつかさどる」教諭の権限は、日々の具体的な教育実践の履行や、成績
評価、卒業判定、入学試験合格判定等に強く及ぶものであるとともに、検定教科書制
度があり教科書使用義務のある教科教育と異なり、それらが存在せず、前述したよう
に、学習指導要領において「学校の実態や生徒の発達段階及び特性等を考慮し、教師
の適切な指導の下に、生徒による自主的、実践的な活動が助長されるようにすること。」
「特別活動の指導を担当する教師については、内容のA〔ホームルーム活動〕は、主
としてホームルームごとにホームルーム担当の教師が指導することを原則とし、活動
の内容によっては他の教師などの協力を得ることとする。内容のB〔生徒会活動〕、
C〔クラブ活動〕及びD〔学校行事〕は、学校の指導体制を確立し、全教師の協力によ
り適切に指導するものとする。」とされる特別活動においては特に重視されるべきで
ある、というのが学界の通説である。

　（２）教育活動、特別活動の一環としての学校行事
　学校行事は、いうまでもなく、特別活動という教育課程の一環に位置するものであ
り、教諭の「教育をつかさどる」権限が及ぶ教育活動の一環に位置するものである。
それを直接指導する教員は、学年単位のものであるならば学年教師集団として、全校
的なものであるならば全教師集団として、「学校の実態や生徒の発達段階及び特性等
を考慮し」「生徒による自主的、実践的な活動が助長されるように」配慮して、その
計画および実施を指導していく職責を有しているのである。
　このように、教育活動の一環である学校行事の計画・実施は、たとえ全校的学校行
事であれ、「校務をつかさどり、所属職員を監督する」校長権限のみが及ぶものでは
なく、「教育をつかさどる」教員の権限も及ぶものであることは、異説を見ない自明
のことである。この「教育をつかさどる」教員の権限、および、特別活動の特質を踏
まえるならば、「校務をつかさどり、所属職員を監督する」校長権限のみが唯一絶対
であるかのように主張することは、明らかに誤りである。「生徒による自主的、実践
的な活動」の「助長」という趣旨を損なうような、また、関係教職員の意向（教育権
限）を無視するような、校長の一方的な指示命令は、学校教育法および学習指導要領
に違背するものと言うべきである。

　３．生徒の「意見表明権」・参加権
　請求人の３月１８日の発言、および、その前提になっている同校の職員会議決定に
は、生徒会決定の尊重という趣旨が強く含まれている。そこで、学校行事に関する生
徒の参加権について検討する。
--------------------------------------(10)------------------------------------

　（１）子どもの権利条約第１２条の内容理解と国内法的効力
　　　①子どもの権利条約の核としての第１２条
　周知のように日本が１９９４年４月に批准し同年５月に発効した国連・子どもの権
利条約は、第１２条に「１.締約国は、自己の意見を形成する能力のある児童がその
児童に影響を及ぼす全ての事項について自由に自己の意見を表明する権利を確保する。
この場合において、児童の意見は、その児童の年齢および成熟度に従って相応に考慮
されるものとする。２.このため、児童は、特に自己に影響を及ぼすあらゆる司法上
および行政上の手続きにおいて、国内法の手続規則に合致する方法により直接に又は
代理人もしくは適当な団体を通じて聴取される機会を与えられる。」（外務省訳）と
規定している。
　国連・子どもの権利委員会第一期委員のT．ハマーバークは、３つのP－Provision
(基本的ニーズの充足)、Protection(危険なものからの保護)、Participation(参加)－
を条約の特徴とて挙げている（Hammarberg,T.1990."The UN Convention on the 
Rights of the Child－and How to Make It Work"pp.99－101）。国連・子どもの
権利委員会は、〈子どもの意見の尊重原則〉を、審査に際しての４大一般原則の１つ
としている。子どもの意見表明権は、子どもの権利条約の眼目的な権利とされている
のである。
　子どもの権利条約は、子どもを、①発達途上にあり大人の保護や教育・指導が必要
な〈子ども〉として捉えるだけでなく、②人間としての尊厳性、基本的人権、人格と
個性をもつ〈人間〉と捉えること、さらに、③家族・学校・地域社会等の共同体を大
人とともに共同形成する〈市民(citizen)・パートナー〉として捉えて、子どもの
〈保護・教育への権利〉〈人間としての権利〉〈市民・パートナーとしての権利〉を
保障している。この３種の権利を統一して実現する〈鍵的な権利〉が「意見表明権」
であることを、子どもの権利委員会は強調している。
　例えば、日本に関する本審査（１９９８.５.２７－２８.）の議長を務めたカープ
委員は、「この条約を包括的に見るならば、子どもの意見に耳を傾けるという観点か
ら離れてこの条約を理解することはできません。……子どもの最善の利益を考慮しな
ければならない者に子どもの意見が提出され、その人が子どもの意見を聞き、それを
考慮しなければ最善の利益を考慮したことになりません」、「本条約は人間の尊厳に
関するものです。……子どもがもしその個性と人格を受け入れられなければ、それは
人間としての尊厳が犯されたことになるのです。自分に関わることについてその意見
が聞かれなければ、それは本当の意味でパートナーとなる機会を奪っていることにな
るのであり、それはその人間としての尊厳を犯していることになるのです」と述べ、
「子どもの意見を聞くという考え方が、子どもの権利実現のためのシステム全体の中
に本当に導入されているのか」と厳しく問うている。サーデンバーク委員は、「子ど
もを人間として、市民として、権利の主体として」とらえることに「本条約の主要な
特徴」があるのであり、“第１２条は本条約全体を貫くものであり、本条約の革命的
--------------------------------------(11)------------------------------------
な側面である参加の問題は決定的に重要である”旨の見解を述べている（DCI日本支
部編『子ども期の回復』、参照）。

②〈子どもの意見尊重原則〉〈学校参加権〉
　子どもの権利委員会は、日本審査「最終所見」（1998.6.5.）においても、日本政
府に対する「論点・追加情報請求リスト」（"List of issues to be taken up 
in connection with the consideration of the initial report of 
Japan" CRC/C/Q/JAP.1 22 October 1997.）においても、条約第１２条の「意見表
明権」には、〈子どもの意見の尊重の原則〉と、〈子どもの参加の権利〉（〈学校
参加の権利〉と〈社会参加の権利〉）が含まれることを明確に示している。
　カープ議長が、子どもに意見を聞くということは「子どもの意見を本当に考慮に入
れるということ」「意見が現実に考慮に入れられることを保障しなければならないと
いうこと」「もし子どもの考えが受け入れられないのであれば……なぜ取り入れられ
なかったのかを子どもに説明する義務があ」るということを意味すると述べているよ
うに、自由権としての表現の自由(条約第１３条)と別の条項を設けて規定されている
第１２条の意見表明権は、言い放し・聞き放しで良いというものでは決してなく、
〈尊重・考慮義務〉および〈説明義務〉が伴う請求権的性格を持つ権利と捉えられて
いるのである。
　それゆえ同議長は、この権利が保障されるためには、「子どもの意見を聞くという
特別のシステム」「日常的な生活の中で、子どもの意見を聞き、子どもを本当に参加
させるための手続き」が必要であるとし、「いじめ、体罰の問題の解決への子ども参
加」「校則の策定や懲戒を行なう場合に子どもを参加させること」「学校評議会
(education board)に子ども代表を参加させること」等を検討したのか日本政府代表
団に厳しく質している。
　このような見解に立ち、日本審査「最終所見」第１３項は、「委員会は、……子ど
もの意見の尊重〔第１２条〕の一般原則が、……子どもに関する立法政策・プログラ
ムに十分に取り入れられていないことに懸念を表明する。委員会は……子ども一般が、
参加の権利(participatory rights)〔第１２条〕の行使にあたって、社会のすべての
場において、特に、学校制度において、困難に直面していることに懸念を表明する。」
とし、さらに、第３５項は、「条約の一般原則、特に、……子どもの意見の尊重〔第
１２条〕が、政策論議・政策決定だけでなく、子どもに影響を与えるあらゆる法改正・
司法的決定・行政的決定においても、また、すべてのプロジェクトやプログラムの開
発と実施においても、適切に反映されることが保障されるようにさらなる努力が行な
われなければならない、というのが委員会の見解である。」と勧告しているのである。

③諸外国および日本における生徒の学校参加制度の整備
　ドイツ、フランス、イギリス、アメリカ、イタリア等の諸国においては、生徒、父
母、教職員を中心とした「学校会議」「学校理事会」「学校委員会」等の法制化を通
--------------------------------------(12)------------------------------------
じ、生徒の学校参加権保障が確立・進展している（喜多明人、林量俶他編『子どもの
参加の権利』三省堂、小野田正利『教育参加と民主制－フランスにおける教育審議会
に関する研究－』（博士論文）風間書房、窪田眞二『父母の教育権研究－イギリスの
父母の学校選択と学校参加－』（博士論文）亜紀書房、柳澤良明『ドイツ学校経営の
研究』（博士論文）亜紀書房、等参照）。
　日本においては、先進国の中で例外的に、生徒・父母・教職員の学校参加制度の整
備確立が遅れていることは、学界においてはほぼ共通の認識になっている。
　子どもの権利条約第１２条に違背するこのような日本の状況を憂慮し、国連・子ど
もの権利委員会は、前述した「最終所見」を出しているのである。

④子どもの権利条約の国内法上の位置づけと効力
　日本国憲法下においては、憲法第９８条に基づき、批准された条約は憲法に次ぐ、
法律以下の法令に優位する法源となることは、学界においてほぼ異説のない通説であ
る。前述した子どもの権利委員会の日本審査においても、日本政府代表団は、「わが
国が締結をし、公布された条約は、国内法としての効力を持っております。わが国の
憲法には、わが国が締結した条約と法律との関係について明文の規定はございません
が条約が法律に優位するものと考えられております。」と回答している（子どもの人
権連他編『子どもの権利条約のこれから』２３２頁）。
　また、前述の日本審査において条約が国内法の改正なしに直接適用できるか否かと
いう自動執行性については、「当該規定の目的、内容、および文言などを勘案して、
具体的場面に即して判断するものと考えられております」（同前書、２３２頁。同旨、
２４５頁）と、場合により自動執行性をもちうる旨の回答がなされているのである。

⑤所沢高等学校の「協議会システム」の法的評価
　所沢高等学校における「協議会システム」は、正に子どもの権利条約第１２条が規
定している意見表明権（そこに内包されている〈子どもの意見の尊重原則〉および
〈学校参加権〉）を保障する学校内部規則である。
　日本において、生徒の参加権を保障する国内法制の整備は進んでいないが、だから
といって条約第１２条に関し生徒たちは無権利なのではない。前述したように、学校
参加権を内包し、法律に優位する子どもの権利条約が国内効力を有する法源として存
在しているのであり、なおかつ、所沢高等学校においては、「生徒会活動に関する職
員・生徒の協議会規程」〔甲第４号証〕等の学校内部規則〔前述したように、判例に
おいて法規性を認められている〕が確立・定着していたことから、同校においては
「協議会規程」等の内部規則に基づく具体的権利を同校生徒は有していたと解される
べきである。

　４．入学説明会における請求人および校長の説明の法的評価
--------------------------------------(13)------------------------------------
　公立学校の校長および教員は、憲法第９８条、９９条および地方公務員法第３２条
により、憲法・条約を含む法令遵守義務を負っている。条約は、前述したように法律
や省令（学校教育法施行規則）あるいは告示（学習指導要領）に優位する国内法的効
力を有する法源である。それ故、校長および教員は、法律や省令・告示だけでなく、
その上位法に位置づく条約を遵守する義務を有している。
　前述したように、所沢高等学校の内部規則として制定・運用されていた「生徒会活
動に関する職員・生徒の協議会規程」は、子どもの権利条約第１２条に含まれる〈生
徒の学校参加権〉を保障・実現する具体的制度であることから、同協議会規程および
同校の職員会議規程の適法的運用によりなされた生徒会決定および職員会議決定を尊
重した請求人の発言は、憲法第９８条、９９条および地方公務員法第３２条に規定さ
れる憲法・条約を含む法令遵守義務に従ったものである。
　それに対し、子どもの権利条約第１２条に則した同協議会規程および同校の職員会
議規程の適法的運用によりなされた生徒会決定および職員会議決定を全く蔑ろにした
校長の言動こそ、条約を含む法令遵守義務に反するものである。

　５．小括
　以上、二、および、三の１～４を総合してみるに、当該入学説明会における請求人
の説明は、教育的配慮という点においても、また憲法、教育基本法、子どもの権利条
約、学校教育法、同法施行規則、埼玉県教育委員会規則、学習指導要領、同校内部規
則に照らしてみても、妥当かつ適法なものであり、信用失墜行為に該当するという謂
われは存在しない。
　請求人の行為を信用失墜行為とする処分者側の主張は、上記諸法令の解釈・適用を
誤ったものであると言わざるを得ない。


第四　処分手続き
　１．はじめに
　処分権者は、本件処分の手続きに関して、行政手続法、地方公務員法、職員の懲戒
の手続及び効果に関する条例（昭和２６年埼玉県条例第５２号）に「聴聞や弁明の機
会の付与を義務づけた法令の規定はなく、処分者がこれらの手続を行わなかったとし
ても、本件処分が違法になるわけではない」（１９９８(平成１０)年１１月１０日付
準備書面）と主張している。
　しかし、学説上、処分に際し事実の確認が「正確」かつ「公正」になされるべきこ
とについて、異説は見受けられず、「わが国にも、諸外国にみられるような形で、行
政手続法典の中で、聴聞に関する基本的な手続を定めるべきであるという意見が学説
上強い。」（『新法律学事典（第三版）』有斐閣、１９８９年）とされる。１９６６
年のユネスコ特別政府間会議が採択した「教員の地位に関する勧告」第５０項は、
「すべての教員は、一切の懲戒手続きの各段階で公平な保護を受けなければならない。」
--------------------------------------(14)------------------------------------
とし、処分決定に先立って、「a.懲戒の提起およびその理由を文書により告知される
権利 b.事案の証拠を十分に入手する権利 c.教員が弁護準備に十分な時間を与えられ、
自らを弁護し、又は自己の選択する代理人によって弁護を受ける権利」の３点が保障
されるべきことを勧告している。
　処分権者も、これらの学説等の動向を踏まえ、「本件の事実関係を確認するととも
に、請求人から事情聴取するために、平成１０年３月２０日及び２３日の両日、それ
ぞれ２名の教育局職員（主任管理主事）を所沢高等学校に派遣した。」「処分者は、
処分の適正を期するために、処分に先立ち請求人から聴聞を行おうとした」としてい
る（１９９８(平成１０)年１１月１０日付準備書面）。
　つまり、処分者側も、事実の「正確」かつ「公正」な事実確認の必要性、および、
本人に弁明の機会を与えること（聴聞の機会を設けること）の必要性を認めている。
しかるに、以下の諸点において、それを履践していない。

　２．本件事実確認の基本的根拠とされた「事故報告書」の瑕疵
　（１）注目され周知・徹底が図られていた「事故報告書」書式改訂
　１９９８(平成１０)年８月１７日付の請求者側「救釈明書」に対する１９９８(平
成１０)年１０月６日付処分者側準備書面において処分者側が処分事由を認定した根
拠とし、また、本件処分の起案者である舩津証人が処分起案の際に「事実確認の根拠
とした資料というのは、基本的には事故報告書だけということになるんではないです
か」という質問に「はい、そういうことでございます。」と証言している（第９回口
頭審理調書３２頁）ところの本件に関する「事故報告書」（乙第１号証、親所高第６
４号平成１０年３月２３日付、埼玉県教育委員会収受３月２４日）に、正確・公正な
事実認定および当事者からの意見聴取という点において、重大な瑕疵が存在する。
　１９９７（平成９）年７月、伊奈学園、南陵高校、浦和商業高校等、埼玉県内の高
等学校における酷い体罰事件が連続的に新聞報道され、県議会文教委員会が臨時会を
開催し集中審議する（８月６日）、９月議会においても大きな問題とされ審議される
(９月２９日～１０月１日)、１０月１３日に県議会において「いじめ・体罰の根絶を
求める決議」が採択される等、体罰問題が大きな問題となっていた。県教育局は、教
育長名で「体罰禁止の徹底について（通知）」（各県立学校長宛、平成９年８月２７
日付、教高一第５６９号）、「教員の体罰事故の報告について（通知）」（各県立学
校長宛、平成９年９月２日付、教高一第５７８号）等を発する、臨時校長会で周知徹
底する等の緊急対応を行っていた。臨時文教委員会で報告された１９９７年度(７月
２５日現在)中の事故報告件数は、小・中学校５件、高校５件に上り、従来はいなかっ
た減給処分者まで出すに至っていた。県立高等学校教職員の懲戒処分を含む人事管理
を所掌事務としていたのは、県教育局指導部高校教育第一課管理主事班であり、舩津
和信氏が班を統括する主席管理主事の職にあった（第９回口頭審理調書３頁、１５頁）。
　そのような事態の中で、８月末に市民団体から事故報告書の併記方式への書式改訂
--------------------------------------(15)------------------------------------
等を求める請願書が出され、生涯学習部、高校教育第一課、市町村教育課と話し合い
が重ねられ、１９９８（平成１０）年１月８日に、埼玉県教育委員会教育長名をもっ
て「児童生徒、職員等の事故報告について（通知）」（教高一第９９０号、各県立学
校長宛）〔甲第３５号証〕が出されたのであった。この事故報告書の改訂は記者発表
をもって公表され、新聞各紙が大きく取り上げたのであったが、「記者発表資料」は、
この問題にずっと関わってきた、「教育局指導部高校教育第一課」および「教育局生
涯学習部市町村教育第一課」の名前で作成・配布されている。そして更に、全７１頁
に及ぶ『教職員研修資料』が高校教育第一課を含む６つの課の連名で同年２月に作成
され、全教職員に配布されて、事故報告書の改訂通知の周知・徹底が図られている。
　高等学校で起こった事故について事故報告書を受け取り処分を含む処理を行うとい
う職責に照らし、高校教育第一課管理指導班は、この改訂通知に従い事故報告書を作
成させ、正確かつ公正に事実把握をした上で、処分等を起案する職務上の義務を負っ
ていた。

　（２）「事故報告書」書式改訂の趣旨と内容
　従来の事故報告書と改訂されたそれとは大きく異なっている。形式的な面では、従
来の書式は、「１．事故の種類　２．発生の日時　３．発生の場所　４．事故者・・・」
という順序になっている。それに対し、改訂された書式（「（様式１）体罰以外の事
故の場合」）では「１．事故者の職・氏名（ふりがな）・年齢・性別　２．事故の種
類　３．事故の発生日時　４．事故発生場所・・・」という順序に変わっている。
　内容的に大きく変わった点は、「関係者の立場を配慮しながら十分な調査を行い、
特に加害、被害のある事故については、事故の正確な把握に努める。」（「別記１　
事故報告書作成要領　４」）とされ、前記（様式１）の「９　その他」の項に、「事
故関係者（事故者、加害者又は被害者、目撃者及び保護者等）に、事故に対する意見
等がある場合は、事故関係者ごとに記載する。」と、体罰事件同様に、加害者あるい
は被害者あるいは校長の一方的な見方によるのではなく、両当事者および目撃者から
の意見（事情）聴取を行って、公正かつ正確な事実確認を行うことを求めている点に
ある。
　当時、事故報告書改訂通知により、事故報告書を記載する校長は、「関係者の立場
を配慮しながら十分な調査を行い、特に加害、被害のある事故については、事故の正
確な把握に努める」義務、「事故関係者（事故者、加害者又は被害者、目撃者及び保
護者等）に、事故に対する意見等がある場合は、事故関係者ごとに記載する」義務を
負っており、特に処分に該当すると思われる事案については、この義務の履践が強く
求められていた。

　（３）本件「事故報告書」の瑕疵
　本件事故報告書の内容および取扱いを見るに、本件事故報告書を記載した校長は書
式改訂を存知していた旨証言しており（第７回口頭審理調書２７頁）、１から始まる
--------------------------------------(16)------------------------------------
記載順序等は改訂通知に従ったものになっている。しかるに、当該校長は「竹永教諭
が混乱を与えた加害者であり、入学許可候補者・保護者および校長がその被害者であ
ると認識していた」旨を証言している（第８回口頭審理調書３頁）にも拘わらず、
「事故関係者（事故者、加害者又は被害者、目撃者及び保護者等）に、事故に対する
意見等」を聞く措置を全く懈怠し（第８回口頭審理調書４頁）、正確さと公正さを担
保する様式１第９項の「事故関係者（事故者、加害者又は被害者、目撃者及び保護者
等）に、事故に対する意見等がある場合は、事故関係者ごとに記載する。」という項
目は全く記載していない。
　また、改訂通知を出し、かつ、本件を処分該当事案と捉えた処分権者側は、ことも
あろうに、この瑕疵の補正を求めることを何ら行わずに、処分の事実認定根拠として
いるのである。この点に関し、当時、県立高等学校教職員の懲戒処分を含む人事管理
を所掌事務とする管理主事班を統括する主席管理主事の職にあり（第９回口頭審理調
書３頁、１５頁）、本件処分の起案者であった舩津氏は、事故報告書作成要領の第８
項に「事故報告書の提出後に、新たに判明したことについては、続報（第２報等）と
して報告を行う。」とされているにも拘わらず、事故報告書の補正を校長に指示せず
（同調書２６～２７頁，３０頁）、事故報告書の改訂通知について、「詳細にはわか
りません」「念頭になかったかも知れません」とさえ証言している（同調書２７頁、
３０頁）。この重要な改訂通知を無視し、それに反した報告書に対し補正の指示を何
ら行わず、そのまま処分起案書に添付し、本件処分の事実認定の根拠としたことは、
重大な職務の懈怠ないし職務上の義務違反というべきことである。
　以上の点において、本件処分に関わり主たる事実認定根拠とされた事故報告書は、
埼玉県教育委員会教育長通知「児童生徒、職員等の事故報告について」（教高一第９
９０号、各県立学校長宛）に違背するものであり、それを事実認定の主たる根拠する
本件処分は、処分手続き（特に、公正さ・正確性を担保すべき事実認定手続）に重大
な瑕疵を有するものであると言わざるを得ない。

　３．来校しての「事情聴取」における瑕疵
　前述したように、処分権者も学説等の動向を踏まえて、正確・公正な事実認定およ
び当事者からの意見聴取の必要性を認め、「本件の事実関係を確認するとともに、請
求人から事情聴取するために、平成１０年３月２０日及び２３日の両日、それぞれ２
名の教育局職員（主任管理主事）を所沢高等学校に派遣した。」「処分者は、処分の
適正を期するために、処分に先立ち請求人から聴聞を行おうとした」としている（１
９９８(平成１０)年１１月１０日付準備書面）。
　しかし、「処分者は、処分の適正を期するため、処分に先立ち請求人から聴聞を行
おうとしたが、請求人の同僚教員らの妨害によりこれを実行できなかったものである。
請求人は、同僚教員らの妨害行為を制止しなかったものであり、請求人に対する聴聞
を行えなかったことについて処分者側に責任はない。」（１９９８(平成１０)年１１
月１０日付準備書面）としている。
--------------------------------------(17)------------------------------------
　ここには、以下のような法的瑕疵および問題点が含まれている。

　（１）３月２０日「事情聴取」の問題点
　３月２０日の「事情聴取」は、来訪を予告もせず（請求人は年休を取っていた－第
９回口頭審理調書８頁）、来訪してから行った請求人の呼び出しにおいても、趣旨・
目的および事情聴取を行おうとした者の身分・氏名を明らかにせずに行ったとされる
（第１２回口頭審理調書８頁）。これは、社会通念に照らしてみて、「公的な事情聴
取」であるとする要件を欠いていると言える。
　（２）正確・公正な事実把握をするための代替措置を何ら行わなかった問題
　来校しての事情聴取が不可能であると判断し、なおかつ、公正・正確な事実把握を
しようとするならば、代替的措置－被処分者および学年団教師を順次県教育局に呼び
出す等－を当然に採るべきであった。しかし、代替的措置を取る努力も、履践も、何
らなされていない。
　（３）「事情聴取」の経過・結果を記録したメモもないという問題
　「処分の適正を期するために、処分に先立ち請求人から聴聞を行おうとした」とい
う極めて重要な職務遂行のための同校への県教育局職員の「派遣」であったにも拘わ
らず、復命書もメモ等も全くないとされている（第１回口頭審理調書２５頁）。－
「県教育委員会が所沢高等学校で３月２０日と２３日に調査した結果についてのすべ
ての報告文書およびメモ」の情報公開請求に対する通知書〔教高一３０７号平成７年
月２日〕である「行政情報不存在通知書」にも、「不存在の理由」の欄に「もともと
不存在」とされている。－
　「処分の適正を期するために、処分に先立ち請求人から聴聞を行おうとした」と、
処分を念頭に置いた同校への県教育局職員の派遣でありながら復命書もメモも存在し
ないということは、社会通念から考えて全く信じ難いことである。復命書およびメモ
の不存在が真実であるとすれば、復命書もメモも存在しない「事情聴取」をもって
「処分の適正を期するため」の“公的な事情聴取”であったかのように主張すること
は、社会通念を逸脱した主張である。
　処分者側は、３月２０日および２３日に校長および教頭から事情聴取したことを事
実確認の一つの根拠としているが、復命書もメモも存在しない「事情聴取」結果の報
告には、公正さは言うに及ばず、正確性も担保され得ないものである。
　なお、埼玉県教育局等職員服務規程第２３条（出張の復命）には、「職員は、出張
用務を終えて帰庁したときは、直ちにその要領を口頭で報告し、軽易なものを除き、
速やかに復命書（様式第二十三号）を旅行命令権者に提出しなければならない。ただ
し、上司に随行したときは、この限りでない。」と規定されている。３月２０日およ
び２３日の「事情聴取」が「処分の適正を期するため」の「公的な事情聴取」であっ
たならば、同規程が適応除外している「軽易なもの」に該当するはずはなく、それに
も拘わらず、復命書も提出されずメモもとられていなかったということは、埼玉県教
育局等職員服務規程第２３条に違反する調査処理であったと解される。
--------------------------------------(18)------------------------------------

　４．関係当事者からの事情聴取の欠如
　被害者側の意見として処分者側が把握しているのは、県教育局に電話があったとさ
れる（しかし、氏名・連絡先は「不明」であり、電話録取メモも「たぶんない」と処
分者側が証言している－第９回口頭審理調書２２～２３頁）１人の「保護者」からの
電話だけであり、その他の「入学許可候補者」およびその保護者からの事情聴取は全
く行われていない。
　結局、被処分者、関係当事者（学年団教員、被害者と認識された「入学許可候補者」
およびその保護者）からの事情聴取は全く行われずに、校長・教頭からの聴取・報告
のみに基づき、事実認定が行われたということになる。

　５．処分手続きの総合的考察
　（１）処分案決済に至るまでの問題点
　第一に、入学説明会のあった３月１８日のうちに「処分の適正を期するため、処分
に先立ち請求人から聴聞を」行う〔１９９８(平成１０)年１１月１０日付準備書面〕
ために３月２０日に同校に出向くことを決めたとされる（第９回口頭審理調書７頁）
のであるが、その過程は、以下のように、正確さを何ら担保し得ない、驚くべき杜撰
なものであった。
　①教育局になされたという１本の「苦情電話」に関しては、電話録取メモも「たぶ
んないと思う」とされ〔第９回口頭審理調書２２～２３頁〕、誰からの電話であった
のかも、「苦情」の正当性・正確さも、全く検証されていない。
　②３月１８日の県教育局と校長の電話のやり取りに関しても、処分起案文書－乙１
号証においては、「苦情電話があり、校長に確認して自己が判明した」と記されてい
るのに対して、校長は、「県教育委員会の方に苦情電話があった・・・ので、それを
あなたに確認するというような話はあったんですか、なかったんですか」という問い
に「そういう話は、前回申し上げましたように、ないです。」〔第８回口頭審理調書
２２～２３頁〕と答えており、処分者の書証（乙２号証２枚目）と校長の証言はくい
ちがっている。
　③しかも、「苦情電話」も校長からの電話も所掌外の高校教育第２課の永松氏が受
け、所掌責任者の舩津氏に「口頭」のみで伝えた（舩津氏は「私の方はメモはござい
ません」と明確に証言している－第９回口頭審理調書２２頁）とされる。
　④この①～③の過程に関しても、すべて一片のメモすらない「伝言」だけによって
行われたということになる。伝聞証拠、再伝聞証拠に依拠した“伝言ゲーム”と評す
べきものであり、その過程に正確さは全く担保され得ていない。

　つまり、処分者側の主張〔１９９８(平成１０)年１１月１０日付準備書面〕によれ
ば、本件発生当日の１８日に、既に、前記①②③の３つの不確実な情報のみに基づい
--------------------------------------(19)------------------------------------
て、「処分該当」という「予見」が形成され、その「予見」に基づき３月２０日およ
び同月２３日に、前述３－（１）（２）（３）の瑕疵をもった「聴聞」がなされた。
そして、２３日に、２で指摘した教育長通知に違背する職員事故報告書が校長により
作成され、翌２４日に教育委員会が収受し、事情聴取手続きの瑕疵、事故報告書の内
容および作成手続きの瑕疵を補正する作業を一切行わず、即日、処分起案文書を作成
し、持ち回りで教育長以下２６名の承認印を受け決済し、翌２５日の教育委員会会議
に追加議案として上程している。煎じ詰めれば、本件の電話連絡を受けてから６日後、
事故報告書を収受した即日、「予見」の慎重な検証、情聴取手続きの瑕疵および事故
報告書の内容と作成手続きの瑕疵を補正することを行うことなく、教育局として本件
処分案を決済したのである。
　教育局における処分案決済に至るまでの過程は、以上、四－２～５の瑕疵および問
題点を有するものである。このような多くの瑕疵・問題点を含む杜撰なものであった
からこそ、３月１８日から２４日までのちょうど１週間という極めて異常な短期間に
決済に至ったと思料される。

　（２）教育委員会の会議における審議・決定手続の問題点
　第二に、教育委員会の会議における審議・決定手続も驚くべきものである。
　証言によれば、３月２５日の教育委員会の会議における本件の協議資料として提出
されたのは、教育局が作成した乙第２号証４～７頁の４枚の文書であり、それを読み
上げて提案され、意見も質問もなく、追加議案として審議事項とすることが承認され、
審議においても「問題なし」として処分が決定されたとされる〔第９回口頭審理調書
１２頁〕。
　その際、教育委員会会議には、教育局において持ち回り決済を受ける際に添付され
ていた（事実確認の根拠とした資料は「基本的に事故報告書だけ」であったことを認
めている－第９回口頭審理調書３２頁）「事故報告書」を提出することも読み上げる
こともしていないとされる。しかも、処分事由となった入学説明会での請求人の発言
内容を直接にかつ正確に証拠立てる客観的・物的証拠たる録音テープが存在すること
を校長から聞きながら、処分起案者自身がそれを聞き確かめることも、教育委員会の
会議に提出することもせず、録音テープが存在することを報告することすらしていな
いという。
　刑事事件に例えて言えば、事件の客観的・物的証拠の収集・検証を行わず、「被害
届」と伝聞証拠・再伝聞証拠に基づき作成された「起訴状」のみに基づいて判決を下
すという、全く信じがたい処分決定を、本件に関し県教育委員会会議は行ったと言わ
ざるを得ない。

　６．処分手続き小括
　本件処分手続きを総じて見るならば、「被害者」であると自らが言う校長の言い分
と事故報告書（いわば被害届）、および、身元不詳の１本の「苦情電話」のみを「間
違いない」「嘘をつくはずがない」〔第９回口頭審理調書２９頁〕事実と一方的に措
--------------------------------------(20)------------------------------------
定し、しかも、メモ・記録を残すという最低限必要な正確さの担保もなさず、録音テ
ープという決定的な客観的・物的証拠を検証することもせず、入学説明会に参加して
いた多くの関係者および「加害者」とされた者からの聴取も一切行わずに処分決定が
なされているのであり、事実の正確かつ公正な把握という点において、全く信じがた
い恣意的・一方的で杜撰極まりないものである。

第五　おわりに
　校長権限および学習指導要領を一面的に絶対化し、教職員および生徒を校長および
教育委員会（教育局）の一方的な指揮命令下におくことを可能にする処分権者の乱暴
かつ強権的な主張がまかり通るならば、憲法・教育基本法・子どもの権利条約等を尊
重・遵守し、子ども・父母・住民の付託に真摯に応えんとする創造性と活力溢れる学
校教育実践は閉塞・死滅させられるであろう。
　また、処分手続きに関しても、懲戒処分という強力な行政権力の行使に関し、この
ような杜撰な手続が合法かつ正当とされるならば、行政権力の恣意的行使に対する歯
止めはなくなり、日本の法治主義および民主主義は単なる形式・形骸に堕し崩壊する
ことになろう。
　そのことを衷心から憂うものである。
　人事委員会におかれては、県民からの請願を受け県議会において全国に先駆け全会
一致で「『児童の権利に関する条約』普及啓発等に関する決議」を採択している埼玉
県の行政に相応しく、子どもの権利条約第１２条に関する国際的水準を踏まえた理解、
教育基本法（前文、第１条、第２条、第１０条）や学校教育法第２８条第６項、学テ
旭川事件最高裁判決等を総合的に踏まえた、良識・見識ある判断を下されることを切
に望みたい。


(Ｗｅｂ管理者記)
前のページ（所高資料）に戻る
前のページ（経過）に戻る