142回-参-予算委員会-14号
教育関係
1998年4月1日(水)
○照屋寛徳君 ありがとうございました。
関連質問をお許しいただきたいと思います。
○委員長(岩崎純三君) 関連質疑を許します。日下部禧代子君。
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○日下部禧代子君 日下部でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
橋本総理は、本国会における施政方針演説の中で、将来を担う子供たちが家
庭でも学校でも居場所を見つけ出すことができないで悩んでいる、この深刻な
教育の状況に対して真っ正面から取り組んでいくことを表明なさいました。こ
の問題を放置すれば将来に禍根を残すことになるとの総理のお考えには私も全
く同感でございます。
そこで、本日は教育の最も根幹的な問題である学校のあり方についてお尋ね
したいと存じます。
まず、総理にお伺いいたします。
現在、子供たちが家庭においても学校においても居場所を見出すことができ
ないその理由をどこにあるとお考えでいらっしゃいましょうか。
○国務大臣(橋本龍太郎君) その原因はいろいろなものが積み重ねられているので
はないでしょうか。
一つは、出生率が低下し、学齢以前に兄弟でもつれ合いながら楽しむといっ
た、あるいは兄弟げんかをするといった経験がなく、いきなり集団生活に入る。
そして、初めてできた友人関係に悩んだり、なかなかうまく溶け込めなかった
り、あるいは先生との間に関係を築き損なってしまう。いろんなケースが私は
あると思うんです。
ただ、学校が子供にとって楽しくない場所になってしまっているということ
は、これは否定できないわけでして、それは例えば授業がおもしろくないとい
うことがあるかもしれませんし、あるいはわからないということがあるのかも
しれません。
そういった意味では、私どもが大変工夫を必要とする部分が多いわけですが、
先日も当委員会でちょっと御紹介をいたしました非行少年や不良行為少年に接
する現場の立場の方たち、少年補導に携わる現場の声の中で、どれも非常に切
実な話でありましたけれども、今の御質問に関連して触れますと、これはある
県の婦人補導員の方からの声でありますが、非行少年との会話の中で、今の家
に生まれて一応幸せ、けれども物すごく悲しいとか楽しいとかしかられたとい
う経験がないというケースが多いと言われます。
子供のことをきちんとしかれる大人がそれだけ減ってしまっているのかな、
同時に、自分の子供に対してもそうであるとすれば、よその子供さんに対して
責任を持って注意するといったようなことは今の大人はできなくなっているん
だろうか、それは考えてみると怖いことだ、この意見を聞きましたときにその
ような印象を持ちました。
私どもが考えるべき点はこんなところにもあるような思いがいたします。
○日下部禧代子君 本当にそのようにも思います。
学校ということになりますと、総理も今お触れになりましたように、授業が
おもしろくない、わからないというふうなことが学校に行きたくなくなる大き
な原因の一つかというふうにも思うわけでございます。
ここに、第三回中学校国際数学・理科教育調査の報告書が国立教育研究所か
ら出されております。興味深い結果がございます。
日本の子供たちは、テストの結果は四十一カ国中三位、計算問題、暗記物は
トップでございます。しかしながら、科学の本質あるいは創造的な思考を問う
問題は平均を下回っております。また、数学、理科を好きだという生徒は四十
一カ国中非常に少なく、また数学、理科が生活に大切であるという意識も非常
に低い部類に入っております。したがって、数学、理科を使う仕事にもつきた
くないという生徒が非常に多いのであります。非常に残念ではございますが、
我が国の学校では大変な時間と労力を費やして理科、数学嫌いをつくっている
ような気がしてならないのでございます。
この調査では、同時に学級生徒数及び学習形態の調査も行っております。日
本はクラスの生徒数が最も多く、また一斉授業で学級単位で学習するという割
合が七割を占めて、韓国に次いでトップでございます。アメリカは五〇%、カ
ナダが三七%など、ヨーロッパ諸国はおおむね四〇%台にとどまっております。
日本を除く、あるいは韓国を除く多くの国では、一斉指導ということもやって
おりますけれども、むしろ教師の指導で個別学習あるいはグループ学習を採用
している割合が高いということが示されております。
私は、たとえ時間がかかったとしても自分で問題を解決する、その解決した
ときの達成感あるいは喜び、ただいま総理が本当に悲しい、うれしい、そうい
う感情がなかなかなかったとおっしゃいましたけれども、達成感、喜び、そし
て自分が問題を解決した、自分自身の手で解決したというその感動がやはり興
味とやる気を起こさせるんじゃないか。教育とは一言で言えばやる気をいかに
して起こさせるかということではないかと私は思うわけでございます。与える
教育ではなくて引き出す教育というふうにも言えるのではないかなと私は思っ
ております。
二十一世紀に必要とされる資質というのは、自立心や想像力、クリエーティ
ブな創造性、生きる力でございます。やはり対面的一斉指導中心という我が国
の伝統的な授業方法から脱却する時期が来ているのではないかというふうに思
いますが、総理はいかがでいらっしゃいましょうか。
○国務大臣(橋本龍太郎君) 私は、正直申しまして、イギリスのパブリックスクー
ルに学んだ友人を持ち、その中で個別指導あるいはグループ学習というものが
非常に定着していることを高校ぐらいだったと思いますけれども知って、すご
くうらやましく感じたことがあります。
それだけに、私は一斉指導の方がいい場合ももちろんあると思うんです。で
すから、一斉指導はいかぬと私は決めつけるつもりはありません。その上で、
子供たちの興味、関心を引くという意味では私はグループ学習もいいと思いま
すし、課題ごとの課題学習のような形あるいはチームティーチングのようなや
り方、いろんな工夫があっていいと思います。
既に文部省の諸君もいろいろ考えておりますけれども、我が国の学校あるい
は先生方の工夫でそうした試みも行われているわけでありまして、私はこれか
ら先、各学校がそれぞれの自主性の中でその実態に応じ、もちろん親御さん方
の協力は得なければいけませんけれども、そうした意味での指導方法というも
のは一層工夫、改善していく、そういうことがあってよいと思います。
○日下部禧代子君 ありがとうございました。
学ぶことへの魅力あるいはまた学ぶことへの挑戦というふうなことを子供た
ちが体得していく、そのことが将来への禍根を残すことがないための非常に重
要なことではないか、そのためにも発想とシステムの転換が今求められている
ように私は思うわけでございます。
そのためにはさまざまな条件がございます。例えば教員の標準定数法の見直
しも私は例外ではないというふうに思うのです。この法律というのは、いわゆ
る対面式授業、クラス単位ということを前提にして、いわば画一的に定められ
ております。四十人学級ですから、四十一人になれば二十人と二十一人という
ふうにクラス分けされます。そして一方では、四十人のクラスと二十一人のク
ラスというふうになるわけでございます。そういう前提をここで私たちは少し
発想の転換をいたしまして、子供たちの年齢とか授業の内容、そういうことに
対応して弾力的に運用するものに改めなきゃならないんじゃないかというふう
に思うわけです。
また、クラスの人数というのは過疎地あるいは過密によっては随分違ってま
いります。過疎地においてはもう既に複式学級が実施されているわけでござい
ます。この発想は私が今申し上げた発想と同じではないかというふうに思うわ
けです。今、生徒の視点に立つ、そしてまた地域の実情に立つ法改正が必要で
はないかというふうに思うのでございますが、文部大臣、いかがでしょうか。
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○国務大臣(町村信孝君) 一斉に対面式で授業をやることの是非はただいま総理か
らお答えがあったとおりでございまして、現在でもチームティーチングであり
ますとか、個に応じた学習でありますとか、課題学習、グループ学習、いろん
な姿が行われております。私も幾つかの学校を見てまいりましたが、そこはそ
れぞれの教室で、学校でかなり工夫が行われているなということは感じており
ました。それはさらに今後進めていかなければいけないだろうと。
今、定数を法律で確かに決めまして、それぞれの地域にそれを割り振ってい
くという姿になっております。いろんなやり方が考えられるのかもしれません
が、じゃそこのところを、あなたの県、あなたの市はうんと人数多くてもいい
ですよ、あなたの県はうんと少なくてもいいですよということになりますと、
また余りそこはばらつきがあってもどうかなという感じもいたしますので、一
つの目安、標準ということで一クラス四十人ということで今いろいろ進めてお
るわけでありますが、実態は、委員御承知のとおり、小学校では二十七・七人、
中学校では三十二・九人、もちろん御指摘があったように過密の地域、過疎の
地域、相当ばらつきはございます。
他方、教員一人当たりの児童生徒数ということになりますと、小学校は十九・
八人、中学校十七・一人ということで、これは欧米諸国とそう遜色のない水準
に来ているのかなというような実態もあるようでございます。
いずれにいたしましても、平成十二年までに現在の定数改善を進めるという
中にありまして、委員今御指摘のありましたようなことも今後いろいろ検討し
ながら、その次の姿をどうしていったらいいかということをよく考えていきた
いと思っております。
○日下部禧代子君 平均値でお話をするのではなくて、生きている、生活している地
域、そして生徒がいるという、その生徒の視点で生きている地域でということ
を法改正の一番の基準にしていただきたいということを要望しておきたいと思
います。
次に、学校の活性化ということでもう一つの重要な条件というのは私は地域
社会だというふうに思うわけでございます。生徒の個性を生かしたり、そして
開かれた学校づくりの推進にはどうしても学校、家庭、地域社会の連携が重要
であろうかというふうに思います。
三月二十七日に中央教育審議会から今後の地方教育行政のあり方についての
中間報告が出されております。学校の自主性あるいは自律性の確立のために、
校長の学校運営に関し地域住民や保護者からの助言と意見を求めることができ
るような仕組みを検討すべきだという御提言がございます。
これはイギリスの例でございますけれども、イギリスでは初等中等学校とい
うのは教会などを中心にした民間団体からスタートしておりますから、したがっ
て学校理事会というものがございまして、それは保護者、地方教育当局、それ
に校長、教員、その他有識者からメンバーが構成されておりまして、権限は人
件費を含む予算の運用権から教員の実質的な任用権まで持っているわけでござ
います。
そこまで日本は地方分権というわけにはいかないかもわかりませんけれども、
こういう中教審からの報告書も出ているところでございますので、総理となさ
いましては、学校の運営に対して家庭や地域社会はどこまでかかわるべきとい
うふうにお考えなのか、その辺のところをお伺いしたいと存じます。
○国務大臣(町村信孝君) 午前中の参考人の方の御意見にもございましたけれども、
今までの学校というのは、ややもするとどうしても学校内で自己完結的に全部
処理をする、情報も外に出さないというような体質があったと思います。
それでうまくいっていた時代はまだいいのかもしれませんが、さまざまな問
題があるのは御指摘のとおりでございまして、今まで以上にというか、ひとつ
発想を変えまして学外との連携、もちろんそこにはPTAあるいは親、家庭と
いうものが含まれるでありましょうし、一週間ずっと公開授業をやるといった
ような試みでありますとか、あるいは積極的に保護者との懇談会をやるとか、
あるいはPTAと学校が連携してイベントをやってそこに地域の人も入っても
らうといったようないろいろな取り組みが今行われております。
また、地域の非常にすぐれた文化とかスポーツとか、そういう方々に特別非
常勤講師あるいはボランティアという形で学校に入っていただく、あるいは地
域の企業に今度は子供たちが訪問して一体どういうものをつくったり売ったり
しているのか見に行くなど、さまざまな取り組みをこれから大いにやっていき
たい。そうした実情をかなり踏まえていただいて中央教育審議会の中間報告も
出された、こう思っております。
なかなかイギリス・スタイルというところまでいくかどうかちょっと難しい
面もあるのかなと思いますが、とにかく開かれた学校、地域と常に対話のある
学校ということを目指して今後一層の努力をしていく必要があると考えており
ます。
○日下部禧代子君 時間が来てしまいました。
最後に、総理にお伺いいたします。
御承知のように、人生八十年時代を迎えております。私たちはあらゆる分野
で先ほど申し上げましたように発想とシステムの転換が求められているわけで
ございます。教育も例外ではないというふうに思います。高校は十五歳、大学
は十八歳と、進学のチャンスは一度しかないというのではなくて、適齢期は一
度ではないという社会のシステム、それはいわば進学だけではございません。
就職も、もちろん結婚も、あらゆるものが入るというふうに思います。それは
敗者復活あるいはやり直しのきくシステムと言ってもよろしいかと思います。
そのようなシステムづくりが今必要ではないかというふうに思うわけでござい
ます。
また、今日の教育の危機的な状況を打破するには、やはり国民的な議論が不
可欠だと思います。けさほど与党三党の中で教育問題を議論する場を特別につ
くろうではないかというお話も出たというふうに承っております。内閣の方で
も、文部省も頑張っておりますし、中教審の委員の先生方も一生懸命に努力を
してくださっております。そういった取り組みを支えるためにも、総理直属の
全省庁の協力が得られるような仕組みもお考えいただけないでございましょう
か。
二つの点でお答えをいただきまして、質問を終わりたいと存じます。
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国務大臣(橋本龍太郎君) 便宜という言い方はよくありませんが、便宜ちょっと順
番を逆さにしてお答えをさせていただきたいと思います。
と申しますのは、先刻も答弁の中に引用をいたしました次代を担う青少年に
ついて考える有識者会議、これは教育ばかりではない各分野の青少年にかかわ
る審議会全部の会長さん方にお集まりをいただいて、これに有識者の方々、マ
スメディアの代表も、お母さんの代表も、さまざまな方々に入っていただき、
さらに関係閣僚が入って組織をいたしております。そうした形の中で、この教
育全体に対しての論議をし、あるいはその問題ごとの議論をいたしまして、そ
れを関係審議会から各省にフィードバックする、このようなことを考えて、既
に現実に動き始めました。ですから、ぜひそうした視点からの御協力も賜れれ
ば幸いだと思います。
同時に今、議員はチャレンジのチャンスは一回ではないと言われました。今
までどちらかといいますと、むしろ飛び級の方が私の関心にありまして、高一
なり高二なりから、あるいは中三になる前にその上級の学校に受験できる、そ
ちらの方を中心に考えていろんな場合に議論してきました。そして、大学への
高二からの受験というものはようやく現実のものになりましたが、これはまだ
一部の学科です。
同時に、ここから先必要なこと、これは今の大学もそうですし高校もそうで
すけれども、選抜のシステムをもっと変えていかなきゃならないだろう。それ
は論文もいいのかもしれませんし、面接主体での選抜もいいのかもしれません。
そして、場合によっては職業の経験、これを評価するのは大変難しいと思うん
ですけれども、そうしたものも含めて、どうやったら評価尺度をふやしていけ
るか、あるいは方法をふやしていけるか、そうしたことを考えながら大学にお
ける社会人の受け入れ、大学だけではなく高等学校においても編入の受け入れ
というものがもう少し積極的にできる工夫を考えていかなければならないと思
います。
そして同時に、先ほど議員から理数系の問題が出ましたけれども、特に理数
系において、大学、大学院の修士課程から博士課程にまで目を向けながら、ど
うすれば優秀な研究心のある子供たちを伸ばしていけるかを考えなければなら
ないと思います。
○照屋寛徳君 終わります。
○委員長(岩崎純三君) 以上で照屋寛徳君の質疑は終了いたしました。(拍手)
─────────────
《省略》
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