教育関係
[未来をひらく歴史]
(日中韓3国共通歴史教材委員会 編著)

【未来をひらく歴史】

       日本・中国・韓国=共同編集
   書籍名:未来をひらく歴史
       東アジア3国の近現代史

   発 行:2005年5月26日 第1刷発行
       2005年6月10日 第2刷発行
   編著者:日中韓3国共通歴史教材委員会
   発行所:株式会社高文研
       〒101-0064 東京都千代田区猿楽町2−1−8
       Tel 03-3295-3415 Fax O3-3295-3417
       http://www.koubunken.co.jp
   装丁・本文レイアウト:松田礼一(商業デザインセンター)
   印刷・製本:三省堂印刷株式会社
   組版:版木舎
   ISBN 4-87498-341-3 COO21


【表紙裏扉裏より】 この本の成り立ち ◎2001年春、「新しい歴史教科書をつくる会」の教科書が出現し、  日本だけでなく中国、韓国でも強い反対運動が起こりました。  その中から、たんに批判するだけでなく、共有すべき歴史認識の構築が必要だ  という声が生まれ、日中韓3国の研究者、教師、市民によって2002年3月、  第1回「歴史認識と東アジアの平和フォーラム」が中国・南京で開かれました  (第2固は03年2月に東京、第3回は04年8月にソウルで)。 ◎このフォーラムの中で3国共通の歴史教材を共同で作ることが話し合われ、  各国にそのための委員会が組織されました。  その第1回国際会議を02年8月にソウルで開催、以後05年1月の東京での第10回  会議まで、日本で4回、中国、韓国で各3固の国際会議を重ねて、  ついに実現にこぎつけたのです。
【目 次】 序章 開港以前の3国  1節 3国の相互の関係 ……………………………………………………………  2     コラム:昔の人たちは「世界」をどう見ていたか ………………………  4         3国の間の漂流民 …………………………………………………  5  2節 3国の国内状況     1.日本 ―― 武士と民衆 …………………………………………………  6     2.朝鮮 ―― 両班と民衆 …………………………………………………  8     3.中国 ―― 帯紳と民衆 …………………………………………………  10     コラム:3国の首都 ―― 北京・江戸・漢城(ソウル) ………………  12         儒教思想と3国 ……………………………………………………  14 第1章 開港と近代化     概説 ……………………………………………………………………………  15  1節 欧米列強の圧力と3国の対応     1.中国 ―― アヘン戦争と洋務運動 ……………………………………  16     2.日本 ―― 開国と明治維新 ……………………………………………  18     3.朝鮮 ―― 門戸開放をめぐる葛藤 ……………………………………  20     コラム:3国の開港場 ―― 上海・横浜・仁川 …………………………  22         近代日本の天皇制 …………………………………………………  23  2節 東アジアを巻き込んだ戦争     1.3国の争い ………………………………………………………………  24     2.日蒲戦争 …………………………………………………………………  26     3.日費戦争 …………………………………………………………………  28     コラム:福沢諭吉・金玉均・李鴻章 ………………………………………  30  3節 3国の改革運動     1.日本 ―― 自由民権運動 ………………………………………………  32     2.中国 ―― 清朝の改革と義和団運動 …………………………………  34     3.朝鮮 ―― 点民戦争と独立協会運動 …………………………………  36     コラム:中江兆民・康有為・東学農民戦争のリーダーたち ……………  38  4節 3国の民衆生活と文化     1.朝鮮社会の変化と民衆 …………………………………………………  40     2.中国社会の変化と民衆 …………………………………………………  44     3.日本社会の変化と民衆 …………………………………………………  48     コラム:近現代史のなかの漢字 ……………………………………………  52     まとめ …………………………………………………………………………  54 第2章 日本帝国主義の膨張と中韓両国の抵抗     概説 ……………………………………………………………………………  55  1節 第一次世界大戦前後の3国     1.日本の韓国併合と朝鮮人の抵抗 ………………………………………  56     2.日本の台湾に対する植民地支配 ………………………………………  58     3.辛亥革命と中華民国の成立 ……………………………………………  60     4.第一次世界大戦と日本帝国主義 ………………………………………  62     コラム:安重根と伊藤博文 …………………………………………………  64         日本は韓国を「強占」したのか、「併合」したのか …………  65  2節 日本の朝鮮支配の強化     1.憲兵警察統治 ……………………………………………………………  66     2.「文化政治」の実像 ……………………………………………………  68     3.経済政策と収奪 …………………………………………………………  70     4.教育文化政策 ……………………………………………………………  72     コラム:鉄道を掌握せよ ……………………………………………………  74         東洋拓殖会社 ………………………………………………………  75  3節 独立・抵抗の運動と社会運動     1.三・一運動 ………………………………………………………………  76     2.五・四運動 ………………………………………………………………  78     3.3国の社会運動 …………………………………………………………  80     4.関東大震災と朝鮮人・中国人の虐殺 …………………………………  82     コラム:申釆浩・布施辰治・李大サ・陳鉄軍・鄭錘鳴・金子文子 ……  84  4節  変わりゆく社会と文化     1.朝♯の社会と文化の変化 ………………………………………………  88     2.中国の社会と文化の変化 ………………………………………………  92     3.日本の社会と文化の変化 ………………………………………………  96     コラム:羅恵錫・平塚らいてう・何香凝 …………………………………  100     まとめ …………………………………………………………………………  102 第3章 侵略戦争と民衆の被害     概況 ……………………………………………………………………………  103  1節 日本の中国東北地方への侵略     1.満州事変 …………………………………………………………………  104     2.「満州国」の出現 ………………………………………………………  106     3.「満州国」の社会と経済 ………………………………………………  108     4.中国・朝鮮、両国民衆の連合抗戦 ……………………………………  110     コラム:張寒嘩と抗日歌曲 ―― 「松花江のほとり」 …………………  112         上海「義挙」と尹奉吉 ……………………………………………  113  2節 日本の侵略戦争     1.日中全面戦争 ……………………………………………………………  114     2.アジア太平洋戦争 ………………………………………………………  116     3.「大東亜共栄圏」のまぽろし …………………………………………  118     4.総力戦体制 ………………………………………………………………  120     コラム:昭和天皇の戦争指導 ………………………………………………  122         伝単(ビラ)のなかの戦争 ………………………………………  123  3節 日本軍による中国民衆への残虐行為     1.戦場における民衆と難民 ………………………………………………  124     2.南京大虐殺 ………………………………………………………………  126     3.無差別爆撃・三光作戦と「無人区」の設定 …………………………  128     4.細菌戦・キガス戦と人体実験 …………………………………………  130     5.日本軍の性暴力 …………………………………………………………  132     コラム:鳳儀萍 ―― 強制労働者の証言 …………………………………  134         元日本兵の証言 ……………………………………………………  136  4節 朝鮮の戦争基地化と民衆の被害     1.皇民化政策 ………………………………………………………………  136     2.戦時体制下の軍需工業 …………………………………………………  138     3.戦争物資動員 ……………………………………………………………  140     4.人力動員 …………………………………………………………………  142     5.日本軍「慰安婦」として連行された朝鮮人女性たち ………………  144     コラム:「親日派」と「漢好」 ……………………………………………  146         婁徳景ハルモニ ―― 絵画で「慰安婦」の被害を告発 ………  147  5節 日本民衆の加害と被害     1.戦時耗動員と民衆の戦争協力 …………………………………………  148     2.民衆の生活と抵抗 ………………………………………………………  150     3.東京大空襲と都市空襲 …………………………………………………  152     4.沖縄戦 ……………………………………………………………………  154     5.広島・長崎への原煉投下 ………………………………………………  156     コラム:特攻隊と青年学徒 …………………………………………………  158         日本の総力戦と女性 ………………………………………………  159  6節 日本の侵略戦争の失敗     1.中国の抗日戦争 …………………………………………………………  160     2.朝鮮人の抵抗と建国準備 ………………………………………………  162     3.東南アジア占領地民衆の抵抗 …………………………………………  164     4.反ファシズム戦争の勝利と日本の降伏 ………………………………  166     コラム:大韓民国臨時政府 …………………………………………………  168         日本兵反戦同盟 ……………………………………………………  169     まとめ …………………………………………………………………………  170 第4章 第二次大戦後の東アジア     概況 ……………………………………………………………………………  171  1節 3国の新しい出発     1.日本の敗戦と戦後改革 …………………………………………………  172     2.朝鮮の解放と分断 ………………………………………………………  174     3.中華人民共和国の成立 …………………………………………………  176     コラム:マッカーサーの2つの顔 …………………………………………  178         遠かった故国 ………………………………………………………  179  2節 問われる日本の「過去の清算」     1.東京裁判 …………………………………………………………………  180     2.サンフランシスコ講和条約と賠償・補償問題 ………………………  182     3.植民地支配と戦争が残した社会問題 …………………………………  184     コラム:その他の戦犯裁判 …………………………………………………  186         戦後補償の国際比較 ………………………………………………  187  3節 東アジアの分断と国交正常化     1.東アジアの冷戦と朝鮮戦争 ……………………………………………  188     2.日韓国交樹立 ……………………………………………………………  190     3.日中国交正常化 …………………………………………………………  192     4.中韓国交樹立 ……………………………………………………………  194     コラム:在日朝鮮人の権利獲得のたたかい ………………………………  196         中国帰還者連絡会の人々 …………………………………………  197     まとめ …………………………………………………………………………  198 終 章 21世紀の東アジアの平和のための課題     概況 ……………………………………………………………………………  199     1.残された個人補償問題 …………………………………………………  200     2.日本軍「慰安婦」問題と女性人権運動 ………………………………  202     3.歴史教科書問題 …………………………………………………………  204     4.靖国神社問題 ……………………………………………………………  206     コラム:教科書裁判をたたかった家永三郎 ………………………………  208         民衆法廷としての女性国際戦犯法廷 ……………………………  209         博物館展示と戦争 …………………………………………………  210     5.東アジア3国青少年の交流 ……………………………………………  212     6.反戦平和運動と市民運動 ………………………………………………  214     7.東アジアの和解と平和のために ………………………………………  216     ◎日・中・韓と世界の近現代史=略年表 …………………………………  218     あとがき ………………………………………………………………………  221     各項目執筆分担 ………………………………………………………………  222     各国の委員・協力執筆者 ……………………………………………………  223
【読者の皆さんへ】 宇宙から眺めた地球は青みを帯びた美しい姿です。 生命体が生きている太陽系で唯一の星です。 この美しい星で、人々は自然を改造し、文明を作り出してきました。 人間が文明を発展させることができた最大の力は文字によっています。 人間の記憶力には限界がありますが、 文字があるために前の時代の知識を次の時代が受け止めて、 その上にさらに新しい知識を積み重ねることができるのです。しかし、人々は、 前の世代の経験をつねに大切に記憶しているわけではありません。 ときには過去の記憶を隠して、記録から無くしてしまうこともあります。 だれでも、楽しくない記憶は早く無くしてしまおうとする傾向があります。 そうすれば、気楽に楽しく生きてゆくことができるからです。 しかし、気を付けてください。悪い記憶を無くすことは、 無条件によいことばかりなのでしょうか。 誰かが、通学路で石の角につまずいて倒れたとしましょう。 「今日は本当に運がないな」と思って、そのことをすっかり忘れてしまえば、 下校の時にまたその石の角につまずいて倒れることがあるかもしれません。 過去の過ちを覚えておくと、 同じ過ちをまた犯すという愚かさを避けることができるのです。 私たちが歴史を学ぶのも、過去を教訓として未来を開拓するためなのです。 『未来をひらく歴史』は、日本・中国・韓国の3つの国を中心とした 東アジアの歴史を扱っています。 過ぎ去った19〜20世紀の東アジアの歴史には、侵略と戦争、 人権抑圧などの洗い流しがたい傷が染み付いています。 もちろん、東アジアの過去は暗いものだけではありません。 東アジアは交流と親善の長い伝統をもっており、国家の垣根を越えて 明るい未来のためにともに努力している人々もたくさんいます。 過ぎ去った時代の肯定的な面は受け継ぎながらも、 誤った点は徹底的に反省することによって、私たちはこの美しい地球で、 より平和で明るい未来を開拓することができるはずです。 平和と民主主義、人権が保障される東アジアの未来を開拓するために、 私たちが歴史を通じて得ることができる教訓は何でしょうか。 この本を読みながらみんなで一緒に考えてみましょう。 この本の執筆には、日・中・韓3国の学者・教師・市民がともに参加しました。 3年の準備期間の間、お互いの意見が異なる場合が数多くありましたが、 対話と討論を通じて歴史意識を共有することができるようになり、 いまこの本を3国で同時に出版することになりました。 3国は地理的にも、歴史的にも、お互いに離れることのできない 深い連関性をもっています。日ごとに近くなる“地球村”時代に、 この本を通じて隣国の歴史と相互の関係をすこしでも 深く理解してくれることを願う気持ちで、この本を準備しました。 これまでの世代が解決することのできなかった宿題を、 3国の若いみなさんがお互いに協力しあいながら解決し、 新しい東アジアの歴史を作り出していってくれることを願っています。 3国の近現代史をもれなく扱った本なので、時にはむずかしかったり、 理解できない部分があるかもしれません。それでもがっかりしないでください。 お互いを理解しようとする心を持つことだけで、 東アジアの、そして世界の未来はもう明るくなっているのです。                2005年5月   日中韓3国共通歴史教材委員会
【日本の若い読者のみなさんへ】 ■日本の執筆者から ――― 日本・日中韓3国共通歴史教材委員会  日本と中国・韓国は、隣国として古代以来の長い友好と交流の歴史をもっていま す。しかし、近代の日本は、中国・韓国に対し武力による侵略と植民地支配によっ て大きな被害と苦しみを与えました。  現在、文化の交流や深まる一方の経済関係を通じて、3国の人々が親しくなる機 運はかつてなく高まっています。しかし一方では、日本の教科書問題や靖国神社問 題など、それに逆行する動きも絶えません。友好と親善の流れをさらに確実なもの にし、東アジアに平和な共同体をつくっていくためには、何が必要でしょうか。 「歴史は未来をひらく窓」だといいますが、東アジアの人々と平和に共生する「窓」 をひらくには、何が必要でしょうか。  いま何よりも大切なのは、中国・韓国の歴史を知り、お互いがどのように関わり あってきたかを知ることです。近現代の歴史において、日本が中国や韓国に対して どのようなことを行なってきたのか、その日本の行為によって今日なお癒(いや) しがたい悲しみや苦痛を受けた人々がいること、その事実をしっかりと認識し、歴 史認畿を共有することが求められています。  自分の国が行なってきた植民地支配や侵略の事実を直視することは、たしかに気 が重くつらいことです。しかし、同じあやまちを繰り返さないためには、歴史の事 実から目をそらさないこと、過去に何があったかをきちんと知り、過去のあやまち をしっかりと克服していくことが、どうしても必要です。そのことが、中国や韓国、 アジアの人々とこれまで以上の友好関係をきずいていくことにつながると思います。  この本を、自国中心の歴史を克服し、東アジアの視野から歴史を学ぶためのステ ップにしていただけることを願っています。「国際社会において、名誉ある地位を 占めたい」(日本国憲法前文)という思いを実現するため、歴史に学び、中国・韓 国の人々との交流をもっともっと広げていきましょう。  なお本書では、韓国・朝鮮の人名・地名については韓国語読みのふりがなを付け、 中国の地名等は、ペキン、シャンハイなど日本語に定着しているものを除いて、日 本語読みのふりがなを付けました。同じ漢字を使う国として、中国でも日本の人名 等は中国語読みで発音されているからです。  また、朝鮮半島全域を表す呼称としては、朝鮮王朝以来の呼び名である「朝鮮」 を用いました。 ■中国の執筆者から ――― 中国・中日韓3国共同歴史読本編纂委員会  中国と日本とは、はるか昔から歴史的に深くかかわりあってきた国です。  しかし、不幸なことに両国がともに歩んだ近代の歴史のなかに、文明が破壊され た多くの痕跡(こんせき)があります。それは戦争の爪痕(つめあと)です。  60年前の戦争では、みなさんの家族でも身内の方が亡くなっているかも知れま せんね。しかし、その戦争はどのようにして始まったのでしょうか。その戦争は中 国に大変な災難をもたらしましたが、誰が戦争の責任を負うべきなのでしょうか。 戦争は私たちにどのような教訓をもたらしたのでしょうか。これらの答えをみなさ んは、両親、おじいさん、おばあさんの話から、あるいはみなさんが学んだ教科書 から得られたでしょうか?  戦争のない平和なアジアと世界を実現することは、善良な人すべてが望むことで す。私たちが共通の願いを実現できるかどうかは、私たちが歴史から「学ぶ」こと ができるかどうかにかかっています。私たち中国の学者が日本の学者とこの本を編 集することを決定したのは、そのための歴史知識を得られるようにするためでした。  私たちは、若いみなさんがこの本から中・日・韓の共通の歴史を十分に理解し、 有益な知識を身につけ、それを生かして3国共通の未来に向かって考えてくれるこ とを心から望んでいます。 ■韓国の執筆者から ――― 韓国・韓中日共同歴史教材開発委員会  “近くて遠い国”という言葉をご存知でしょう。韓国で、日本を指すときによく 使う言葉です。ここで“近い”とは、すぐ隣に位置している国という意味で、“遠 い”というのは心の障壁を意味しています。おそらくは、かつて日本が韓国を侵略 して植民地にしたという記憶のためでしょう。  最近、韓国と日本は、以前に比べればずっと活発に社会的・文化的な交流をして います。そのことで、ずっと近くなったということができるでしょう。しかし、心 を開いて付き合うには足りない部分がいまだにあります。その足りなさを満たすた めに、若いみなさんが先頭に立ってみませんか。そのためには、韓国と日本、そし て東アジアの3国の間に生じたかつての歴史を正しく理解して、望ましい未来を描 いてゆかなければならないでしょう。  この本は、皆さんにそうした歴史を教えてくれるはずです。この本を通じて、日 本の若いみなさんが韓国と日本の間を本当の意味で近いものとし、ひいては東アジ アの和解と平和をつくりあげてゆく未来の主人公になってくれたら、という思いで います。
【あとがき】  東アジアに平和の共同体をつくるためには、その前提として歴史認識の共有が 不可欠です。それはもちろん若い人たちだけの課題ではありません。歴史認識を 共有することへの展望は、東アジアに生きる市民が、侵略戦争と植民地支配の歴 史を事実にもとづいて学び、過去を克服するための対話と討論を重ねることを通 じて、確実に切り開かれます。  2002年3月以来、このような思いを抱く日本・中国・韓国3国の研究者・ 教員・市民は、歴史認識についての連続的な対話、「歴史認識と東アジアの平和 フォーラム」を開催してきました。そのきっかけは、日本の「新しい歴史教科書 をつくる会」(「つくる会」)の歴史教科書の出現にありました。フォーラムの 第1回は中国・南京で、第2回は2003年2月、日本・東京で、第3回は20 04年8月、韓国・ソウルで開催されました。  この本は、こうした取り組みの中から生まれました。第1回フォーラムの中で、 東アジアの子どもたちが歴史認識を共有するために、3国共同で共通の歴史副教 材を作成する計画が話し合われ、これにつづいて各国では、歴史副教材を開発・ 作成するための委員会が組織されました。  副教材開発・編集のための第1回国際会譲は、2002年8月にソウルで開催 され、その後、日本で4回、中国で4回、韓国で3回の会議が開かれました。そ の間、各国は担当した原稿を書き上げ、これを国際会議で検討し、意見や注文を 出し合って、それにもとづいて原稿を修正し、さらに持ち寄って検討するという 作業を何度も重ねてきました。  私たちは、「つくる会」の歴史教科書を、日本の過去の侵略戦争や植民地支配 を正当化し、歴史の事実を歪曲(わいきょく)する教科書、自国中心の排外主義 からアジアを蔑視(べっし)し、偏狭(へんきょう)なナショナリズムをあおる 教科書だと批判してきました。しかし、ただたんに批判するだけでは、歴史認識 を共有するための道筋は見えてきません。実際にどのような歴史を伝えていった らよいのかという問いへの一つの回答が、この本です。  日韓、日中など、2カ国の間での歴史対話や歴史教材づくりの試みは、これま でも行なわれてきています。しかし、3国共通の歴史副教材づくりは歴史的にも はじめてのことです。2国間でも大変な作業なのに、それを3国で行なうことに は、予想をこえる困難がありました。それぞれの歴史研究や歴史教育・教科書の 違いによって、個々の歴史的事件の見方・とらえ方などが、かなり異なっている ことが明らかになり、認識の違いを克服することが重要な課題となりました。し かし、私たちは、対等・平等の原則を前提に、お互いの立場を尊重しながら、ね ばり強い議論を通じて意見を調整し、同じ内容の本を3国の言葉で同時に発刊す ることにこぎつけました。もちろん、初めての試みですから、まだまだ改善する 余地があります。読者の皆さんの率直なご意見をお待ちしています。  国境を超えた共同の取り組みを通じて、私たちは多くのことを学びました。多 くの新しい友人と出会い、友情と信頼を深めることができました。対話と討論、 そして、未来へ向けての連帯こそが、自らを豊かにし、新しい歴史の可能性を開 いてくれる。それは、この歴史教材作りを通じて得た私たちの確信です。  この取り組みは、国際会議の際に通訳を務(つと)めていただいた各国の方々、 原稿の翻訳にあたっていただいた方々の、献身的な協力なしには実現不可能でし た。とくに、他文化を積極的に学ぽうとしている留学生や、在日の方々をはじめ、 3国の架(か)け橋となってくださった若いみなさんに、あらためてお礼申し上 げます。  最後になりましたが、出版を引き受けてくださった、日本・高文研、韓国・ハ ンギョレ新聞出版部、中国・中国社会科学院社会科学文献出版社には、絶大なご 協力をいただきました。3国の出版史上、はじめての試みを実現してくださった ことに対し、心からの感謝を表明します。               2005年5月   日中韓3国共通歴史教材委員会
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