第16号 Book Review
カルトか宗教か 竹下節子著 文春新書 ¥660+税
昨年(1999年)は、春の文芸春秋、夏の別冊宝島等、やっとマスコミがカルトの問題
を取り上げ始めた感がある。これまでなかなかカルトの問題を論じるよい著書は少な
く、この問題にどのように立ち向かってゆけばよいのか途方に暮れてしまうことも多
かった。もちろん中澤氏、ウィリアム・ウッド氏らの努力のおかげで、ものみの塔問
題に関しては正確な情報源は存在していたわけだ。しかしそこにいたる前の段階で、
いきなり近親者がカルトにとらわれるという現実に直面したとき、あるいはそれ以前
の予防措置としての基本的知識を得るすべが、あまりにもなかった。もともと日本人
は、宗教そのものに対する認識があまりあるとは言えない。ものみの塔に関して言え
ば、伝統的キリスト教と、ものみの塔の違いがどこにあるのかと言うことが最初はわ
からないのが現実である。そこで、近親者がカルトにとらわれた時、「あなたが反対
するのは、私の信仰の自由を侵すものだ」と反論されたりして、宗教とカルトはどう
違うのか考え込んでしまったりする。
その点、この著書は文春新書という一般書店で手に入りやすい形式で出された事、そ
して宗教とカルトの定義を丁寧に分析している事において、とても意味深いものがあ
る。
著者は、パリ大学で、カトリック史などを学び、カルトに対して意識の高いフランス
の事例を頭に置きながら、アプローチしている。
「日本といえば、本来アメリカと違ってどちらかと言えばヨーロッパ型の古い伝統社
会の根があるはずなのに、明治維新で廃仏毀釈、第二次大戦後に、宗教離れ、と何度
も霊性の拠り所がゆらいでしまった。しかも戦後どっとアメリカ寄りになって『民主
主義』だけを聖なる教えのように標榜し宗教の倫理観などは無視されたから、アメリ
カのサブカルチャーとしての終末論やそれを利用したカルトなどを無批判的に受け入
れることとなった。この辺りで、ヨーロッパの歴史の教訓を生かしたカルト対策のノ
ウハウを眺めながら、社会現象にもなるカルトとは一体何なのか、宗教とはどんな役
割を担うべきなのかなどをじっくり考えてみるのも良いだろう。この本は、日本の個
々のカルト・グループを弾劾するものでもないし、分析調査したデータを公開するも
のでもない。カルト・ムーブメントの全体を概括しながら、個々のケースを具体的に
どう考えてゆけばよいかの指針をフランスの例を紹介しながら提供しようとするもの
だ。
<中略>
自分が興味を持った運動やグループがカルトかどうかを判断したい
人、家族や友人がカルトに入って困っている人、カルトから抜け出してまだその後の
指標が見つからない人、伝統宗教の関係者、教育者、そして宗教カルトに不安な気分
を抱いている『普通』の人、そんな人達にぜひこの本を読んでもらいたい。カルトと
はあまりにも人間的な営みでもあるのだ。カルトを知りカルトを考えることは、人間
を知り人間を考えることにもなるだろう。」*以上「はじめに」から引用。
このようなスタンスで、以下の目次のように癒し系カルト、健康カルト、超能力カル
ト等あらゆるカルトの分析を行っている。そして最終章の終末論とカルトでは、エホ
バの証人に大きくページを割いている。
カルトか宗教か 目次
第一章 カルトとは何か?
カルトは宗教とは限らない/カルトを定義すると/サブカルチャーとして浸透するカル
ト/カルトの今昔/多様なカルト分類法/カルトの育つ土壌/人はカルトにどうやって入
るか?
第二章 カモフラージュするカルトーその周辺概念
カルトの表看板/オカルトとの親和性/神秘主義には要警戒/利用されるエゾテリズム/
危機の時代に浮上するグノーシス
第三章 キリスト教国のカルト事情
フランスの場合/アルザス・ロレーヌの特殊性/伝統宗教がご意見番/キリスト教国の
スタンス/日本のキリスト教の試み/カトリック内部に潜むカルト・グループ/マイン
ド・コントロールの異なる見方/洗脳は法で裁けるか?
第四章 カルトの見分け方
フランスのカルト対策マニュアル/チェック・ポイント/混同を避けるための比較/ま
ず問題の所在を確認する/親子の断絶/夫婦間系の破綻/「はまった」動機を探る/同じ
土俵で話し合う/人がカルトから離れるとき/カルトに対する政府の取り組み/カルト
グループの財政問題
第五章 現代カルトの見分け方
「癒し」系カルトの見分け方/能力開発系カルトの見分け方/「超能力の開発」をどう
考えるか?
第六章 健康カルトについて
健康ブームと宗教/WHOによる「健康」の定義/健康カルトの罠/健康をカルトにす
るな/「死」を奪う健康カルト/輪廻転生の功罪/シンプルライフ・カルト
第七章 終末論とカルト
ミレニアリズムと西暦2000年/都合の良い終末予言/ノストラダムス狂騒曲/カル
ト終末論にどう対処するか?/終末論と進化論