「小泉首相の靖国参拝は違憲」大阪高裁判決が確定

小泉首相は憲法違反の靖国参拝を中止せよ


この記事はピース・ニュースでの議論によりまとめたものです



 01年から03年にかけての3度にわたる小泉首相の靖国神社参拝で精神的苦痛を受けたとして、台湾人116人を含む計188人が、国と小泉首相、靖国神社に1人あたり1万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が9月30日、大阪高裁であり、「小泉首相の靖国参拝は違憲である」との判断が下された。

 国の代表者とも言うべき首相が司法の確定した判決を無視することは許されない。憲法違反という司法の判断を無視することは、憲法違反の上に更に憲法違反を積み重ねることであり極めて事態は重大である。小泉首相は大阪高裁の判決を尊重し靖国参拝中止を言明すべきだ。
 (参考)靖国神社についてはこちらをご覧下さい。


 大阪高裁、大谷正治裁判長の判決の注目すべきポイント

 
◆職務行為性 = 小泉首相の靖国参拝を首相の職務としての「公的行為」と認定
 各参拝前後の小泉首相の発言内容が、私的なものだと明言せず、公的な立場での参拝であることを否定していないこと、発言及び談話、所感に表れた参拝の主たる動機ないし目的は政治的なものであること、などを総合すると、小泉首相の靖国神社参拝は内閣総理大臣としての職務でなされたものと認めるのが相当である。

 ◆違憲性 = 首相の靖国参拝は国の宗教的活動を禁止した憲法に違反
 小泉首相は3度にわたって参拝した上、一年に一度参拝を行う意志を表明するなどし、これを国内外の強い批判にもかかわらず実行し、参拝実施の意図は強固だった。これにより国は靖国神社との間で特別のかかわり合いを持ったというべきで、特定の宗教を助長し、相当とされる限度を超えており、参拝は憲法20条3項が禁止する宗教的活動にあたると認められる。

 東京高裁は「個人的行為」として憲法判断を示さず - 権力に媚を売る姑息な判決

 前日の9月29日に東京高裁では、小泉首相の靖国神社参拝は政教分離を定めた憲法に違反するとして慰謝料支払いを求めた訴訟で、請求を棄却した1審判決を支持、原告側の控訴を棄却する判決を言い渡した。1審は首相の参拝を「職務行為」と判断したが、浜野惺(しずか)裁判長は「個人的な行為」と認定し、「職務行為」であるとの判断も否定し、憲法判断を示さなかった。

 私たちは、大阪高裁判決と東京高裁判決を比べたとき、東京高裁判決が司法としての独立性と権威をかなぐり捨て自己保身と出世のために権力にひたすら媚を売り憲法判断をさけた姑息な判決であると断定せざるをえない。

 − 靖国参拝を、8月15日を断念して13日にしたことがどうして私的行為だとすることの根拠になりうるのか。
   (参考)小泉首相の2001年8月13日の靖国参拝についてはこちらをご覧下さい。

 − 首相公約として靖国参拝を公言し公的参拝の立場を否定せず、内外の強い批判にもかかわらず靖国参拝を執拗に繰り返し行い、福岡地裁で違憲判決が出されてから初めてやむを得ず「個人として行った」と言明したにもかかわらず、この言葉だけを取り出すことで、どうして私的に行ったことの根拠になりうるのか。
   (参考)小泉首相の参拝の「公私」に関する発言についてはこちらをご覧下さい。

 − 公用車を使い、首相秘書官を同行させ、「内閣総理大臣小泉純一郎」と記帳して参拝しているにもかかわらず、どうして「一連の行為が職務行為だったと評価でき」ず「私的行為」ということになるのか。

 大阪高裁判決がその司法の責任と裁判官としての良心を掛けて「首相の参拝は、合憲性について十分な議論がないままに行われ、繰り返されてきた。今回、裁判所が違憲性の判断を回避すれば、今後も繰り返される可能性が高く、当裁判所(大阪高裁)は違憲性の判断を責務と考えて判示した。」と述べたことに比べ、東京高裁判決は、憲法判断に踏み込んで合憲判決を組み立てる自信もなく、かといって違憲判決を出す裁判官としての良心も勇気も持ち合わせないなかで、ひたすら憲法判断を避けるために、姑息な論理にならない屁理屈を積み重ねたに過ぎない。

 靖国参拝については、各地で違憲訴訟が行われているが、高裁で違憲判決が出たのは初のことであり、大阪高裁の判決の意義はきわめて大きい。

 首相としての公的行為かどうかについての判断
項目 大阪高裁(大谷裁判長)の判断 東京高裁(浜野裁判長)の判断
公用車の使用。
秘書官の同行。
公用車を使用し首相秘書官を伴っていたことは首相の職務としての公的行為と判断する根拠となる。
神社への往復に限っては首相の職務に関連していると言えるが、参拝に伴う一連の行為が職務行為だったとは評価できない。
「内閣総理大臣 小泉純一郎」との記帳。
首相の職務としての公的行為と判断する根拠となる。 肩書を付したにとどまるので「私的」と判断。
参拝の目的、動機。小泉首相の発言、公約。
公約の実行としてなされた、小泉首相が私的参拝と明言せず、公的立場を否定していなかったので「内閣総理大臣の職務と認めるのが相当」と判断。首相の発言などに表れた参拝の主たる動機ないし目的は、政治的なものであるから「公的」と判断できる。 参拝の3〜4年後に首相が「個人として行った」と述べたことから「私的な宗教上の行為か個人の立場で行った儀礼上の行為」と判断。
首相が国会などで「首相の職務とは関係ない、私的参拝だ」と説明し始めたのは、二〇〇四年四月に福岡地裁で違憲判決が出されてから。それまでは、公私の別を明確にしていなかった。
参拝の日付 特に触れず。 公式参拝と受け取られることを避けるため、01年の(終戦記念日の)8月15日を断念して13日に私的に参拝した。個人的な宗教上の行為か、儀礼上の行為というべきだ。
献花代 特に触れず。 献花代三万円が私費で払われたことは「私的」と判断する根拠。

 国と宗教とのかかわりについての判断
項目 大阪高裁(大谷裁判長)の判断 東京高裁(浜野裁判長)の判断
東京高裁(浜野裁判長)の判断 3度にわたって参拝し、1年に1度の参拝をする意志を表明するなど参拝実施の意図が強固だったと認定。国内外の強い批判にもかかわらず参拝を実行、継続している。国と靖国神社の間にのみ意識的に特別にかかわり合いを持ち、一般人に国が靖国神社を特別に支援している印象を与えた。 職務行為として行われた参拝(公的参拝)ではないと判断し、訴えを却下。国と宗教とのかかわりを禁じた憲法判断に踏み込まず。
参拝の形式 本殿で祭神に礼拝すること自体、畏敬(いけい)の崇拝の気持ちを表し、客観的に見て極めて宗教的意義の深い行為。
参拝の効果 特定の宗教に対する助長、促進になると認められ、我が国の社会的・文化的諸条件に照らし相当とされる限度を超える。首相が初めて参拝した二○○一年八月に例年より多くの参拝者が靖国神社を訪れたことなどを挙げ、宗教を助長する役割を果たしたと判断。
憲法判断に踏み込んだ理由 首相の参拝は、合憲性について十分な議論がないままに行われ、繰り返されてきた。今回、裁判所が違憲性の判断を回避すれば、今後も繰り返される可能性が高く、当裁判所(大阪高裁)は違憲性の判断を責務と考えて判示した。


 大阪高裁判決を無視する小泉首相 − 高裁判決を尊重すべきだ

 大阪高裁の違憲判決に対して小泉首相は「私の靖国参拝が憲法違反だとは思っていない。総理大臣の職務として参拝しているのではない」と反論している。年内に参拝するかどうかについては「適切に判断する」と述べた一方、記者団には同日夜、判決が今後の参拝に与える影響を否定した。首相は年内にも参拝するつもりだ。
 首相は衆院予算委での答弁で、靖国参拝について「戦没者に対する哀悼のまことをささげ、二度とあのような戦争を起こしてはならないという気持ちで参拝している」と説明したが、「二度とあのような戦争を起こしてはならない」と思うなら、まず、憲法を遵守すべきである。高等裁判所の違憲判断を厳粛に受け止めるべきであり、従うべきである。

 大阪高裁の判決は一方で、首相の参拝が原告らに対して靖国神社への信仰を奨励したり、その祭祀(さい・し)に賛同するよう求めたりしたとは認められないと指摘。原告らの権利や利益は侵害されていないと判断し、損害賠償請求は一審に続いて退けている。しかし原告団は、この判決を高く評価している。控訴は見送られた。これにより、小泉首相の靖国参拝は違憲行為であるということが確定したことになる。

 小泉首相、周辺は大阪高裁の判決は「原告らの権利や利益は侵害されていないと判断し、損害賠償請求は一審に続いて退けている。」のだから、国は勝訴したのだと主張し、靖国参拝を強行しようとするであろう。
小泉首相の靖国参拝を違憲とする大阪高裁の判決の持つ意義の大きさを訴えていかなければならない。小泉首相の、また日本の閣僚の靖国参拝中止を要求しなければならない。

 また、靖国参拝が違憲である、ということを報道するのみで、小泉首相の責任を追及しようとしないマスコミに対しても批判の目を向けなければならない。

 中国、韓国をはじめとするアジア諸国は、大阪高裁の判決を歓迎、評価している。日本帝国軍が侵略し、殺戮、支配を行った国々の人々と連帯して、小泉首相、日本の首相による靖国参拝が今後一切行われないことを要求していこう。