4月の学習会全体のテーマは、急速に進む現在の日本の反動化、軍国主義化の背景・衝動力を考えるものであった。学習会では、このテーマの前提となる「自衛隊の二つの戦略転換」についても、米軍事戦略との関連で報告と討論が行われた。本稿ではそこでの議論を確認するとともに、最近の日米両国政府の政治・軍事面での危険な動向について指摘する。
学習会で確認された内容(要旨)は次のとおり。
アメリカでは現在「2つの大規模紛争同時対処」戦略をどうするかの再検討が行われているが、「対日政策」では日本に「集団自衛権の行使」を認めさせることが最も重要な軍事戦略である。
米の軍事戦略に対応して日本では自衛隊の二つの戦略転換が行われている。すなわち、@日米安保から、安保「再定義」へ、更に米主導の「集団自衛権行使」=新NATO型多国間同盟への転換と、A国内治安弾圧体制に自衛隊を組み入れるための再編成及び「部分有事立法」制定である。
したがって反戦平和運動の課題としては、@自衛隊が、米のアジア戦略の転換に合わせて、危険な戦略転換を非公然にコソコソと進めていることを暴露し糾弾する。A自衛隊の新戦略とは、「日本の防衛」や「日本の脅威」に全く無関係な「新しいNATO型、多国間の途上国介入」戦略である。その最大の批判点は「集団自衛権」、憲法の否定と蹂躙。ただ米主導の帝国主義的な支配秩序維持のためだけ、米欧とわが国の多国籍企業の権益維持のためだけの途上国介入である。B国内治安体制強化、「部分有事立法」制定に反対しなければならない。C今こそ軍事費の大幅削減を、等が主要なものとなる。
学習会以降、日本では「集団自衛権」容認を掲げた小泉新政権が誕生し、アメリカではブッシュ大統領がミサイル防衛構想の拡大を発表し、東アジアでの緊張が激化するなど、われわれの懸念が現実に推進されるような展開となってきた。
<ミサイル防衛構想の拡大推進を発表したブッシュ政権>
ブッシュ米大統領は5月1日の国防大学での演説でNMDを超えるミサイル防衛構想を推進することを発表し、NATOやアジア諸国に対しての働きかけを強化し始めた。「理由」としては「偶発的な核兵器の発射、テロ集団や「ならずもの国家」によるミサイル攻撃に備える」ことをあげているが、ABM条約を「時代にそぐわない」として破棄し、膨大な予算を投入し、同盟国まで巻き込んで推進しようとする根拠としては理解できないものである。おそらくミサイル防衛構想の推進で利益を得る企業などは大歓迎していることであろう。
<米スパイ機不時着事件と対中国、対北朝鮮政策の変化>
ブッシュ米大統領はスパイ機が中国領土に不時着した件で、米乗員が解放されるやいなや、中国に対して、謝罪はしていないと主張、一転強硬な態度をとり始めた。また、台湾から要求のあった武器売却も、イージス艦は見送ったものの、キッド級駆逐艦、潜水艦、P3C対戦哨戒機等を決め、これに対して中国は抗議を表明した。さらにブッシュは「台湾の防衛のために必要なことは何でもやる」とまで明言した。
また、対北朝鮮政策でも米朝協議の再開を放棄し、金正日総書記に対して「疑念」を抱いていると表明、韓国の対北朝鮮「包容政策」についても支持を与えていない。クリントン訪朝までもう一歩のところまで進めた前政権の「ミサイル枠組み合意」は、米朝協議の再開放棄で見直しが必至である。米政権内での方針の対立についても取りざたされてはいるものの、現在までの具体的な動きからは東アジアでの緊張激化策動が前面に出ているようにみられ、わが国の情勢とも関連して危険が増大している。
<改憲と「集団自衛権」行使への道を公然と掲げる自民党小泉新政権>
自民党小泉新首相は、改憲を前提とよる「首相公選制」の導入を掲げ、「集団自衛権」については「改憲は困難」であるが「日米同盟は国益だと考えると、政府解釈を変えても国民の理解は得られる」と、解釈変更による「行使」容認をも明言した。さらに「有事法制の検討」も防衛庁長官に指示するなど、これまでのどの新政権よりも露骨に改憲、軍国主義強化の方針を打ち出している。また、同じく自民党の山崎幹事長は憲法の9条2項を削除し、自衛隊を軍隊と位置付け、集団的自衛権の行使を可能にすべきだとの見解を表明した。
また教科書問題についてはアジア諸国の批判を一切無視し続け、李登輝台湾前総統へはビザ発給を行うなど、対中国政策でも米政権と期を一にした、挑発的な態度をとっている。
<「集団自衛権」行使へ向けた自衛隊の共同演習参加>
自衛隊は米、タイ、シンガポールが5月に実施する共同軍事演習「コブラゴールド」に陸海空の幹部を派遣する。米国防当局はこの演習をアジア太平洋地域の多国間演習の一環として位置付けており、フィリピンやオーストラリアなどのオブザーバー参加国も大幅に増加しているといわれる。
またシンガポール沖のマラッカ海峡で6月に行われる機雷掃海共同訓練に、海上自衛隊の掃海艇を派遣する。シンガポール海軍の主催で米や東南アジアからも参加する。昨年10月には潜水艦救難の共同訓練を米・韓国・シンガポール・日本の4カ国で行った。
一方で「領域警備」に関する自衛隊法改正案の骨格が報道されたが、これによると自衛隊の武器使用の要件が緩和されることになり、自衛隊による国内治安維持体制の強化が図られる。すでに自衛隊と国家公安委員会との治安維持協定は改定されており、「テロ対策」=国内治安維持に自衛隊があたることになっている。
このように集団自衛権行使に伴う自衛隊の紛争地域への派遣準備と国内治安維持体制の強化は着実に進められている。