[「つくる会」教科書批判]

歴史事実ではなく、神話と戦争賛美を教える
「つくる会」歴史教科書


 「つくる会」歴史教科書は歴史的事実ではない神話を事実と混同しやすい形で載せ、天皇制と大日本帝国憲法、日本の過去の侵略戦争を賛美し、植民地支配を正当化しています。また南京大虐殺、強制連行、従軍慰安婦など戦争の悲惨な事実を認識させないなど、徹底した国粋主義・戦争賛美の教科書です。

 韓国や中国の強い対日批判は小泉首相の靖国参拝だけが問題ではありません。侵略戦争と植民地支配を賛美し正当化する「つくる会」教科書に対する検定合格や国会議員・政府・官僚の後押しに対する強い批判でもあるのです。

 「つくる会」歴史教科書の問題点について、以下にいくつか取り上げてみました。

1 皇国史観に貫かれ、科学性を無視しています。
●神話が登場する歴史教科書

 「神武天皇の東征伝承」と「日本の神話」と題するコラムで、『古事記』『日本書紀』の神話が、かなりのページ数を割いて紹介されています。実在しない神武天皇の東征の記述を読めば、実在したと誤解しても不思議ではありません。古代から天皇が権力を掌握していたことを読者に印象付けることを狙っています。

●天皇中心の歴史

 神話の神武天皇が登場することからもわかるのですが、この教科書は日本の歴史が天皇中心であったことを強調しています。さすがに神話を歴史として扱うことはできないので、代わって登場するのが聖徳太子です。(第1章第3節「律令国家の成立」)すなわち、この頃から天皇の名称が使われ始め、「日本の伝統」が確立したとの見方です。

 

2 自国中心で、他民族への侵略や支配を肯定しています。

●日清・日露戦争
 日本が日清・日露戦争を行ったのは当然であると主張します。その後のはてしない侵略戦争へ導いた対外膨張戦略を当然とする一方的な考え方です。それを前提にして、「日露戦争は、日本の生き残りをかけた戦争だった。日本はこれに勝利して、自国の安全保障を確立した」と述べ、その後の戦争全体も肯定します。


●韓国併合
 日清戦争の前に「朝鮮半島と日本」という「読み物コラム」をもうけ、「日本に向けて、大陸から一本の腕のように朝鮮半島が突き出ている。」「朝鮮半島に日本の安全をおびやかす勢力がおよんだこともあった」と述べ、さらに元寇のことまで持ち出して、「元寇の拠点となったのも朝鮮半島だった」として、朝鮮半島の存在自体が日本にとって危険であるかのような認識にみちびこうとしています。そのうえで、韓国併合については、「日本の安全と満州の権益を防衛するために必要」だったという政府の考えと、欧米諸国も承認したことだけを述べて、日本側の立場を一方的に記述しています。韓国併合後の日本の統治によって生じた被害の実態や、それに対する抵抗運動もごく簡単に扱われているだけです。


●中国侵略
 満州事変にはじまる日中15年戦争の記述は、「中国の排日運動」の記述からはじまります。満州の権益は条約で合法的に認められたものであり、それに対し中国側の排日運動が激しくなったから、日本が軍事行動をおこしたのだという記述です。

 

3 侵略戦争を植民地からの「解放戦争」と美化します。
●「大東亜戦争」(アジア太平洋戦争)
 他社の歴史教科書が「太平洋戦争」と記述しているのに対し、「大東亜戦争」という名前を用いています。これは当時の日本政府が、「アジアを欧米の植民地支配から解放するための戦争」だという意味でつけた名前ですが、「つくる会」教科書はこれを認めて使用しているのです。しかし当時の日本政府は、日本の植民地だった朝鮮の独立を認めるとは一言も言いませんでした。この事実だけをみても、アジア解放のための戦争というのは嘘だったことがわかります。それだけでなく、日本が占領したアジア太平洋各地から石油・ゴムなどの資源を奪い、住民を強制動員して過酷な労働に従事させました。また、多くの女性を日本軍の「慰安婦」として性奴隷にまでしたのです。
 こうした事実を無視して「つくる会」教科書は、「日本の緒戦の勝利は、東南アジアやインドの人々に独立への夢と勇気を育んだ」と述べ、さらに「アジアの人々を奮い立たせた日本の行動」「日本を解放軍として迎えたインドネシアの人々」という資料まで載せています。


●日本の加害の事実もできるだけ隠蔽

 「慰安婦」は全くかかれていません。南京大虐殺については、199ページの注に「南京事件」として一応書いていますが、「この事件の犠牲者数などの実態については資料の上で疑問点も出され」と否定論を追記しています。強制連行については、「徴兵や徴用が、朝鮮や台湾にも適用され」と、あたかも強制ではなく法にもとづく徴用であるかのように記述し、強制の事実を隠蔽しています。東南アジアでの労務者の強制動員、植民地朝鮮での日本への同化政策と天皇への忠誠心の強制など、アジアへの加害の事実はほんの申し訳程度にふれているだけです。
 

  憲法を教えず、大日本帝国憲法と改憲を教える
「つくる会」公民教科書


 「つくる会」公民教科書は大日本帝国憲法を積極評価し、憲法についてはその意義を教えず「改憲」の動きをことさら強調しています。国防の意義を強調し自衛隊の世界での活躍を賛美しています。国旗・国家、領土問題と拉致問題を詳述し、家族の意義を強調しジェンダーフリーを毛嫌いして否定します。

「つくる会」公民以外の各社の公民教科書がいずれも、国民主権と基本的人権、平和の意義、つまり憲法の基本を教え、主権者としての個人に必要な社会の仕組みの基本を教えているのとは大違いです。
特定の偏った政治的見解・思想を宣伝する「つくる会」公民は教科書と呼べるものではありません。

 「つくる会」公民教科書の問題点を、日本国憲法についての記述を中心に紹介します。


1 「日本国憲法の基本的原則(第3章第1節)」について

憲法について学ぶ箇所ですが、項目は (23)大日本帝国憲法と日本国憲法、(24)国民主権、(25)平和主義、(26)憲法改正、(27)基本的人権の尊重・・・・という順番となっています。

 

-(23)大日本帝国憲法と日本国憲法:

大日本帝国憲法が、天皇主権の国家体制をつくり、国民の自由を奪い、人権を抑圧した非民主的憲法だったことにはふれずに、「国民にたたえられた大日本帝国憲法」という資料を掲載しています。日本国憲法については、占領軍から押しつけられた憲法だということを強調しますが、憲法の精神や内容についてはほとんど触れていません。そのうえ、日本国憲法が「改正」されていないことを非難するため、「世界最古の憲法」と揶揄する産経新聞記事を資料として引用しています。

 

-(24)国民主権: 国民主権の説明に天皇の写真 

 国民主権の説明をすべきなのに、なぜか「国民統合の象徴としての天皇」についてスペースを割いて記述し、天皇の写真までも掲載しています。「皇室は、国の繁栄と人々の幸福を祈る祭り主として、古くから国民の敬愛を集めてきた」、「国家が危機をむかえたときには、国民の気持ちをまとめ上げる大きなよりどころとなってきた」などと特異な歴史観まで述べ、あえて国民主権を説明しません。

 

-(25)平和主義: 平和主義の記述がなぜか自衛隊の発足

 憲法の平和主義のことにはほとんど触れずに、代わりに「自衛隊の誕生」という説明をしています。「国際情勢と占領政策の変化によって、憲法に対する考え方も大きな影響を受け」自衛隊が発足とし、憲法の平和主義についてもまともに書きたくないことが明白です。

 

-(26)憲法改正:

 前項で憲法のことをまともに説明していないのに、早々に「憲法改正」の記述が登場します。現行憲法は「改正」すべきもので、内容を理解する必要はないという執筆者の意図が露骨に表明されています。

 

-(27)基本的人権の尊重

 2ページのうち半分は「公共の福祉と国民の義務」にあてられ、さらに国防の義務についても記述しています。基本的人権を尊重よりも、「公共の福祉」の名の下で、社会の秩序維持という理由で人権を制限できることを重視した内容です。

 

2 その他の記述について

 

●自衛隊
 「つくる会」教科書は「自衛隊は自国の防衛のために不可欠な存在」としたうえで、「日本国憲法における位置づけが不明瞭ならば、憲法の規定自体を変えるべきだとの意見もある」として、事実上憲法改悪を推進する記述となっています。

湾岸戦争以後の自衛隊の海外派兵(後方支援)の実績をあげ、自衛隊の「軍事的な面での国際評価も高まりつつある」、わが国が「責任ある国際社会の一員として認められるようになってきた」などと述べて、自衛隊の海外派兵を全面的に肯定しています。さらに「自衛隊がより国際的な責任を果たせるよう、集団的自衛権を『行使することができる』と解釈を変えるべきだという主張もある」などと、今日の憲法「改正」論にいっそうふみこんだ記述となっています。

日米安全保障条約については「わが国だけでなく東アジア地域の平和と安全の維持に大きな役割を果たしている」と評価し、批判的意見はまったく紹介していません。周辺事態法の成立によって「米軍との協力・支援体制が強化されることになった」と、全面的に肯定しています。

 
「男女共同参画社会の課題」: ジェンダーフリーの否定
 「つくる会」教科書は男女共同参画社会に異論を唱えています。「男女共同参画社会の課題」というコラムをもうけ、ジェンダーフリーが「男らしさ・女らしさという日本の伝統的な価値観まで否定している」という意見をことさらにとりあげたり、「男らしさ、女らしさを一方的に否定することなく」と定めた宇部市の特異な条例を大きく紹介したりしています。両性の平等をなんとか否定する方向に誘導しようとする教科書です。

 

●「愛国心」の強制、伝統文化の強調

 「つくる会」教科書は、国旗・国歌を大きくとりあげ、「国旗・国歌に対する意識と態度」という2ページのコラムももうけて、愛国心と結びつけて教えようとしています。また「日本の文化を見つめ直そう」という2ページの課題学習を新たにもうけ、日本の伝統や文化の継承者としての自覚を育もうとしています。それを通じて自国中心、他民族蔑視の「日本の一員としての自覚」を育てることがねらいです。

 

参考文献:
●『使ったら危険「つくる会」歴史・公民教科書--子どもを戦争にみちびく教科書はいらない!--』
 上杉聰・大森明子・高嶋伸欣・西野瑠美子著 明石書店
●『ここが問題「つくる会」教科書--新版歴史・公民教科書批判--』
 子どもと教科書全国ネット21編 大月書店

※扶桑社「新しい歴史教科書」(改訂版)は、「つくる会」HPに抜粋が紹介されています。
http://www.tsukurukai.com/05_rekisi_text/rekisi_kaitei.html