「沖縄の負担軽減」は全くの欺瞞
総額3兆円の投入で米軍再編支援・日米軍事一体化を狙う


在日米軍再編反対!「再編推進法案」を阻止しよう!



1. はじめに

 政府は2月9日、「米軍再編支援推進法案」を閣議決定した。この法案は2006年5月1日に日米政府間(2プラス2)で合意された「在日米軍再編実施のための日米のロードマップ」(いわゆる「最終合意」)を具体化し推進するための法案である。

 政府・マスメディアは、在日米軍再編「最終合意」を「在沖縄海兵隊のグアム移転」を目玉とする耳ざわりの良い「沖縄の負担軽減」のキャッチコピーで大宣伝した。しかし現実は総額3兆円とも言われる膨大な日本の財政負担のもとで、全世界における米軍再編計画の一環としての在日米軍再編と日米軍事一体化を推し進めるものであり、「負担軽減」どころか日本全体をオキナワ化するとんでもない計画である。

 この計画に対して日本全国の基地地元の地域、自治体を中心に反対運動が活性化している一方で、国と防衛省、米軍は既に具体的動きを進めている。

 今回、閣議決定された「米軍再編支援推進法案」は交付金バラマキによる自治体の懐柔と反対運動の切り崩し、在沖縄海兵隊司令部のグアム移転のための日本からの資金提供の枠組みの法制化を柱として在日米軍再編を推し進めようとするものである。

 安倍政権の攻勢は強硬で矢継ぎ早である。しかしブッシュ政権は昨年の中間選挙で敗北し、イラク新政策でも米国内外から集中的非難を浴びて孤立している。軍事力はイラクとペルシャ湾に集中的に動員されている。六カ国協議の再開と朝鮮半島の非核化、東アジアの平和と安定がここへきて一気に進んでいる。対北朝鮮封じ込め政策は破綻し軌道修正を余儀なくされた。少なくとも政治情勢からして、米日・米韓の再編計画を一気に推進する状況ではない。今こそ、米軍再編反対、「再編推進法案」阻止の闘いを強めるべきときである。

 本報告では在日米軍再編のそのものと「米軍再編推進法案」の暴露に重点を置く。そして我々として「再編推進法案」反対、在日米軍再編阻止の闘いにどのように合流してゆくのかを追求してゆきたい。


2. 米軍再編と在日米軍基地再編強化 ― 「沖縄の負担軽減」は全くの欺瞞

 「対テロ戦争」戦略のもと、米軍のより機動的・効率的な態勢を作る米軍再編−−「沖縄−グアムの2拠点化」

 米ブッシュ政権は、米ソ冷戦の終結、9.11同時多発テロとアフガニスタンへの報復戦争、イラク戦争を契機として、軍事戦略を変更してきている。その主な柱は、@「対テロ戦争」、先制攻撃戦略、A米軍の機動的運用、機動力・展開拠点の増強、B太平洋重視、C情報戦力、IT化、Dミサイル防衛(MD)、E同盟国への負担要求強化である。

 「在日米軍再編実施のための日米のロードマップ」(いわゆる「最終合意」)で示された在日米軍再編計画は、この米の軍事戦略の変化に基づく「米軍再編」を推し進めるためのものである。日本政府が強調しマスメディアが繰り返し垂れ流す「沖縄の負担軽減」は、日本の財政負担で米軍再編、日米軍事一体化を推し進めるためのものであり、全くの欺瞞である。


 海兵隊グアム移転は米戦略の一環 

 今回の「ロードマップ」の大きな目玉として沖縄駐留海兵隊員の約半分の8,000人、家族を含め17,000人がグアムへ移転するとされている。しかし、海兵隊グアム移転も米軍再編の大きな枠組みの中で捉える必要がある。

 米の新しい軍事戦略のもとでグアムは「不安定の弧」をにらんだ太平洋上の最重要拠点として新たな位置づけを与えられ、攻撃型原子力潜水艦の配備(3隻)、都市型訓練施設の新設(海兵隊)、戦略爆撃機ローテーション配備(通常攻撃任務)などの全面的な基地機能の強化が行われようとしている。海兵隊の新たな出撃基地、拠点作り、いわば「沖縄−グアムの2拠点化」が中心の一つである。これらの下で、海兵隊と陸自による都市型訓練施設での共同演習や空軍と空自による戦闘訓練など、グアムでの日米両軍の共同軍事訓練が急増している。沖縄駐留の海兵隊部隊の移転はこうした米軍再編の狙いのもとに行われるものである。

 また「ロードマップ」ではこのグアム移転は新基地建設完成に向けた具体的動き、グアムでのインフラ整備における日本の資金的貢献が「パッケージ」(後者が満たされなければ前者は実施されない)条件として明記されている。決して沖縄住民の負担軽減のために自発的に行われるのではなく新たな沖縄の負担、全国の基地地元負担の増大、全国民の財政的負担増大を全て満たされることを条件に行われるのである。


 「普天間基地返還」の狙いは辺野古への新基地建設

 「沖縄の負担軽減」として宣伝されるもう一つの目玉が普天間基地の返還である。しかし名護市辺野古に予定されている新基地計画はヘリの離発着には不必要な1800mの滑走路を2本も備え、大浦湾には軍港施設まで整えた一大軍事基地となっている。更に注意しなければならない点は、以下の条件が全て完了したあとで普天間基地が返還されるということである(パッケージ)。

 @ 辺野古の新基地建設、能力の具備、A 新田原(宮崎県)、築城(福岡県)の航空自衛隊基地を米軍が緊急時使用できるよう施設整備、B 飛行場、港湾など一般の民間施設を米軍が緊急時使用できるようにするための措置。

 「普天間返還」の条件とされた新基地建設により、沖縄の負担はけっして軽減されるわけではなく、また米が普天間を手放すのは上記@からBが全て満たされた上でのことである。まさに米にとって得るものは全てであり、失うものは何もない。


 キャンプ座間を「対テロ戦争」の司令部に 

 グアムの再編強化と並んで今回の在日米軍基地再編におけるもう一つの重要な狙い目が、米第1軍団司令部のキャンプ座間(神奈川県)への移転と、陸上自衛隊中央即応集団司令部のキャンプ座間への移転である。

 第1軍団司令部は太平洋地域から中東までの広い範囲を受け持ち米軍再編の中で「作戦運用司令部(UEx)」と位置付けられる役割を持つとされている。戦時には、従来よりも機動性を高めた旅団戦闘チーム(BCT)の司令部として機能する。

 また自衛隊の中央即応集団とは緊急時に海外派遣される部隊として2007年度から新たに創設される部隊である。この中央即応集団司令部が米第1軍団司令部と共にキャンプ座間内に設置され、自衛隊部隊が完全に指揮・従属化におかれる。またキャンプ座間に近い相模総合補給廠内には高度なシミュレーション機能をもつ「戦闘指揮訓練センター」が創設される。

キャンプ座間と相模総合補給廠は「対テロ戦争」=侵略戦争司令部のセンターと訓練センターの役割を担わされることになる。


異常な速さで進められるミサイル防衛(MD)の強化

 「ロードマップ」の中で特に注目すべきことは、異常とも言える速さで日本でのミサイル防衛(MD)態勢の強化が行われていることである。

 MDの中核となるXバンドレーダーシステム、地対空ミサイル(PAC3)運用開始は「ロードマップ」では「可能な限り早く」「07年3月運用開始」とされている。(すでに運用が開始された)。2010年度には横田基地への航空自衛隊航空総体司令部移転が明記され、又新たに横田基地に設けられる統合作戦調整センター(共同統合運用調整所)で米軍司令部と一体となった形で航空自衛隊がミサイル防衛の作戦運用を始めようとしている。これらの動きは北朝鮮に対する軍事的圧力を高め、対北朝鮮先制攻撃への敷居を低くするものである。


米軍と自衛隊の一体化 共同訓練を全国の自衛隊基地で 

  「訓練移転」の名目で、米軍と自衛隊の一体化を全面的にすすめようとすることも今回の在日米軍基地再編の狙いの大きな柱となっている。嘉手納、三沢、岩国の米軍機が、千歳、三沢、百里、小松、築城、新田原の各自衛隊基地を使用して自衛隊との共同訓練を行うことになる。日米政府がやろうとしていることは「沖縄の負担軽減」ではなく日本全土の「沖縄化」、「沖縄の負担」の全国展開である。


 空母艦載機を岩国へ

 厚木基地の米軍空母艦載機の岩国基地への移駐も、岩国基地周辺での夜間離発着訓練(NLP)場所を確保するための措置と見られる。騒音問題のため、現在NLPは厚木基地から1250Kmも離れた硫黄島で行うことになっているが、米軍にとっては不便である。岩国は空母艦載機、空中給油機の移転などで基地機能は大幅に強化される。


3.米軍再編推進法案の内容

 今国会での可決成立が狙われている「米軍再編推進法案」は以下を骨子とする2017年3月末までの時限立法である。

 (1) 自治体の懐柔、反対運動切り崩しのためのアメとムチ@−「再編交付金」

 新たな米軍用施設や米軍部隊の移駐を自治体に受入れさせ反対運動を切り崩すためのアメとして「再編交付金」を新設する。この交付金は10年間で1000億円と報道されている。この交付金は地元自治体に対して@再編案の受け入れ、A環境影響評価に着手、B施設整備の着工、C再編完了――の4段階に応じて支給割合を10,30,60,100%へと上げて行く一方で事業が滞れば、交付を凍結するというものである。地元での強力な反対運動を意識してそれを自治体に切り崩させ強引に受入れさせようとする意図を露骨に示している。

 事業が滞れば交付を凍結するという交付方式はムチの側面も持っている。防衛省は新海上基地案の修正を求めている名護市や、移転受け入れ反対を表明している岩国市に対して、早々と交付金は出さないと言明して圧力を掛けている。


 (2) 自治体の懐柔、反対運動の切り崩しのためのアメとムチA−公共事業への国による補助率引き上げ

 再編計画に関連する自治体に対して、大型公共事業に対する国の補助率の引き上げを行う特例措置を設ける。この引き上げ率は沖縄県で最大95%、その他で最大55%としている。辺野古への海上新基地建設をしゃにむに進めようとの意図が露骨にあらわれている。


 (3) 再編推進の体制明確化−防衛省主導の「駐留軍等再編関連振興会議」の設置

 再編に関連する計画などの議決機関として、防衛相を議長とし、総務相や外相、官房長官ら関係閣僚による「駐留軍等再編関連振興会議」を防衛省に設置する。防衛省に設けることにより米軍との連携の下で必要な振興計画を決定してゆくことを狙っている。


 (4) グアムの米軍家族用住宅建設費用を日本が支出する−米軍のために何とODAの枠組みを使用!

 在沖縄海兵隊司令部のグアム移転費用の日本負担分は7300億円とされている。司令部棟や兵舎の建設などは日本政府の直接の財政支出により行われるが、グアムへ移転するとされる米軍家族のための住宅建設費支出のため国際協力銀行(JBIC)に業務特例を作ることが本法案に盛り込まれた。

 米軍が米領土であるグアムへ移転するため(米の資産になる)インフラ整備に日本が支出するという、あからさまな米への「くれてやり」である。このために官僚が考え出したのが開発途上国への支援であるODA=国際協力銀行を使うという、ご都合主義、いいかげんな法整備である。

 国際協力銀行の融資でグアムの米軍住宅建設・提供等を行う特定目的会社を作り、そこを経由して米兵に住宅を供与し、米兵や米軍から使用料を取り回収するとしているが、その回収は防衛省自身が50年かかると認めている。全く回収の見込みはなく、最終的に債務保証は国際協力銀行が行うことになっている。結局は日本国民にツケが回ってくることになる。

 今回の法案では、公有水面埋め立て時に知事、市町村長及び港湾管理者が持つ許可権限(公有水面埋立法)を強権的に国が奪う措置の織り込みは見送られた。これは2006年11月の沖縄県知事選の結果が多分に影響している。自治体や反対運動、野党を勢いづかせるような政治的焦点となる問題を避け、やりやすいところから通して進めようとの意図が透けて見える。今後状況に応じては出されてくることを警戒する必要がある。

 在日米軍再編は「米軍再編推進法案」の成立をまたず、既にできるところから始められている。

4.既に進められている在日米軍基地再編

 (1)軍事的側面

@異常な速さで進められるMD関連設備・装備の配備と運用の開始

 米軍のMD構想の中核をなす早期警戒レーダー「Xバンドレーダー」は、青森県つがる市の航空自衛隊車力分屯基地内の暫定展開地に2006年6月に搬入・配備が完了された。7月5日に起こった北朝鮮によるミサイル発射事件に際しては、前線のイージス艦などと連携して、フル稼働状態に入ったと言われている。これは、「ロードマップ」に示された、スケジュールよりも速い展開となっている。

 最新鋭の地対空誘導弾パトリオット(PAC3)の配備も進んでいる。2006年10月には、沖縄県嘉手納基地・嘉手納弾薬庫に搬入が開始され、運用部隊も11月に発足した。航空自衛隊入間基地(埼玉県)への年度内前倒し配備も進められており、そのための経費76億円が06年度補正予算(2月6日の野党不在の国会で強行可決)に盛り込まれた。

A実行段階へと進む米軍基地から自衛隊基地への訓練移転

 米軍機の訓練を本土の自衛隊基地へ拡散する計画については、嘉手納基地の分から06年度内にスタートを切ろうと準備を進めている。06年度内に2回を想定し補正予算に関連経費を計上している。

B日米軍事統合を一層推し進める統合訓練

 日米軍事一体化の動きも進行している。陸・海・空の各自衛隊の作戦運用を一元化するとして06年の3月に統合幕僚監部が新設された後、初めての米軍と自衛隊の日米共同統合指揮所演習(キーン・エッジ)が、今年の1月29日から2月8日まで実施された。自衛隊側からは約1350人、米軍側は約3100人という規模だとされる。「周辺事態」も想定しながらの図上演習で、日米の「共同統合運用能力の維持・向上を図る」ことを目的としている。

 1月30日には、実弾射撃を伴う日米共同訓練が、熊本県の大矢野原演習場で陸上自衛隊と在沖米海兵隊により行われた。日米軍事統合による対テロ戦争の実戦を想定した「米軍の実戦経験に学ぶ」訓練が開始されている。


 (2)政治的側面

@防衛庁の防衛省への昇格に象徴される日本の軍事組織の改編

 1月に発足した防衛省は、来年度に向けて大幅な組織改編を計画している。米軍再編関連では、日米軍事協力をさらに緊密化させるため「日米防衛協力課」が新設される。日米安保体制に関する防衛政策の企画・立案、日米軍事協力のあり方の見直しに関する事項、日米安保にかかわる各種法制の見直し、在日米軍の施設・区域にかかわる連絡調整、MDに関する米国との総合調整などを担当する。重要事項の企画・立案のために「米軍再編調整官」も新設される計画である。

 2006年5月の自衛隊法改悪により、07年度から自衛隊に海外派兵を専門にする中央即応集団が編成されることが既に決定され準備が進められている。

A国家予算への米軍再編関連予算の計上

 06年度補正予算が与党単独で可決・成立されたが、その中では、約110億円の米軍再編関連経費(辺野古への新基地建設関連調査費36億円、嘉手納基地戦闘機訓練移転実施のための関連経費74億円等)が含まれている。その枠外にも、PAC3の入間への前倒し配備のための76億円等が計上されている。また、07年度予算案にも、在日米軍再編経費として約330億円が計上され、MDシステム整備のためには1826億円が計上されるなどしている。

B米軍再編で影響を受ける自治体との調整・協定などによる地元合意の形成

 防衛施設局による、自治体に対する調整も本格化してきている。現在は、米戦闘機訓練の本土自衛隊基地での実施に向け関係自治体との調整を本格化させている。今年の1月中に、百里周辺自治体、千歳周辺自治体と訓練受け入れの協定締結を行った。
「米軍再編推進法案」は、こうした在日米軍再編の動きの一環である。

 この法案は、07年度予算案の米軍再編関係予算及び軍事予算全体と不可分一体であり、全国各地で進められている反基地闘争に重大な影響を及ぼさずにはおかない。我々は批判・暴露活動を強め、法案阻止の闘いに連帯していきたい。