フィールドワーク報告 |
やんばるの森で粘り強く闘う人々 高江ヘリパット建設反対現場フィールドワーク |
沖縄県名護市から車で更に北上すること1時間、約270平方kmの広大なやんばる(山原)の森が広がっている。このやんばるの森の東側部分は米軍北部訓練場(約78平方km)で占められている。この地域の一角に東村(ひがしそん)がある。その東村の更に北のはずれが高江区だ。ここ高江区で米軍ヘリパット建設に反対して2007年7月から住民が座り込みをしている。 |
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今回、この座り込み現場を訪問して、米軍のヘリパット建設計画やその意味、現地での闘いやその思いについてフィールドワークを行った。高江行きを決めてから準備期間がほとんどなく、予備知識もないまま現地へ行ってしまった。現地で見たこと、聞いたこと、その後帰ってきてからあらためて勉強したことを合わせて報告する。 高江集落を訪れて 沖縄を南北に縦断する軍用道路である国道58号線を北上、名護市をすぎると、風景は一変してほとんど手つかずの海と森だけというような光景になって来る。現地で座り込みを続ける「ヘリパッドいらない住民の会」のパンフレットでは、このやんばるの森のすばらしさをこう伝えている。 |
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―― やんばるの森には地球上でここしかいないヤンバルクイナ、ノグチゲラなどの固有種や絶滅危惧種が数多く生息しています。日本の全面積の0.1%にも満たないやんばるに全国の高等植物の27%が自生し、また単位面積あたりの本土の51倍の動物が暮らしている。やんばるは、たんに国内において貴重だというだけでなく、世界的に見ても生物多様性に富んだ重要な自然環境といえます。 ―― |
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座り込み現地に当番でいた女性の話では、ここは沖縄でも涼しく、冬は寒いくらいだそうだ。標高がそんなに高いわけではなく、豊かな緑と水がそうしているのだろう。 高江区には65世帯150人が暮らしている。東村はパイナップルの日本一の産地であり、高江区の住人もほとんどがパイナップル農家である。この高江集落を取り囲むようにして新たに6箇所のヘリパット建設が予定されているのだ。 現在でも東村には15箇所のヘリパッドがあり昼間だけでなく、夜10時過ぎにまで突然ヘリが飛来し訓練を行うので爆音や墜落事故の不安で住民は苦しんでいる。 |
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座り込み現場の一つであるN−4ゲートに着いて、話しを始めて20分ぐらいした時であろうか、突然ヘリがものすごい爆音とともにやってきて、低空飛行をして行った。夜中に突然、あのような爆音がすれば眠っていられないだろう。 これが高江集落を取り囲むように6箇所も増設されたのでは、住民の静かな生活などあったものではない。 |
N−4ゲートそばの座り込みテント ゲートは左手に入ったところ |
現場に住みこみ24時間体制で監視を続けるA(仮名)さん N−4ゲートでの話で、更に奥のN−1ゲートに住みこみ24時間体制で監視を続けている人がいる、とのことで、そこまで行ってみた。 N−1ゲートへ行くと人なつっこい笑顔でAさんが迎えてくれた。Aさんはこれまでの2年間にわたる現地での監視行動を飄々として語ってくれた。 Aさんは以前、辺野古で座り込みをしていたそうである。泳ぎが不得意だということもあり、2007年に高江へ移ってきたとのこと。 2007年7月に那覇防衛施設局がヘリパッド工事着手を発表した。7月からは高江住民が座り込みを開始した。7月16日夜半から翌未明に掛けて施設局は建設資材・重機を現場に搬入した。このため現地での座り込みは24時間の監視体制となった。現地座り込みといっても、まともな準備もなく、沖縄平和運動センターの山城事務局長とAさんの2人で、ほとんど野宿状態での監視活動をしたようである。 現在でも小さなトレーラとテントだけである。現場には当然電気はなく、水も下から住民の会が運び上げてくるそうである。Aさんは「ここでは電気も無いから暗くなったら寝て明るくなったら起きる、気楽なもんだよ」というが、それはやはり大変な生活だと思う。 |
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住みこんで監視を続けるAさん |
2007年7月の資材搬入の時はゲートに自分を縛りつけて抵抗したそうだ。その後、国会での質問で工事は10tトラック200台分の砂利を搬入するということが分かり、とにかくその動きがあったら仲間に連絡すれば間に合うということで、毎日監視活動を続けている。 辺野古新基地建設と一体のヘリパット建設 高江のヘリパット建設はSACO合意に挙げられている項目である。 −−以下の条件の下で、平成14年度末までを目途に、北部訓練場の過半(約3,987ヘクタール)を返還し、また、特定の貯水池(約159ヘクタール)についての米軍の共同使用を解除する。 |
・ 北部訓練場の残余の部分から海への出入を確保するため、平成9年度末までを目途に、土地(約38ヘクタール)及び水域(約121ヘクタール)を提供する。 ・ ヘリコプター着陸帯を、返還される区域から北部訓練場の残余の部分に移設する−− これだけでは、訓練場の「過半」が返還されるのだから良いか・・と思えてしまう表現である。しかし、これは辺野古に計画されているヘリ基地の実態と重ね合わせると、とんでもない基地増強計画だということが、現地で聞いた話で分かった。 ● 辺野古新基地は現在、米海兵隊が使用している普天間基地の代替のヘリ基地として計画されている。またこのヘリ基地には大型の垂直離着陸機オスプレイが配備されるという情報がある。 ● ヘリパットは単に「移設」ではなく、現状75mのものに代わり、それを2つくっつけた150mの大きなものが計画に含まれている。上述のオスプレイは離発着に150mの滑走路を要す。 ●北部訓練場は現在でも海兵隊がジャングル戦闘・サイバイバル訓練を行う世界で唯一の訓練場である。 ●新たな土地・水域の提供により宇嘉川を利用してジャングルから海への脱出訓練、海からジャングルへの侵入訓練が可能となる。 ● 読谷でのパラシュート訓練施設は返還され伊江島に移される。 これらを総合すると、米軍は垂直離着陸機オスプレイを辺野古に配備し、辺野古・高江(北部訓練場)・伊江島の沖縄北部一帯が大型の垂直離着陸機オスプレイを使用したジャングルへの侵入・脱出・サバイバル・パラシュート降下・ジャングル戦闘といった海兵隊の極めて重要な訓練が効果的かつ効率的にできることになるのだ。まさに「沖縄の負担軽減」などではなく基地機能の増強そのものだ。 それを示す象徴的な出来事として、2008年5月には米海兵隊の案内でドイツ軍、オランダ軍、イスラエル軍、自衛隊の4軍の連絡官が北部訓練場を視察したということが、琉球新報で報道されている。米は北部訓練場を海兵隊だけでなく、米予備役兵の訓練に使用する計画を明らかにしており、将来は同盟軍にまで使用させることも視野に入れているということになる。 |
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高江区で反対する住民を狙い撃ちにした不当な国の仮処分申請 2006年2月、高江区の住民は住民臨時総会を開き、全員一致でヘリパット移設反対の決議を挙げている。「へりぱっといらない住民の会」を中心として住民と支援者による座り込み、監視活動が継続され2007年8月、12月の砂利搬入以降は実質的に工事の進展を阻止してきた。 業を煮やした防衛局は2008年12月、現地で座り込みをしている人に対して「道路交通妨害」として、それを禁止させる仮処分申請を那覇地裁に提訴するという暴挙に出た。しかもその「債務者」(裁判の被告にあたる)は高江区の住民15人にのみ絞って行ったのである。その中には8歳の子供まで含まれる異常なものであった(防衛局はさすがに子供については訴えを取り下げた。) 2009年に入り5月まで3回の審尋が行われているが、防衛局側は「道路交通妨害」とする具体的行為について答えられず、道路わきに止め交通妨害をしているという車についても所有者が分からない(ナンバーが分かれば誰でも陸運局で氏名が特定できるにもかかわらず)など極めてずさんなものである。運動つぶしのための嫌がらせにほかならないことが、審尋の中であきらかにされつつある。「住民の会」への真の輪は広がり、総勢16人の弁護団が結成されて、この防衛局からの不等な仮処分申請に対しての闘いが続けられている。10月3日には那覇地裁裁判官の現地視察が行われた。 |
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やんばるの豊かな自然を破壊し、そこに住む人々の生活を破壊して「沖縄の基地負担の軽減」というウソで、基地機能の強化を図る。この構図は辺野古と全く同じである。しかもそれは、単に構図が同じというだけでなく、まさに米軍の勝手な基地機能強化の青写真に沿ったものなのである。 その問題の重要性のわりには、辺野古と比べても明らかにこの実態が知られていない。 まずこの問題の重要性をしらせなければ、と強く思ったフィールドワークであった。 ※この原稿を作成した後、12月11日那覇地裁は国から仮処分の申し立てのあった住民14名のうち2名について「妨害行為があった」という不当な認定を行った。住民側はこの決定を不服として、民事訴訟提起をするよう裁判所に訴えた。引き続き高江住民の抵抗を支援する呼びかけを行って行きたい。(2009.12.24) |
やんばるの森の豊かな自然 N-1ゲートからN-1ゲートへ向う途中 |
K.A | |
高江の状況については下記の資料が参考になる ウエブサイト: 「ヘリパッドいらない住民の会」ブログ 那覇地裁裁判官現地視察の報道(琉球朝日放送) DVD: 「やんばるからのメッセージ」〜沖縄県東村・高江の記録〜2007年22分 「高江の近況」07年12月25日〜08年03月20日25分 「やんばるからのメッセージ」〜高江の近況〜08年6月23日〜09年1月20日40分 「高江『仮処分申し立て』に異議申し立て!」ヘリパッドいらない弁護団45分 いずれも撮影・編集比嘉真人 制作ORICON |
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