演劇紹介

南京大虐殺・75周年記念追悼公演
二人芝居「地獄のDECEMBER─哀しみの南京─」をみて

2012.1.27 公演
 
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 「この舞台は、実話です」「戦後私の家族のなかにあった闇─戦争の加害への罪─への私達自身の告白であり懺悔なのです」
紹介のちらしにこう書かれていた芝居は、作者であり演技者である二人の心からの叫びだった。




満州で軍人だった父をもつ戦後生まれの夫は戦争の影を濃く引きずる家庭に育った。C級戦犯、家庭内暴力、傷ついた心の病・・・そのもとをたどろうと訪れた中国で二人は戦争で日本軍が犯した事実と向き合う。さらに日本の行為を突き詰めていくなかで、罪がないと思っていた妻の父も戦争と深く関わっていたことが判明する。

舞台「地獄のDECEMBER─哀しみの南京」はこの夫婦二人によって演じられる舞台だ。中央奥に怒りに満ち満ちた化身の人(殺された中国人の象徴)の画が掲げられた簡素なステージで、二人の告白と元兵士や宣教師、犠牲者たちの言葉が語られ演じられていく。おぞましい証言の山には耳をふさぎたくなる。しかし私たちの国日本の軍隊が74年前に起こしたことなのだ。

1937年12月の南京は地獄だ。追い詰められた人びとは船ももたず、長江の流れをたらいや大鍋まで使って渡ろうともがく。その上に浴びせられる雨あられの弾丸。何時間もただ打ち続けたという日本兵の証言がある。
2万ともいわれる捕虜も長江の岸で殺害された。後ろ手に縛られ三方から機関銃で囲まれた彼らは、少しでも弾をよけようと中央に走り寄り人柱ができたという。さらに子どもも妊婦も関係なく行われる強姦と殺戮。これまで文字で目にしてさえ耐えられなかった事実が、心に直接たたみかけられる。

南京陥落を知った日本国民は提灯行列で夜通しうかれた。南京で何が行われたかを知ることもなく、これで戦争が終わると信じていたのだ。政府も新聞各紙も戦争を煽るばかりで虐殺の実態も責任の追及もあるはずもなかった。

「罪はボクの家だけなの?」夫からの問いかけに、はじめのうち妻は動じなかった。妻の父は戦争にも行かないただの商売人だった。でもある日、妻は知る。父親が戦時成金だったこと、子どもの頃の豊かな生活は軍事物資で儲けたおかげだったということを。日本という国があの戦争で加害者だったということは、そこに暮らす一人一人が何らかの形で関わっていたということなのだ。私は関係ないとはいえない。過去の過ちを認め謝罪する以外、罪を償う道はない。

南京事件を否定する人びとがいる。あれほどひどい虐殺を否定したい気持ちはわかる。しかし実際に私たちの祖父や父の世代が犯してしまった真実なのだ。目をそむけるばかりでは溝は深まるばかりだ。現実を認め二度とこんな悲劇が起こらないよう努めていくことこそが、生きている私たちの使命ではないだろうか。重い課題にもたじろがずに向かっていく勇気を与えられた舞台だった。
 
渡辺義治・横井量子 作・構成・演出・美術・出演
Y.A