本の紹介

「暴走する原発」─チェルノブイリから福島へ これから起こる本当のこと─ 

広河隆一著

小学館 2011.5.25発行
 
 
  著者は1987年からチェルノブイリや世界各地の核施設を取材してきたフォトジャーナリストである。これまで多くの本をまとめ、2月にも事故から25年目のチェルノブイリ原発を訪れている。また震災の翌日にはJVJAのメンバーらと福島へ向かい現地からの報告を発信している。これらの経験から今回の福島原発事故とチェルノブイリを比較し、今後私たちがどう対処するべきかを考える材料として本書を書いている。



 

 チェルノブイリ事故が起こったとき、当時のソ連は情報の発表が遅れて多くの被ばく者を生み出したと宣伝された。しかし今日本政府の動きはそれ以上に鈍く避難すべき人々に被ばくを強要している。ウクライナ共和国での「無条件に住民避難が必要な地域」とは個人の年間被ばく量が5ミリシーベルトとされている。この基準を当てはめれば福島県の半分で人が住めなくなってしまう。

 91年5月IAEAは、すでに多くの症例が発表されているにもかかわらず汚染地帯での小児甲状腺ガンの多発さえ認めようとはしないで、人びとの病気は「放射線恐怖症」によるものと報告書に書かれていた。その後も増え続ける患者の報告を前にやっと05年に放射線による推計死者数を4000人と訂正したが一方、現地での調査では98万人という数字もある。IAEAの報告をまとめたのは日本の放射線影響研究所の医学者であり、今回の事故後マスコミで安全を強調した人びとの先輩である。

 「私たちは等しく生きる権利を持っている。そして子どもたちを守る義務を負っている。たとえ民主的に選ばれた政府でも、この権利と義務を侵すことはできない。」「日本は『人間の命よりも原子力産業を守る』としているようにみえる」と著者はいう。それなら私たちは権利と義務のために何をすればよいのか。原発事故の実態を明らかにし原発を止めていくことだ。

 絶版となったこれまでの著書に加筆して広河氏はもう一度、チェルノブイリで何が起こったのか、今どうなっているかを訴える。第6章には著者が設立したチェルノブイリ子ども基金と現地NGOが行った避難民の健康調査報告が掲載されている。国や国際機関の発表が信用できない以上、市民の側からの調査と発信を行うしかない。

フクシマが起こってしまった今、私たちはチェルノブイリの経験を学びそれを生かすことでのみ活路を開いていけるのではないだろうか。


著者のチェルノブイリ関連の著作紹介

 チェルノブイリ報告    岩波新書  1991発行
 沈黙の未来        新潮社   1992
 チェルノブイリの真実   講談社   1996
 チェルノブイリから広島へ 岩波ジュニア新書 1995
 原発被曝         講談社   2001


  「沈黙の未来」と「チェルノブイリから広島へ」以外は品切れですが、図書館などに置かれているようです。「原発被曝」はチェルノブイリとJCO事故を取り上げ警告を発したものです。
Y.A