■院外での大衆的運動と院内の野党の共闘が結合して、政府・与党を追い詰め、今国会での成立どころか、成立までの見通しさえ立たない状態まで追い込んでいった。

■秋の臨時国会に向けて、より広く反対世論を形成していく地道な活動が、これから要請されています。
有事法制反対のこれまでの闘いと今後の課題
ピース・ニュースNo22より

1.はじめに

 政府・与党は、有事関連法案について、衆議院継続審議という形で今国会を終えるしかなく、休会中になんとか与野党修正協議に民主党を取り込み、秋の臨時国会でなんとか成立を期すというところまで追い込まれました。私たちはこの有事法制反対の闘いが始まった段階では、ここまで政府・与党を追い込んでいけるとは予測していませんでした。むしろ、昨秋の「テロ特措法」ほどではなくとも、たいした抵抗も出来ずに通過させてしまうことを恐れていました。しかし、実際の闘い全く違った展開となりました。いろいろ課題はもちながらも、日本の反戦平和運動もまだまだやれるということを見せつけたと思います。院外での大衆的運動と院内の野党の共闘が結合して、政府・与党を追い詰め、今国会での成立どころか、成立までの見通しさえ立たない状態まで追い込んでいったのです。

 日本の反戦平和運動は、昨年の「つくる会」教科書不採択の闘争と靖国公式参拝反対の闘いで、韓国や中国の運動と連帯して、それまでの後退につぐ後退からようやく一歩攻勢に転ずる契機をつかみかけました。しかし、つづく9・11とアフガン侵略戦争においては、ほとんど抵抗らして抵抗も出来ず、「テロ特措法」と自衛隊の本格的海外派兵・参戦を、残念ながら許してしまいました。ところが、今回の有事法制反対の闘いでは、これに負けたら後がないという危機感からも、教科書闘争や靖国闘争を乗り越えて、大衆的な反戦平和運動として闘うことが出来ました。

 しかし、有事関連法案は廃案までは追い込めていません。もし、継続審議となった場合、民主党が政府・与党に取り込まれてしまって臨時国会で成立するのを、今の反対運動の力で阻止できるでしょうか。まだまだ力不足と言わざるを得ません。私たちは、今国会での廃案へ向けたあと一歩の闘いに取り組みながらも、さらに秋の臨時国会に向けて、より広く反対世論を形成していく地道な活動が、これから要請されていきます。

 本文は、この間の有事法制反対の闘いを振り返りながら、これからの私たちの活動のあり方について考えるためのたたき台にしたいと思います。


2.有事法制反対の闘いの経過とそこから学べること

(1)これまでの有事法制反対の闘いの経過

 5つの局面に分けて運動の流れを見ていきたいと思います。ただし、まだ闘いは進行中で運動を総括する時期でもありませんので、この分け方はあくまで暫定的なものです。

@有事法案の国会審議に入るまで(〜4月中旬)
A法案内容を具体的に問題にする局面(4月下旬〜5月中旬)
B強行採決阻止で急速に運動が拡大していった局面(5月下旬)
C野党と運動が攻勢をかけ、廃案に向けて追い込んで行った局面(6月上旬〜中旬)
D民主党が野党共闘を離脱して以降(6月下旬〜)
詳細は添付表を参照してください。

国会・政府・与野党の動き 運動の状況 特徴
 有事法案が国会に上程されるまで  ・4/2  有事法案の骨格が明らかになる
・4/6  原案が報道機関に提示される この間、国民の義務、指定公共機関などを政府・与党で詰め
・3/14 「異議あり!有事法制 3・14全国集会」(フォーラム平和・人権・環境)日比谷野音で2.5千人・3/22 「有事法制を許さない!3・22中央集会」(共産党・全労連)日比谷野音で2.5千人
・3/30 署名事務局の東京学習会(パンフ完成)
・4/7  ピース・ニュース街頭署名活動開始・4/13署名事務局、大阪で署名立ち上げ集会これと前後して、各地・各団体から抗議(沖縄市民団体、広島被団協、日弁連など)
 まだマスコミが本格的に有事法制の動きを報道せず、一般国民には ほとんどまだ知られていなかった。この時期は、一部の積極的に運動してきた部分がまず反対 の声をあげ行動し始めた局面といえる。
 法案内容を具体的に問題にする局面 ・4/16 有事法案閣議決定
・4/26 衆議院で審議入り
・5/7  衆院特別委での総括質疑入り武力攻撃事態曖昧化、周辺事態との関係の曖昧化、領域外の船舶や航空機までの拡大、反撃できるレベルの引き下げ、民間防衛組織の設置、指定公共機関の民放・新聞社などへの拡大、国民の自由・権利にたいして「公共の福祉」の強調、等など
・4/16 「異議あり!有事法制 4・16集会」日比谷野音で3千人
・4/19 「STOP!有事法制 4・19大集会」   日比谷野音で5千人(共産党、全労連を主体にしながらも、市民運動・宗教者運動との共闘)
・5/3  護憲集会4千人この間、反対声明などが少しづつ拡大 各県弁護士会、日本児童文学者協会、長崎原爆被災者協議会 自治体からも反対決議がではじめる 京都府大山崎町議会三重県議会沖縄の運動が先行
・5/16〜18 復帰30年平和行進と5千人県民大会
 この時期は、有事 法制の危険性が運動 の中にも強く意識され はじめ、マスコミの報道 によって、一般国民の 中にも少しづつ知られ 始めた局面といえる。 われわれもまた具体的 な法律案文に基づいた 批判を展開していける ように準備した。
 強行採決阻止で運動が急速に拡大して行った局面 ・5/15 毎日新聞が5/24強行採決の可能性報道
・5/21 衆院特別委が公聴会日程を単独議決これが運動に火がつけ、危機感が急速に拡大。
・5/24 政府・与党、野党の審議全面拒否のまえに強行採決断念
・5/16 署名事務局が緊急メールを発信
・5/23 「第3弾 異議あり!!有事法制 5・23集会」日比谷野音で4千人
・5/24 「STOP!有事法制5・24大集会」明治公園で4万人この2つの集会がタイミング良く持たれ、運動の盛り上がりに大きく寄与した

・5/27〜31 連日国会前で市民団体、宗教団体、フォーラム平和・人権・環境などが座り込みや集会
・5/29 署名国会提出行動(防衛庁ブラックリスト問題特別決議を採択)
 政府・与党の強行採決への危機感が反対運動 を急速に拡大させ、それ を背景に野党が結束して 審議拒否戦術をとり、政府・与党を追い込んで行った。われわれの5/29の署名国会提出行動は、そのちょうど良いタイミングで行った。
 野党と運動 が政府・与党 に攻勢をかけ 廃案へと追い 込んでいった 局面 ・5/28 防衛庁ブラックリスト作成問題が暴露
・5/31 福田官房長官非核三原則見直し発言 (5/13安倍官房副長官のICBM・小型核兵器保有合憲発言とワンセット)
・6/3 野党4党、福田長官罷免を要求
・6/3 防衛庁ブラックリスト作成問題が海幕だけでなく防衛庁内部部局と陸幕、空幕へ拡大
・6/4 日経世論調査で反対が賛成を6ポイント上回ると報道
・6/7 個人情報保護法案成立断念
・6/11 民主党、廃案要求決定防衛庁、報告書概要をまず発表し、批判を受けて全文公表
・6/13 防衛庁リスト作成報告書隠蔽問題で、野党が審議拒否再開
・5/29 署名事務局の防衛庁ブラックリスト作成糾弾特別決議
・5/31 特別決議を議員への宣伝・配布活動
・6/1 広島県原水禁が座り込み
・6/2 長崎での「有事法制(戦争法)に反対する市民集会」(2000人参加)で批判続出この間、有事法制反対ないし慎重審議要求の声明などがつぎつぎ出される諏訪、飯田両市議会、神戸で1000人の集会、広島、長崎、熊本、奈良、石川等などで有事法制に反対する行動や声明、等など
・6/6 署名事務局より、3閣僚の辞任要求でメール・電話・FAX戦術を提起
・6/12 「異議あり!有事法制 6・12集会」5千人その他、神戸4千人、香川3千人、京都2.8千人など
・6/16 「STOP!有事法制」代々木公園で6万人
 この時期は、国会は野党ペースになり、政府・与党は防衛庁リスト問題と非核三原則見直し発言問 題で防戦一方となった。個人情報保護法案をまず断念せざるを得なくなり(廃 案とはなっていない)、つぎに有事法制法案もなかば継続審議を覚悟せざるを得なくなった。小泉政権 は、首相の支持率の急落 、自民党執行部の「司令塔」放棄、党内対立の激化な どでガタガタの状態に陥り、野党は1年前とは様変わりに攻勢をかける立場に立った。
 民主党が野党共闘を離脱して以降今日まで ・6/15 鈴木議員の逮捕許諾請求問題浮上 自民党の民主党への攻勢
・6/18 民主党、野党共闘を離脱他の野党から批判・不信感民主党内部からも強い批判。しかし、事態は「国会正常化」へ
・6/19 国会会期延長議決
・6/20 防衛庁、リスト問題で処分発表
・6/21 医療制度改革案、衆院通過
・6/24 防衛庁リスト問題集中審議
・6/25 日米首脳会談
・6/26、27 カナナスキス・サミット
・7/4 民主党、衆院強行採決反対、修正協議拒否を正式決定
・7/8 自民、民主に有事法案の衆院継続審議の方針を伝える
・7/18 民主党、10項目批判・政府・与党、継続審議を決める
・6/27 連合中央委が有事法制反対で特別決議 地方で有事法制反対の地道な取り組み反対声明や慎重審議要求決議などが出ている

・7/11 埼玉市民によるテロ特措法違憲提訴

・7/23 有事3法案廃案を目指す院内集会
 廃案まで追い込めるあと 一歩というところで、民主党 が野党共闘離脱という許しがたい裏切りを行った。政府・与党が、防衛庁リス ト問題からも救われ、衆議 院継続審議という形で、秋の 臨時国会につなげることを許してしまった。現在の日本の反戦平和 運動の頑張りと限界を見せつけるものとなった。

(2)これらの経過から学べること

1) 有事法制の危険性を広く宣伝し、反対世論を地道に築いていくことの決定的な意義

・ 5月下旬の反対運動の急速な拡大の背景には、さまざまな運動によって続けられてきた地道な宣伝活動があります。
・ 有事法制を具体的に分かりやすい形で宣伝することの必要性が再確認されました。防衛庁ブラックリスト問題やICBM・核保有合憲や非核三原則見なおし問題などは、非常に分かりやすい形で国民に有事法制の危険性を示してくれました。


2) 有事法制のような総力戦においては、労働組合の運動が闘いの前面に出てくる

・ 今回の闘いでは、久方ぶりに労働組合の運動が闘争の前面に出てきました。教科書闘争や靖国闘争では市民運動が主役を担いましたが、有事法制反対のような決定的な闘争では、労働組合の闘いが前面に出ざるを得ません。
・ 今回の闘いにおいては、フォーラム平和・人権・環境に結集する旧総評系の労働組合と、共産党が主導する全労連系労働組合との共闘は、まだ実現できていません。これが、日本の反戦平和運動が置かれている現状といえます。


6.16全国集会

3) 多様な運動で国民の幅広い反対の声を結集することが必要

・ 有事法制反対の世論形成に、憲法学者や弁護士たちがそれぞれの専門的立場で大きな役割を果たしている。児童文学者など文化人たちも反対の声明を出し始めています。
・ 医療・教育・地方自治・報道などさまざまな分野の人たちがそれぞれの職業遂行の立場から危険性を感じ始め、反対の声をあげはじめています。まだまだその掘り起こしは始まったばかりです。
・ 個人情報保護法案反対の運動、人権擁護法案反対の運動、そして住基ネット完全凍結要求の運動などが有事法制反対の運動と結合してより大きな力を発揮しています。


4)有事法制反対の闘いが、最終的に国会の場で決着をつけることになるため、政党とくに野党に働きかける活動は不可分のものとなる

・ この場合大衆的な運動を背景にもった働きかけが基本です。私たちが今回追求した、署名活動の展開とその提出行動を通じた野党との連携は、望ましい形態の1つでした。また、相対的に長期間の闘いになる署名運動などと、緊急時の短期的な、政府首脳や国会議員へのメール・電話・FAX戦術などの組み合わせが重要でした。
・ 民主党に反対の立場から離脱させないことが、闘いにとって決定的意義をもちました。今後も休会中に民主党に修正協議に入らせない、10項目批判を堅持させる闘いが重要となってきます。


国会前での座り込み(5.29)

3.有事法制の闘いの今後の見通しと私たちの課題
1)基本的な活動として、有事法制反対の世論形成のための地道な宣伝活動
これが最も大切な活動であることは言うまでもありません。臨時国会の開会は9月末〜10月始めと言われており、2ヶ月あまりというそれほど長期的な活動とは言えないものですが、ピース・ニュースはこの期間をフィールドワークやホームページによる宣伝活動、あるいはピース・ニュース紙やリーフレットによる宣伝活動などで反対世論作りに寄与していきたいと考えています。

2)ブッシュ政権の戦争拡大政策反対の闘いと1つのものとして闘うこと
ブッシュ政権のイラク攻撃・侵略が差し迫っています。日本の有事法制は、ブッシュ政権のこの戦争拡大政策を強力に支えようとするものです。有事法制のこの侵略的な性格をしっかり自覚して運動に取り組むことがこれからますます必要です。その意味でも、有事法制反対の闘いをブッシュの戦争拡大反対の闘いと切り離さず、1つのものとして進めていきたいと思います。

3)民主党に修正協議に応じさせないための働きかけ
国会休会中の民主党に注意し、そのような動きが見えたとき、集中的な攻勢を呼びかけたいと考えています。