有事法制関連法案が国会に提出されて以降、ピース・ニュースでも学習会やリーフレット、ニュースなどで法案の危険性について確認をしてきました。その後、政府の国会答弁や発言などで、その危険性が一層はっきりしてきました。それらについてまとめてみました。 |
国会審議などで明らかになった有事法制の危険性 |
ピース・ニュース 7.14学習会の資料より |
1. あいまいで、政府の判断でどうにでもなる有事の範囲
私たちは法案が出された時点で、有事の範囲を「武力攻撃」の「発生または恐れのある場合」に加えて「予測される事態」にまで拡大したこと、「周辺事態」と「武力攻撃事態」が並存すること、などについて懸念があることを指摘しました。
その後の国会審議の中で政府は、先制攻撃や米軍支援などで次々に発言をエスカレーションさせ、これらの危険性が一層明らかになりました。
@ 福田官房長官、PKO協力法やテロ特措法などで海外派兵した自衛隊に対して、「組織的・計画的攻撃(と解釈される)があれば」有事関連法を適用する可能性を示唆。(5月8日衆院有事法制特別委員会)
A 福田官房長官、「相手方の武力攻撃着手で自衛隊反撃できる」 (5月9日衆院特別委)
B 「ミサイル燃料注入は『おそれ』事態該当」と安倍官房副長官発言(5月19日、テレビ報道番組)
C 中谷防衛庁長官、「自衛隊がミサイル基地を先制攻撃することが憲法上認められるとの見解」(5月20日の衆院特別委)
しかし一方で政府は、あまり攻撃を具体的に限定すると包括的な法案との整合性を突かれるため、「あらゆる事態を想定」(中谷元・防衛庁長官)と意図的にあいまいにしているのではと思われる面もあります。
今後整備するとされる米軍支援法に関しても、中谷防衛庁長官は、米軍への武器・弾薬の供給について「周辺事態法では米国のニーズがなかったからで、憲法上できないというわけではない」と答弁し、武力攻撃の「予測」や「恐れ」の段階で武器・弾薬提供を検討する意向を示しました。(5月20日衆院特別委)
さらに周辺事態との関係でも、小泉首相は衆院本会議で「周辺事態と武力攻撃事態は別個の法律上の判断に基づくが、事態の進展によって併存はあり得る」と明言しています。武力攻撃に共同対処する米軍に日本が提供した武器・弾薬が、提供を除外している周辺事態で活動する米軍に使用されるケースも考えられます。
2. 非核三原則見直し発言も
核ミサイルによる先制攻撃論に踏み込もうとした福田・安倍コンビ
安倍官房副長官が講演会で「原子爆弾の保有が可能」と発言。福田官房長官も非核三原則の見直しに言及するなど、政府中枢から有事法制と関連した核ミサイルによる先制攻撃論を念頭においた発言が繰り返されました。
一連の日本核武装発言は単なる「失言」や「軽口」ではなく、単なる「非核三原則見直し」発言でもありません。北朝鮮のミサイルに対して先制攻撃することを念頭に置いて、法的整備を目論んでいたのです。有事法制を成立させた後に、「非核三原則の見直し」「核ミサイル保有」の法的フリーハンドを持っておこうということなのです。
@ 安倍官房副長官が「原子爆弾の保有も可能」と講演会で発言(5月13日)
A 福田官房長官も「非核3原則見直し」もありうる、核保有も可能と発言 (5月31日)
3. 戦争のために国民の基本的人権の侵害や剥奪、私権制限、協力義務が法制化
法案では私権制限や義務・責務を明記し、今後2年間で法制を整備する項目を列挙しています。国の行政機関はもちろん、地方自治体やNHK、赤十字、NTTなどの「指定公共機関」まで政府の統制下に入り、国や地方公共団体、指定公共機関に戦争協力の「責務」があるとしています。国民についても「必要な協力をするよう努める」と義務化を明記し、戦争協力拒否者は「非国民」扱いされます。
具体的な統制や義務化の検討内容が次々と明らかにされるにつれて、「国家総動員態勢」を目指していることがみえてきました。
(1) 報道管制に関してはNHKだけでなく民放も対象に。有事の際の報道自粛要請も。
@ 福田官房長官、集会や報道の自由に関して「公共の福祉に反しない限り」を強調 (特別委 5月10日)
A NHKだけでなく民放も、さらには新聞社も指定公共機関の可能性 (政府 5月11日)
B 福田官房長官、「有事の際に報道自粛を要請する可能性も」と答弁(7月3日)
(2) 自治体職員の責務に関しては、青森県が市民団体の質問に対し、「戦争反対で拒否した職員は処罰対象」と回答しています。
(3) 民間防衛や国民保護に関しての政府答弁・発言では、配給や物価統制と並び、戦前の「隣組」のような組織を検討していることが明らかになりました。
民間防衛は自衛隊や米軍による軍事活動とは別に、国民が主体的に(1)食糧・燃料・医薬品の備蓄(2)負傷者の救援(3)公共施設の復旧――などに取り組み、社会秩序を維持・回復する非軍事的な活動と説明。(政府)
有事法制法案が成立することの危険性として、有事法制発動時の問題はいろいろな形で指摘されているが、平時の危険性を指摘する声は少ない。日常的に有事のための訓練や準備が叫ばれ、日常生活が軍国主義にいろどられる。その中心に位置するのが、この「民間防衛」です。さらに、防衛庁ブラックリスト問題を見ても、その民間防衛組織が「市民の相互監視など戦前の隣組的」なものにならない保証はありません。
@ 福田官房長官、「平時から(有事に)備えるため」民間防衛組織設置を目指す。 機密保護のための民間人への罰則も検討。(5月8日 衆院特別委)
A 「国民保護法制」で政府、配給制や物価統制を検討 民間防衛組織も念頭 (共同 5月20日) 「対処措置の実施を推進するための体制」も明示しており、戦前の「隣組」に相当するとの指摘もある自主的民間防衛組織の編成も念頭に置いているとみられます。
B 「民間防衛法制化」を今年度防衛白書に初めて明記(6月25日)。
(4) 民間を含んだ有事法制先取りとも考えられる動きも表面化しています。
@鳥取県は4月8日、不審船や大規模テロを想定した危機管理について、自衛隊や海上保安本部などと実務者協議を進めていることを明らかにしました。有事の際の速やかな情報伝達が目的。
A戦時の対米支援としてインド洋周辺に派遣されている自衛隊艦艇や航空機を修理するため、防衛庁が「石川島播磨重工業」など複数の防衛関連業者に対し、技術者の現地派遣を要請していることがわかったと報道。テロ対策特別措置法では、民間人の派遣は想定していません。(朝日 5月3日)
B インド洋上補給の海自艦を米が戦術指揮。 国会答弁に反し、シビリアン・コントロール無視 (朝日 6月15日)
防衛庁海上幕僚監部の派遣チームが昨年11月、バーレーンの米中央軍第5艦隊司令部で当時のムーア司令官に会い、インド洋での対テロ戦争の補給作戦で海上自衛艦が米海軍の「戦術指揮統制」下に入ることを容認していたことを、複数の日本政府関係者が明らかにしたと報道されました。
C 自衛隊北方機動演習の一環で移動訓練、民間航空機定期便に迷彩服姿の自衛隊員が搭乗(7月5日)