「テロ」と決めつければ何でも出来る?! |
先制攻撃・核兵器使用の準備を進めるブッシュ政権 |
7.14ピース・ニュース学習会資料より |
有事立法の今国会成立は事実上不可能となりました。運動と世論の力で二度と再び容易に提案できないような徹底廃案にまで追い込めるか、与党による民主党との妥協や取引により継続協議、再提案の道に進むかが運動に問われています。
国会での法案審議、先制攻撃・核兵器使用も違憲でないとする阿部官房副長官の早稲田大学での講演、福田官房長官の非核三原則見直し発言等でより明らかにされてきたように、この有事法制の狙いは明らかに米の「対テロ」戦争拡大政策に連動しそれを支援するものです。
国内で有事法制をめぐる動きが進んでいる間に、米ブッシュ政権はイラク攻撃を念頭においた戦争拡大の動きを強めています。有事立法を徹底廃案に追い込むためにも、もう一度、ブッシュ政権の進めている戦争拡大の危険性を捉え、それとの関係で有事法案の危険性を宣伝する必要があります。
米ブッシュ政権の「対テロ」戦争拡大の動き
先制攻撃戦略の表明と核兵器使用のオプションの組込み |
6月1日,ウエストポイント陸軍士官学校卒業式の演説でブッシュ大統領は国際テロや「ならず者国家」の脅威に対して「抑止」は無力であり、先制攻撃による敵の体制転換しか方法がないと力説しました。更に6月10日にはチェイニー副大統領は講演で、核兵器など大量破壊兵器を保持するテロ組織や敵性国家に相対するため,ブッシュ政権が「先制攻撃」を認める軍事ドクトリンを採用することを公式に確認しました。
ブッシュ大統領は年明けにイラク、イラン、北朝鮮を「悪の枢軸」と名指しして攻撃をほのめかしています。いまこれらの国、特にイラクに対して先制攻撃することを国際政治の舞台で堂々と発言してはばからないところにまで米ブッシュ政権の戦争拡大がエスカレートしてきています。
注意しなければならないのは、こうした戦略の変化にの中に「核兵器の使用も辞さない」ということを含んでいる点です。既に今年の1月の核戦略NPR(Nuclear
Posture Review、核態勢見直し報告)で中国・ロシアを含む7カ国に対し核兵器使用のシナリオ策定を指示し小型核兵器の開発の検討も命じているのです。
従来から米はパナマ、グレナダ、リビア、アフガニスタンなどへ先制攻撃を行い侵略を行ってきました。しかしこれまで米は公式には先制攻撃を戦略として宣言することはできませんでした。先制攻撃はなによりも先ず、「自衛」の場合を除いては他国を攻撃する権利はないとする国連憲章と国際法に違反します。米ソ冷戦時代にはソ連・社会主義諸国と世界中の反戦運動がそうした露骨な侵略には黙ってはいなかったし、国際世論も倫理的、道徳的にそうした戦略を許しませんでした。9.11以降、「対テロ」戦争へ世界が引きずられる中で、今こうした国際法にも反する先制攻撃戦略をあからさまに掲げることが許されてしまっているのです
この先制攻撃戦略は極めて危険です。米はイラクなどに対し査察や検証などと無関係に、一方的に大量殺戮兵器、生物兵器などを「持っているはずだ」、「使うはずだ」と決めつければ先制攻撃して破壊してかまわないということを表明しているからです。事実、米は、大量破壊兵器を作っていると思われる国が実際に作っているかどうか「完全証明を持つわけには行かない」(ラムズフェルド国防長官・NATOとのブリュッセル会議にて)と宣言しています。
ABM条約離脱とMD推進 |
6月13日にABM制限条約が米の一方的な離脱により消滅しました。ブッシュが昨年12月13日に「大量破壊兵器の入手をもくろむテロリストやならずもの国家から国民を守る能力の開発の妨げになる」として離脱を表明したため6ヶ月後に自動消滅したのです。
ABM条約(弾道弾迎撃ミサイル制限条約)は1972年から30年間、米ソ間の核軍縮・軍備管理体制の基軸として存在していました。それが今消滅したのです。
米ソ冷戦時代、米ソが地球全体を何度も破壊できるほどの核兵器保有のもとで、核ミサイルの防衛手段(迎撃ミサイル)の開発を制限することで、核攻撃をしても敵の報復核攻撃を受けるという恐怖のため核攻撃を抑止できる(この考え方を相互確証破壊:MAD(狂気の意味ももつ)と言う)との考えにもとづき締結されたもの。米ソの際限のない核軍拡競争と核先制使用に対して抑止力として働いた。
MD(ミサイル防衛計画)を推進しようとするブッシュにとって、このABM条約はそれを阻む障害でした。昨年9.11テロ以前まで、ロシアのプーチン大統領は米のMD推進に反対し、欧州や中国とMD推進反対のためABM体制の維持で一定限の国際的な支持をとりつけるなど、あいまいな形でしたがロシア・中国・欧州の反MDの包囲網が出来上がり米は孤立しかかっていました。
今年5月下旬の米ロ首脳会談でロシアのプーチン大統領はこれまでの立場から、ABM廃止賛成、MD推進容認へと立場を変化させました。そして米との欺瞞的な核軍縮条約に調印しました。今回の米ロの核軍縮条約は経済力のないロシアにとって、核を「自然減」させることが不可避ですが、経済力のある米にとっては核弾頭を保管し将来の「再配備」、「再登載」が可能な見せ掛けのいいかげんなものです。ロシアのこの方向転換はNATO加盟を果たし西側からの投資呼び込みを狙ったものと言われています。
米のABM離脱とMD推進は先の先制核攻撃と一体のものです。MDの推進は、米がフリーハンドで先制核攻撃を行うことを可能にします。米が先制核攻撃をしかけても、米はMD網により、敵からの反撃をまぬがれることができるからです。
日本もMD(ミサイル防衛網)の研究を米と共同で行っている
防衛庁のHPより
パレスチナへの侵略と暴力的支配を後押しする露骨なイスラエル支援策 −中東和平新提案 |
6月24日、ブッシュが新たな中東和平構想の演説を行いました。「和平には、これまでと違う新しいパレスチナ指導部が必要。パレスチナ国家はその結果,樹立できる」「新しい指導者,新しい体制,隣国との新しい治安協力を獲得したとき、米国はパレスチナ国家の樹立を支持する」「パレスチナ指導部はテロに反対するどころか,助長している」というものです。
名指しはしていないもののアラファトに退陣を迫り、自らの意に添う形での指導部を条件にパレスチナ国家を認めるという、イスラエルシャロンの立場そのままのものです。イスラエル国内からさえ「リクード党員(シャロンの与党、パレスチナ国家樹立を認めない)が書いたような演説」(イスラエル通信省)、「(ブッシュは)リクード新党員」(イスラエル紙)というような評価が出ています。自らの意に添った政府を要求しそうでなければ和平そのものを認めないという極めて傲慢な帝国主義者の演説です。
問題の根源であるイスラエルのパレスチナ占領とパレスチナ人に対するアパルトヘイト的囲い込み、入植政策には何も触れていません。この面からもイスラエルシャロンの立場をそのまま認めるものであり、親米アラブ諸国との妥協点をさぐる政策から一線を超え、イスラエルシャロンに代表される右派の立場そのものを主張するものとなりました。
カナナスキスサミットで、各国首脳はブッシュの新中東和平提案について評価しつつも、アラファト退陣要求については、ブレア英首相、シラク仏大統領、プロディEU委員長、プーチンロシア大統領らが批判を行いました。小泉首相はそのような中でも「演説を評価する」として賛意を示しています。
アメリカ国内で進む「テロ対策」を名目とした戦時国家体制作り |
このよう「テロ対策」を口実とした戦争拡大戦略は米国内部での警察国家的な戦時体制づくりを伴っています。
ブッシュ政権は国家安全保障局を新たに設立して、政府各部門に分散している危機管理、公安、治安機構を統合し、CIA,FBI等の連携を強化しようとしています。新組織は17万人を擁する一大組織となるようです。
アシュクロフト米司法長官は6月5日,中東諸国からの旅行者や留学生らに指紋押捺と写真撮影、住所登録を義務づける新制度を導入すると発表しました。イラン,イラク等中東諸国やイスラム国家などからの人(パキスタン人も含む)が対象となるようです。
全米の公立学校で行われている「国旗への忠誠の誓い」のなかの「神の元に一つの国家」という文言が政教分離の原則を定めた憲法に違反するとした判決に対し、上下両院が即座に判決を非難する決議をあげました。判決を下した高裁は判決の効力発生を無期限に停止するという異例の事態となっています。
9.11テロとその後の報復戦争の熱狂のなかで、アラブ・イスラムに対する露骨な人種差別や「危機管理」、「テロ対策」に名をかりた露骨な警察国家体制、マスコミ統制、思想統制などを含む戦時国家体制づくりがすすめられています。米国内における50年代のマッカーシズム*にも匹敵する警察国家体制・戦時体制国家体制の動きに注意し批判・暴露してゆく必要があります。
*1950年代、米ソ冷戦を背景として米国内で反共を旗印とした猛烈な赤狩りが行われた。共産党員はおろかシンパ、リベラリスト、平和主義者、知識人、文化人、ジャーナリスト、映画人等々が次々にマッカーシー上院議員の率いる非米活動委員会で査問され投獄されたり職を奪われたりした。米を逃れてヨーロッパに亡命した人も多い。チャールズ・チャップリンもその一人。
現在、ブッシュ政権が進めている戦争拡大の当面の目標はイラク攻撃に向けられています。しかしこうした危険な動きは国際世論や米国内での矛盾や批判、また米国の経済的危機やMDの技術的困難性など様々な問題を抱え、狙いどおりに行くものではありません。世界の平和運動の力でブッシュの危険な戦争拡大とイラク攻撃を阻止してゆきましょう。