「新しい歴史教科書をつくる会」の歴史教科書と公民教科書が文部省検定を合格した。
「つくる会」の教科書は検定意見を全て受け入れたと報道されているが、それらは字句の訂正程度のもので彼らの主張そのものを変えたものではない。
「つくる会」の歴史教科書では、日本史をあたかも天皇中心であったかのように描き、韓国併合、植民地支配を正当化し、中国への侵略戦争をアジア開放のために役立った戦争として描いている。従軍慰安婦の記述もない。
公民教科書でも明治憲法をアジアでの最初の近代憲法と高く評価し、戦後の憲法も立憲君主制が維持されたと強調している。人権や自由を強調する代わりに義務や責任、奉仕を強調している。憲法9条は「侵略戦争だけを放棄したと解釈するのがふさわしい」、「改正の意見が強く唱えられている」などと一方的な立場を強調して解説している。最後のコラムでは「生命尊重は最高の価値となりうるか」「生命を犠牲にしなければならない場合もある」として、全体を通してみれば天皇制国家のためには命をかえりみない、戦前の教育勅語と同じような驚くべき思想を展開しているのである。
韓国、中国はこれを即座に批判し、韓国は一時駐日大使を召還させるまでの事態になっている。韓国内ではYMCAを中心に署名運動も始まり、わずか10日間で十万人もの署名が集められている。一方の当事者であるわが国では、自民党総裁・首相選に立候補した4候補ともが「つくる会」の教科書に好意的な発言をし、マスコミもこの問題についてあまり取り上げていない。
「つくる会」とその支援者は全国の自治体で「つくる会」教科書の採択を求める請願書の決議や、これから始まる教科書選定作業の過程でこれまでのやり方を無視し、選定過程から教員を排除し教育委員会が独自で決定すべきだとの圧力をかけ「つくる会」の教科書採択をさせようと組織的な動きを行っている。
こうした動きの中で、4月25日から、韓国挺身隊問題対策協議会代表金允玉さん、日本軍性奴隷(慰安婦)被害者黄錦周*1さん、金恩禮さんらが韓国から来日し文部科学省や国会での抗議行動を行った。5月1日に行われた「歴史歪曲・女性蔑視の『つくる会』教科書を採択させない!緊急女性集会」では黄ハルモニ、金ハルモニらは怒りを込めて以下のような発言をした。
*1 ファン・クムジュさん。99年ピース・ニュースの韓国ツアーでお話を聞いた。ピース・ニュースNo.13参照
[黄ハルモニ]
教科書からの慰安婦問題記述の削除に、怒りを押さえることが出来ない。私は学校卒業直前に連れて行かれた。なぜ日本は認めないのか。歴代首相が認める発言をしたのに未だ認めようとしない。裕仁が認めたらもっと違うことになっていた。歴代首相がキチっと解決しておけばこんなことにならなかった。私たちのことを「便所」*2と言うのはひどすぎる。50年間このことを明らかにするために私は生きてきた。それなのに「便所」というのか。これが世界に通用すると思うのか。私がこれから世界に出かけて「便所」と言ったことを皆に伝えてやる。私は怒りを押さえることが出来ない。19歳から25歳まで慰安所生活で体がボロボロになった。私が「便所」ならばあなた方は便所以下だ。韓国で注目している。解決しなければ世界へ出て行って訴える。
*2 「つくる会」歴史教科書代表執筆者坂本多加雄は慰安婦問題記述について、「そもそも戦地の慰安婦制度といった特殊な状況における性の処理に関する事項を、とりわけ中学段階の歴史教科書に記載することへの疑問がある」「初等・中等の学校教育でたとえばトイレの構造の歴史や犯罪の歴史がもっぱら教えられるということになればどうか・・・それは通常、「日本史」を構成する際の必須事項とは言えない」と発言。
[金ハルモニ]
私は北朝鮮平壌から連行された。17歳から20歳まで。その後家族とずっと会えずたった一人で暮らしてきた。どれだけ苦労したか、言葉ではいえない。朝鮮の若い女性にあんなことをしたのに「なかった」とは話にならない。歴史的事実を歪めていることを聞くと我慢がならない。言語道断。私たちが死ぬのを待っているのか。私たちは死なない。恨みを果たすまでは死なない。親と別れ一人で暮らしてきた私の生活がどんなものか。日本政府が謝罪することを求める。国民基金は受け取れない。韓国の女性だからこれだけ耐えて来た。これがあなたがたの国の人の話だったらどうなのか。人間の気持ちは共通。理解して欲しい。死んでも死にきれない
私たちはこのハルモニ達の、心の底から絞りだすような「怒り」をしっかりと受け止めなければならない。私たちの次世代、子どもたちがしっかりと自尊心をもって自分の国の歴史を語れるためにも、真実を教えることが重要だ。
ピース・ニュースとして「つくる会」の歴史・公民教科書がどんなにいいかげんなうそで戦前の軍国主義教育と同じものを学校に持ち込もうとしているのか、事実を明らかにしていこう。その事実を多くの人に知らせてゆこう。これから7月まで続く教科書選定作業のなかで「つくる会」の教科書を採択させない運動を作り上げてゆこう。
歴史的事実をねじ曲げ、天皇中心の国家へ
「生命の犠牲もいとわない」軍国少年をつくりあげる
「つくる会」歴史・公民教科書採択に
反対する行動を