指揮系統
(その1)
CHAIN OF COMMAND

アブグレイブの惨劇への
国防総省の対応の失敗

セイモア・M・ハーシュ
How the Department of Defense mishandled the disaster at Abu Ghraib
by SEYMOUR M. HERSH


ザ・ニューヨーカー 5月17日号より
http://www.newyorker.com/fact/content/?040517fa_fact2


[翻訳] ピース・ニュース

 アブグレイブでの拷問を告発したセイモア・ハーシュ記者の「米兵によるイラク人への残虐行為-この責任はどこまで登りつめるのだろうか?」の翻訳紹介に引き続き、同記者の第二弾の記事「指揮系統」を2回に分けて紹介します。

 この記事は、明らかに、前回の記事の続編となっています。前回の記事のタイトルにある「この責任はどこまで登りつめるのだろうか?」という設問に今回の記事は鋭く答えています。

■イラク人一般市民に対して軍用犬をけし掛け噛ませるなど、残虐行為は刑務所外でも
 行われていたこと。
■タグバ将軍の内部調査報告の後も、この情報が異常なほど厳格に隠されていた一方
 で、イラクのサンチェス将軍-ラムズフェルド国防長官-ブッシュ大統領と報告ルートは
 極めて短く、大統領・国防長官が一体となって隠していた可能性があること。
■大統領・国防長官・米軍トップが9/11以降、「テロとの闘い」の中でジュネーブ条約を
 無視し、刑務所の中での諜報活動を重視し、計画的に拷問が行われたこと。

 等々、核心に迫る驚くべき事実が鋭く告発されています。

 セイモア・ハーシュ記者は、ベトナム戦争中に南ベトナムのソンミ村で起こった米軍による約500名の村民の虐殺=ソンミ大虐殺をスクープした記者です。ハーシュ記者はこの記事でピューリツア賞を受賞しています。
http://eritokyo.jp/independent/nagano-pref/aoyama-col501.html


 イラクのアブグレイブ刑務所の状態についての破壊的なレポートでアントニオ・M・タグバ少将は、わずかに3人の陸軍兵士を称賛した。彼らの中の一人、武器の名人で海軍犬調教師の、ウイリアムズ・J・キンブローは褒められるべきだとタグバは書いている。ウイリアムズは「自分の義務を熟知しており、MI(諜報部)からのかなりの圧力にもかかわらず不適切な尋問への参加を拒否した人間」であると。キンブローがやろうとしなかったことはレポートのほかの部分で明らかにされている:米兵は「攻撃の恐怖で収容者を驚かせたり脅かしたりするために、そしてひとつの事例では実際に噛ませるために軍用犬を」用いた、とタグバは言う。

 タグバのレポートは収容者への性的屈辱と虐待の写真を陸軍捜査官に渡すことを、ある兵士が決断したことがきっかけになった。3枚の写真は4月28日に「60ミニッツU」で最初に放送された。予備役部隊である第320憲兵大体第327憲兵集団のリストに挙げられた7名のメンバーは今や起訴に直面し、6人の司令官は既に懲戒処分された。先週、筆者は320大隊のメンバーが保有していた新たな数枚のデジタル写真を入手した。デジタルファイルに埋め込まれた時間順にしたがえば、写真は憲兵隊がアブグレイブに配置された2ヵ月後、2003年12月12日の夕方12分の間に2台の異なったカメラで撮影されたものである。
 新しい写真の一つは軍服の上に黒っぽいジャケットを着けた若い兵士が監獄の廊下でカメラに微笑みかけているのを写している。その背景では完全迷彩戦闘装備を着けた2人の軍用犬取扱い者が2頭のジャーマンシェパードを制止している。2頭の犬は微笑んでいる兵士によりカメラの視界から部分的に遮られている男に対して猛り狂っている。

 別の写真は裸のイラク人収容者を写している。男の両手は首の後ろで握り締められ、わずか数フィートで犬がほえているため、男は恐怖で体をねじ曲げ独房への扉にもたれかかっている。また別の写真では犬が鎖をピンと張って収容者に吼えているのを写している。

写真は「ニューヨーカー」から


イラク人収容者と米軍用犬の取扱い者。別の写真ではイラク人が床の上で出血している。

 数分後に撮られた他の写真では、兵士がそのイラク人の背中にひざを押し付けて上に乗り、男は苦痛に身もだえして床に横たわっている。収容者の足からは血が流れ出ている。別の写真は床に横たわっている裸の収容者の腰からくるぶしまでのクローズアップである。その男の右太ももには噛み跡か深い引っかき傷らしきものが見える。また、彼の左足は大きな怪我で血にまみれている。 

 米兵と軍用犬とイラク市民がらみの、アブグレイブ以外での暴力についてのレポートが少なくとももう一つ存在する。教会支援のイラクの状態を監視しているグループであるクリスチャン・ピースメーカー・チームのメンバーのクリフ・キンディは、昨年11月、GIたちがファルージャの西30マイルのラマディ掃討作戦において一般市民を軍用犬で襲わせたと述べた。キンディは、最初に「兵士達は家から家を回り30人を逮捕した」と述べた(彼らの一人はイラク人権組織の弁護士でありその事件をキンディに告げたサード・アルカサブである)。30名の抑留者が手錠をかけられ床に寝かされているとき、近くで銃撃戦が発生した。それが終わったとき、イラク人たちは家に押し込まれた。アメリカ兵はそれから「家に犬を解き放ち数人がかまれた」とカサブはキンディに語った。(国防省はその事件についてザ・ニューヨーカーが発行される前にはコメントすることはできないと言っている)。

 28年間の軍法施行の経歴の間、陸軍憲兵学校の司令官であったチャールズ・ハインズ元少将は、このレポートについて質問したところ、彼は危惧の念を持っていた。「部屋にいる人間に対して犬を解き放つ?戦争捕虜に対して犬を放つ?そんなことは聞いたことがない。それは決して容認されない」とハインズは述べた。訓練された警察犬は陸軍刑務所において、ずっと捕虜のなかで麻薬やその他の禁制品を嗅ぎ分け、そして時には暴動を規制するために使われる存在であったとハインズは付け加える。しかし「私はそれを捕虜の取り調べや威圧のために使うことを承認したことはない。もしそんなことをすれば私は監獄に送り込まれるか軍からたたき出されていただろう」と彼は言う。

 昨年中、国際赤十字と人権グループはイラク人収容者に対するアメリカの扱いに対して繰り返し批判していたがほとんど効果がなかった。先月、デンバー・ポストにおいて明らかにされたケースでは陸軍諜報大隊の3人の兵士はアブグレイブで女性イラク人収容者に対する強姦で告発された。不服審査の後、3名は「少なくとも500ドルの罰金と降格」に処せられたと新聞では告げている。

 1月13日、ある憲兵が軍の調査官に生々しい写真が入ったコンピューターディスクを渡した時に、軍司令官達は異なった反応を示した。その画像は第320大隊のコンピューターの間で受け渡しされていたのである。軍の上級司令官達は即座に問題があることを理解した――アメリカを汚し戦争の大義にダメージを与える、政治的、社会的な大惨事となる可能性があるということを。

 尋問を受ける最初の兵士の一人が、アブグレイブで夜勤に就いていた憲兵軍曹のイヴァン・フレデリックであった。虐待への関与についてイラクでの軍法会議に出廷するよう命じられたフレデリックは1月14日の夜中2時30分に軍隊犯罪捜査部(C.I.D)の捜査官の訪問から始まる管理日誌をつけていた。フレデリックは書いている。「私は、自分の部屋からは見えない、建物の玄関に連れて行かれたが・・・その間、2人の見知らぬ男が私の部屋にいたのです。『二人の男は私の部屋を捜索していたのか?』」。そうだという答えがあった。フレデリックは後になって、正式に捜査官がカメラ、コンピュータ、記憶装置を調べることに同意した。

 1月16日、軍当局が写真を受け取ってから3日後に、中央司令官は収容者に対する虐待についての調査に関するわずか数行のそっけないプレスリリースを発表した。先週、ドナルド・ラムズフェルド国防長官は疑惑について知ったのはその時だと語った。その後しばらくしてラムズフェルドはブッシュ大統領に報告した。1月19日、イラクの米軍司令官のリカルド・サンチョス中将はアブグレイブの秘密調査を命じた。2週間後にはタグバ将軍が調査を実施するよう命令された。タグバ将軍は2月26日に報告書を提出した。先週の統合参謀本部議長リチャード・マイヤーズ将軍の上院での証言によれば、それまで「建物内(統合参謀本部のことか・・訳者注)の」人々はずっとその写真について議論してきていた。マイヤーズ自身の説明によれば、彼は未だにタグバの報告書を読んでおらず、写真も見ていないにもかかわらず「シクスティミニッツU」に報道を遅らせるよう説得するのに十分なだけ虐待について知っていると言うのである。

 先週のペンタゴンの記者会見においてラムズフェルドと統合参謀本部副議長で海兵隊司令官のピーター・ペースはアブグレイブの調査は指揮命令系統に沿って規定どおりに行われたと主張した。軍の動きが遅いというのであれば、それは軍が備えもっている安全防護によるものだ。「調査が完了しそれが非常に組織だったやり方で指揮命令系統に沿って上がってきたということを知るのは重要なことだ。その結果、文書で報告する人間が次の上位のレベルの司令官に[それを送る]ことになる。しかし、そうした時には彼や彼女は資料全てを読み法律上の助言を得て、自分のレベルに妥当な決定を下すために1-2週間、時には3週間の時間を要する。・・そのやり方で全ての人の権利が守られ、全てのプロセスを系統的に見ることが出来るようになる」とペースはジャーナリストに述べた。

 しかし退役あるいは現役の将校とペンタゴンの担当官達はインタビューにおいて、軍の機構が働いていなかったと語っている。この虐待の本質についての情報――そして特に政治的に有毒な写真は――は厳格に、そして異常なほどに制限されていた。ある情報通の元諜報員は、そのような疑惑を通常は知っているはずの上級職員達の事だがと強調しながら、「私が話した誰もが『何も知らなかった』と言った。――統合参謀本部においてさえも」「私はそれを知っている内部の人間と話した事がない――どこにも。それが軍幹部を当惑させている」とある情報通の元諜報員は語っている。軍の上級将軍達のほとんどはアブグレイブの疑惑については同様にかやの外だとペンタゴンの上級職員は語っている。

 先週ペンタゴン内部において、責任の指摘のが洪水のようにあふれ出た。あるトップの将軍は、イラクの司令官は昨年の春、アメリカの施設にするのではなく、強力な爆弾であるC4を使ってアブグレイブ――その監獄はサダムフセインの下、残酷さで知られていた――をその全ての「感情的なお荷物」と共に吹き飛ばすべきだったと仲間に不満を漏らした。ある退役した将軍はアブグレイブの虐待について「命令遂行の欠如という点で常軌を逸している」と語った。その職務を解任されたアブグレイブの司令官のジャニス・カーピンスキー准将を引き合いに出しながら「上級将校はどこにいたのか?一兵卒のことを問題にしているのではない。」と彼は付け加えた。「これはとてつもないリーダーシップの欠如だ」。

 ラムズフェルドのオフィスの文官と共に、サンチェス将軍とフロリダ州タンパの中央軍ジョン・アビザード将軍は年の初めの数ヶ月間、この問題を内密にしておくことに最大限の注意を払ったと多くの上級司令官が信じている、とそのペンタゴン当局者は語った。公式の指揮命令系統はイラクのサンチェス将軍からアビザードへ、そしてラムズフェルドとブッシュ大統領へと流れる。「関心によって、マッチした行動だったり行動しなかったりする。公表されない(not being forthcoming)ようにする動機は何か?彼らは大きな外交的問題を予感していたのだ」とそのペンタゴン当局者は言う。

 秘密主義と希望的観測がラムズフェルドのペンタゴンを特徴づける性格であり、アブグレイブからの報告書への応答にもそれが現れているとペンタゴン当局者は言う。「彼らはいつも悪いニュースの発表を遅らせたがる−何か良いことがその悪い知らせを打ち破ることを期待して。」と彼は言う。悪いニュースに直面した場合にずるずると引き延ばす習慣により、ラムズフェルドとイラクでの軍隊の要求に対して計画する役目の軍スタッフ将校の間の断絶状態が生まれたのである。1年前、反占領闘争により軍が更に予備役部隊を動員しなければならないことが明らかになった時に、ペンタゴン当局者は「30日か40日間、国防長官のオフィスで召集命令を塩漬け(languished)にした」と私に言った。ラムズフェルドのスタッフは、軍隊の追加なしに問題を放置しておけば何とかなるとして、好転する何かを常に待っているようだった。「彼らは何の決断もしなくてよいことを期待していた」と当局者は説明する。その遅れは配備されるいくつかの部隊において兵士がわずかな時間で気持ちを準備し家族や経済的問題などを処理しなければならないということを意味していたのである。

 全く同様に悪いニュースに対する故意の無頓着はここ数年、軍が行ってきた一連の念入りな戦争ゲームにおいて明白であった、とペンタゴン当局者は語る。イラク戦争の今後を評価し、将来の軍隊派兵の必要性を予測しようとする中で、企画者は一番良いケース、中間のケース、そして最悪のケースのシナリオの説明をしようとした。全てのケースで実際に要求された軍隊の数字は最悪のケースの分析を超えていた。それにもかかわらず、統合参謀本部とペンタゴンの文官当局者は将来の計画を最も楽天的なシナリオをベースにしたものを主張し続けた。「その楽天的な評価はこの時点−2004年中間−において、米軍はたった一握りの戦闘旅団を必要とするだけであろう」というものだったとペンタゴンの当局者は言う。「今や、同盟軍も枯渇し、米軍の軍隊の数は20近くにものぼっている。大変な見当ちがいであった」。「始めから、軍の共同体は予測と見積もりは現実的でないと言っていた」と当局者は付け加える。今や、「我々は13万5千人の部隊を維持しながら兵士に帰郷するのに十分な時間を与えることに躍起になっている」と彼は言う。

 この火曜日の記者会見においてラムズフェルドは、アブグレイブからの写真と物語はイラクにおけるアメリカの政策に逆行するかと聞かれて、まだ否定的なようだった。「いや、即座に歴史上の事実にしてしまうということには私は賛成しかねる」と応えた。しかし金曜日に議会のメンバーと社説が彼の辞職を要求する中で、ラムズフェルドは議事堂と上院の前で長々と証言し、アブグレイブでの悪行を自ら「基本的にアメリカ的ではない」と述べ、謝罪した。ラムズフェルドは又、更に多くの、そして更に醜い情報開示があるということを警告した。ラムズフェルドは、写真のいくつかが新聞記事に載るまでにアブグレイブの写真を実際には見ておらず、1日前まで軍の資料も読んでいないと言った。実際にそれらを見た時に、それらは「信じがたいものだった」と彼は言う。後に彼は「露骨にサディスティックで残酷で非人間的としか言いようのない行為・・・を描いた他の写真がある」と言った。「更にひどくなることを心配している」。「私はそれがいかに重要か認識できなかった」とラムズフェルドは付け加えた。

 その後NBCニュースは米軍当局者が、未発表の写真は米兵が「イラク人収容者をほとんど殴り殺し、イラク人女性収容者を強姦しそして『死体に不適切な行為をしている』」と語るのを報じた。当局者はまた、「イラク人警備員が若い男子を強姦しているのを写した、明らかにアメリカ人によって撮られたテープがあると言った」と語っている。

 先週のお詫びめいた証言も政治的な変節も、9月11日の攻撃以来、ブッシュ大統領と彼の側近が古いルールが適用されないテロとの闘いにかかわって来たと、彼ら自身が見なしているということを隠すことはできないであろう。オフィスの奥で、ペンタゴンの上級の将軍と司令官が攻撃的に振舞うことを嫌がっているのを目の当たりにしてラムズフェルドは苛立っていた。2002年の中旬頃には、彼と彼の上級の補佐官は軍のリーダー達の精神を変え、「より大きなリスクを取ら」せようとすることについてのメモをこっそりと交わしていた。あるメモではペンタゴンの将軍達をあざけるように「『起訴できる諜報活動が起訴できるようになるための』必要条件が我々を麻痺させている。我々は全ての質問が答えられないうちに行動を起こさなければならないかもしれないということを承知していなければならない」。「今日の軍隊での『ベルトとサスペンダー』という考え方を打ち破らなければならない・・・我々は全ての不慮の出来事を計画しすぎる・・・我々はリスクを喜んで受け入れなければならない」と国防長官は告げられた。メモは続く。外国の敵の死を伴う作戦ではペンタゴンにおいて企画立案はなされるべきではない。「結果は委員会での決定となるだろう」。
(2)へ続く