参院憲法調査会(3・3)

平成十二年三月三日(金曜日)
   午前十時四分開会
    ─────────────
   委員の異動
 三月一日
    辞任         補欠選任
     大脇 雅子君     田  英夫君
 三月二日
    辞任         補欠選任
     阿南 一成君     森田 次夫君
     直嶋 正行君     藤井 俊男君
     田  英夫君     大脇 雅子君
    ─────────────
  出席者は左のとおり。
    会 長         村上 正邦君
    幹 事
                久世 公堯君
                小山 孝雄君
                鴻池 祥肇君
                武見 敬三君
                江田 五月君
                吉田 之久君
                白浜 一良君
                小泉 親司君
                大脇 雅子君
                扇  千景君
    委 員
                岩井 國臣君
                岩城 光英君
                海老原義彦君
                片山虎之助君
                亀谷 博昭君
                木村  仁君
                北岡 秀二君
                陣内 孝雄君
                世耕 弘成君
                谷川 秀善君
                中島 眞人君
                野間  赳君
                服部三男雄君
                松田 岩夫君
                森田 次夫君
                浅尾慶一郎君
                石田 美栄君
                北澤 俊美君
                笹野 貞子君
                高嶋 良充君
                角田 義一君
                藤井 俊男君
                簗瀬  進君
                魚住裕一郎君
                大森 礼子君
                高野 博師君
                橋本  敦君
                吉岡 吉典君
                吉川 春子君
                福島 瑞穂君
                平野 貞夫君
                椎名 素夫君
                水野 誠一君
                佐藤 道夫君
   事務局側
       憲法調査会事務
       局長       大島 稔彦君
    ─────────────
  本日の会議に付した案件
○幹事補欠選任の件
○日本国憲法に関する調査

    ─────────────
○会長(村上正邦君) ただいまから憲法調査会を開会いたします。
 幹事の補欠選任についてお諮りいたします。
 委員の異動に伴い現在幹事が一名欠員となっておりますので、その補欠選任
を行いたいと存じます。
 幹事の選任につきましては、会長の指名に御一任願いたいと存じますが、御
異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○会長(村上正邦君) 御異議ないと認めます。
 それでは、幹事に大脇雅子君を指名いたします。
    ─────────────
○会長(村上正邦君) 日本国憲法に関する調査を議題といたします。
 前回、二月十六日の調査会では、今後の本調査会の進め方や憲法をめぐる諸
問題について委員の皆様から貴重な御意見を拝聴いたしました。
 その中で、今後の本調査会の進め方としては、二十一世紀の日本の国のあり
方をどう考えるのか、憲法と現実の間にどのような乖離があるのかといった幾
つかの視点が提起されました。また、具体的なテーマとして、憲法の制定過程、
第九条や安全保障の問題、平等原則、環境権を初めとする基本的人権の問題、
教育の問題、二院制や地方自治の問題などさまざまな御提案がありました。
 本日は、このような前回の論議を踏まえ、これまでに出された意見に対する
質問、反論など皆様の忌憚のない活発な熱のこもった論議を会長として心から
御期待を申し上げ、今後の調査会の方向性を見出していきたいと存じます。
 本日の進め方といたしましては、まず各会派から一名ずつ御意見をお述べい
ただいた後、委員相互間で自由に、あなたのこのような発言についておれはこ
う考えるがどうだと、ひとつ大いに議員間の論議をいただきたいと存じます。
 なお、御発言は着席のままで結構でございます。
 それでは、御意見のある方は順次御発言を願います。鴻池祥肇幹事。
○鴻池祥肇君 発言の機会をいただきましてありがとうございます。自由民主
党の鴻池祥肇でございます。
 二月十六日のこの調査会におきまして、我が党からそれぞれ意見が出されま
した。ほぼ同じような私も意見でございまして、特に参議院は一致団結した自
由民主党でございますので、重ねての発言になるかもしれませんがお許しをい
ただきたいと思います。五点に絞って発言をさせていただきたいと思います。
 まず、この憲法が施行されてより約半世紀という節目というものを重点的に
考えなければならない。これは憲法がつくり上げてきた戦後憲法体制というも
のをトータルに振り返る絶好のポイントであると思います。どこでありまして
も五十周年というものが節目でありますように、憲法もやはり五十年は総括の
ポイントであると思います。制定過程の検証も大変大事なことだと思います。
これは白浜委員よりの御発言にもございました。
 冷戦も終わりました。そして、かつての連合国が掲げておりました正義ある
いは文明という大義名分というものも色あせてきた現状ではないかと思います。
いわゆる連合国は正義であった、日本は悪であった、こういう単純な図式から、
自由な歴史的な検証が今行われていいときであると思います。
 重ねて申し上げれば、戦前が悪であった、戦後がイコール善であるという一
方的な前提、観点にとらわれない問題の分析が必要ではなかろうかと思います。
 二点目には、国民世論の進み方というものを基本に考えなければならないと
思います。
 世論調査によれば、国民の改憲志向というのは大変多くなってきております。
この世論を無視できないと私は考えます。改憲の発議権は国会にしか与えられ
ておりません。その国会が国民世論を無視してサボタージュすれば、国民はそ
の重大な国政参加の機会の一つである国民投票にすらたどり着けない。これは
国民の権利を絵にかいたもちにするものであると思います。国会議員は国民の
負託を受けているという立場を忘れるべきではないと思います。
 もちろん調査会は改憲案をつくるためのものではないということも承知をい
たしております。しかし、調査の結果、憲法に問題があるという結論になった
ら速やかに改憲作業に入るべきであります。立法府の調査にはおのずとそれな
りの特色がある。それはあくまでも立法を前提にした調査だということであり
ます。また、それゆえに、調査には政治の時宜に応じためり張りといったもの
があっていいのではないか。先日の御議論の中にも、ただ五年間というのでは
なく、議員の任期、政治状況などを勘案しつつ中間報告というものも必要では
ないかという意見が出ておりましたけれども、私はこれについて賛成でござい
ます。
 三点目には、憲法三原則についてであります。
 これを強調するのは自由ではございますけれども、余りにも漠然とした議論
ではなかろうかと思います。例えば、平和主義と言いますが、そこには自衛隊
の存在はどう位置づけられるのか。国民主権と言いますが、それは天皇の存在
を根本的に容認してのものなのか。人権と言いますけれども、それは国家の存
立、公共の福祉という問題といかなる関係に立つのか。各政党、論者によって
はそれぞれの解釈が異なるものと思われますけれども、そうしたあいまいな状
態を明確化すること、むしろこの点を明確にするためにまず三原則こそ調査の
テーマにすべきではないかと思っております。
 四番目に、憲法と現実の乖離という問題について申し上げたいと思います。
 今日我々が直面している現実の問題は、悠長な議論をいつまでも待っている
ような問題もあります。少なくとも立法府としては即刻結論を出さなければな
らない問題もございます。その意味で、そうした議論には緊急性にふさわしい
一定の優先度が与えられるべきではなかろうかと思います。
 私は、以下、そうした観点から緊急度が高いと考えられるテーマについて申
し上げたいと思います。
 一つ、我が国の安全保障と憲法の問題、二つ、自由、人権の問題と国民の価
値観の混乱の問題、三つ目、今日の状況に有効に対応し得ない政治システムの
問題。
 最後に、何を守るかという問題について申し上げたいと思います。
 先ほど申し上げた憲法三原則を守るというのも一つの立場でもあろうかと思
いますけれども、我が国の歴史、伝統は守らなくていいのでしょうか。二十一
世紀は国民のアイデンティティーが問われる世紀になると言われておりますけ
れども、この憲法は余りにもこの問題に無理解ではなかろうかと思います。二
十一世紀の国の形を論ずる、これは大変大事なことであると思いますけれども、
それは空中に楼閣を築くようなものであってはならないと思います。歴史、伝
統の護持、継承を離れてそれは成らないということもあわせて強く申し上げて
おきたいと思います。
 以上でございます。
○会長(村上正邦君) 石田美栄委員。
○石田美栄君 民主党・新緑風会、石田美栄でございます。
 憲法制定後五十四年間の間に何回かの、多分四回大きな憲法議論の波があっ
たと思います。その中で、今回のこの波は、相当長い間を経て憲法議論、憲法
を見直してみることへの国民一般の大方の理解が進んできた結果だろうという
ふうに考えます。
 前回の一九五七年から一九六四年の間、七年かけての憲法調査会は、設置形
態も今回のとは異なり、結果としては研究会報告となったようであります。し
かし、今回の立法府に憲法調査会が設置されたことの意味は非常に重大だと思
います。ですから、おのずとある方向性があり、この調査会は大変責任あるも
のと考えます。
 戦後、日本の平和と繁栄をもたらした日本国憲法については、私は大方の人
が評価していると思います。とりわけ女性にとっては、性別によって差別され
ないの一言が女性の地位向上にどのように効力を発揮してきたかということは、
本当に私自身もありがたいと思ってまいりました。
 しかし、五十年以上を経た今、大きな時代の変化もあって、憲法の大部分の
普遍的なもの、理想とすべきことと相まって、現実との乖離を感じざるを得ま
せんし、現実に十分に対応するには欠けているところもあるということも否め
ない現実だと考えます。またさらに、二十一世紀のこの国の形、日本の将来展
望をもしっかりと踏まえた上でその礎である国の憲法をこの際見直してみると
いうことは非常に重要なことであります。
 憲法議論は絶えずありましたし、今論点は出尽くしているのかもしれません
が、この二〇〇〇年という節目の年に始まって、だれもが国の将来に幾ばくか
のあるいは大いに不安を抱いている国が曲がり角にあるとき、国会の中に公式
の場、この憲法調査会の場で、この際できる限り多くの一般国民と総結集の議
論を共有することに努めて、国民の理解と関心、関与を深めていくことが非常
に重要であると考えます。
 したがって、この調査会は、ある程度しかるべき経過、時間が必要であろう
と思われます。しかし、過去にもう既に多大の実績がありますので、それを踏
まえて効率的にやるべき部分と、時間をかけてしっかりと議論しなければなら
ない部分を見きわめて進めていくべきだというふうに考えます。
 非常に何といいますか全体を網羅したようなまとめのような意見でございま
すが、以上でございます。
○会長(村上正邦君) 白浜一良幹事。
○白浜一良君 前回の本調査会で、私ども基本的な考えは述べました。現憲法
の三原則、普遍的原理であるということと、憲法九条を堅持するということ、
その上で幅広く憲法を論じていこうと、こういう基本的立場を述べたわけでご
ざいますが、前回の総括的な皆様方の御意見を伺いましてちょっと所感を三点
にわたって述べたいと、このように思います。
 一つは、現憲法の制定過程、GHQが大きな影響を持ったというのは、これ
は事実だろうと思います。しかし、その過程があるから自主憲法というのは私
は間違いだと思います。少なくとも、戦後五十年、この憲法が現実社会の中で
生き続けたわけでございます。特に九条に関して申し上げましたら、さきの大
戦の反省といいますか、二度と戦争というのはあってほしくないという、そう
いう国民感情が強くあったのはこれは間違いない事実でございまして、ですか
ら、制定過程に問題があるから自主憲法と、こういう拙速な議論は私は余り正
確じゃない、このように思うわけでございます。
 二点目に申し上げたいことは、とはいえ、戦後五十数年たちまして時代も大
きく変わりました。いわゆる現憲法には明確に規定されていない新しい理念も
あるのは事実でございます。たびたび皆様方から御発言されたような、例えば
環境権であるとかプライバシー権であるとか、そういう新しい理念が必要だと
いうこともございますし、また二十一世紀のいわゆる国際社会における新しい
日本のあり方という観点でいえば、現憲法のままでいいのかというそういう議
論も当然でございまして、私は、そういう意味では幅広く憲法を議論していく、
そういう時期ではないか、このようにも考えているわけでございます。
 それから、三点目に申し上げたいことは、これは拙速であってはならないと
いうことでございまして、国の形と憲法は一体であるという、こういう観点か
ら申し上げますと、やはり世論の支持がなければ憲法を論ずることはできない
わけでございまして、その意味では、本調査会が会長のもとで国民とともに憲
法を論じていこうという、そういう方向性を示されたことを私は正しいと思い
ますし、各界各層の意見交換の中でどのように国民に支持が広がっていくか、
世論形成がなされていくかというそこが一番大事であって、拙速であってはな
らない。
 前回の議論を通しまして要約的にこの三点を申し上げておきたい、このよう
に思います。
○会長(村上正邦君) 小泉親司幹事。
○小泉親司君 憲法調査会の運営について、前回に引き続きまして発言をさせ
ていただきます。
 まず、調査の進め方の問題ですが、先日の憲法調査会で、調査期間について、
議員の任期を理由に五年先のことについては責任持てないというような発言が
ありました。期限を切った審議期間の発言でありました。しかし、この調査会
は、憲法の広範かつ総合的な調査を行ってその結果を議長に報告するという任
務でありますから、議員の任期を理由に期限を決めて調査を行うという性格の
ものではないというふうに思います。調査会規程では報告書の提出に期限を付
していないというのはこの理由からだというふうに思います。
 また、改憲、論憲、護憲というそれぞれの立場が報道されておりますけれど
も、私、それぞれの立場はともかく、この調査会はあくまでも憲法の広範かつ
総合的な調査を行う機関だということをきちんと明確にすることが必要だとい
うことを申し上げておきたいというふうに思います。
 次に、何を調査するかの問題ですが、私は、調査会が、憲法の広範かつ総合
的な調査という趣旨から、憲法の基本原則について議員間の活発な討論を行っ
て、調査会として主体的に何を調査すべきであるのか、その点をまず優先して
明確にすべきだというふうに思います。
 私たちの基本的態度はさきの調査会で橋本委員が明確にしておりますけれど
も、さきの調査会での他の委員の発言でも、そして現在の当調査会の発言でも、
国民主権、恒久平和主義、基本的人権などのいわゆる基本的な憲法の原則につ
いて広く学識経験者などから意見を聴取する必要があるのではないかという発
言がありました。
 憲法九条を中心とする恒久平和主義は、世界でも冠たるもので、これを国際
的に広く明らかにする必要があると思います。基本的人権の問題についても、
フランス革命の人権宣言に明記されたようないわゆる市民的、政治的権利だけ
ではなくて、社会的な権利、経済的な権利も基本的人権の内容として大変詳細
にうたわれているのが現憲法の特徴であるというふうに思います。こういう実
態をそれぞれ広範かつ総合的に調査することが基本的な憲法調査会の大事な仕
事であるというふうに思います。
 国民とともに議論するということで、各界各層から意見を聞いたらどうかと
いうようなことが具体化されようとしておりますけれども、私はこれについて、
一体調査会が何を調査するのか明確にしないまま意見を聞くのは時期尚早だと
いうふうに考えております。
 次に、制定過程の問題についてでありますが、さきの調査会で、現憲法は占
領中の国の主権がない時代あるいは大幅に制限されている時期に国際法に違反
して制定されたものだという発言がありました。憲法を調査する機関で、現憲
法が占領下の日本で結ばれたことを理由にして国際法違反だということを断じ
ることは、憲法は無効と言うのに等しいもので、その憲法を調査するというの
は明らかに矛盾した議論に帰結するものだというふうに思います。
 これらの議論は学界でも今日認められていませんし、この意図は調査会を改
憲論の足がかりにする議論と言わざるを得ない。それどころか、現憲法は軍国
主義とファシズムを打ち破った世界の平和的、民主的な世論と日本国民の平和
志向を反映したものであって、進歩的なものだというふうに思います。
 しかも、日本はポツダム宣言を受け入れて降伏して、そこに明記された原則
を実行する国際的責務を負ったということでありまして、この種の議論から見
て、国際法とはヘーグ陸戦条約を指しているというふうに考えておりますけれ
ども、そこに明記された占領中というのは、交戦中の占領下と解すべきである
ことは既に通説であります。
 私は、制定過程の問題について調査という場合、検証するべき事実として、
改憲論がどこから始まったのか、その源流に迫る歴史的調査もあわせて提起し
たいというふうに思います。
 私は、アメリカのロイヤル陸軍長官が当時の国防長官に対して憲法施行の翌
年の四八年に報告した「日本の限定的軍備」という文書を入手しましたが、こ
の文書では、今や将来の防衛のための日本軍を容認する立場で新憲法の修正を
達成するための調査が行われるべきだと提案して、改憲を公然と主張していま
す。
ここにアメリカからの改憲論の源流があるのであって、やはりこういったアメ
リカの公文書などについての掘り下げた調査を行って、改憲論がどのようにし
て提起されたのか、歴史的調査を当調査会でも行うよう提案をしたいというふ
うに思います。
 以上であります。
○会長(村上正邦君) 大脇雅子幹事。
○大脇雅子君 第一回のフリートーキングを集約いたしますと、憲法における
主権在民と民主主義、平和主義及び個人の尊厳と基本的人権保障の原則は、憲
法に内在する人類の普遍的価値であるということが多くの委員の意見によって
確認されたと思います。
 多くの委員から現憲法の制定過程についてさまざまな意見が出されているの
で、それについて意見を述べたいと思います。
 憲法の調査においては、現憲法の形式上の制定過程のみを調査しても、その
本質的部分を理解することはできません。
 岩倉具視を団長とする遣欧視察団報告書「特命全権大使米欧回覧実記」は、
大国のみならず小国の調査もして鋭い洞察を加えています。明治維新のリーダ
ーたちがこの国の形をどうしようとしたか、明治憲法はどのように制定された
かも見るべきでありましょう。
 他方、植木枝盛の「東洋大日本国国憲按」等、自由民権運動を全国的に展開
した民衆のこの国の形への思いはどうであったか。
 私擬憲法はおよそ六十八案あったと言われております。そのような無名の民
間憲法草案にも先駆的内容を持ったものが多く存在いたしました。ぜひとも調
査の中で発掘し、研究すべきでありましょう。近代日本の出発点においてもう
一つの日本をつくろうとした民衆の伝統と歴史の経験を引き継ぐ必要があると
思います。
 その後の歴史の中で、日本は覇権を求めて軍事大国として列強の一員となり、
敗戦に至ったのでありますが、大正デモクラシーも視野に入れて、我が国の立
憲君主制と議会制民主主義の変遷プロセスを明らかにし、貴重な歴史の教訓を
我々は求めるべきであると思います。
 現憲法制定誕生過程においても、憲法研究会の「憲法草案要綱」や高野岩三
郎「日本共和国憲法私案要綱」、社会党を初めとする各政党の新憲法草案や私
擬憲法草案等は、これまでの自由民権論の水脈を受け継いで国家を超えた多様
な各国憲法を参考にしております。日本の民衆の伝統を踏まえて二十一世紀の
国の形を論ずることが重要であると思います。
 二十一世紀の国際社会における日本のあり方を問うべきだという意見が出さ
れております。この場合、国際社会の動向を踏まえ、我が国の理論的、実践的
努力の成果を踏まえて検討が加えられるべきであると思います。
 例えば、憲法前文と憲法第九条を考察いたしますと、簗瀬委員も憲法前文の
重要性を指摘されておりますが、憲法が存在することによって日本は軍事力や
武力という軍事価値を重視しない文化、国民の気風を育ててきたと思います。
そして、憲法施行五十年を経て、平和的生存権という人権の理論を紡ぎ出して
きました。
 平和的生存権とは、戦争や軍事力によって自己の生命や生活を奪われない権
利で、徴兵を拒否する権利も含み、国の交戦権を否認して統治権を制限する権
利としての意味を持ちます。十九世紀は自由権的基本権、二十世紀は社会的生
存権、二十一世紀の人権はまさに平和的生存権であると思います。
 憲法は、国際条約の平和への権利を先取りし、核の時代に戦争という選択肢
がなくなった今、平和的共生のための基本的指針として国際的に現実性を持つ
ようになったと思われます。これは、日本の歴史の中で培われてきた非戦や軍
備撤廃の思想的伝統が胚として内にはらんできた思想でありました。
 グローバル化しつつある社会や人間関係を地球規模の枠組みでとらえ直すと
き、国連における国際社会の政策目的も、今やヒューマンセキュリティー、つ
まり人間の安全保障を中心に据えた紛争の予防と平和の構築が提案されており
ます。
 アメリカでも、チャールズ・オーバビー博士は憲法九条の会を結成して運動
が続けられております。アジア太平洋における平和と軍縮会議のマニラ大会に
おいても、日本国憲法九条を守る決議がなされております。ハーグ平和会議に
おける各国議会は日本国憲法九条に倣い政府が戦争することを禁止する決議を
行うべきというアジェンダ等、国際社会において我が国の憲法はその現代的意
義が生かされつつあります。
○会長(村上正邦君) ほぼ時間が参っておりますが。
○大脇雅子君 はい。
 冷戦の中を生き抜いてきた平和憲法は、今、護憲を超えて世界へ発信される
べきものと思われます。これを布憲論と呼ぶ学説もあります。
 最後に、きょうはひな祭りです。九条改悪を許さない女たちの集いで朗読さ
れた高良留美子の詩を朗読したいと思います。
 世界に広がっていけ
 わたしたちの憲法
 それは世界平和のさきがけ
 生命の芽
 泥の海をこえて
 新しい世界の到来を告知する
 オリーブの一枝
○会長(村上正邦君) 平野貞夫委員。
○平野貞夫君 前回の自由討議に引き続きまして意見を述べさせていただきま
す。
 第一点は、憲法制定権、改正権は国民にあるということをこの調査会の基本
姿勢にすべきだと思います。
 御承知だと思いますが、国会には憲法制定権の権限はございません。最終的
には国民投票で承認するという憲法の仕組みになっておりますので、私たちは
国民の判断の材料を提供するということだと思います。
 ということから考えますと、今国民が現憲法に対してどのような認識、理解
をしているかということを的確に知る必要があると思います。もちろん調査会
のあり方、進め方も含めてのことでございます。そのため、広く国民から意見
を聞く、国民と意見を交換する機会をつくっていただきたいと思います。例え
ば、スタートとしましては、大学生だとか若者を対象にして各界各層にわたる
人たちと率直な意見の交換が必要だと思います。そういうことを一つスケジュ
ールの中に入れていただきたいと思います。
 第二点でございますが、前回の調査会の審議の報道についてちょっと意見を
述べておきたいと思います。
 おおむね誠実に報道していただいたと思いますが、実は私の関係で、ごく一
部に極めて国民に誤解される報道がございましたので、それをこの機会に申し
上げておきたいと思います。
 一つは、これは単なるミスかもわかりませんが、二月二十日ごろ共同通信が
出しました記事で、私の名前を挙げて、「現在の憲法は衰退している。」とい
う括弧書きの記事がございますが、私は憲法は衰退しているとは言っておりま
せん。我が国、日本が衰退しているということを言ったわけでございまして、
非常にこれは国民の皆さんから反論がございましたので、誤解を解いておきま
す。
 それから第二点は、これは単なるミスじゃなくて非常に計画的意図があった
んじゃないかと思いますが、二月十九日の朝日新聞の社説で、私の申し上げた
ことを引用していただいたことは大変光栄でございますが、それを引っ張って、
「平野氏はこう述べ、まず憲法制定過程の調査を求めた。」と。これは事実で
ございます。
「米国からの「押しつけ憲法」論を前面に出す意図がのぞく。」と。勝手に私
の心をのぞいております。私は、取材でもあれば別ですが、全く五五年体制の
ときの改憲論、護憲論をやるつもりはございません。
 私は、小学校六年のときに憲法が制定、公布されたんですが、そのときに
「われらの日本」という新憲法施行記念国民歌というのを学校の先生に教わっ
た、歌ったことを記憶しております。私たちの世代は、それなりに今の憲法に
何だかんだ言っても一つの思い出、愛着というのを正直持っています。
 ただ、私がその制定過程をなぜ知りたいかということは、実はGHQの第一
次構想といいますか第一次案の中に、憲法に直接規定すべきだという意見で、
十年間憲法改正を禁止する、そして十年後、日本人の手で憲法をつくっていき
ゃいいじゃないかということを憲法に規定しようとしたわけです、GHQは。
私は戦争に負けたら押しつけられても仕方がないと思うんです。だから戦争を
やっちゃいけないんです、特に負ける戦争をやっちゃいけないんです。したが
って、私はGHQはある意味で賢明だったと思うんです。それをやめて、改正
規定を非常に厳しくして、そして日本に民主主義が定着するまでは改正させな
いよという政治的圧力をかけたようなんです。
 私は、十年後以降、この憲法をGHQは日本人の手で改正することを期待し
たのを放置した日本の政治の怠慢、これを問題にしたいんです。これは、恐ら
くイデオロギー、政治論抜きに委員の皆さん了解していただけることだと思う
んです。決して私は五五年的な改憲論者ではない。昨年亡くなりました、私非
常に親しかったんですが、元社会党委員長の山花貞夫氏が創憲という言葉を委
員長のころやりまして、これは社会党の中で消えちゃったんですが、むしろ私
たちはそういう意味で、改憲、護憲だけじゃないんです、創憲という意見があ
るということ。
 それから、もう一つだけ言わせていただきたいんですが、国会運営について
は憲法というのは実定法なんです。
 私は三十三年間国会事務局にいまして、人によっては三十、私は二十ぐらい
だと思いますが、国会運営に対して、憲法の言葉の規定の疑義や解釈のわから
ない部分が、不明な部分があるんです。大変国会運営に困っているんです。し
かも、例えば法律案の再議決とか予算、条約の自然成立なんかについては学説
も分かれ、一つ状況によっては政治が混乱する要素があるんです。
 こういうことを、運用解釈、制定過程の中で客観的に各委員が憲法の問題点
を理解する、認識するということが私は大事だということを前回申し上げたわ
けでございまして、朝日新聞の社説は、社論ですから、これは私は非常に責任
が重いと思うんですよ。私の言うことを引っ張って国民に誤解を与えて、そし
て一種のムードをつくろうというマスコミのやり方には私は本当は抗議を申し
込みたいんです。
私も昨年の通信傍受法の絡みで三浦編集局長から抗議文を受けている立場でご
ざいまして、けんかするつもりはございませんが。
 以上、報道のことをかけながら私の意見でございます。
○会長(村上正邦君) 水野誠一委員。
○水野誠一君 前回あるいは今回の各委員からの専門的な意見陳述を伺ってお
りまして、かなり具体的提案がなされているということでございますので多く
申し上げることはないんですが、幾つか感じている点を申し述べたいと思いま
す。
 憲法とは、皆さんおっしゃるとおり、まさにその国の形を示すものでありま
すし、その意味では国の歴史や文化を反映したものであるべきだと思っており
ます。すなわち、憲法においては基本的人権など人類共通の基本理念、これは
別として、いわゆるグローバルスタンダードだけにとらわれるべきものではな
い、こう思います。
 終戦直後に、敗戦国日本が、アメリカによってつくられた草案を短期的な、
短時間の翻訳と審議で受け入れた経緯ということを考えても、日本の文化が十
分に反映され尽くしているとは言いがたい、何か無機質な感じがするというの
は私だけではないのではないかと思います。とはいえ、もちろん少なくとも今
までは、この憲法が日本の平和主義、あるいは民主主義、あるいは基本的人権
意識を確立する上で大きな機能を果たしてきたことも事実であります。
 しかし、制定から五十年たった現在、国内での憲法の役割、あるいは日本自
体の国際的な役割、あるいは日本を取り巻く国際的な環境が大きく変化をして
きているという中で、改正をも視野に入れた見直しをするのは当然のことであ
ると感じています。無論、九条などの議論もタブー視すべきではないと思いま
すが、先日お隣の佐藤委員からも出ましたが、八十九条の私学助成問題など、
非常に細かい問題における矛盾点をも洗い出していくことも重要な作業になる
と思っております。
 また、第三章の「国民の権利及び義務」においては、さまざまな権利の列挙
があるわけでありますが、その義務については、教育の義務、勤労の義務、納
税の義務程度しか書かれていない。これもいかがなものかと感ずるところはあ
ります。勤労する権利と同時に義務があるというふうに書かれておりますが、
また、教育を受ける権利があると同時に保護する子女に教育を受けさせる義務
があるというふうに書かれておりますが、それと同様、権利を主張する裏には
必ず社会に対して果たすべき義務があるはずであります。
 昨今はこの権利意識ばかりが肥大化して義務が忘れられていることが多いと
いうふうに感じますが、そういう時代であるからこそ、国民の権利とは一体何
かといった議論も重ねるべきだと思います。
 とは申せ、余りいたずらに神学論争あるいは建前の手続に時間をかけ過ぎる
ことは許されないと思います。現実問題に即した活発な論議を積極的に行い、
それを広く公開していくべきであります。それと同時に、ある一定の期間目標
を決めていくべきだというふうにも考えております。
 また、参議院らしいという視点からいけば、党利党略にとらわれるべきでは
ない。開かれた委員各位の個人的な意見を重ね議論をしていく、ここに期待を
していきたいと思います。
 昨今、政治不信の状況ということが言われるわけでありますが、こうしたタ
ブーなき開かれた議論がなされること、そして国民の意識を高めていくことに
よって、政治の信頼回復に積極的にこの会の活動を役立てていくべきだと思っ
ております。
 以上です。
○会長(村上正邦君) 佐藤道夫委員。
○佐藤道夫君 前回も申し上げたことでありますけれども、憲法改正の論議と
いうのは、どうしても憲法の三原則なるものを中心とした観念論、抽象論に陥
りがちである。学者の研究会あるいは学会での討議ならばそれはそれで結構な
のでありましょうけれども、ここはまさしく唯一の立法機関である国会の、憲
法の運用に携わっている国会の中での議論でありまするから、やっぱり地に足
をつけた議論、一つ一つの条文について一体これはどうなっているのか、余り
にも運用と憲法の規定が違っているのではないかとか、そういう観点からの実
務的な議論が望ましいと思うわけであります。
 前回も二、三の例を挙げましたけれども、改めてもう一度申し上げておきた
いと思います。
 最初は、前文なのでありますが、これは五十年前に書かれた言葉でありまし
て、もう内外の諸情勢は全く違っておる。二十一世紀も間近という段階に、こ
の前文をこのまま後生大事に抱きかかえていっていいのかどうか、議論される
べきであろうと思います。
 それから、憲法がつくられたころから、元首に関する規定がないという指摘
がありました。元首、この規定を置くべきかどうか、置くとすれば元首は天皇
なのか内閣総理大臣なのか、この辺もやはり議論をされるべきでしょう。
 それから、何といっても第九条。第九条は、皆さん方御承知のとおり、陸海
空軍その他の戦力は保持しないと、こうなっております。自衛隊はあれは戦力
ではないのかと、すぐこういう議論になってきます。やはり現実との乖離が余
りにも甚だしいのが第九条、これをどうすべきかということも真剣に議論さる
べきでありましょう。
 それから、二十条の政教分離に関する規定、「いかなる宗教団体も、国から
特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。」と、こう書いてあり
ますが、歴代の政府の見解なるものは、これは国が宗教団体に政治上の統治権、
これは警察権とか課税権などを言うようですけれども、それを与えることを禁
止しているんだと、こういうことを言っておりますけれども、条文を読んでみ
なさい。三歳の児童でも、そんなことは書いてない、「いかなる宗教団体も、」、
主語は宗教団体ではないのかと。もし政府の見解でいきたいというならば、こ
の二十条もきちっと政府の見解に沿った文言に改めるべきだろうと思います。
 それから次は、二院制の問題で、現行憲法上、一院が衆議院、二院が参議院
と、こういうことになっております。参議院のあり方についても憲法上考える
余地はないのか。一院である衆議院が政党政治と、こういうことになりますれ
ば、衆議院を補佐する、監視する参議院は、むしろ政党政治の枠から離れて個
人中心のものにすべきではないのか、こういう考え方もあろうかと思います。
大いに議論して結構だろうと思います。
 それから次は、憲法は「行政権は、内閣に属する。」、内閣は国会に対して
連帯して責任をとると、こういうことを書いてありますが、独立行政委員会な
るものがしきりとつくられまして、行政に民意を反映する、その代表例が公安
委員会なんですけれども、今予算委員会でも盛んに議論されておりますけれど
も、小渕総理は、何と何と、警察行政については指揮監督権がないと、こうい
うことを言っておる。
当たっているのかどうか知りませんけれども、一体、内閣から独立した行政機
関がいつの間にでき上がったのか、警察は裁判所と同じように独立なのかどう
か、この辺も大いに議論されてしかるべきであろうと思います。
 それから、今話にも出ましたけれども、八十九条の、公の支配に属さない教
育に関する事業には公金を支出してはならないと言いながら、私学助成に何千
億という金が出ている。学者はひきょうですから、全然こういう議論はしない
んですよ、学界から追放されますからね。そして、宗教団体に金をやるという
ことになると大騒ぎをして、憲法違反だ何だと、こう騒ぎ立てる。一体どうな
んだろうか。もう少し虚心坦懐に議論をすべきではないのか。どうしても私学
助成が必要だというならば、憲法の規定を削除すればよろしいわけですから、
それだけの話です。
 それから、今、直接民主制、この前の吉野川の可動堰の話もそうであります
るけれども、大変高く国民は評価しておって、何でもかんでも言うならばもう
国民投票にかけろと、直接投票制度にかけろと、こういうふうなムードもある
ようですけれども、果たしてそれでいいのかどうか。もしそれならば、どの範
囲まで国民投票にかけるということもきちっと憲法上明らかにしておくべきで
はないのか、こういう気がいたします。
 最後に、改正規定です。憲法の改正規定、大変厳格にでき上がっておりまし
て、簡単にはいかないようになっている。そのために過去五十年、改正も考え
られはしましたけれども実行には移されなかったということもあるので、改正
規定がこういう硬直した形でいいのかどうか、その辺も我々としてやっぱり議
論してみたい、こう思っております。
 以上でございます。
○会長(村上正邦君) 各会派一巡いたしましたので、これからは自由に意見
交換を行っていただきたいと存じます。
 あらかじめ御意見のある委員は事務局に申し出がありましたので、発言順序
は、会長の専権でございますのでお許しをいただきまして指名をさせていただ
きます。
 では、角田義一委員。
○角田義一君 私は、ごく簡単に、今までの議論を聞いておりまして、感想め
いたことを申し上げたいと存じます。
 私は、やはり日本の憲法の前文、特に政府の行為によって再び戦争の惨禍が
国民に及ばないようにするために、主権が国民にあるということを確認をして
この憲法を制定をするという前文のここのくだりは、非常に大事なくだりだと
思います。
 俗に平和憲法平和憲法と、こういうふうに言っておりますが、何で平和憲法
なのかということになりますと、やはり歴史的な経過を踏まえて、政府に戦争
をもう一度やらせないという大変な縛りをかけている憲法でありまして、私は、
日本国憲法の本質はそこにあるというふうに思います。
 したがいまして、平野先生後から弁明があると思いますけれども、あえて誤
解を、私は揚げ足をとるとかそういうんじゃなくて、先ほどのちょっと、負け
る戦争をやっちゃいかぬということでいうと、逆に勝つ戦争ならやってもいい
かということになるんで、そんなことを先生は考えていないと私は思いますけ
れども、要するに戦争をやらせないということでこの憲法はできておる。その
ための主権在民であり、そして恒久平和主義であり、基本的人権の尊重という
のはもう一体となっております。
 したがいまして、今後調査会を進めるに当たりまして、主権在民の問題であ
るとか、あるいは恒久平和の問題であるとか、基本的人権のありようについて、
五十年の歴史を顧みて検証するということは私は必要だと思いますし、そのこ
とに何の異論も私自身はございません。
 ただ、今の憲法はそういうものであって、その精神で今日五十年間やってき
た。
営々と我々が営んできて、そして戦争もなく、いろいろこれは理由があると思
いますけれども、戦争もなく、しかも経済的な繁栄も今日享受している。
 ただ、御案内のとおり、この五十年の間にいろいろ精神的な衰退もあると思
います。しかし、それは憲法のせいでは私はないと思う。別の原因でこういう
今日の悲惨な非常に嘆かわしい状態があるわけであって、それはそれで別の観
点からメスを入れていけばいいのであって、それを憲法のせいにするのはいか
がかというふうに私自身は率直に思います。
 それから二番目は、私はこれは白浜委員と基本的には同じ考えでありますが、
憲法の制定過程について、いろいろ御議論があるし、また問題があったという
ことは私は否定もいたしません。しかしそれは、いうところの押しつけ憲法で
あったから憲法を改正すべきであるというような短絡的な議論にはとても賛成
できない。
営々として今日まで五十数年間、この憲法のもとで我々は営んできた、営々と
営為を重ねてきたわけでありまして、そのことについてはやはり私は自信と確
信を持ってもいいというふうに思っております。
 もし、この制定過程を問題とするのであれば、当時の民衆はその憲法に対し
てどういう反応を示したのか、そこに調査の焦点を絞るべきである。当時の方
々はもう七十を恐らく越えておると思いますから、そういう七十を越えた今日
健在の庶民の声というものをむしろ私は重要視してこの調査会では聞くべきで
あって、もちろん学者先生の意見を聞くなとは申しませんが、むしろ民衆の生
の声をこの国会で聞くべきだ。その方が私どもの方針を間違うことはないとい
うふうに私は思っております。
 それから三番目でありますが、これは多くの先生の方から御指摘がありまし
たけれども、私どもはアジアがこの今の日本の衆参における憲法調査会の成り
行きをどう見ておるか、これを忘れてはならないと思います。
 あの新ガイドラインのときにも、かなり中国を初め、朝鮮を初め、東南アジ
アの人たちは非常に懸念を表明をいたしました。いい悪いは別でありますけれ
ども、自由民主党が単独政権をとっておったときにどういうことをアジアの民
衆に向かって言ってきたか。日本は平和憲法があるから軍事大国にならないと
言い続けてきたんですよ。これは国際公約であります、ある意味では。このこ
とを忘れてもらっちゃ困る。
 だから、今、恐らくアジアの民衆なりあるいはアジアの政府高官なりは、こ
の日本の今の衆参の憲法調査会はどういうふうになっていくのだろうかといっ
て私は非常に関心を持っておると思う。
 したがって、今後の調査の過程において、例えば各国の駐日大使がどういう
ふうな考えを持っておるかというようなことを率直に私は意見を聞いたらよろ
しいと思います。場合によったら、この調査会も中国や朝鮮や東南アジアに委
員を派遣して、今、どういう、日本国憲法に対して彼らが持っておるかという
ようなことも私は率直に聞いたらよろしいと思っております。
 そのことを絶対私は忘れてもらっては困る。もしまかり間違ったことになり
ますと、私はアジアの民衆から日本が孤立をするということを非常に恐れてお
りまして、今後の調査会においても、その辺の視点をぜひひとつ忘れないでい
ただきたいなというのが私の強い望みであります。希望であります。
 それから、最後になりますけれども、憲法と現実との乖離とかいうことがい
ろいろ問題になっております。
 私は、佐藤先生がおっしゃったように逐条でやっていくのがいいかどうか、
ちょっとその辺はこれからの課題になると思いますけれども、やはり実証的に、
現実的に検証するということを私は否定もしませんし、大事だというふうに思
っております。非常に実践的な立場でこの辺は議論をしてもらっていいし、ど
うしても法律では賄い切れないのか、憲法に手をつけなければどうにもならな
いのかというようなことを議論していただければいいのではないかと思ってお
ります。
 と同時に、この調査会は決して憲法の改正を発議する調査会ではないという
ことですね。このことだけは銘記をして、皆さんの心の底にすとんと置いてお
いてもらいたいと思うんです。
 もしそのことがあるとすれば、恐らくこの調査会は発足しなかったと思うん
ですよ。私自身は体を張って抵抗しましたよ、そういうことになれば。ど座っ
てでも何ででもやってくれという話になったと思うんです。しかし、政治的な
妥協の産物として、この調査会は憲法の発議権はないんだということでおさま
って議論をしているんですから、そのことだけはぜひ腹の底に置いていただか
ないと、誤った方向になるのではないかということを最後に申し上げて、私の
最初の意見発表にさせていただきます。
 以上です。
○会長(村上正邦君) 会長から一言言いますが、この調査会の目的ははっき
りいたしておりますので、余り挑発的な発言は慎んでもらいたい。はっきりし
ているわけですから、発議権はないということは。そのことをひとつ頭に入れ
て、各委員、御発言を願いたい。
 次には、谷川秀善委員。
○谷川秀善君 自由民主党の谷川秀善でございます。
 前回の調査会、またただいまの各党の代表の委員の方々からいろいろと御意
見が出されましたが、大別をいたしますと、護憲、論憲、改憲、いろいろ御意
見はさまざまでございますし、また調査期間につきましてもいろいろさまざま
でございます。
 そこで、今の憲法が制定されて五十数年たつわけでございますが、どうも日
本人の中には憲法は不磨の大典というような考え方がありまして、改憲論議を
することは悪であるというような風潮があったわけでございますが、やっと国
会の中で正式に論議できる調査会が設置されたことは、大変私は意義深いこと
だというふうに喜んでいるわけでございます。
 というのは、憲法改正の発議は国会でしかできないということになっている
からであります。この調査会は議案提出権がないという申し合わせになってい
ることは承知をいたしておりますけれども、そうかといって、五年もかけてだ
らだらと論議を行っていては、私は本当に現在の国民の期待にはこたえ得られ
ないのではないかというふうに思っております。
 憲法というのは、法定されていようと慣習法であろうと、人間が社会生活を
営む上で最低限保障されなければならない、また守らなければならない社会的
なルールでありまして、国家生活をする際の国家運営のマニュアルにすぎない
と私は考えておるわけでございます。我々国民がこの国の主権者であり、その
主権者である国民がこの国をどう使いこなしていくかが問題なのであります。
 政治の責任は国民に自由で豊かな生活を保障することでございまして、その
ために国家権力機構があって、それを政治家を含む公務員がどう使いこなして
いくか、その使い方の約束マニュアルが憲法だと私は考えております。
 したがって、護憲、論憲、改憲と目くじらを立てて論議するのではなく、現
在の社会状態、国際情勢を見て、それに合っているかどうかということを自然
体で論議すべきであろうというふうに私は考えております。
 まず、改憲論自体が違憲だという意見がございますが、日本国憲法自体が第
九十六条でちゃんと改憲手続を規定しているわけであります。これはすなわち、
この憲法をつくった人々の意思が、この憲法は完璧でない、不磨の大典でない
ということを示しているものであります。
 法というのは、憲法であれ一般法であれ、あすのことを論議してきょうつく
っているわけであります。つまり、原則として、法は将来適用されるもので過
去に適用されないし、もし過去にさかのぼって適用されるということになれば
大変なことになり、人権問題となるわけであります。何が起こるか見たことの
ない将来のことについて相談してつくって、あす以降適用するという性格のも
のですから、必ず不完全なものであり、時代時代に応じて改正する必要がある
わけであります。
 そのために九十六条が存在しているわけでございますから、改憲論議をする
こと自体、決してやましいことでなく、むしろ政治家としては、この国をきち
んと発展させていく責任を持つためにも改憲論議をしなければならないという
ふうに私は考えております。国民に幸福な生活を保障する国家を運営していく
道具としての憲法を日々点検をし、修繕をし、モデルチェンジをしていく、こ
れは我々政治家の責任であります。過去の検証も大事だとは思いますが、いろ
いろ資料、書物も出回っていますので、それぞれ各自で勉強することとして、
早速具体的な検討に入るべきだと思います。
 そこで、来年七月には平成七年選出議員が改選期を迎えるわけでありますか
ら、それまでに一応第一次調査をまとめてはいかがかと思っております。それ
をもとに第二次調査をして、第一次調査で各党が出されました意見書を中心に
論議をし、一致点、相違点を整理すれば、国民の皆様にも調査会の審議経過が
よく見えると思います。
 憲法については、改正案を審議する場合、衆議院に優越性はありませんので、
それぞれ独自で審議する必要があると思います。意見の取りまとめにつきまし
ては、会長さんの方で衆議院とよく調整をお願いいたしたいと思います。
 また、調査する項目につきましては、前文を含めて全項目を調査すべきであ
ろうというふうに考えております。
 以上、私の意見を申し述べました。
○会長(村上正邦君) 会長から発言をいたします。
 この調査会設置に関する申し合わせというのがございまして、これは議運委
員会理事会においての申し合わせでありますが、「調査期間は、おおむね五年
程度を目途とする。」と。これはもう決まっていることでございますので、こ
れまた言わずもがなのことでございますが、それを頭に入れて論議を進めて、
このことについてああだこうだと言うことはむだなことだと。しかし、中間報
告の取りまとめをどうするかという議論は大いにやっていただきたいと思いま
す。
 北岡秀二委員。
○北岡秀二君 ありがとうございます。
 先ほどからいろいろお話が出ておるわけでございますが、私は、この憲法問
題に関して一番大きな問題というか我々が大きな問題と思っているものは、今
の日本の国の現状のゆがみだろうと思うんです。
 先ほどから改正論についていろいろ云々されていらっしゃいましたが、皆さ
ん方も聞かれたことがあるだろうと思いますが、数年前に中国の当時の首相が
オーストラリアへ行かれたときに、日本の国が三十年先にはあるかどうかわか
らないというようなお話をされた云々という話を私は聞いたことがございます。
 実際かどうであるかの問題は別にして、先ほど申し上げました今の日本の国
の最近の世相あるいは社会現象等々を拝見させていただいておりまして、大変
なゆがみが出てきておるんじゃなかろうか。そのあたりの中に、今まで議論が
ございました憲法の現実との乖離、私はこれも当然だろう、そのとおりだろう
と思いますし、現実との乖離があるがゆえに、今の現実社会でのゆがみという
のは私は当然の結果として今の姿になっておるんではなかろうかと思う次第で
ございます。もうそういう意味で憲法を改正すべきだと思うわけでございます
が、何が欠けているかという部分で私なりに申し上げさせていただくと、憲法
改正の流れの中で、私はいろんな部分で危機管理思想が決定的に欠落をしてお
るんじゃなかろうかというふうに感じる次第でございます。
 その危機管理思想という部分の中で、私なりに解釈を申し上げますと、二点
あるだろうと思います。
 まず第一点は、平常時の中での危機管理。これはもう今までの議論の中に出
てまいりました、何でもありの権利あるいは何でもありの自由というのが社会
の中で非常にいびつな姿を醸し出しておる、混乱の要因になっておる。そうい
う状況の中で、ある程度の自由の規制、ある程度の権利の規制というのも当然
なければいけないんじゃなかろうかというふうに感じますし、従来から言われ
ておりますとおり、公共の福祉と権利、自由の関係がまだまだあいまいな点に、
前段に申し上げました平常時の中での危機管理というのが十分に私は図られて
いないがゆえに、今のいびつな社会というのもでき上がっておるように感じる。
 その第二点は、第二点というかもう一つの危機管理、これはもう一般的に言
われておる国家社会が危機的な状況が訪れたとき、すなわち、例えば阪神大震
災にまさるような大きな地震が起こったとき、あるいはこれはもう想定の範囲
で起こり得ることだろうと思うんですが、我が国に石油が全く入らなくなった
とき、さらには、いろんなことが想定できるだろうと思うんですが、非常事態
が起こったときに、じゃ国をどういうふうにして治めていくんだというような
条項も一切ない。
 ある意味では九条の解釈についても同じことが言えるだろうと思うんですが、
仮にですよ、仮に我が国が侵略戦争をされるような、入ってこられたときに、
あるいは国家の主権が侵されるようなことがあったときに、防衛の問題を含め
て、今までは法的に拡大解釈をしながらやってきたわけでございますが、そう
いった面での、前段に申し上げた平常時の危機管理、危機的な状況の、非常事
態における危機管理という観点における危機管理思想が現憲法に入っていない
がゆえに、私は、それがすべてではないと思いますが、いろんな現状の今の日
本の国の社会を見たときのゆがみというのが即あらわれてきているんじゃなか
ろうかということを痛切に感じておる人間の一人でございます。ぜひともこの
あたりは検証をしていただき、いろいろ議論を深めていただきたいなというつ
もりでいっぱいでございます。
 加えてもう一点申し上げさせていただきますと、先ほどからいろいろお話の
ございますとおり、日本の国の歴史、文化、そのあたりが欠落をしておる。こ
れはもう国際社会がこれからどんどん進行していく中で、皆さん方共通して思
っていらっしゃるだろうと思いますが、必要なことはアイデンティティーを持
つこと、アイデンティティーがなければ本当の意味での国際的な同化というの
はできないというふうに私は感じておるわけでございます。そういう観点にお
いても、歴史、文化の扱いというのをこれから憲法の中でどういうふうに我々
は入れていくというか、加味していかなければならないというのも大きなテー
マの一つであるように感じるわけでございます。
 総論としては、私は以上のような所信、感想を持っておりますので、発表さ
せていただきました。
 以上でございます。
○会長(村上正邦君) 高野博師委員。
○高野博師君 二点、自分の意見を述べたいと思います。
 一つは、憲法と歴史総括についてでありますが、先ほども戦前は悪で戦後は
善だといった単純な認識は改めるべきではないかといった趣旨の御意見もあり
ました。
 そこで、憲法を議論する際に、歴史的な視点あるいは歴史観というのは非常
に重要ではないかと思います。現憲法の歴史的な制定過程を調査することも大
切であると思いますが、より広範により深く我が国の現代史を総括する中で、
明治憲法、そして現行憲法の位置づけをすべきではないかと思います。当然、
制定過程も含まれると思います。一度きちんと歴史の総括をした上で、特に戦
前、戦後あるいは戦争そのもの、その総括をした上で、将来の国家像を考えて
憲法を議論すべきではないか。歴史の二面性という点からすれば、客観的な総
括は極めて難しいとは思いますが、避けては通れないのではないかと思います。
正しい歴史認識、歴史観なくして客観的な憲法の議論というのはできないので
はないかと思います。
 もう一つは、二十一世紀の新しい人権についてお話ししたいと思います。
 一つは、先ほども個人的な自由権と社会的な生存権について言及がありまし
たが、現憲法の人権規定というのは、いわばフランス革命以来の西欧個人主義
の古典的な人権が主体であります。これらの諸権利というのは、自己決定能力
を有する者が自己責任で自己完結的に実現する権利であります。
 それでは、自己決定能力がない者、喪失している者、あるいはそういう機会
を奪われている者の権利はどうなるのか。例えば、自己決定能力のない子供の
権利はどうなのか。また、高齢化社会を迎えての、例えば痴呆症にある高齢者
の場合はどうか。さらに、病人とか知的障害者の権利というのはどうなのか。
施設に入っている者、あるいは受刑者といえども権利を有しているのではない
か、そしてそれはどういう権利なのかということであります。
 これらの人たちはいずれも一個の人間としての独立の主体性を持っている。
つまり、人間としての尊厳を実現する権利を有しているはずであります。子ど
もの権利条約が規定している子供を権利の主体者ととらえた意見表明権はその
最たるものでありますが、その本質は人間関係を形成する権利であります。
 二十一世紀に連なる最も新しい権利と言われる人間としての尊厳を実現する
権利についても、ぜひこの場で議論をしていただきたいと思います。この権利
についてもし憲法に盛り込むことができるとすれば、画期的な、世界の少なく
とも形式上は憲法上は人権先進国という評価がされるのではないかと思います。
 以上です。
○会長(村上正邦君) 北澤俊美委員。
○北澤俊美君 私は、この両院に設置された調査会をつくるための議員連盟に
長くかかわってまいりました。そこの議論を思い出しておりまして、先ほど来
いろいろ憲法議論のタブー化現象といいますか、そういうことにも言及されて
いる方々がたくさんありましたが、私は、その議員連盟の中で感じたことは、
政権をとったまま政権から転げ落ちない実態、それからまたどうやっても政権
をとれない野党の現象、そういうものがタブー化現象というものを知らず知ら
ずのうちにつくり上げてきたのかなというふうに思います。
 ちょうどたまたま政権が交代する現象を各議員がみんな体験をして、また将
来に向かっての政権獲得の夢を抱くようになってきた、そういうことがこの国
会の中で議論ができるようになってきた。私は、そういう意味では、我が国の
国会は大変新しい時代を迎えたのではないかというふうに思いまして、憲法議
論は大いにこれからもお願いをしたいというふうに思います。
 それから、これちょっと皮肉にとられると困るんですけれども、たまたま聞
いておりますと、制定から五十年たったとか次なる二十一世紀に向けてとかい
うことを言われますが、これは半分以上は言葉のあやでおやりになっているん
だろうと思いますが、もともと国の形をつくり上げる憲法とかあるいはその中
心になる基本的人権とかそういうものを新たに決めたりするのというのは別に
時代を定めてやる話ではなくて、国民の中からの強い要請が醸成された中で議
論されるべきであって、歴史的に見ましても、バージニア憲章だとかフランス
の人権宣言だとかそういうものを、これ学生時代のことを思い出しますと、ま
ことに記憶しにくい年数ばかりなんです。決まりのいいところで別にやってい
るわけではなくて、国民的な大きなうねりの中でこういうものはでき上がって
きたというふうに思っております。
 それから、我が国憲法の押しつけ論については、先ほど白浜委員の方からも
お話がありました。私もほとんど同じ意見なんですけれども、私なりに考えま
すと、この憲法は、ある意味ではアングロサクソンの理想の集約といいますか、
自分たちが実践し切れなかった理想の集約みたいなところがあったんではない
かというふうに思います。それをまた日本人の柔軟な知性で、戦後五十年、こ
れをきちんと使い切ってきていたというふうに思っております。
 そういう意味で、我々が憲法を議論するには、そもそものところ、スタート
のところにこだわることなく、我が国国民が五十年間この憲法で何を得てきた
かということに検証の的を絞るべきだというふうに思っております。戦争がな
く、しかも世界の冠たる経済国になって、今また極めて難しい状況にあります
が、そういう社会情勢の中で憲法を論ずるということは非常に価値のあること
だというふうに思っております。
 それから、内部のことについて一、二……
○会長(村上正邦君) もうぼつぼついいんじゃないんですか。
○北澤俊美君 じゃ、二つばかり……
○会長(村上正邦君) 一つにしてください。
○北澤俊美君 私の関心の高いものをちょっと申し上げておきたいと思います
が、基本的人権については、新しい人権が誕生し始めているというふうに思い
ます。国家と個人の間における人権だけではなくて、社会と個人あるいは個人
対個人というような、それに代表されるのが、先ほどお話もありましたが、環
境だとかあるいはプライバシーという、そういうものについての論議は十分に
するべきだというふうに思います。
 それから、最後になりますが、私は日本の国の政治が先ほど大きく変わり始
めているということを言いましたが、そのことに関して、首相公選制というも
のについて私は強い関心を抱いておりますので、皆さん方の御意見を承りなが
ら議論を深めたいなというふうに思っております。
 どうもありがとうございました。
○会長(村上正邦君) 陣内孝雄委員。
○陣内孝雄君 ありがとうございます。自由民主党の陣内でございます。
 私は、この日本国憲法が果たしてきた歴史的役割、これについては十分評価
するわけでございます。ただ、五十年の運用の経過を見てきた場合、特に国際
情勢が変わったり、日本の国力が高まってきた、そういう中、あるいは国民の
意識も多様化してきた中で、この憲法が日本の国情に十分合っているかどうか
というような点から考えた場合に、これは十分検討し直す必要があるというこ
とでございますし、また、今までの五十年、そしてこれから先の五十年を見通
した場合に、我が国の将来のためにいかなる憲法が必要であるかということが
今問われているんじゃないかというふうに考えます。これは私ども政治家だけ
ではなくて、国民一般の世論もそういう方向に向いてきているということを強
く感ずるわけでございます。言ってみれば、新しい国の基本となるべき規範を
どうするかということが今議論される、そして方向を出していくべきときに差
しかかっていると思うわけでございます。
 それで、なぜ、どういう点で私はそう感じるかというと、一つは、我が国の
国力が増大して国際貢献が求められるようになってきた、あるいはまた国際情
勢の変化等の中で我が国が一国平和主義を貫くということは、これは国際情勢
からして大変現実的に難しい問題であるということを考えるからでございます。
 日本の繁栄、平和のためには、やはり日本の国際貢献が十分できる中でそう
いうものが実現できるというふうに考えるからでございます。また、日本の平
和と繁栄のためには、現在の防衛や安全保障に関する定め、これがこのままで
いいのか。運用や解釈の中で現在の防衛、安全保障の問題を取り上げていく、
このことがかえって国際的な日本の信頼とか信用を損なうような原因になって
いるんじゃないか、こういう点についても十分私はこの際論議をしていく必要
があると思います。
 また、人権の高まりや広まり、こういうものに対して、委員の先生方から御
指摘あったような人格権とかあるいは環境権、こういったものについてこのま
まこれを加えなくてもいいのかどうか、そういう問題もあろうかと思います。
 そして、私たちがやっぱり議会制民主主義を発展させていく上で、国会の改
革とか内閣機能の強化、機敏に的確に対応できるような内閣機能の強化、こう
いうものについてもこの際十分検討をしていく必要がある。あるいは司法制度
改革もそうだろうと思います。こういうこれからの国の規範について新しく考
えるべき、そして方向を打ち出していくべきときに来ていると私は強く思うわ
けでございます。
 そういう意味で、広範、総合的な検討が必要でございますけれども、これま
での憲法の制定経過、こういうものについては極めて詳細あるいは実証的に七
年間をかけた憲法調査会の成果がございます。こういうものについてのレビュ
ーももちろん必要でございますが、それよりも、これから国民各層各界の憲法
に対する考え方、意識、こういうものについて十分この調査会で調査をし、そ
して効率的に、早急に、慎重ではありますけれども早急に結論を出していただ
きたい。お願いします。
○会長(村上正邦君) ありがとうございました。
 吉岡吉典委員。
○吉岡吉典君 きょう、二回目の会議に参加し、一回目に続く論議を聞きなが
ら感ずることは、憲法について共通の認識と同時に多くの相違点があるという
ことでございます。そして、その相違点の中でも、何を言いたいのかなという
ことをもう一歩突っ込んで聞きたい点がたくさんあります。
 それは、例えば先ほども論議になりましたけれども、今の憲法が国際法に反
して制定された憲法だということに関連して言えば、だからどうかということ
が率直にお伺いしたい。そういうことを含めて、私は、もうしばらく議員間の
こういう論議を繰り返していけば、お互いの問題意識、相違点、その中身に至
るまで基本点が浮かび上がってくるのではないかと思います。その上で具体的
なテーマを決めて突っ込んだ調査に入るということが望ましいと私は考えてお
ります。
 そこで、その具体的な内容点ですが、私は、先ほど小泉議員が発言したこと
に補足的に国際法上この憲法をどう見るのかという点について私の意見を述べ
させていただきます。
 私は、現在の憲法は国際法違反の憲法ではなくて、それと反対に、日本国憲
法によって第一次世界大戦後の国際法の発展から外れていた日本を世界の到達
点、国際法の平和、人権尊重の原理に引き上げた、そういう憲法であったと思
っております。
 第一次世界大戦後の世界の流れを見ると、その前半においては、日本も、消
極的であったか積極的であったかは別として、賛成しながら、国際連盟による
戦争の違法化から、戦争を完全に違法とする徹底した戦争放棄に関する条約、
いわゆる不戦条約の制定に至る流れがあり、またその間、私は最近国際連盟の
文書を読んでいろいろ考えさせられましたけれども、国際連盟総会自体で戦争
は犯罪であるという宣言が繰り返し行われている、そういう流れがあった。そ
れに対して、日本は国際連盟から脱退し、大東亜共栄圏を初めとする世界の勢
力圏の再分配を掲げて日独伊軍事同盟を結んで第二次世界大戦を始めた。これ
は当時の世界の状況を振り返ってみれば歴史の流れに逆らったものであったと
いうことは今では非常にはっきりしていると私は思っております。
 それに対して、第二次世界大戦の始まりから連合国が示した大西洋憲章、連
合国宣言に始まる一連の文書は、ポツダム宣言や国際連合憲章に至るまで、第
一次世界大戦後の世界政治、国際法の発展を受け継いで、世界からファシズム、
軍国主義を一掃して民主主義を復活する、基本的人権を確立する、そういう目
的を示していた。戦争目的自体が、そういう民主主義的、平和主義的な目標と、
それから勢力圏の再分配という目標自身の対比によっても、日本は大きく世界
の流れから外れていた。それをポツダム宣言によって日本を世界の流れの中に
もう一回引き戻した。そういう流れの中に日本国憲法はあると思います。私は、
前回の会議でも紹介しました金森憲法担当大臣が憲法制定議会で、日本を世界
の水準に押し上げたということをこの憲法についての評価として述べられてい
るのもそういうことのあらわれであったと思っております。
 そして、そのポツダム宣言というのは、それでは日本国民の意思を全く無視
して、アメリカのあるいは連合国の意思を日本に押しつけようとしたものかと
いえば、私はそうでないと思います。
 先ほど大脇委員から、日本における憲法についての民主的、進歩的な考え方
の歴史についての意見が述べられました。私は、ポツダム宣言というのは、そ
の条文の中で、「日本国政府は、日本国国民の間に於ける民主主義的傾向の復
活強化に対する一切の障礙を除去すべし。」として、その障害としての日本の
軍国主義の一掃をうたっている。つまり、日本にかつて存在した民主主義的傾
向が軍国主義によって抑えられていた、それをその障害を取り除いて復活させ
るという、そういう内容になっており、日本国民の間にあった歴史的な民主主
義を目指す流れをここに復活させようとする意図を持っていたものであったと
いうように思っております。
 そのポツダム宣言起草者はどういうことを念頭に置いていたかということを
解明する文書もあります。それを読んでみると、例えば、あの軍縮会議に軍の
反対を押し切って参加した当時の日本政府の態度もその中に挙げられておりま
す。また、私は、大正デモクラシーと言われる大きな日本の民主主義的な運動
と風潮、また日本国民の間に広がったさまざまの運動、こういうのが歴史の進
歩に沿った動き、それを抑えて日本を日独伊軍事同盟によって戦争に巻き込ん
でいった、その流れをもう一回断ち切って復活させる。その流れというのは、
日独伊軍事同盟で戦争に突き進んでいった流れを断ち切って、民主主義的傾向
を復活させよう、そういう目的を持って憲法が制定されたと、こう思っており
ます。そういう憲法だから日本国民の心をとらえた、また今世界からも高い評
価が寄せられている、そう思っております。
 私は、ソ連が崩壊して軍事同盟の対抗もなくなった今、世界の憲法と言われ
る国連憲章や、それをより発展させた日本国憲法の掲げた目標を達成する新た
な条件が生まれた、こういうときにこの憲法はいよいよその真価を発揮すると
きであって、それを改正する必要は今全くない、そういうふうに考えておりま
す。
○会長(村上正邦君) ありがとうございました。
 中島眞人委員。
○中島眞人君 御指名をいただきました中島眞人でございます。
 実は、このような形で現憲法調査会というのが設置をされた背景というのは、
共産党を除く各政党が政権を担当した中で、いわゆる現憲法と現実の問題の乖
離に大変それぞれの政党が非常に苦しみ、そしてそれらの問題について解釈論
議を積み重ねていったところに、現実的にこういう形で調査会というものに各
政党が入ってこれた。ですから、過去の調査会とは違った趣を持ちながらこの
調査会が発足をし、論議が進められているものだろうというふうに思います。
 先ほど角田委員から、制定された当時の民衆の声を聞くべきだと。ごもっと
もだろうと思います。私は、同時に現代の生きている人々の意見も、これから
の憲法ですから十分にやっぱり聞いていくべきだと。角田委員の意見は尊重し
ますけれども、これからの方々の意見も十分に聞いていくべきだと。
 それで、その十分に国民の意見を聞く判断、国民の皆さん方は何を判断にす
るかというと、この憲法調査会での論議というものが国民の世論というものに
対して大変大きな役割を果たしていくものだということで、私は、隔靴掻痒、
総論だけでなくて、いろいろな具体的な問題を提起し、それを報道されていく
中で、なるほどなと言われるような問題を国民の皆さん方が理解をしていただ
きたいと思います。
 そこで、会長にもお願いしたいんですけれども、自分の意見だけ言うんでな
くて、ちょっと社民党さんと共産党さんに私はお聞きをしたい、質問をしたい
と思うんです。
 両党のお考え方というのは、現憲法というのは全く問題ないんだ、もう改正
も、もっと端的に言えば論憲も必要ないんだというふうに私は受けとめました。
しかし、先ほど水野委員や佐藤委員が言っているような現実の問題で大変乖離
している問題がございます。例えば憲法八十九条の問題とか、あるいは環境権
の問題とか、あるいは公共の秩序の問題にどう国民がかかわっていくかという
ような問題に対して、社民党の皆さん方や共産党から、どういうふうにこれに
対応なさるのか、お聞かせをいただきたい。
 もう一つ、私は具体的にきょうは入りたいと思いますが、自衛隊の問題であ
ります。
 過去いろいろの論議が自衛隊についてございました。しかし、政権をとった
村山総理は、はっきりと自衛隊は憲法が認めるものですとおっしゃった。しか
し、憲法が認めるべきものですと言ってみても、これは解釈です。昨今、また
民主党の鳩山党首ははっきりと、九条を改正して自衛隊をはっきり軍隊として
認めるべきだとおっしゃっています。
 こういうふうにして、私は、やっぱりこれらの問題を解釈論議で過ごしてい
く一つのことが憲法として正しいんだろうか、この辺を社民党さんと共産党さ
んにお聞きしてみたいと思います。
 それと、私はささやかな知識しか持っておりませんけれども、今、吉岡先生
から制定当時のお話を聞きましたけれども、私の認識では、制定当時の共産党
は現憲法に反対の立場をおとりになっておったというふうに私は認識をしてい
るんですけれども、あの当時反対をした理由というのは何だったのか、この点
についてもお聞かせをいただきたいと思います。
 皆さん方、大変各論、総論、立派な御意見でございました。私は、ささやか
な知識でございますから、各論でひとつ御質問を申し上げたいと思います。
○会長(村上正邦君) 今それぞれ委員の発言に対しての質問、反論ございま
したが、それぞれ、時間の関係もありますので長々と承ることはどうかと思い
ますが、共産党さんは吉川委員が発言を求められていますので、恐らく共産党
さんは統一した一つの憲法論議を持っておられるわけでありますので、できれ
ば、吉岡委員という指名の質問がありましたけれども、これは吉川先生にひと
つお願いをしたい、こう思っておりますが、角田先生何か、今の民主党さんに
対する……(「民主党じゃないよ、社民党」と呼ぶ者あり)民主党に聞いてな
いの。角田さんに聞いたんでしょう。聞いたんじゃないの。(「社民党と共産
党です」と呼ぶ者あり)なければ結構です。
 何かありますか、大脇先生、どうぞ。簡単に。
○大脇雅子君 私どもは別に論憲を否定しているわけではありません。ここに
参加していること自身がまさに積極的に論議に参加していくという姿勢で臨ん
でおります。環境権とか私学助成の問題というのは、現実的にその議論のとき
に意見は申し上げますが、当然その議論に私どもは参加してまいります。
 ただ、私が申し上げたいのは、常に現実の中で、憲法を頂点とした個別法の
中で、なぜ環境基本法に環境権が含まれなかったのか、私学助成の中でなぜ公
的な教育も含めて国民の教育を受ける権利というものが充実していなかったか
という点について、私は、憲法を改正したらそうしたことが充実するというこ
とではなくて、まさに現実の中でそういう政策がとられて、憲法の中でそれを
確認されるべきだと思っています。
 特に、憲法の中でいわゆる幸福追求の権利という憲法十三条がありまして、
私はそれがまさに基本となっているのではないかというふうに思うわけです。
 自衛隊の問題についてでございますが、村山政権が政権をとりましたとき、
社会党の党内論争の結果、自衛隊を容認する大多数の国民を無視した安全保障
はあり得ないという結論の中で合憲の認識を示したことはあります。
 私自身の個人的な見解としては、そうした連立政権に組み入るときは、党の
基本原則というものは一応凍結をいたしましてその連立政権の中に入ってそし
てやるべきであったというふうに私は思うわけですが、ただ、参加をした政権
の中で、社会党が軍縮と自衛隊の段階的縮小に着手する基盤をそこで主張して
いこうという姿勢のもとに私どもは政策合意をいたしました。したがって、政
策の中には憲法を尊重するということをしたわけでございます。
 従来の自衛隊の違憲論というものは誤りであったのかといいますと、それは
私どもとしてはそのようには考えておりません。東西冷戦と第二次大戦の経験
から、国民の声を背景に社会党は自衛隊違憲の主張を掲げて再軍備や軍拡路線
と闘ってきました。確かに、自衛隊というものは現在世界第二位の力を持つと
まで言われておりますけれども、しかし、憲法九条があったがゆえに私はその
軍事的な拡張は抑止されたと思いますし、先ほど述べましたように、軍事的な
価値というものが社会の中で最上位に推されたことはなかったと。とりわけG
NP一%以内の枠に抑制するということは憲法の九条あってこその効果であっ
たと思っております。
○会長(村上正邦君) ありがとうございます。
 もう少し議論を深めたいんですけれども、時間の関係もございますので、ま
たこの議論は後日。
 と申しますのは、質問者が、まだ発言をなさっていない方がいらっしゃいま
すので、移らせていただきます。中島先生、御了承を賜りたいと思います。
 では、本来は福島瑞穂委員に行きたいところですが、吉川春子委員に今の質
問に対しての反論を願っておきたい、こう思います。それをあなたの発言にか
えてもらいたい、こう思いますので、よろしく。
○吉川春子君 会長、どうもありがとうございます。
 私、今、議運に行って中座しておりまして、入ってきましたらその御発言が
ありまして、ちょっと正確に、吉岡さんの発言も聞いていませんし、中島先生
の発言も、ちょっと途中で来ましたので。そういう立場ですが、今の会長の御
指示に従って反論をさせていただきたいと思います。
 日本国政府が当時GHQの要求を受けてつくった憲法試案というのは、御存
じのとおり旧帝国憲法の枠を一歩も出ないものであり、ポツダム宣言を受諾し
た、そして新しい国家体制を目指す日本にとっては全く不適切な内容であった
ということは、皆さん御承知のとおりです。
 そして、そういう時期に私たち日本共産党は憲法草案を発表いたしましたけ
れども、その一つは、やっぱり主権が国民にあるということを明記しなくては
ならない、国体護持ではなくて国民主権なんだ、そのことを憲法にはっきり明
記しなくてはならないと主張いたしまして、一条に主権の存する日本国民の総
意に基づいて天皇の地位もあるんだとか、あるいは前文にもそういう旨が書き
込まれておりますけれども、そういう立場でまず主権が国民にあるということ
を明確にしなくてはならないという主張をしました。
 それからもう一つの点は、侵略戦争に対して、もう侵略戦争を二度と行って
はならないんだ、そういうことを明確にしなくてはならないという立場で私た
ちはその政府の案に対する反対の案を出したわけです。
 そして、私たちは自衛権、自衛する権利、それは自然権ですからあるわけで、
そういうものまで否定するわけではなくて、それの発動としての武力行使その
ものについて今の憲法は否定しているわけで、私たちは、今の憲法九条が非常
に先駆的な内容を持っているものであり、世界に広めていくものだ、社会主義
の理想にも合致するものだという立場をとっておりますが、同時に、この当時、
やっぱりあの戦争の悲惨さを十二分に味わったそういう日本国民の気持ちとし
て、もう戦争は二度と御免だ、侵略戦争をやってはならない、そういう主張を
したわけでございまして、あの当時の政府の草案に対する反論として私たちは
そういう立場を出しました。それは、その当時のことについて今日も誤ってい
なかったというふうに思っております。
 同時に、私はこの憲法が二十二年に公布されたそのときに小学校に入りまし
て、さっきの平野先生の話ではありませんが、平和憲法の歌と「信濃の国」の
歌しか朝の朝礼では歌わなかった、君が代は歌わなかった、そういう世代でご
ざいまして、先ほど来憲法条文の古めかしくなった話などもありましたけれど
も、この前文の非常に中身ある問題についても守っていきたい、そういう立場
で徹底的に広範な議論をしていきたい、広範な調査をしていくのがこの調査会
の役割だというふうに思います。
○会長(村上正邦君) 福島瑞穂委員。
○福島瑞穂君 どうもありがとうございます。
 やり方について三点ほど述べたいと思います。
 先ほど会長がだめ押しをしてくださいましたけれども、五年をめどにという
ことがこの調査会の設置の際に確認をされておりますので、前回、今回、任期
中という話がありましたけれども、約半分の人は一年半後に、皆さん再選され
るでしょうが任期を迎える方がいらっしゃるわけで、議員の任期ということで
やりますと、一年半という余りに拙速でやることになりますので、会長が先ほ
どだめ押しをしてくださったやはり五年をめどにということでこの調査会が確
認されたということを改めてここで確認をさせていただきたいと思います。
 二点目。前回の発言の中で簗瀬委員の発言、もちろん大脇委員、それからき
ょう高野委員の発言、本当にそのとおりだと思ったんですが、簗瀬委員はやは
り戦後五十年だけではなくてその前の百年、二百年のことをきちっとやるべき
だとおっしゃいました。きょう、高野委員もやはり憲法と歴史総括、現憲法の
制定過程だけではなくより広く広範囲にやるべきだと。大脇委員も自由民権運
動から始まってきちっとやるべきだとおっしゃいました。私はこれをこの調査
会できちっとやはりやっていただきたい。
 なぜならば、戦後、敗戦を屈辱というふうに考えた人たちもいらっしゃるで
しょうし解放と思った人もいると思います。草の根封建おやじの人は自分の権
利が減ったとがっくりきたでしょうし、現憲法の制定過程、これを押しつけと
思うか、これは自分たちを元気づけてくれるのだと思うかは、やはり戦前どう
いう立場であったかということによってもそれは変わってくる。
 前回、笹野委員の方からも女性の権利のことがありましたけれども、現憲法
の制定過程だけを見ているのではやはり今の憲法の位置づけというのはできな
いと思います。やはり百年、先ほども高野委員は、客観的な総括は難しいかも
しれないけれども正しい歴史認識がなければ憲法の議論はできないとおっしゃ
いました。そのとおりだと思います。第二次世界大戦はなぜ旧憲法のもとで阻
止できなかったのかというようなことも私はもう一回きちっと私たちは勉強、
調査をすべきだというふうに考えております。その点を改めてお願いしたい。
 三点目です。きょうも基本的人権の話は出ました。佐藤委員それから角田委
員、高野委員、大脇委員、もちろんいろんな方からも出ました。先ほど環境権
の指摘が中島委員を初め何人かの方からありました。私は、現憲法が環境権の
行使、環境権の主張の足を引っ張ったという話は寡聞にして聞いておりません。
環境権で裁判を起こした人たちは、憲法十三条の幸福追求権に基づいて、むし
ろ現憲法をいかに使っていくかということから裁判をたくさん起こしたわけで
す。つまり、環境権、知る権利を主張するに当たって、現憲法は足を引っ張る
のではなく、むしろ応援したわけです。
 私は情報公開法を昨年制定するときに総務委員会で質問をしましたけれども、
知る権利をきちっと情報公開法に入れてくれということを拒否したのは政府の
答弁の側でありまして、先ほど大脇委員がおっしゃったように、個別法で環境
権なり知る権利なり幾らでも書けることはあったわけです。それを盛り込まな
いで、あたかも環境権、知る権利、プライバシー権を言うに当たって現憲法に
欠陥があるという言い方は違うと思います。
 ですから、私はこの憲法調査会において基本的人権をどう精緻に豊かにして
いくことができるかということを徹底してやりたい。司法試験六法の中に国際
人権規約が盛り込まれました。憲法と同じように条約が重要であるということ
がもう明らかです。
 先ほど高野委員が本当にいいことを言ってくだすったんですが、子どもの権
利に関する条約、女性差別撤廃条約、拷問禁止条約……
○会長(村上正邦君) もう時間が……。
○福島瑞穂君 わかりました。
 たくさんの条約があります。B規約の中には、例えば戦争を唱道するような
表現の自由は認められないという規定もあります。ですから、先ほど佐藤委員
も逐条的に、実証的にきちっとやるべきだとおっしゃいましたけれども、私も
そのとおりで、一つ一つ条約との整合性、条約の勧告において、公共の福祉と
いうあいまいな概念で基本的人権を制限できないとB規約からも勧告を受けて
おりますので──ごめんなさい、やめます。基本的人権の条約との整合性もき
ちっとここの調査会でやっていただきたいと思います。
○会長(村上正邦君) あと三人の申し出がありますが、時間の関係もありま
すので、木村先生、きょうは泣いていただきたい。あとお二方にしたいと思い
ます。
 簗瀬進委員。
○簗瀬進君 大変切迫した時間の中で御指名をいただきまして、本当にありが
とうございました。
 前回、憲法前文の中で、国会あるいは国民の目標となるべきナショナルゴー
ルをしっかりと設定すべきである、こういうふうなお話をさせていただきまし
たが、それに引き続きまして、その件についての私の考え方を述べてみたいと
思います。
 私は、そういう意味では、憲法前文の中に置くべきナショナルゴールあるい
は日本国全体が取り組むべきビジョン、その中身は二つあると思います。
 一つは、まず第一番目に、理想の宣言でなければならないということだと思
います。国民一人一人の誇りとかあるいは志にぴしっと訴えるような、そうい
う宣言をすべきだろう。それから第二番目、やはり理想、望ましいのは、経済
あるいは私たちの新しい富、そういうようなものに結びつけていけるような、
そういう仕組みというようなものを考えるべきだろうと思います。
 こういう点で、私は大変参考になるのは、ケネディの人類を月に送ろうとい
うビジョンだったと思います。
 アメリカ憲法の第一条には、成立当初からあったかどうかわかりませんけれ
ども、科学技術あるいは知的財産に対する尊重というようなものが第一条から
定められております。ケネディは、人類を月に送るという、いつも一番になり
たいという、アメリカズファーストといいますか、そういうアメリカ人の誇り
にまずそこをきちっと訴える。そしてそれと同時に、人類を月に送るために科
学技術を総合的に発展させていかなければならない、こういうふうなことで大
変すばらしい経済のインセンティブを与える。このようなすばらしいビジョン
を私たちも考えていくべきなんだろうなと思います。
 それから第二番目に、そのような新しいビジョンあるいはナショナルゴール
としてやはり我々が掲げるべきものは平和主義だろう、このように思います。
 平和主義についてのいろんな議論がありますけれども、ここで私がお訴えを
したいのは、憲法九条があるから初めて平和主義がこの国に生まれてきたので
はないということであります。
 日本国の歴史の話もありましたけれども、長い日本国の歴史を見てみたとき
に、この国は受容の歴史であります。押しつけの歴史を持ったその瞬間に、例
えばあの秀吉の、そして第二次世界大戦、こういう押しつけをしようとしたと
きに失敗する。このような長い歴史をしっかりと我々は踏まえて、むしろ、憲
法があるから平和主義があるのではなくて、この国の歴史あるいは所与の条件、
こういうようなものがあるから平和主義があるのだということをやっぱりここ
でしっかりと踏まえた上で、さらに平和主義を進めていくということが大変重
要なんだということを認識すべきなんではないのかなと思います。
 「この国のかたち」という司馬遼太郎の本のその四というところに、司馬さ
んが、第一次世界大戦が終わったときに日本国は喝破すべきだったと。戦争は
エネルギー戦争になった、エネルギーが自給できない国は戦争を専守防衛以外
ではしてはいけない、これを第一次世界大戦が終わったときにきちんと認識を
すべきだったということを司馬さんは書いています。まさに平和主義こそ我が
国の所与の条件、そしてこれから進むべき新しい方向性としてこれをリメーク
して、ナショナルゴールにいかに設定をしていくのかということが重要だと思
います。
 そして、時間がないところで最後に、新しい平和主義、いわゆる侵略をして
はならないといったそういう消極的な意味じゃなくて、積極的な平和主義をい
かに私たちは提案し得るか、これを考えていくべきだと思います。
 そうしたときに、私は最後に、この国の最もこれから進むべき優位性を持っ
ている科学技術を総合した上で、情報を世界の国境を越えた国民のコミュニケ
ーションを高めていく一つの大きなインフラとして世界に広めていく、そうい
う意味での情報平和主義、情報による平和の創造をしていくんだということを
憲法前文に高らかに訴えるべきなのではないのかなと私は考えております。
○会長(村上正邦君) ありがとうございます。
 片山虎之助委員。
○片山虎之助君 自民党の片山でございます。
 最後に恐らくなるんでしょうが、御指名を賜りまして大変ありがとうござい
ます。
私は余り出ていないものですから、しかも初めて発言させていただくものです
から、概括的なざっとしたことから話をさせていただきたいと、こう思います。
 私はかねがね、我が国の立法府に基本法である憲法を議論する場がない、ま
た議論すると何かおかしいことをやっているような雰囲気がかつてあったわけ
ですよね。そういうことはそれこそおかしいんではないかと思ってまいりまし
た。したがいまして、中山太郎先生が憲法議連というものをつくって、憲法を
議論する場をぜひ国会の中に、衆参に置きたいと。大賛成ですと、こういうこ
とで、扇先生も、皆さんおられますけれども、推進してきた者の一人として、
大変この憲法調査会で活発な議論が行われているのは慶賀にたえない、こうい
うふうに思っているんです。
 そこで、いろんな考え方がありますが、私は、憲法というのも国や国民のた
めにある一つの主要な道具なんです。国や国民あっての憲法なんで、憲法があ
って国や国民があるんじゃないんですね。そこのところを考えにゃいかぬ。不
磨の大典であればいいんですが、不磨の大典なんてあり得ないんですよ。これ
だけ世の中が速いテンポで変わる、世界中が変わる、国も変わる、国民も変わ
る。この中でやっぱり実態や現実に乖離してきたら直すという努力は、どこま
で直すかは別ですよ、これは立法府として私は当然の義務だと思っているんで
す。
 例えば、今、福島先生から環境権の話がありました。しかし、何でも幸福を
追求する権利で全部読んじゃうというのは、これはやっぱり実定法の解釈とし
ては私はおかしいと思うんです。だから直せばいいんですよ、果敢に、必要な
ことは。ただ、基本的な大原則はこれは直さないということで、恐らく各党異
議がないと思いますからね。
 そこで、私は、この憲法調査会は抽象論や観念論をやるんじゃなくて、また
憲法ができたときということは、みんな、我々個人も会派も戦後体験があるん
で、そういう意味で大変な思い入れがあるんですね、憲法に。だから情緒論に
流されやすい、あるいは観念論、抽象論。二十一世紀の国の形をどうするかと
いうことを憲法に絡んで簗瀬先生みたいに議論するのはいいですよ、江田さん
みたいに。いいけれども、それはそれでやりながら、やっぱりこの憲法はどう
いうところが実態と離れて、現実と乖離しているか、いろんな議論があるのか、
あるいは何が足りないのか、そういうことを十分検証して、それを埋めていく
努力というのを地道にやるべきだと思います。
 そういう意味では、今までずっと憲法についてはいろんな議論があって、い
ろんな指摘があって、いろんな批判があって、私は、それをぜひ事務局かどこ
かでまとめていただいて、それを見ながら我々がそれにつけ加えて、それを一
つのたたき台に現実論を、憲法をどう直していくかという議論、あるいはそれ
はこのままでいいんだと、しかしその解釈をどうするかということをやってい
くことがぜひ必要だと、こういうふうに思います。
 それからもう一つは、恐らくこれは村上会長は私がいないときに言われてい
ると思いますが、やっぱり議員だけで議論しちゃだめですよね。憲法は全国民
が認識を持って議論せにゃいけません。そのためには全国民を巻き込む努力を、
巻き込む工夫をこの憲法調査会でぜひやっていただきたい。恐らく土曜、日曜
に会長がやられようというのはそういう御意図だと思いますけれどもね。我々
は困りますよ、土日はいっぱい行事があるんで、会合があるんで本当は困るけ
れども、ぜひそういうことを含めて全国民的な議論を起こすということをこの
憲法調査会が一つやるべきだ、その先駆になるべきだと、私はこういうふうに
思うわけであります。
 それから、まだいいですか。
○会長(村上正邦君) もう一言にしてください。
○片山虎之助君 もう一言しかありませんから。中身はありませんから。
 それで、あと一年半で任期切れますから、私も一区切りはせにゃいかぬと思
います。結論を出すんじゃないんです。恐らく一年半の議論をうまく中間的に
まとめるということは努力が必要だと思います。
 それから、もう時間がありませんが、憲法というのは基本法ですから、国民
がみんな誇るべきものですから、ぜひ憲法というのは美しい日本語で、わかり
やすい、格調のある表現で書いてもらいたい。今の憲法というのはわかりませ
んよ、相当頭のいい人でなければ。私なんかわからぬ。簗瀬先生は前文前文と
言われますけれども、前文ぐらいわかりにくい文章はない、どこがどう係って、
つないでいくか。ぜひそういう美しい日本語で、格調の高い、わかりやすい表
現にしてもらいたい。
 それから、いろいろありますよ、二院制もやらにゃいけません。それから私
は、やっぱり個人の基本的人権の拡張をやらにゃいかぬけれども、同時に公共
に対する参与だとか公共というものに対する尊重だとか。昔は滅私奉公だった
んです。今は滅公奉私になっているんですよ。どっちもよくありません。だか
ら真ん中でいかにゃ、滅私奉公も滅公奉私も。
 そういうことを憲法の中で、まあいろいろありますけれども、もうこれでや
めます。
 以上であります。
○会長(村上正邦君) ありがとうございます。
 非常に活発に委員相互間の意見交換をいただきました。これまで二回にわた
り、今後の本調査会の進め方や憲法をめぐる諸問題について多くの委員の方か
ら御意見をお伺いいたしました。これまでの議論は今後の本調査会に生かして
まいりたいと存じます。
 なお、この調査会に幹事会がございますが、幹事会のもとにこの調査会の運
営をどうするかということを検討していただきます運営検討委員会を設置いた
しました。その運営検討委員会が二回にわたりまして真摯に皆さん方の意見、
この場で意見が述べられたことを体し、公平な一つの今後の接点を見出してい
くために、一つの答申が幹事会に出されました。本日、この調査会の始まりま
す前に幹事会で取りまとめてまいりましたことを御報告申し上げます。
 次の点を基本方針として議論を進めてまいりたいと存じます。
 第一は、国民とともに論議をする、すなわち国民論憲とし、暮らしの中から
国民の意見を酌み取り、その意見を調査に反映させ、適宜議員間の討議を行っ
ていくことであります。
 第二は、過去と現在を踏まえつつ、将来を見通して論議を行っていくという
ことであります。
 そこで、当面の運営としては、これらの基本方針を踏まえ、言論・マスコミ
界、地方公共団体の首長、経済界、労働界など、広く国民の各界各層からの意
見を聞きながら、適宜議員間の討議を行って論点を絞っていくとともに、国民
の間に議論を喚起し、認識を深めてもらうようにしていきたいと考えておりま
す。
 また、きょうは、各国の大使の意見も聞いたらどうだと、こういう御意見も
ありますので、こういうことも加味しながら考えてまいりたいと思っておりま
す。学識経験者を招致して御意見を聞くことは当然のことでございます。
 しかしながら、一つ一つこれを進めていかなきゃなりませんので、まずは、
ちょうど今学生が春休みに入っておりますので、次はこの学生を招致し、学生
とともに語る憲法調査会を今月中に開くことを検討していきたいと思います。
 また、憲法調査会の情報等をわかりやすい形で国民に発信し、同時に国民か
ら広く憲法に関する意見を聞けるようにするために、現在の参議院のホームペ
ージに、開かれた憲法調査会にふさわしい専用ページ及び専用Eメールボック
スを直ちに開設していきたいと存じます。
 この学生招致につきまして、どういう形でやるかということも運営検討委員
会で具体的にひとつ研究していただきたい、このことをお願いを申し上げます。
 それから、先ほど福島瑞穂委員からも重ねてありましたが、片山委員がそれ
に対して御発言がございましたが、五年というのはこれはもう決められておる
わけですから、しかしその間、我々任期がありますから、その自分の任期中に
この調査会で何をやったくらいのことの中間報告は、開かれた、国民に発信を
するという意味でこれはぜひ中間報告はまとめていきたい、私はこのように考
えて、幹事会においてもたびたびこのことについては議論をしてまいっておる
ところでございます。
 本日はこれにて散会いたします。
   午後零時五分散会