沖縄大学公開講座・台湾環境調査報告 生井貞行 <日程> 8月8日(木)晴 4:30 起床 7:00 東京駅・成田行エキスプレス乗車 9:00 成田空港第二ビル着 11:25 Take off 13:18 タイペイ着 気温30度 現地案内:宮城大洋氏(台湾大学環境工学科環境計画専攻) 15:25 台湾大学環境工学研究所 張教授との面談 16:10 台湾大学発 16:30 木柵焚化炉(ごみ焼却施設)見学 19:00 天成飯店 8月9日(金) 晴 5:30 起床 7:20 ホテル発 7:36 高速道路(20年前に完成・非常時には飛行機の滑走路) 11:35 台南市(台南大飯店チェックイン) 13:26 ホテル発 13:50 奇美博物館(民間人により設立された博物館) 陶器・兜・日本鎧・西洋鎧・武器・楽器・絵画・置物等、量に圧倒される。 16:12 新化畜産試験場 20:08 桃山にて夕食、その後ホテルへ 8月10日(土)晴 8:15 台南大飯店発 9:05 烏山頭水庫(ダム)着 11:00 烏山頭水庫発 13:30 七股潟湖(干潟)見学 マミゴリョー島 20:00 台南大飯店着 8月11日(日)曇 8:11 ホテル発 9:24 孔子廟見学 真向かいに華南水利組合の事務所 10:07 孔子廟発 11:00 高雄着 13:17 高雄小港区見学 雷雨、酸性雨と亜硫酸ガスのにおい 20:00 華園大飯店 8月12日(月)晴 5:00 起床 調査団にお別れの挨拶(以後、個人調査活動) 高雄駅にて切符購入 11:18 フェリーにて旗津半島 15:00 フェリーにて高雄港見学 18:00 華園大飯店 8月13日(火)晴 7:00 起床 8:30 華園大飯店発 高雄市立歴史博物館:「日治時期台湾近代化的軌跡」開催 11:15 高雄発・台東行汽車乗車(364元) 13:50 台東着 聡亜大飯店チェックイン 台東市街巡検:魚・肉市場 8月14日(水)晴 7:00 起床 台東市街巡検:天后宮、海山寺、風力発電、太平洋 11:40 バス停前の食堂、海産粥(50元) 13:15 台東発・花蓮行汽車乗車(273元) 16:30 花蓮着 皇賓大飯店チェックイン 18:00 花蓮阿美文化村、帰りのタクシーが無い。現地の人に送ってもらう。 8月15日(木)晴 6:00 起床 8:12 ホテル発、太魯閣(タイルーガー)へ:大理石を浸食してできた大峡谷 16:00 ワンタン専門店へ 19:00 ホテル 8月16日(金) 6:00 起床、パッキング。駅まで歩く。途中、おばさんが、バイクに乗っけてくれるとのこと。 丁寧におことわりする。有り難い親切。 8:02 花蓮発、宜蘭行汽車乗車(225元) 9:31 宜蘭着 宜蘭市街巡検、五穀廟、日本統治時代の監獄、石敢当 14:44 宜蘭発、台北行汽車乗車(223元) 16:25 台北着 天成大飯店チェックイン 8月17日(土) 6:00 起床 バスにて故宮博物館へ(30元) 228記念館 台湾総督府 8月18日(日) 7:00 起床、パッキング 10:00 ホテル発、空港へ 14:50 Take off 17:10 東京国際空港 <聞き取り項目(羅列)> ・台湾の面積36000平方キロメートル、人口2300万人、86島、山地73% ・大気汚染・アクリルニトロン0.02ppm ・畜産公害がみられる。 ・マンション価格 40〜50坪 5〜6000万円 200万円/1坪 *木柵焚化炉にて ・ゴミの分別が課題 ・ゴミ袋一つ約2円、ゴミは出す人がある程度分別し、また分別所がある。台北市のみ。 ・クレーン、一回6d、焼却炉4基、370t/1日/1基 現在300t/1日/1基 X4=1200t、処理費用8000円/1t ・エバーグリーン:独占総合企業 ・新竹の産物:ビーフン、スイカ、ワンタン、台湾で最大の工業団地立地 フィリピン、ベトナム、タイから労働力移入、2年契約。中国大陸からは雇用しない。 3000〜5000元/1ヶ月(中国大陸)→台湾では10倍 ・苗栗県:台湾名物なんじゃいな。さとう、樟脳、ウーロン茶 ・蓬莱米、在来米、餅米 ・台中:バナナ ・エビの養殖は全滅。鰻・梅干しは日本へ輸出。シラスは日本から輸入し鰻を日本へ輸出。 一匹50 *新化畜産試験場にて ・100頭ブタの処理施設。 ・前回(20年前)よりは悪い方向に変化している(宇井氏談)。 ・簡単な処理施設は畜産農家にまかせる(宇井氏談)。 ・処理水の利用は法律で禁止されている。アンモニアが含まれている。硝酸塩障害。 沖縄では農家が薄めず処理する。 *七股潟湖にて ・1994年に工業団地計画、農漁民、NGOによる反対運動。 160ha、住民1600名、干満の差1m、漁業権なし、税金なし、祖先からの海。 移転補償あり。 *高雄港にて ・世界三大貿易港(高雄港) ・台湾の貿易港:基隆・高雄・花蓮 ・石油化学、石灰工場、食料品工場、造船 ・台南のセメント工場は50年前、日本がつくる。 ・中国鉄鋼工場は環境保全に取り組んでいる。 ・製鉄所は移転する傾向:失業問題・労働問題 <調査報告概要> 宇井純沖縄大学教授を団長とする沖縄大学公開講座・台湾環境調査のメンバー25名は8月8日(木)に予定通り、台北空港に集合した。現地案内・通訳として台湾大学大学院に留学している宮城大洋氏が合流した。まず、一行を乗せたバスは台湾大学環境工学研究所の張教授を訪ねた。研究所の中庭はあふれるほどの緑の木々や草花が繁茂していた。環境工学研究所だけに見られる環境景観とのことと説明された。 会議室に通され歓迎のレセプションのあと、台湾における環境問題の概要についての説明をうけた。また、台湾大学大学院では無試験で入学できるということで、留学生を望んでいるとのことであった。その後、木柵焚化炉(ゴミ焼却施設)を見学した。 焼却炉は4基あり、1基で1日に370tの焼却ができる。しかし設計の都合で300tの処理しかできず、1日の処理合計は1200tである。また処理費用は1t当たり8000円である。ゴミの分別は出す人と分別所とで行われているとことであった。ゴミ収集車で運び込まれたゴミはコンクリートの穴に搬入され、それをクレーンがつかみ上げ、焼却炉に落とし入れるしくみは日本と同じであった。ゴミを間近にみると、空き缶やプラスティック製品などが混入されていた。翌日は台南市へ向かった。 台南市へ向かう途中の新竹には台湾で最大の工業団地が立地している。車窓からはコンビナートの煙突が林立している様子が知れた。フィリピン、ベトナム、タイからの労働者が二年契約で働きにきているとのことである。中国大陸からは労働者を雇用していないという。大陸と台湾の微妙な緊張関係が垣間見れた。 また、苗栗県の特産物はさとう、樟脳、ウーロン茶である。米は蓬莱米と在来米と餅米の三種類が生産されている。台中ではバナナが生産されている。 海に近づくにつれて養殖池が見られるようになった。かつてはエビが養殖されていたが、いまでは鰻の養殖に変わった。日本からシラスを輸入し、鰻にして日本へ輸出している。一匹50円になるという。台南市郊外にある新化畜産試験場(Taiwan LivestockReserach Institute Council of Agriculture)を訪ねた。 緑に囲まれた広大な敷地に試験田や研究所、各施設が建てられていた。宇井氏が20年前に訪問した施設である。100頭のブタが飼育されている排水処理施設を見学した。バイオマスにより排水を処理し、肥料化するリサイクル施設である。宇井氏によれば20年前とは規模が拡大していたが、それにつれて性能は低下しているとのことである。規模の拡大は性能の向上には結びつかない。むしろ、できるだけ農家自身が処理できる簡易処理にしてほうがよいとのことである。処理水の再利用は法律で禁止されている。アンモニアが含まれており、土壌が硝酸塩障害をおこすからであろうとのことである。沖縄では農家は水で薄めず、処理をしている。翌日は烏山頭水庫(ダム)を見学した。 烏山頭水庫は10年の歳月をかけて日本人技師土田與一氏により造られた灌漑用ダムであり、1930年に完成した。それにより洪水と干魃、塩害の三重苦で不毛の地であった嘉南平原を農地にすることができた。15万ヘクタール全区域を水路系統により三つの区域に分け、それをさらに150ヘクタールを一区画とする給水区画に分け、さらにこの区画を50ヘクタールの小区画に分け、毎年、循環式に夏季単作水稲区、甘藷作、雑作物を作付けし、それぞれ異なる給水時期に灌漑するという「三年輪作給水法」がとられた。土田與一はダムを造ったのみでなく、農民に農業方法をも指導した。その偉業は今でも台湾の人々に語り継がれている。貯水湖の畔の小高い丘には腰掛けてダムを見る土田與一の銅像と彼の戦死の跡を追ってダムの排水口に身を投げた妻外代樹(とよき)の墓がある。高雄市立歴史博物館にも彼の業績が展示されている。次に七股干潟に向かった。 七股干潟には1994年に工業団地造成計画が持ち上がった。約160ha、125種の魚類、73種の貝類、多くの鳥類、渡り鳥などが生息し、1600人の漁民が生活している干潟である。その工業団地造成反対運動に漁民とNGOが立ち上がり、計画を白紙にもどした。漁民は観光舟と牡蠣やスチール(うなぎの一種)、ひらめの養殖漁業で生計を立てている。干潟には渡り鳥も羽を休める。 高雄小港区巡検は雨の中であった。高雄地区は鉄鋼、電力、石油化学などの企業が集積するコンビナート地区である。三井系日本企業が進出している。公害発生源が限られた地区に集中・集積し、さらに住宅密集地に隣接している。1992年に公害問題が起こった大林地区を見た。そこは住宅街の人々の生活圏の中にコンビナートがあるといってもよいところであった。台湾の公害問題の状況は日本の70年代の後追いをしているものである。小竜と呼ばれるアジアNIESの一角を占め、経済成長の途中にある台湾は今後、更なる公害被害が生じると思われる。写真を撮るためにバスから雨の降る外へ出た。真っ先に亜硫酸ガスの刺激臭が鼻をついた。 調査後半は西海岸を1人で廻った。現地の人との会話が十分通じない中、筆談により意思疎通を行った。西海岸は工業地帯が形成され、東海岸地帯は農業地域が多く見られた。水稲、さとうきび、パイナップルなどの作物が特に目だつ。また、鬢榔(びんろう)の樹が山間部や畑の境界などに多く植え付けられていた。 鬢榔は椰子の一種で、その実を噛むと軽い陶酔状態になる。台湾では少数民族の嗜好品であった。それが最近一般の人にも広まってきているという。道路沿いに青いネオンをつけ魅惑的な姿で少女が鬢榔を売っている。トラックの運転手が多く買っている。台湾における社会問題の一つであると指摘されている。また山の斜面に鬢榔を植林することによる山地崩壊も見られるという。 花蓮郊外の太魯閣(タイルーガー)は大理石が浸食されてできた大峡谷である。岩燕が飛び交っていた。宜蘭の町の中心には日本統治時代の監獄が保存されている。また、町の一角には石敢当が見られ、沖縄との密接な関係を証している。 台湾入国最初の地である台北に戻った。故宮博物館、台湾原住民博物館、二二八記念館、台湾総督府などを見学し、岐路に着いた。十日程の台湾環境調査とそれに続く台湾巡検であった。台湾の現状について現場を通して学ぶことができた。環境調査の原点は現場から学ぶことであろう。社会の矛盾は現場に凝縮された形であり、また環境問題の解決のカギも現場を通して把握することができると考える。 調査団長の宇井純さんはじめ沖縄大学スタッフの皆さん。台湾大学の張さん。環境教育ネットワークの皆さん。台湾大学留学生の宮城大洋さん。幅広い知識で台湾の諸状況について説明してくれたガイドの劉さん。花蓮で行動を供にした沖縄の赤嶺さんと大阪の兼本さん。そして同じ地理学徒として一歩を踏み始めた竹本萌子さん。その他、多くの方に感謝いたします。 2002.8.25 生井貞行 |