ウエストバンクにおけるイスラエルの軍令:1967-1992年序章 |
|
---|---|
1967年6月7日、イスラエル軍は「軍布告 1」によって、西岸地区とガザを「安全と治安維持のために」占拠し、支配下に置いたと発表した。以後25年におよぶ占領において、イスラエル当局の政策や優先事項に変更が起こるたびに、軍令が発布されてきた。イスラエルの占領は、律法主義にもとづいているのである。 このため軍令研究は、占領の性格がどのように変遷してきたかを追い、それがパレスチナ住民にどのような影響を及ぼしたかを把握するための絶好の手段となっている。 本書は、久しく待望されていた英語による包括的な軍令研究の基礎資料として作成された。 ここに収録した軍令は、ヨルダン川西岸地区(東エルサレムは1967年にイスラエルに併合され、現在はイスラエル国内法が適用されているため含まない)で公布されたものである。ガザで公布されている軍令も、番号が違うだけで、全般的に西岸地区のものとほぼ同一である。これらの軍令の合法性を査定し、より広い法律上の意味を評価することは、本書の守備範囲を超えている。そういうことは有能な法律家に任せられるべきものである。また本書は、ヘブライ語やアラビア語の軍令文書を逐語的に翻訳したものでもない。本書が提供するのは、それぞれの軍令の、アラビア語のテキストから抜粋された簡潔な要約であり、その目的は研究者や法律家が自分の研究する特定の分野に関連する軍令を見つけ出す作業を簡略化することにある。 1980年以前には、1967年以降に発布された軍令や規則は、それらを適用される占領地の住民にも、この複雑で不可解なところもある法体系のもとで働く法律家や研究者にも、系統だった包括的なかたちで提示されることがなかった。1980年以降は、ヘブライ語とアラビア語の両方で書かれた正式な軍令集成が過去にさかのぼって公表されるようになった。 しかし、それらの集成は「官報」にまとめられることはなく、ただ「軍令、パンフレット、官職任命などの集成」とのみ呼ばれてきた。本書は、このような「集成」をもとに編纂された。 本書に収録された法規は、次の5種に分類される。 一. 軍の布告軍の布告は三つしかなく、すべて占領の最初の2日間に公表された。 イスラエル軍参謀総長の署名で、これらの布告は地域軍司令官に占領されたパレスチナの領土とその住民を支配する圧倒的な大権を与えた。「軍布告 三」には日付がなく、実に具体的な細目にわたって言及している。この布告があらかじめ占領を予想して イスラエルの非常事態対応計画の一部として準備されていた可能性は十分にある。二. 番号つき軍令地域軍司令官の署名による軍令。占領の継続とともに公布された法規のほとんどを占める。1967年以降、西岸地区の生活を規制する1377条の軍令がイスラエル当局によって公布されている。ただし、1992年7月から同年末までに発布された無数の軍令は、まだイスラエル当局によって公表されていない。唯一の例外は1992年12月16日という日付の軍令1369条で、多数のパレスチナ人を南レバノンへ追放するために単独で発表されたものである。三. 番号のない軍令これらはイスラエル軍の指揮官、あるいは1981年に民政が施行されて(軍令947)からはその行政長官が署名する軍令。番号つき軍令とまったく同じように、既存の軍令、またヨルダンおよび英国委任統治時代の法規に改訂を加えるものである。四. 規則これらの規則は、民政府の各部門の長が発令するもので、その権限は、最初に地域軍司令官、次に民政府の長によって委任される。五. 告知と通達これらは民政府の各部署の下級官吏によって発行することができる。これらは、既存の軍令や規則の詳細に細かい修正を加えるものである。本書を一読すればすぐに分かることであるが、番号づきの軍令は、発布もイスラエル公式集成への収録もほぼ年代順になっているが、番号のない軍令は年代の前後がはなはだしく、発布されたずっと後に出版されたものが多い。とはいえ、場合づきの軍令のなかにも、二つの別々の軍令に同じ番号がふられる(軍令161)、番号が飛ぶ(軍令349)、あるいは出版前に軍令が廃止されたもの(軍令10)など、矛盾したものが少なくない。軍令1157から1229までは特にまぎらわしい。個別に出されたか、イスラエル当局によって一括発表されたかによって、同じ番号が異なる軍令にふられているからだ。このような場合は、両方の番号を示して読者に警告した。 既存軍令の改訂については、番号づけはさらに不規則になる。改訂された番号はしばしば順番どおりではないし、同じ番号が繰り返し使われたり、番号が飛ばされたりする(特にはなはだしいのは軍令263)。他のケースでは、すでに破棄された軍令が改訂されているもの(軍令783)、あるいは改訂番号が与えられた軍令そのものが、既存の軍令の改訂であるといった場合(軍令56)がある。このような場合は、元の軍令にも、その改訂軍令にも、三番目の改訂の番号をふっておいた。 軍令の文中で特に指定のない限り(軍令823参照)、軍令は施行ではなく発令の日付がつけられている。とはいえ、発布日と施行日は一般的に同一である。なかには、まったく日付のないものもある(例えば 軍令1191)。イスラエル当局が発行する軍令集で発布された軍令のなかには、行政府の組織や手続き関連の職種にさまざまな個人を任命する通知を含むセクションがいくつもある。これらの任命通知は、被任命者がすでに現役ではなく、一般的興味も乏しいため、本書では省略した。ただし、読者が必要なら追跡できるように、イスラエル当局集成中の位置をボックスで表示するようにした。 本書に収録された軍令について編集者側のコメントを加えることは一般に差し控えたが、軍令の表題や本文の意味するところが読者にわかりにくいと判断した場合には、内容を明確にするための修正を加えた。 例えば、軍令432とその改訂は、占領地における入植地における警備に関わるものであるが、本文では単に「村の警備」としか書かれていない。この軍令の付属文書を参照して初めて、これらの村々が実はみな入植地であるということが分かるようになっている。本書では個々の入植地を挙げていないので、そのことが分かるように軍令の表題を修正した。 二つの最も重要な軍令 − 保安対策に関する軍令378(1970年4月20日)と民政開始に関する軍令947(1981年11月8日) − については、逐語訳を付録に収めた。同じく、多数の軍令によって改訂されているヨルダン法規の一覧も付録に収録した。 巻末には、包括的なインデックスと並んで、課税や土地取引のような重要な法律分野のいくつかをカバーする詳細な主題別インデックスもつけた。
|