エル・エスパシオ・デ・ラ・ペリクラ

現代やくざ 人斬り与太

(東映東京) 1972年作品

監督:深作欣二  撮影:仲沢半次郎  出演:菅原文太 渚まゆみ 安藤昇


参考上映:
場所:キノ・キュッヘ
日時:2005年7月24日(日)16:00〜

解説: 宮明生

たまには日本映画ということで、愚連隊ものです。任侠ものとはちがいます。野良犬のような、とよく形容される文太を主役級に押し出したシリーズ。秀作といわれる『人切り与太 狂犬三兄弟』が観られないのは残念だなあ。

《与太者シリーズの具体的な解説は、ここを参照してください→ 『現代やくざ 人斬り与太』、『人斬り与太 狂犬三兄弟』》

「現代やくざシリーズ」(通称:与太者シリーズ)は菅原文太の主演もので’69年の「与太者の掟」から’72年の「人切り与太」まで6本製作されています。中島貞夫監督による『現代やくざ 血桜三兄弟(ちざくらさんきょうだい)』(’71年)も秀作といわれています。

 というわけで、本作は高度成長期にもかげりが見え始めた1972年の作品です。「フェミズム」のフの字もまだなくウーマンリブも「リヴ」と誤記されるような時代でした。強姦や輪姦などは当たり前(そういえば、80年代前期だったかに某党派の三里塚援農合宿所でレイプ事件が内部告発されたことがあったなあ……)で、映画も男性中心、性差別当然なのです。いまでも、おんな、こどもを強い男がラストに救うという男性中心映画はハリウッド大作映画の大筋でこれは近代家族がつづくかぎり製作されるシステムです。強姦についていえば、いまは新聞表記でも使用するかどうか難問(「暴行」と表記)になっていて、すべて隠蔽が「ほどよい」ということですが70年代までは映画では定番の「表現」でした。なお80年代中頃まで某男性漫画週刊誌がレイプを職業する主人公の作品を堂々と人気連載していました。この点、漫画の出版では男性本?女性本と棲み分けがあって、ちょっと進んだカルチャーと言えるのではないでしょうか。ただし、性表現や性差の中身についてはどうか?は、わたしは知らないです。

 ラストに主人公がみじめに死ぬというのは、『灰とダイヤモンド』以来、監督の好みなんでしょうか……。菅原文太の場合はまさに負け犬でそれに女性が添い遂げるとは、う???ん、おとこの夢だな。いまだバラックもスラムもある、という都市の光景(映画ではたぶん川崎あたり)が女性の位置づけとともに、底辺と「暴力」が遍在していた時代=敗戦後の昭和を思い出させます。滅私奉公・企業家族主義のサラリーマンにとって別世界の一匹狼的なパワーの存在は「娯楽」としても憧憬でありましょう。つまり男の世界としての映画なんです。

 現役ばりばりの渋谷のやくざ・安藤昇が鳴り物入りで登場しますが、外車やクラウンというより中古のファミリーカーという感じでしょぼいです。『現代やくざ 人斬り与太』より『人斬り与太 狂犬三兄弟』のほうがはちゃめちゃでわたしはおもしろいです。

 

 ’73年からはじまるのが、手持ちカメラ多用(撮影:吉田貞次)・ドキュメントタッチの「仁義なき戦い」シリーズ(東映京都)です。一種のブームにもなりましたが監督がのちに文化勲章をもらうなんて、ウラ・オモテ、ムラ社会的でちょっとなにかがものたりないんではないでしょうか……。なお深沢ものでは渡哲也を主人公にした作品もあるのですがこれはかげりが強くう??んきびしいな、という感じです。      

 以上、宮明生でした(2005.7.24)                  

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