六月十二日、文京区民センターにて、アジア連帯講座が「パレスチナ情勢を読む・『中東和平』のバランスシートと自衛隊ゴラン高原派兵」として、パレスチナ行動委員会・派兵チェック編集委員会などで活躍している岡田剛士さんを迎えて講演会を行った。 まず、岡田さんが日本語版作成に携わったビデオ『エルサレム・石に刻まれた占領?』が上映された。ビデオは、エルサレムの民家にイスラエル兵が突入して、住民を排除した後に、ブルドーザーで家屋を破壊する衝撃的なシーンから始まる。このビデオは九五年に作成されたものだが、当時「和平推進派」といわれたラビン政権下で、このような土地強奪が大規模に行われており、「強硬派」のネタニヤフから「和平推進派」のバラク新政権に至るまで、「イスラエルによるエルサレムの主権の独占」が主張されている。 また、家を破壊されたアラブ人が市役所に抗議に行くと「ここに住んでください」とマイクロバスを与えられたというエピソードやアラブ人は検問によって学校や病院に行くにも「許可証」がないとイスラエル兵に阻まれるなど、かつての南アフリカのアパルトヘイト同様の実態にあらためて驚かされる。 岡田さんの講演はまず、右派・リクード党と「左派」労働党の選挙綱領を対比して、パレスチナ国家樹立の認否、ユダヤ人入植地の扱い、エルサレムの主権、ゴラン高原占領地の返還などの政策にほとんど違いがないことを指摘して、パレスチナ人にとって新政権によって状況が好転するとはあまり考えられないとした。 また、パレスチナと協力関係をもつイスラエル・ユダヤ人の運動について、奮闘はしているがアラブ人の信頼を獲得するほど強いものではない、しかし日本の左翼と同様にごく少数でも歯を食いしばってがんばるという姿勢にはシンパシーを感じる、とユーモアを交えて語った。 自衛隊のゴラン高原派兵を許してしまっている私たちの弱さと向き合いながら、パレスチナ現地の困難さを共有する連帯運動のために継続して考えていくことを確認した。 (F) 右派リクード党も、「左派」「和平推進派」といわれる労働党も政策的には、たいして違いはない。バラクの新政権も「イスラエルによるエルサレムの永遠の独占」を前提にパレスチナ側と交渉するのだから、「ネタニヤフは交渉を凍結し、バラクは永遠に交渉する」という論評は、その通りだと思う。 イスラエルの政治状況は、リクード党と労働党の二大政党から、各エスニック・グループを代表する政党や宗教政党などが次々登場して、多党化がすすんでいる。「連立」によってしか組閣できない状況だが、なんとかアラブ系政党は除外したうえで「連立政権」をつくろうとするのが、イスラエルの議会政治だ。土地取り上げなどに反対してアラブ人との連帯を掲げる左派グループも存在するが、議席獲得には遠く及ばないし、アラブ人にとっても信頼に足るほどの勢力に達していない。 あまり報道されないが、南部レバノンをめぐる戦闘では、現在でも相当な死者が出ていて、イスラエル内部でも厭戦気分が広がっている。これはイスラエル政府も「何とかしたい」という気はあるだろう。しかし、レバノンと交渉するということは、シリアと「ゴラン高原」についても、セットで交渉しなければならない。 いずれ、ゴラン高原の「段階的返還」はあると思うが、そうなると現在派兵されている自衛隊は「国連」の看板を外したうえで派兵が継続される可能性がある。八二年にイスラエルがエジプトにシナイ半島を返還した後も、アメリカなど数カ国が「国連」の看板なしに、監視部隊を駐留させている。ここは、注視しなければならない点だ。 イスラエルは「西暦二〇〇〇年」を記念する観光に力を入れるようだが、たとえばベツレヘムなどを「古来のユダヤの地」として観光化するということは、新たなアラブ人追放を開始する可能性があるということだ。 日本政府の外務省のホームページを見ると、中東和平関係諸国への支援を打ち出していて、「近年、日本はトップドナー」などといばっているが、やはり、相手国の債務をかさばらせる悪質な援助としか言いようがない。こういう点も踏まえたうえで、アラブ・パレスチナとの結びつきを困難でも作っていかなければならない。(文責・編集部) |