99年9月25日 セクシャルライツ連続企画第一弾 アジアにおけるレズビアン・ゲイ解放運動と私たち
●アジアにおけるレズビアン・ゲイ解放運動の現状 |
異性愛中心社会を変えよう! 九月二五日、アジア連帯講座は、中目黒スクウェアにおいて、「アジアにおけるレズビアン・ゲイ解放運動と私たち」を三十名の参加で行った。 まず、九月一九日に札幌で開催された「第四回レインボウ マーチ」に参加した仲間によるスライドが上映された。「第四回レインボウ マーチ」では前夜祭を含め、五百六名がパレード、集会に参加した。その模様がスライドから伝わってくる。パレードでは、沿道にいる市民からも声援が寄せられるなどの人気ぶりだったという。 札幌の「レインボウ マーチ」に参加した仲間から感想も含め意見が述べられた。 「ある社会運動に関わっていて、二九歳の時に一緒に行動している同性が好きになってしまった。丁度アカー(動くゲイとレズビアンの会)が「府中青年の家」裁判*)を行っていた頃、国会で反安保闘争などのデモをしているとき化粧をしてスカートで参加したりした」。そして「パレードに参加することは、本当の自分が表現できるもの。自分の存在を社会に訴える場として、セクシャルマイノリティは今後もこのようなパレードを続けるだろう」、と締めくくった。 続いて、稲場雅紀(アカー所属)さんから、アジアにおけるレズビアン・ゲイ解放運動の状況などを報告してもらった。まず、稲場さんは、「アジアの同性愛者の問題を知識だけ詰め込んでもしょうがないので」と前置きし、ワークショップや同性愛者の基礎知識を話した上でアジアにおけるレズビアン・ゲイ解放運動とその問題提起などを行った(講演要旨参照)。 討論では、札幌と東京のパレードの違いや同性愛者やセクシャルマイノリティがパレードで表現すること、同性愛者としてアイデンティティを確立していくことの意味や差別用語の規制の是非など問題が出された。今回、「レズビアン・ゲイ解放運動」を巡って、異性愛者をも含めた異性愛社会を変えていく取り組みの重要性が確認された。(S) *)「府中青年の家」施設がアカーへの使用を禁止したことをきっかけとして、アカーが東京都を相手に提訴し、完全勝訴した事件。 稲葉雅紀(アカー)さんの講演から 「アジアにおけるレズビアン・ゲイ解放運動」(要旨) 日本において同性愛者やセクシャルマイノリティの問題が表面化したのは、九十年代に入ってからである。八十年代の「エイズ」記事などを見てみると「ホモの病気」と平気で書いている。この「ホモ」という言葉、異性愛者が「ホモ(あるいは「オカマ」)」という表現が差別的だと認識できるようになってきたのは、本当に最近のできごと。最近でも依然としてスポーツ紙、バラエティ番組などでは、「ホモ」、「レズ」という言葉が平然と使われる。 駅の売店などの新聞に「ホモ痴漢」や「レズ否定」などと平然と書かれている状況の中で、私たちが「同性愛者である」ということを訴え歩くパレードなどはかなり勇気のいることであることを念頭に置いて欲しい。そして、このような現状は、まず異性愛者が差別をしている現状があって、同性愛者の側での分断や運動サイドの分裂などがあることを念頭においてほしい。 日本やアジアでの同性愛者運動の重要な事件として80年代に起こったエイズパニックが上げられる。国家権力もエイズ対策というものであれば認める。だから、エイズの問題を通して同性愛者たちは運動を組織化している。まず、アジアのゲイの団体の作られ方としてそのような特徴がある。 マレーシアなどでは、同性愛者もんだいということになるとイスラム国家であり、同性愛者の問題にかなり厳しく、エイズから仲間を守るということで同性愛者運動の組織化が成功している。マレーシア、シンガポールなどの同性愛者の運動というのは、80年代後半になって生まれてきている。これらの団体は、エイズ問題などで非常に強い力で政府をコントロールするまでにいたっている。 その他フィリピンやインドネシアなどの運動の展開も特徴的である。フィリピンなどでは、社会運動がもともと強く、女性運動なども伝統的に強い。女性運動の中からレズビアン・フェミニズムのグループがたくさん結成されている。そういう団体を中心として同性愛者の人権をかかげる運動が盛り上がっている。インドネシアでも、同性愛者の団体が全国組織をもっており、全国大会を毎年開催している。国会議員でも、「私は同性愛者である」ことを公然とカミングアウトし、立候補している。こういう形で東南アジアでは、エイズにおける人権問題を中心として同性愛者たちの組織化がすすんでいる。 南アジアでは、インドの大都市を中心とした同性愛者の組織がある。インドでの同性愛者の運動は、アイデンティティを確立するようになるとエイズ問題だけではなく、あらゆる人権問題に取り組むようになってきている。インドでは、昨年「炎の二人」というレズビアン映画が上映されたが、ヒンズー教原理主義者が「同性愛者はインド文化には存在しない」と映画館に襲撃するという事件が起きた。しかし、これに対してレズビアングループや女性グループなどが中心となって、逆に上映運動を盛り上がっていった。 一方、東アジアでは、東南アジアや南アジアのようなエイズ問題の国際的ネットワークの存在をバックとして、大きな影響を作っているのとは対照的に、それぞれの国を単位としたグループつくりが進展している。例えば香港では、イギリスのようにいろいろなことをする専門的なゲイの団体が存在している。台湾は、戒厳令が解除される民主化の進展とともに、九十年代を境として、レズビアン・ゲイの運動が急激に盛んになってきている。中国では、アメリカ帰りの留学生たちが中心となってエイズを防止するグループの中から同性愛者のグループが結成されている。中国では、以前、同性愛者たちの存在を取り締まっていたが、、刑法が改正されると同時に、取り締まりの根拠もなくなりつつある状況である。韓国でも、90年代に入ってレズビアン・ゲイ組織が生まれてきている。日本も80年代以降、レズビアン・ゲイ運動が盛り上がってきて様々な運動を展開している。 ひとつ考えるべき論点として、アジアの同性愛者の運動というのは、一括りで判断することは難しいということだ。例えば、先ほどの中国の例のような、経済のグローバルリズムによって、中国本土での同性愛者の組織化に成功している。このように、国際的なネットワークの結合を進めることによって運動が展開しているという実態がある。では、グローバリズムをどのように考えていくのか。あるいはシンガポールやフィリピンでは、政府による弾圧があるためにエイズの団体を通じて同性愛者たちが団結するという側面がある。それとは逆に、マレーシアの同性愛者たちは、マハティール政権とも密接な関係をもって、厚生政策を動かしている。シンガポールも同様である。このように開発独裁政権と同性愛者たちが、ある意味で共存している状況がある。このような中で、例えばマレーシアの民主化を叫ぶ人たちの中には、イスラム原理主義者がいて、同性愛者にたいする規制を強化せよと訴えている。弾圧されているアンワル元副首相というのは、このようなこのような勢力にも支えられているという複雑な問題が同性愛者を巡る状況にはある。このような状況をどのように考えていくのか。また、階級と同性愛者の問題も考えなければいけない問題である。アジアにおける同性愛者の運動は、中産階級や上流階級によって担われている。そして、エイズの予防・啓発活動をする中で様々な階層の同性愛者を獲得している。このように、アジアの同性愛者の運動を考えたときに、まず、第一に現地の同性愛者運動の視点から見た時に、何が一番利益となっているのかを見なければならない。この視点の上に立って、私たちは同性愛者運動の問題を考えなければならない。 (講演の中で、同性愛に関する基礎概念や同性愛のおかれている状況についての部分は大変重要な問題をはらんでいますが、編集上の都合により省略させていただきました) |