アラスカでオオカミ受難
( Environmental News Network 1998.8.17.より)

   デナリ国立公園に住む有名なトラクット・オオカミ群が、今ハンティングによって絶滅の淵に立たされている。アラスカ野生生物連盟(Alaska Wildlife Alliance) ポール・ジョスリンによれば、トラクット・オオカミ群は現在オス、メスのつがい2頭と4頭の幼い子の6頭だけになってしまった。同連盟は、この群をハンターから保護するための法的措置をとるようにと、国立公園局(National Parks Service)及び、アラスカ州の漁業狩猟局(Department of Fish and Wildlife)に要請している。
これに対してNPS(国立公園局)デナリ国立公園野生生物専門家のケン・スタールネッカーは、「保護政策は感情的に根ざすわけにはいかない」と言い、要請を無理な注文だとしている。スタールネッカーによれば、1980年に公園が拡張されたとき、アラスカ公共地保全令(Alaska National Interest Lands Conserration Act)の定めにより、拡張部分についてはハンティングとわな猟が合法であるとされ、オオカミのハンティングについても、オオカミの頭数が自然で健全であるという。
これに反論して、NGOの野生生物学者ゴードン・ハーバー博士は、スタールネッカーの主張はウソだと次のように言う。「上記公共地保全法には、公園当局は公園運営のガイドラインとして、総合的管理計画を策定するべきであるとの定めがあり、法令の56〜57ページには、公園管理者は、オオカミ群の保護について、旧公園地区に主たるテリトリーをもち、新地区にもテリトリーが及んでいる群は保護されるべくつとめることと明記されている。トラクット群はちょうどこの定めに適合しているにも拘わらず、公園管理者は法令の指示するところを無視し、ウソにウソを重ねている。

 トラクット群は、野生生物学者アドルフ・ムーリーによって、1930年代に世界的に有名になった。1966年にムーリーの後を受け、トラクット群の調査をしているのが、ハーバー博士である。
ジョスリンによれば、トラクット群は、昨年12頭(成獣)から2頭へと激減し、少なくても1頭はハンターに殺されている。「オオカミ群の中には、絶滅してしまったグループもある。」とジョスリンは指摘する。「ヘッドクォーターズ・パックはワナ師によって絶やされ、サンクチュアリ・パックがそれにとってかわった」ジョスリンは続け、何年も続けられている科学的研究の中でオオカミはこれまでに考えられたよりもずっと複雑なものだということがわかってきたという。
「もしもここにいるオオカミの一家が殺されれば、これまで群に伝えられてきた知識も消え去ってしまう」とジョスリンは言う。「新たにここに入ってくるオオカミは、巣穴をつくる場所もわからない。そのうえ、新入りたちとここにいる他の捕食者達や狩られるものたちとの関係もうまくいかず、落ち着くまでに何年もかかるだろう」と続けた。

「ジョスリンの言うことは穴だらけだ」とスタールネッカーは言う。「国立公園局はオオカミたちについて遺伝的調査、DNA調査もやっているが、Wildlife Allianceは、こうした情報を得られないでいる」と彼は続ける。「オオカミのパックは同一の血筋のものだとする説は正しくない。パックには、これまで考えられていたよりもずっと多く、他所から入ってくるものが見られる。」と彼は主張する。

これに対してハーバーは「私は1966年以来、ずっとここにいてオオカミについて研究してきた」とし「この目で見てきたことから言えるのは、今残っているのは、私が1966年に始めて見たファミリー・グループから発した別の世代のものだ」と言う。ハーバーによれば国立公園局が行ったというDNA試験は、アルファ牝と3番目に交尾した雄について実施されたものであり、このペアから子が産まれたかどうかは知られていないという。NPSがDNA試験による確固たる科学的証拠を有しているという主張は、ハーバーによれば「すべて間接的、二次元的ナンセンスだ」とされる。

Wildlife Allianceは、トラクットのオオカミ群についての禁猟措置が必要であることを一日も早くアラスカ州当局にわかってもらいたいと、せまられた思いである。ハンティングシーズンが8月10日から始まるからである。
シーズン中に獲ることを許されているオオカミの頭数は、地元で生活のためにハントする者には10頭、それ以外の通例の州によるライセンス取得者には5頭である。「これはまったくとんでもないことだ」とジョスリンは言う。