オオカミの迫害 私たちが良く知っているオオカミは、おとぎ話しに登場するオオカミや満月の夜に変身するオオカミ男の姿です。それは、本物のオオカミたちの姿とはかけ離れていますが、そうしたイメージが独り歩きして、オオカミは長い間、非常に残忍で狡猾な人間の敵として扱われてきました。中世のキリスト教では、オオカミを神を恐れぬ邪悪の象徴として扱い、処刑したり、大規模に虐殺したりしました。ことにヨーロッパのオオカミは、人間の近くに住み、家畜を襲ったり、戦争で死んだ人の死体を食べたので、嫌われ、殺され続けたのです。また、オオカミを狩るスポーツ・ハンティングも行われ、ウルフ・ハウンドのようなオオカミハンティングのための犬も生み出されました。
一方、北米では、17世紀から開拓民が原野の中にどんどん入り込んで、牧畜を始めまし た。その結果、野生動物が激減してオオカミが家畜を襲うようになると、人々は銃だけで なく、鋼鉄のワナや毒薬を使ってオオカミを殺すようになりました。 オオカミについて書かれている多くの本は、そうしたオオカミ虐殺の様子を、ただ殺すというだけのことではなく、尋常ではない憎しみのこもった行動のように記述しています。
人間と同じような社会性を持ち、知恵と勇気を兼ね備えたオオカミに対して、北米の先住 民たちは敬意を払って接しましたが、その同じ理由で、新たに進出してきた白人たちはオオカミを迫害しました。オオカミの死体には賞金がつき、オオカミの毛皮もお金になったので、オオカミ専門の猟師も現れました。彼らはオオカミを殺して、月に何千ドルもの稼ぎ を得た上に、人々からは気高い行いをしたと尊敬もされたのです。
長い間、家畜が殺されれば、犬のしわざでもオオカミが殺されました。また近年は、ヘリ コプターを使って空からオオカミを撃ち殺すスポーツ・ハンティングも流行りました。この間 に殺されたオオカミは、100万頭とも200万頭とも言われます。こうして、北アメリカでは、各地でオオカミが絶滅していきました。
このようなオオカミ迫害の歴史を見ると、多くの人が昔の人の暴虐ぶりに驚かれると思い ます。しかし実は、こうしたオオカミの虐殺は、いま、この時代にも続いているのです。
今日、オオカミがまとまって生息しているのは、アラスカ、カナダ、ロシア、中国などに限られています。けれども、アラスカでも、カナダでも、中国でも、オオカミはいまもかなり無差別に殺されています。(ロシアについては、詳しい情報は伝えられていません)。