米国による拷問の歴史(後半)

アルフレッド・W・マッコイ
2006年12月18日
ZNet 原文

拷問について、ウィスコンシン大学マディソン校の歴史学教授アルフレッド・マッコイがまとめたもの。昨年12月24日の前半に続いて後半、完結編です。諸般の事情で少し雑なところがありますが、ご容赦下さい。

アブグレイブ

これらの強化された尋問の方針は、もともとアルカーイダのトップ層だけに対して使われたが、ほどなくして、2003年、バグダードで米軍占領に対するレジスタンスが起き、一連のテロ爆弾攻撃が起きたため、何千人という一般のイラク人に対しても適用されることとなった。グアンタナモの統括者ミラー将軍が2003年9月にイラクを訪問したのち、イラクの米軍司令官リカルド・サンチェス将軍は、洗練された心理的拷問を行う命令を出した。

これらの命令から抜き出した以下の部分を読むにあたって、心理的拷問を規定する属性----特に、感覚失見当、自ら引き起こす苦痛、そして最近発明されたアラブの文化的感受性に対する攻撃----に注目してほしい。

U.環境の操作:適度の不快さを創り出すよう環境を変える(たとえば温度を調整したり深いな臭いを送るなど)

V.睡眠の調整:拘留者の睡眠時間を調整する(たとえば睡眠のサイクルを昼夜逆転させる)

X.孤立:拘留者を他の拘留者から・・・・・30日間、孤立させる

Y.軍用犬の導入:尋問の際の治安を守ると同時にアラブ人の犬に対する恐怖を利用する

AA.叫び、大音量の音楽、光の調整:恐怖を引き起こし、拘留者の感覚を麻痺させ、拘束されたショックを引き延ばす

CC.ストレス姿勢:身体的な姿勢を利用する(座らせる、立たせる、膝をつかせる、前屈みにさせるなど。

実際、アブグレイブで米軍兵士たちが撮影した、いまだに守秘扱いになっている何百枚もの写真を私自身が検討した結果、無秩序に場当たり的な行為が個別のサディスト的な兵士によってなされたのではなく、心理的拷問技術のうちの3つが繰り返し繰り返し、嫌気がさすほど体系的に繰り返されていることがわかる。すなわち、感覚を剥奪するためにフードをかぶせること;自ら苦痛を引き起こさせるために長短の足枷をして無理矢理立たせ続けること;最近発明されたアラブの感受性を利用するために犬を使い、丸裸にし、性的屈辱を与えること。リンディ・イングランド一等兵がアラブ人拘留者にリードを付けて犬のように扱う写真が撮影されたのは、まったく偶然ではない。

アブグレイブ以後

次にアブグレイブ・スキャンダル以後、アメリカ合衆国がどのようにこれらのCIA式心理的拷問技術に向かっていったのかを見てみよう。アブグレイブにおける拘留者への虐待に対して怒った米国の人々に対し、ブッシュ政権は、大統領の特権であるとして拷問を擁護した。それに対して、法廷とメディア、人権団体による市民社会の連合が虐待を止めさせるために動いた。

2006年6月、ハムダン対ラムズフェルド裁判において、米国最高裁は、ブッシュの軍事指令は不法であるとの劇的な判断を下した。というのも、ジュネーブ条約共通3条のもとではグアンタナモの拘留者は「文明化された人々にとって不可欠と認められる・・・・・・あらゆる法的保証のもとで」裁かれなくてはならないが、ブッシュの指令はそれに合致していないからである。

それから9月6日、ハムダン判決以降不法なものとなった自分の政策を合法化する驚くべき試みとして、ブッシュ大統領は、14人のアルカーイダ関係トップ捕虜をCIAの秘密監獄からグアンタナモ湾に移すと発表した。過去の虐待を否認すると同時に正当化するかたちで、ブッシュは自分が「拷問」を容認したことを否定すると同時に、「決定的な情報」を引き出すためにCIAが強硬な「別の一連の手続き」を用いることを用語した。彼が言うところの「CIAプログラム」を押し進めるために、ブッシュ大統領は、最高裁が却下した捕虜扱いの手続きに関する大統領指令と同じ内容を合法化する法案を議会に提出すると発表したのである。

最初、ブッシュの法案は上院軍事サービス委員会におけるベテラン共和党議員3人----グラハム、マッケイン、ワーナーの各上院議員----から強い反対を引き起こすように見えた。けれども、9月21日、チェイニー副大統領の上院オフィスで丸一日にわたる張りつめた交渉ののち、これら共和党議員は妥協案にたどり着き、それは1週間のうちに議会を通過して、何一つ修正されずに、軍事評議会法(軍事法廷法)2006が成立した。

この法律にはあるまじき点が多々ある。捕虜から人身保護令状請求権を剥奪したこと、裁判なしに無期限に拘留することを認めたこと、拷問により得られた証言をグアンタナモの軍事法廷で用いることを認めたことなどである。また、何よりも重要なこととして、この法律が、「酷い心理的苦痛」という用語の極めて狭い定義を用いることで、今後のCIAの尋問者に心理的拷問を用いる広範な自由を与えた点がある。米国が、この「酷い心理的苦痛」の狭い規定を最初に採用したのは、1994年、国連拷問禁止条約を批准し、同時に同条約を発効するために連邦法第2340を採択したときであった。

今回の法における「酷い心理的苦痛」の曖昧な定義は、96ページからなる「軍事評議会法2006」の第70ページ、第B部B節の第950V段落にあり、それは次のようになっている:「酷い心理的苦痛と被害の定義:本節では、『酷い心理的苦痛』という用語は[連邦法]第18編第2340(2)で与えられた意味を有する」。

では、連邦法第2340の定義はどうなっているのだろう? むろんこの定義は、米国が国連拷問禁止条約を批准した1994年から95年に採用した極めて限定的な定義となっている。

簡単にいうと、この法が規定する極めて制限された酷い心理的苦痛の定義は、CIAが過去半世紀にわたって人間心理に対する全面攻撃へと「改善」してきた洗練された拷問技術の属性をどれ一つとして禁ずるものではない。

この点を明確にするために、この法が採用している四項目からなる「酷い心理的苦痛」の極めて狭い規定を、CIAの心理操作技術と比べてみることにしよう。それによって、CIAが実際に用いる方法が禁止されているかどうかがわかる。この法第2340によると、いずれにせよ「酷い心理的苦痛」を構成する行為は4つしかない。それは、薬物の注射、殺人脅迫、別の人への脅迫、そして大きな身体的苦痛である。

実際のところ、この定義は、CIAが過去50年にわたり開発してきた何十もの心理的方法のどれ一つを禁ずるものでもない。CIAの手法には、以下のものが含まれる:

この法がこれらを除外するために用いている奇妙な論理を疑いようもなくはっきりさせるために、次のようなアナロジーを使うことが出来よう。たとえて言うならば、殺人に関する法律を、人気のボードゲーム「クルー」の一枚から引用し、殺人を「ホワイト夫人が温室でろうそく立てにより行う」殺害に限ると定義するようなものである----ここから、規定外のものとして、毒や銃、ライフル、ナイフ、ロープ、棍棒、爆弾といったよりなじんだ手段で行われる全ての殺人を合法化するようなものである。

この新たな法に対する私の批判的な----もしかすると皮肉すぎる----評価の妥当性を試すために、この法律がCIAの「強化された」方法の中で最も過激なウォーターボーディングを禁止しているかどうか見てみよう。チェイニー副大統領は、最近、情報を引き出すために「水にちょいと浸ける」方法を使うのは、「私にとってはちょろいことだ」と語った。尋問政策をめぐる政府指導者であるチェイニーのこの言葉は、ホワイトハウスが否定しているにもかかわらず、新たな法律のもとでウォーターボーディングが合法とされていることをはっきりと示している。

この法は、省略により、国際社会----赤十字と国連人権委員会として実現されている----が心理的拷問とみなす方法をCIAが用いる権利を実質的に合法化した。1791年、アメリカ合衆国が憲法修正第5条で自ら刑事訴追を招く証拠を提供することを禁じてから200年間で、はじめて、米国議会は強制によりなされた証言を米国の法廷に提出することを認める法律を採択したのである。

軍事評議会法が含意するものは重大であり、ほぼ確実に法的な反対手段がとられるだろう。実際、つい数週間前、引退した連邦判事7人がワシントンDCの米国控訴裁判所にこの法が不当であることを訴え出た----「一つの特定の根本的な欠点」すなわち軍事法廷が拷問により得られた証拠を採用することを認めるという点を問うものである。しかしながら、この訴訟が最高裁まで持ち越されるならば、極めて保守的なロバートの最高裁が、ラスル対ブッシュ、ハムダン対ラムズフェルド訴訟で最近なされた二つの重要な裁決、に見たような明白な文言でこの法律を覆すことは望めそうにない。

結論

拷問を認め戦争太鼓式略式司法を認めるこの法律が妥当なものとして通用すれば、アメリカ合衆国は国際社会における道徳的指導力をさらにいっそう傷つけることになるだろう。暗いめがねを通して未来を見るならば、アメリカ合衆国政府は冷戦時代に米国の政策を特徴付けた便利な矛盾、すなわち人前では人権条約を遵守する姿を見せながら、その同じ条約に違反して秘密裡に拷問を進める政策に後戻りすることになるだろう。

けれども、世界はもはや、以前は秘密にされていたCIAの拷問方法に気づかずにはいられない。そして秘密に拷問を進めようとしても、アブグレイブに似たスキャンダルがまた生まれるだろう。けれども、この次は、我々が無実だと言ってもうつろに響くだろうし、米国の名声へのダメージはさらにいっそう大きなものとなるだろう。

アルフレッド・W・マッコイはウィスコンシン大学マディソン校の歴史学J・R・W・スメイル教授で、A Question of Torture: CIA Interrogation, from the Cold War to the War on Terror (New York: Metropolitan Books, 2006)の著者。

CIAによる拷問については、ウィリアム・ブルム著・拙訳『アメリカの国家犯罪全書』(作品社)にも関連する情報が記載されています。


■韓国ドキュメンタリー映画祭

日時 2月10日(土) 9:30〜 (開場9:00)
会場 豊島区民センター音楽室 (5F)
 *所在:東京都豊島区東池袋1-20-10
 *交通:池袋駅東口徒歩5分
会場周辺の地図は、下記URLをご参照ください。
http://www.city.toshima.tokyo.jp/map/map/d_2.html
資料代 1,500円 (前売り1,300円)
*終日出入り自由・ワークショップ参加費込み
韓国ドキュメンタリー映画祭ブログ

■東ティモールについて

2006年12月16日(土)から2007年5月27日(日)まで、「アクティブ・ミュージアム 女たちの戦争と平和資料館」にて、「東ティモール・戦争を生き抜いた女たち----日本軍とインドネシア支配の下で----」という特別展示がなされています。

詳細は、「アクティブ・ミュージアム 女たちの戦争と平和資料館 開催中の展示」ページをご覧下さい。

■参議院選挙について

平和への結集 参院選に向けてというページがあります。

■自由通貨サイト

自由通貨metaというサイトができました。

■米軍再編ドキュメンタリー『基地はいらない、どこにも』試写会

日時:1月18日(木)
   18時30分 開場
   19時00分〜 上映
場所:東京 中野ゼロ 地下1階 視聴覚ホール(03-5340-5000)
参加費:無料
 予約は必要ありません。
 参加者多数でご覧いただけない場合はご容赦ください。
問い合わせ:Tel.03-5261-2229、090-3471-7475
 koba[atmarkhere]pc.email.ne.jp


益岡賢 2007年1月11日 

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