疑わしいパウエル

フィリス・ベニス
2003年2月6日
ZNet原文


2月5日に国連安保理の米国国務長官コリン・パウエルによる発表は、すでにパウエルに味方している人々以外を説得できそうにない。 彼は、この数日のあいだに(2月2日のニューヨークタイムズや4日の国連ジャーナリストへのブリーフィングなどで)UNMOVIC代表ハンス・ブリクスがパウエルの主張の中核を否定していたという決定的事実を無視している。

イラクに対する国連査察団(UNMOVIC)を率いるブリクスは、UNOVICの査察団は、移動生物兵器研究所について「何の証拠」も目にしておらず、イラクとアルカイーダのリンクについて「何の説得力のある兆候」もなく、イラク内外の大量破壊兵器(WMD)物資隠蔽と輸送をイラクが行ったという証拠もないと述べている。 ブリクス博士は、イラクが科学者を国外に送ったという証拠もなく、イラク諜報エージェントが科学者のふりをしている証拠もなく、UNMOVICの会話がイラクにより監視されているという証拠もなく、また、UNMOVIC内にイラク側エージェントが侵入しているという証拠もないと述べた。

さらに、CIAとFBIのオフィシャルたちは、ブッシュ政権が、自分たちの政治的意図で戦争を起こそうと情報を「誇張」していると考えている。 イラクとアルカイーダのリンクについて、米国諜報関係者はニューヨーク・タイムズ紙に、「そんなものがあるとは思わない」と述べている。

パウエルの発表でもっとも注目すべき部分は、アルカイーダのイラクとのリンクと、アル・ザルカイ・ネットワークの危険性である。 けれども、彼は狡猾に、アル・ザルカイのネットワークが生化学物質を用いてできることに関する正確で恐ろしい情報から、あまり正確でもないイラクとの関係について話を持っていった。 後者は好意的に見ても薄弱で証明になっていないものである。

イラクとアルカイーダの関係についての中核部分は、パウエルが述べた「囚人の言葉によると・・・」というものだ。 この主張はまったく否定されるべきものである。 2002年12月27日のワシントン・ポスト紙は、米国オフィシャルが、囚人たちが殴打されかり集められ、さらなるひどい拷問でしられる国のオフィシャルに送ると拷問により威嚇されていることを認めたと報じている。 こうした状況で「ある囚人」が述べたことは、真の証拠には決してならない。 殴打や拷問を受けている人々は、苦痛から逃れるために、何でも口にするであろう。 同様に、脱走者の証言も、それ自身では信頼できない。 自分の話を誇張し自分の関与を誇張することによって保護や亡命資格を得ようという利害関係を有しているからである。

発表の結論で、パウエルは次のように述べた。 「われわれは決議1441を戦争に突入するために執筆したのではない。 平和を維持するために執筆したのだ」。 国連決議が「平和を維持する」ためのものだというのは、少なくとも部分的には本当である。 一方、米国が決議1441を戦争を先取りするために書いたというのは真実ではないだろう。 ブッシュ政権は、この決議が戦争への第一段階となることを意図したのである。

さらに「もし」という状況がある。 「もし」パウエルが言ったことすべてが真実だったとしても、単に、それらは、戦争を開始するに十分な証拠ではない。 イラクが差し迫った脅威である証拠はどこにもなく、封じ込めの対策が機能していないという証拠もない。 パウエルはわれわれに戦争を開始するよう求めている。 最初の数週間で10万人ものイラク人の命を奪う可能性のある戦争に。 そして米兵をはじめとする兵士数万人の命を奪い、政治的・経済的破滅を導く可能性のある戦争に。 その理由はといえば、将来イラクが大量破壊兵器を再建するかも知れないし、また、それを使用すると決断するかも知れないし、あるいはそうした兵器を、われわれの味方である誰かに対して使うかも知れない誰かに提供するかも知れないし、あるいは、われわれの味方でないものに提供するかも知れないといった、思弁に過ぎない。 パウエルが言ったことは、何一つとして、この戦争に反対すべきであるという私たちの立場をいささかも変えるものではない。

フィリス・ベニス(pbennis@compuserve.com)はForeign Policy in Focusの中東アナリストでInstitute for Policy Studiesの上級アナリスト。

一つ上へ   益岡賢 2003年2月7日
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