軍事買春とイラク占領:女性の民営化
デブラ・マクナット
2007年7月11日
CounterPunch 原文
フィリピンや韓国、タイをはじめとする様々な国に置かれた米軍基地の周囲では、以前から軍事買春が行われてきた。けれども、米軍がムスリム圏諸国の多くに派遣されはじめてから、米軍兵士の買春をこれまでのようにオープンにしておくことはできなくなった。湾岸戦争で、アフガン戦争で、そしてイラク戦争で、米軍派遣は、中東地域における買春と女性の人身売買を新たに活気づかせている。
もう一つの大きな変化は、米軍が私営契約企業に依存していることである。契約要員の数は今や米軍兵士の数を超えている。人々は、米国の戦闘地域でこうした契約要員がどのような役割を果たしているかに注目し始めている。しかしながら、私企業契約要員が軍の買春の性質をどのように変えているかについてはさほど注目が集まっていない。最もよく知られた例としては、ディンコープ社の社員がボスニアで女性の人身売買を行い捕まった出来事がある。そして、いくつかの兆候は、イラクでも似通った行為が行われていることを示唆している。
私は、イラクやアフガニスタン、アラブ首長国連邦をはじめとするムスリム諸国で、契約私企業要員が軍による性的搾取を可能にしているかどうかを調査している。私の研究は、米国が軍事目的で女性を性的に搾取するパターンに新たなものが見られるかどうか、そして米軍兵士たちがムスリム諸国に駐留し始めてから制度化された買春がどう変化したかを調べることにある。とりわけ私は、私企業要員が地元女性に対する買春を促すために果たしている役割、そして料理人やメイド、事務職員という名目の陰に隠れて米軍の戦闘地域に外国の女性を連れてくるために果たしている役割に関心を持っている。
私がこの研究を始めたのは、以前からずっと女性とミリタリズムについてフェミニスト活動家として関心を持っていた結果であり、シンシア・エンローやキャサリン・ムーン、サラレー・ハミルトンといった女性たちの影響を受けている。これまでに私は、米軍基地周辺でのフィリピン人女性に対する性的搾取に反対して人々を組織化してきた。より最近では、米軍内部での女性兵士に対するセクハラと性的攻撃という関係する問題にも関わってきた。私はまた、湾岸戦争のときから、米軍によるイラク攻撃に積極的に反対してきた。
湾岸戦争のとき、米軍は、サウジアラビアでの買春を防止した。ホスト国からの反発を避けるためだった。けれども帰国途中、兵士たちの船は「休暇とレクリエーション」のためにタイに停泊した。湾岸戦争後、厳しい経済制裁のために絶望的な状態に置かれた多くのイラク人女性が売春を行うことを余儀なくされた。セックス・トレードは大規模になり、1999年にサダムが配下の準軍組織にバグダードで取締りを命ずるに至ったほどだった。この取締りにより多くの女性が処刑された。
2003年3月、米軍がイラクを侵略してから数週間のうちに、買春がイラクに再び戻ってきた。イラク戦争は、湾岸戦争の兵士派遣機関の8倍の時間になっており、巨大な契約私企業治安要員に大きく依存していることを特色としている。2006年1月にブッシュが署名した人身売買の禁止は、これら私企業要員には適用されていない。
買春の復活は、イラク社会に恐怖を生み、それは社会全体に浸透した。家族は少女を家から外に出さないようにした。これは攻撃されたり殺されたりしないようにするためだけでなく、組織的買春ネットワークによる誘拐を避けるためでもあった。ギャングたちの中には、家族に子供を性奴隷として売り渡すよう強いる者たちもいる。また、戦争により家を失った少女少年たちが膨大な数生み出された。これらの少女少年たちはセックス・トレードの標的にされやすい。さらに、危険を避けようとイラクを逃れた何千人もの女性が、ヨルダンやシリア、イエメンやUAEで(経済的にどうにもならない状況に置かれたために)売春を余儀なくされている。我々米国のイラク占領は、女性を外側から攻撃しているだけでなく、内側からも攻撃している。何も女性たちに残らなくなるまでに。
女性たちが買春の相手としてイラクに「輸入」されるときには、ほとんどの場合、確立された不法労働人身売買ネットワークにしたがって「輸入」されていることは確実である。これは、シカゴ・トリビューン紙が「危険へのパイプライン」という一連の記事で報じている通りである。たとえば、独立ジャーナリストのデヴィッド・フィニーは、バグダードのグリーンゾーンにある新たな米国大使館建築のために労働者を連れてくる仕事をしているクウェートの契約企業が、建設現場に女性も密輸入していることを証拠をもって示している。
グリーンゾーンの中では売春宿が数軒開店した(表向きは女性のシェルターや美容室、中華料理店などを装っている)が、それらの存在がメディアに知られ報じられると、当局が閉鎖してきた。米軍は、兵士たちが買春を行うことを公式には禁じている。しかしながら、契約私企業要員たちは、バグダードや米軍基地の周辺でイラク人や外国人女性を見つけることができたとセックス関係のウェブで自慢していることがある。契約要員たちは高い給料を得ているため、可処分所得が多く、しかも所属企業以外に対する説明責任もない。
グリーンゾーンに暮らすある契約要員は、2007年2月に、「接続に4ヶ月かかった。今は、PSD[私的セキュリティ派遣]に接触して、イラクのかわいこちゃんたちを連れてきてもらえる」と述べている。西洋の契約要員がやりとりしている電子メールによると、また、中国やフィリピン、イラン、東欧の女性たちも、イラクに駐留している米国人や西洋人の買春の対象となっていることが示唆される。(別の報告によると、中国人女性はアフガニスタンやカタールをはじめとする、人身売買ネットワークが地元女性を見つけるのが難しいムスリム諸国でも買春のために連れてこられているという)。
2005年にイラクを離れた軍の予備兵パトリック・ラカットは、「1ドルで売春婦を1時間買うことができる」と述べている。けれども、バグダードを始め、イラクのアラブ人地区で戦争が激化する中、西洋人が軍基地とグリーンゾーンの外を動き回るのは危険になりすぎた。契約要員たちは、今ではお互いに、もっと安全な北部のクルド人地域やデュバイのバーやホテルで「休暇とレクリエーション」を楽しむよう助言しあっている。アラブ首長国連邦は今やペルシャ湾岸地域で買春の最もオープンな中心地となった。一方、イラクの買春ネットワークは民兵を避けるためにさらに地下深く潜らざるを得なくなっている。
サラ・メンデルソンがバルカン報告「兵営と買春宿」で述べたように、米国政府は人身売買を阻止するために多くの規則やプログラムを導入しているが、強制力がないために、それらは単にPR目的の言い訳と化している。軍士官たちは、軍人や契約要員が女性を搾取することに目をつぶることが多い。というのも、部下の「士気」を高めたいからである。軍にとって人々の反発を避ける最も効果的な方法は厄介な情報が漏れないようにすることである。そもそも漏れさえしなければ、あとで糊塗する必要もない。
私にとって(そして他の研究者やジャーナリストたちにとって)、この危機の真相を究明することは難しい。ラジフ・チャンドラセカランは著書『エメラルド・シティーでの帝国生活』の中で、次のように述べている。「バグダードでは買春が行われているが、サイゴンでのように町にセックスしに行くわけにはいかない」。誰が人身売買を行っているかは、麻薬取引の犯人を割り出すのと同様に(それ以上ではないにしても)難しい。イラクへの労働者の不法人身売買を追跡することも充分難しいが、買春のためにイラク人や外国人女性を人身売買することは、さらに深く隠されている。人身売買ネットワークはルートを隠しており、そして米軍の契約私企業も、戦争にとってダメージとなるような情報を明かすことはしない。
しかしながら、情報が見つかりにくいことは、追跡を強化する理由でもある。そして、軍の買春を女性運動と反戦運動の中心的な課題にする理由でもある。我々の税金がイラクでの戦争を支えている。軍事占領の結果女性が搾取されたとすると、それらの犯罪について、犠牲者のために我々は責任を取る必要がある。
私は現在、調査の結果をまとめた大部の報告書を準備しており、中東における軍の買春、軍と契約私企業の役割に光を当てる可能性のある情報を何でもいいから、研究者やジャーナリスト、退役軍人、私企業要員、亡命者と難民、売春をさせられたことのある女性から求めている。
私がこの調査をしている最終的な目的は、女性に対する犯罪を暴く手助けをすることだけでなく、それらを防止する運動を構築する手助けをすることにある。イラク人女性の権利をめぐる議論に賭けているのは、米軍によるイラク占領が女性の尊厳をh破壊する新たな弾圧を作り出しているという点である。占領を終わらせて、女性にたいする軍の虐待を止めることは、我々アメリカ合州国人の責任である。
デブラ・マクナットはフェミニスト・反戦活動家で、ワシントン州オリンピア在住の研究者。メールはdebimcnutt[attomaaku]gmail.com
Falluja, April 2004との同時掲載です。イラク関係については、以下のブログにも注目をお願いします。http://hope.way-nifty.com/a_little_hope/。
■参議院選挙について
へいこうせん独自調査「07参議院選挙での各党の政策&過去10年の法案態度一覧」があります。ちなみに、この6年間で一般市民の税金は総額約5兆円増やされ、大企業や資産家の税金は総額約4兆円減ったそうです。
■阿倍占い/年金振り込め詐欺撃退マニュアル
「安倍占い/年金振り込め詐欺撃退マニュアル」というページがあります。とてもおもしろい占いページになっています。
■辺野古事情
基地建設阻止 おおかな通信をご覧下さい。ゴムボート購入カンパのお願いが出ています。
振込先:郵便振替口座 01700−7−6614
加入者名 ヘリ基地反対協議会
※必ず「通信欄」に「ゴムボート代」と明記してください。
また、やんばる東村 高江の現状もご覧下さい。
■中越沖地震と柏崎刈羽原発
原発事故については、きっこのブログ 「原発事故は人災です」がまとまった分析を提供しています。また、プルサーマルを考える柏崎刈羽市民ネットワークもご覧下さい。
「原子炉が想定している以上の揺れだった」といったコメントが関係者から出ています。運が良くなければ、本当に大惨事になるところだった(数十万から数百万人の犠牲者が出るほどの)ことの恐ろしさが、日本のメディアからはほとんど伝わってきません。
そして、何よりも先に犠牲になるのは、首都東京に電気を供給するために世界最大の原発を目の前に建てられた地元の人々です。今回の事故では、原発賛成派/反対派という分け方よりも、そうした主観的態度にかかわらず、電力の大消費者とそれを提供する原発の周辺に住む人たちという線引きから考えなくてはならないことがはっきり示された感じがします。
もちろん、一定規模以上の原発事故が起きれば、柏崎刈羽原発と東京の距離などほとんどないに等しいのですが。
地震の義捐金受け入れ先情報もぜひご覧下さい。
■パレスチナ緊急シンポジウム
日時:7月28日(土)14:00〜18:00
場所:文京区民センター3F会議室3A
東京都文京区本郷4−15−1
共催:「日本国際ボランティアセンター(JVC)」
「土井敏邦 パレスチナ記録の会」
出演者:
臼杵陽(日本女子大学文学部教授)
川上泰徳(『朝日新聞』編集委員・前中東総局長/ビデオ出演)
樋口直樹(『毎日新聞』外信部・前エルサレム支局長)
藤屋リカ(日本国際ボランティアセンター〔JVC〕・パレスチナ事業担当)
(現地駐在員による最新ガザ現地報告)
土井敏邦(ジャーナリスト)(司会)
電話インタビュー
ラジ・スラーニ(NGO「パレスチナ人権センター」代表)(予定)
イテダル・ハティティーブ
(ガザNGO「アルド・エル・インサーン(人間の大地)」代表)(予定)
(子どもの栄養センター)
映像上映
「ジェニン侵攻から5年 被害者たちは今」(30分)
――ジェニン住民の“ハマス”観――
「06年夏・ガザ住民が語る『内部抗争』」(5分)