「黒い金」の国際争奪戦:石油と帝国
アラン・マース
2007年3月30日
Counter Punch 原文
ブッシュ政権の石油屋たちは、史上最大の詐欺行為の一つ----イラク油田の大盗掘----を進めようとしている
イラク新政府の内閣は、自分たちを権力の座につけてくれた占領者である米国の圧力を受け、新たな石油法を採択した。これにより、イラクの国営石油システムは解体され、これまでに類例のないほど自由に、西洋の巨大石油企業はイラクの膨大な石油資源にアクセスする権利を手にすることになる。
石油企業は、中東のどこでもこれまで見られなかったほどの超巨大収入を保証された。イラクの油田のうち3分の2か、あるいはそれ以上からくみ出される石油の利益を、今後20年から35年にわたって懐にできるのである。その間、イラク人は、世界中でもっとも需要の多い資源を世界で三番目に多く有すると推定される国に暮らしながら、戦争がもたらした貧困と破壊に堪え忍ぶことを余儀なくされる。
イラク石油の大盗掘は、すでに成立したわけではない。予定通り5月に法律が最終的に実施されるとしても、巨大石油企業はいずれも、「治安」がイラクで確立されるまで、自分たちは生産には直接かかわらないと述べている----そしてこれは、米国がイラク侵略以来4年にわたって実現できなかったことを占領者とそのイラク人傀儡政権が実現しなくてはならないことを意味する。
それでも、この法律は、米帝国にとって石油を争奪することがいかに重要であるかを----ジョージ・ブッシュとその政権がどんなに否定し、イラクを攻撃したのは「民主主義」を広め世界をテロの脅威から安全なものにするためだと述べたとしても----あからさまに示している。
米国政府が石油を追い求めるのは、単に利益を求めてだけのことではない。まして、普通のアメリカ人が依存している日常品である石油の供給を確保するためだけでもない。石油は権力にも関わっている。諸国家の経済的・軍事的な力が石油にどれだけアクセスできるかに大きく依存している現在の世界では、米国がより多くの石油を支配すれば、ライバルたちが支配できる石油は減る。
この二重の計算----自らの需要のために石油へのアクセスを確保する一方で、他国の石油アクセスを支配すること----こそ、19世紀末から21世紀初頭に至るまで、米帝国と石油の歴史にとって中心的なポイントであった。* * * Falluja, April 2004 との同時掲載です。
2001年、ブッシュが政権についた最初の頃に、ディック・チェイニーが、米国の新たなエネルギー政策の方針を考えるタスクフォースの議長となった。
チェイニーとホワイトハウスは、議会が求める通常の情報----誰がタスクフォースのメンバーなのか、何を勧告するのか----を提供することさえ拒んで、議会との対立を招いた。
ほとんどの人は、このことから、タスクフォースがエネルギー産業の経営者たちにより構成されており、その「審議」は彼らの私腹を肥やすための新たな方法を見つけることを中心としているのではないかと推測した。実際、これは完全に正しいことがわかった----むろん、ブッシュ政権の構成を見れば、当然予想されたことであった。
「ブッシュ政権は、ビッグ・オイルの命令に従っているというよりも、むしろ大統領と副大統領を初めとする上から下まで石油スパイに汚染されているといった方がよい」と、左派のジャーナリスト、ジェフシー・セント・クレアはカウンターパンチ誌のウェブサイトで述べている。
「石油産業の経営者職から閣僚や国家安全保障顧問になった人物が8人いるし、また、行政管理予算局や国務省、エネルギー省、農業省、そしてアメリカに残された荒地を採掘するためにはもっとも重要な内務省の役人としてブッシュが指名した石油関係者は32人いる」。
けれども、チェイニーとそのタスクフォースは、北極圏自然保護区の規制を緩和し、石油採掘を進める以上のことを考えていた。
彼らは、来るべき「対テロ戦争」の戦略目標を設計していたのである。
当時はまだ「対テロ戦争」とは呼ばれていなかった。半年後の9月11日にニューヨークのツインタワーが攻撃されたが、結局のところ、それは、米国のさらに攻撃的な帝国主義を押し進めるためにずっと前から作られていた計画を実行するための口実に使われたにすぎなかった。
計画の中心には石油があった。チェイニーのエネルギー・タスクフォースは、資源の減少と、中国を初めとする潜在的なライバルの勃興を前に、米国は資源をより強固に掌握しなくてはならないと結論していた。とりわけ、世界の他の地域すべてをあわせたよりも多い量の石油を埋蔵している中東についての掌握を強化すべきと結論していたのである。
タスクフォースは、米国がサウジアラビアやクウェートといった同盟国に圧力をかけて、「それらの国のエネルギー部門の諸部門を外国投資に開放するよう」勧告していた。
けれども、もう一つ、焦点が当てられていた地域があった。それがイラクである。第一次湾岸戦争のあと、イラクの石油生産は混乱状態にあり、また、米国が推進した国連の経済制裁により輸出が制限されていた。伝えられるところによると、チェイニーのタスクフォースはイラク油田の地図を検討し、また、ペンタゴンは「イラク油田契約を進める外国企業」というメモを作成して、数十カ国の契約企業を分析し、また、サダム・フセイン政権が転覆されたらこれら企業がイラクの石油採掘をどう考えるか、その意図を分析した。
イラクの石油に対する関心は新しいものではない。ビル・クリントンが大統領だった1999年の時点で、あるペンタゴンの文書は、「石油戦争」は「合法的な」軍事的選択肢であると論じていた。
当時、ディック・チェイニーは、ハリバートン社の最高経営責任者(CEO)として私企業部門に潜入していたが、石油の重要性については民主党政権と意見を同じにしていた。「世界の石油の三分の二を有し、しかも費用の安い中東が、依然として宝のありかである」とチェイニーは1999年の演説で語っている。
むろん、石油産業界におけるチェイニーの同僚たちは、イラクの石油を利益源として渇望していた。「イラクには巨大な石油とガスが埋蔵されている・・・・・・シェブロンとしてはアクセスしたくてたまらない」と1998年、シェブロンのCEOケネス・デールが述べている。
けれども、チェイニーを初めとする共和党前政権出身の「タカ派」たちには、より大きな計画についての腹案も持っていた。1990年代の末、新しく結成された「新たなアメリカの世紀のためのプロジェクト(アメリカ新世紀プロジェクト:PNAC)」が受け皿となって、後のブッシュ政権に集う「ネオコン」たちが結集した----ポール・ウォルフォウィッツ、ジョン・ボルトン、そしてその後チェイニーの補佐官となるルイス・「スクーター」・リビーである。
「イラクとの間で続く紛争がとりあえずの正当化にはなるが、中東に大規模な米軍を駐留させる必要性はサダム・フセインの問題以上に重要である」と、PNACのタカ派は2000年の選挙の少し前に発表された報告書の中で書いていた。イラクに対する戦争は、「米国の世界的覇権を維持し、米国の原則と利益に沿ったかたちで国際的な治安体制を作り上げる」計画の一部となることになっていた。
このPNACのドグマが、「対テロ戦争」が開始された後にブッシュ政権が発表したブッシュ・ドクトリンの基本となっている----現在そして将来にわたって、米国のライバルとなりそうなものが出てくることを攻撃的な米国の力を用いて防ぐこと。
先制攻撃戦争と世界中での米軍駐留の拡大は、「米国が有する力を凌ぐかあるいはそれに等しいような軍事力の構築を潜在的な敵に持たせないようにする」ために必要であると、2002年に発表されたホワイトハウスの国家安全保障戦略文書は述べている。
この文脈に照らしてみると、石油はもっとも重要な要因である。というのも、どの国にとっても経済のために重要であり、また軍事力にとってはさらにいっそう重要だからである。* * * 世界経済にとって石油が決定的に重要であることを疑う者はいないだろう。石油は、世界のエネルギー消費の39%を占め、陸海空の運輸部門で消費されるエネルギーの95%を占めている。石油はまた、プラスチックや塗料など、私たちが日常的に当然と考えている多くの商品の成分となっている。
「けれども、それと同じくらい重要なのは」、「米国のものも他の国のものも含め、戦車のすべて、B−52からステルス爆撃機に至る航空機のすべて、誘導ミサイルとほとんどの戦艦が、攻撃を行うためには、石油が必要である」とサマン・セフェリはインターナショナル・ソーシャリスト・レビュー誌に書いている。
戦争と石油の関係が決定的になったのは第一次世界大戦のときであった。イランの石油を植民地支配していた英国は、そのおかげでドイツを中心とする枢軸国に対して決定的な優位に立ち、連合国は「石油の波の上に大勝利を築く」ことができたと、英国外相カーゾン卿は述べている。
第二次世界大戦のときには、石油の争奪がどの側にとっても戦略的な優先事項となった。『賞金』という石油の歴史を扱った本の中で、「日本が真珠湾を攻撃したのは、東インド諸島の石油資源を掌握したときに側面を守るためであった」と、著述家ダニエル・ヤーギンは述べている。「ヒトラーがソ連を侵略したとき、もっとも重要な戦略的目標は、コーカサスの油田を争奪することであった。けれども、石油資源をめぐる米国の優勢は結局決定的であり、戦争終結近くなると、ドイツと日本の燃料タンクは空になった」。
第二次世界大戦後、米国は圧倒的な超大国となった。米国の戦後戦略の中心は、石油資源----とりわけ中東の巨大な石油資源----の支配を維持することに依存していた。中東の石油資源は「戦略的権力のすばらしい源であり、世界市場最大の褒美である」と、ある文書で国務省は書いている。
サウジアラビア----サウード・クランを中心に建設された世界初のイスラム「原理主義」国家----の創設にあたって、米国の諸企業は決定的な役割を果たした。テキサコとカリフォルニア・スタンダード・オイル社はアラブ・アメリカン石油会社(ARAMCO)を結成し、サウジ石油の開発と取引に関する許可を共有した。ARAMCOと米国政府は、結局のところ、自分たちの必要に合うようにサウジ政府の現状を一から大部分作り上げることになったのである。
1950年代、中東産油国の中心的存在だったイランでは、モハマド・モサデク首相が、英国の支配下にあったアングロ=イラニアン石油会社を国有化した。CIAがクーデターを組織してモサデクを転覆し、シャーの残忍な政権を再擁立し中東地域の独裁者として、西側世界の石油利益を保証させることとなった。
イスラエルも、イランとともに、米国にとって中東の重要な代理人だった。イスラエル自体には石油資源がないものの、イスラエルは米国の支援を何百億ドルも得て建国された植民地入植者の国家で、アラブの民族主義政権が西側の利益を脅かすのに対抗するための、軍事的な番犬の役割を与えられている。
中東地域における米国の覇権は、1978年から79年のイラン革命でシャー政権が転覆されたことにより打撃を受けた。ジミー・カーター大統領は緊急展開部隊を創設し、「米国にとって決定的に重要な利益に対する攻撃として見なされる、外国勢力によるペルシャ湾岸地域支配のあらゆる試み」を阻止すると述べた。
その間、米国は、サダム・フセインとバース党の独裁支配下にあった隣国イラクにイラン侵略をそそのかし、それ以降10年にわたって続き、100万人の犠牲者を生んだ、イラン=イラク戦争を静かに支援した。
フセインが米国の手から離れ、1990年にクウェートを侵略したとき、ジョージ・ブッシュ父は「脅迫と賄賂」のもとで連合軍を結成して戦争を行い、数十万人を殺した。
中東地域における米国の石油支配を守り拡大するのと同じ理由で、米国は、新たに手に入るようになったカスピ海地域の石油資源開発に飛びつき、アフガニスタンを通ったパイプライン建設を計画した。* * * 誰が石油を支配するかという問題は、石油資源が不足しつつあるという脅威のもとで、さらに激しいものとなった。悲観的立場を採るか楽観的立場を採るかによって世界石油生産のピークが今後数年のうちに起きるか数十年のうちに起きるかの推定は異なるが、ピークに到達すれば、残された石油を採掘する費用はそれ以後どんどん上昇することになる。
この、石油資源の頭打ちシナリオは、かつてないほどのハイペースで石油需要が伸びている中で姿を現してきたものである。
石油需要の最大シェアを担っているのは米国で、世界人口の5%しかいない米国の石油消費は世界の25%を占めている。同時に、需要の大きな増大が発展途上国の経済的原動力である中国とインドからもたらされている。そしてこの二国こそ、米国体制内の一部が、今後米国のライバルになるのではないかと恐れている国なのである。
こうして、20世紀においてと同様、21世紀にも、諸国間で、経済・政治・軍事にわたる帝国主義的な競争が展開され、その中で石油が重要な位置を占める舞台が整うことになる。
この観点から見ると、ブッシュ政権がイラクで新たな石油法をごり押ししようとしている意図もいっそう明らかである。
第一に、過去20年にわたる戦争と経済制裁で、イラクの石油生産は阻害されてきたため、イラクの石油資源は、ますます石油が少なくなっている世界の中で、未開発の石油資源として極めて重要である。
米国諸企業は、イラク政府が法律にしたがって署名する生産共有合意(PSA)により保証される超巨額利益の恩恵にあずかろうと首を長くしている。
通常、PSAは石油採掘が困難な状況で用いられるため、企業が生産のために投資しなくてはならない資金も大きくなる。けれども、イラクではまったく逆で、世界市場での石油売却価格が一バレルあたり60ドルなのに対して、イラクでの採掘コストは一バレルあたりわずか1ドル程度である。しかもイラクのPSAでは、外国の石油企業には利益の70%が保証されている。これは、中東地域で交わされる他の契約における通常の外国企業シェアの7倍である。
ただし、むろんこれは、米国と石油企業が上手くやりおおせるとしてのことである。イラク政府は石油法を採択すると見込まれるが、米国の軍事占領に対する反対が広まり内戦状態にある状況で、西側石油企業が参入するかどうかは別の問題である。
イラクにおける石油法のもう一つの目的は、左派のイラク専門家マイケル・シュワルツがソーシャリスト・ワーカーとのインタビューで最近語っているように、米国企業に「調整弁としての力」を持たせることにある。これによって、米国は「いつでもどれだけの石油を生産し、それを誰に売るかを決めることができる」。けれども、占領の危機はこの目的をも危うくしている。
この間、イランは、米国の軍事力による脅迫を受けるよりも、イラクにおける米国の危機から利益を得ており、かつてないほどに独自の道を歩もうとしている。このことの一つの結果が、イランと中国----米国はペルシャ湾岸の石油支配を強化することによってまさに中国を従わせようと望んでいた----の関係の深まりである。
しかしながら、ワシントンの指導者たちは諦めようとしていない。過去一世紀にわたって、世界の有力諸国は石油をめぐっての戦争をいとわずに行ってきた。そして、現在もまた、これらの諸国は石油のために戦争を行うだろう。民主主義と自由、公正を優先する新たな社会が確立されない限り。
関連する話題、とりわけチェイニーのタスクフォースとそこで検討されたイラクの地図については、リンダ・マクウェイグ著『ピーク・オイル』(拙訳・作品社)にあります。また石油生産のピークをめぐっては、ジェレミー・レゲット著『ピーク・オイル・パニック』(拙共訳・作品社)をご覧いただけると幸いです。
■本記事と関連するいくつかの話題とイベント
イラクでは劣化ウラン弾が大量に用いられましたが、ベルギー議会では劣化ウラン弾を禁ずる法案が採択されました。NODUヒロシマ・プロジェクトのページをご覧下さい。
日本では、新たなエネルギー計画の一環として、原子力発電・核燃料サイクルの確立が推進されています。しかしながら、3月半ばには複数の原発で制御棒脱落事故が隠蔽されていたなど大きな問題が明らかになってきています。
4月14日(土)と5月13日(日)に、東京では、「六ヶ所村ラプソディー」「ヒバクシャ」(いずれも鎌仲ひとみ監督)を上映する映画祭が開催されるようです。詳しくは、地球のなかま映画祭案内をご覧下さい。
「グアンタナモ、僕たちが見た真実」(マイケル・ウィンターボトム、マット・ホワイトクロス監督)が各地で上映中です。終わってしまったところもありますが、4月にもまだまだ上映されます。スケジュールの詳細は、「グアンタナモ 上映スケジュール」をご覧下さい。
■改憲手続き法案について
衆議院議員面会所での集会が予定されています:
・4月5日(木)12時15分〜13時00分
・4月12日(木)12時15分〜13時00分
また、4月12日にはSTOP!改憲手続き法案大集会:
日時:4月12日(木) 午後6時半〜
場所:日比谷野外音楽堂
集会後、国会デモ
詳しくは、「許すな!憲法改悪・市民連絡会」をご覧下さい(右側の欄がイベント・集会案内になっています)。
■石原慎太郎東京都知事について
様々な暴言をまとめたページがありました。
■三池 終わらない炭鉱の物語
「三池 終わらない炭鉱の物語」が各地で上映されます。詳しいスケジュールは上映スケジュールをご覧下さい。