準軍組織の暴力という亡霊を追い払う:自由を取り戻すリベルタード
2009年9月21日
ギャリー・リーチ
ColombiaJournal原文
マルコ・トゥリオ・ペレスが、僻遠のアフリカ系コロンビア人コミュニティ、リベルタードに現れたのは2000年のことだった。彼が最初にしたのは、15歳から18歳の地元少女たちを集めて美人コンテストを開くことだった。しかしながら、このコンテストは、コロンビアお好みの娯楽としてコミュニティが開催する通常のコンテストとは全く異なるものになった。ペレス----「エル・オソ」(熊)とも呼ばれていた----は、リベルタードに登場した右派準軍組織のボスだったのである。トップ15に選ばれた少女たちの「賞」は、エル・オソと準軍組織兵士たちが棲みかとして徴収した小さな農園に2週間滞在することだった。この二週間に農園で少女たちにくわえられた集団強姦を皮切りに、リベルタードの人たちは、準軍組織に包囲支配された恐ろしい生活を4年にわたって強いられることになった。リベルタードのコミュニティは、この暴力的な遺産を懸命に乗り越えようとしている。
スクレ県のカリブ海岸近くに位置するリベルタードの住人約4000人は、数十年にわたり、コロンビアで長く続く紛争に巻き込まれることを何とか避けてきた。リベルタード地域評議会の議長ヤミッド・カラバージョによると、村には警察も軍基地もなく、左派ゲリラが村を通過することは時折あったものの、誰も嫌がらせを受けたことはなかったという。けれども、リベルタードの平穏は、1997年に終わりを告げた。「ロス・カランサス」という名の右派準軍組織がリベルタードに現れ、自分たちの「法」を押し付け始めたのである。
3年後、コロンビア軍の兵士たちがこの地域に現れ、準軍組織を追い払った。しかしながら、軍はリベルタードの住民を解放しに来たわけではないことが、すぐに明らかになった。カラバージョによれば、軍はコロンビア自警軍連合(AUC)に属するライバル準軍組織がリベルタードと周辺地域を制圧できるように、露払いをしただけだった。ロス・カランサスの戦闘員たちを追い出したあと、軍は撤退し、「モンテス・デ・マリアの英雄たち」----ロドリゴ・カデナの率いるAUC所属の準軍組織----がリベルタードの新たな支配者となった。カデナと配下の兵士たちは、1999年と2000年の2年だけで、スクレ県とボリバル県で75以上の虐殺----エル・サラド村虐殺とチェンゲ村虐殺もカデナたちがやったものだった----を犯し、3000人以上の人々の命を奪っていた。
2000年、カデナは、リベルタードに駐留する準軍組織兵士----中には地元でリクルートされた地元の若者もいた----のボスにエル・オソを指名した。それからの四年間、エル・オソとその手下たちは、実質上、リベルタードを包囲し続けたのである。ホセファ・サルミエント----35歳の寡婦で10人の子どもを育てようと懸命である----によると、「ここでの生活はとても豊かでした。でも、準軍組織が来てからすべてが変わりました。準軍組織の兵士たちは家に来て、私たちが育てた作物を取っていくのです。動物はすべて自分たちの所有物だと主張したので、私たちは動物も飼えませんでした」。2000年から2004年までに、村人が32人殺された。犠牲者のほとんどは男性で、真夜中に家から連れ去られて殺されていた。2002年、サルミエントは、準軍組織が夫を殺す場面を無理やり見せられた。「彼らは力任せに扉を壊しました」と彼女は言う。「そして、まさにここ、家の中で、夫を殺したのです」。
リベルタードの生活は、あらゆる面にわたり、エル・オソとその部下たちに支配されるようになった。「私たちは『エル・オソ法』のもとで暮らすことになったのです」とある女性は言う。「心理的拷問、身体的拷問、虐殺、失踪がほとんど4年近くにわたって続きました」。住民がリベルタードの村外に出かけるときは許可が必要になり、エル・オソは自分の「法」に反した人々全員に罰金を科した。その結果、もともとほとんど持ち物のない村人たちがさらに貧しくなることもしばしばだった。処罰の一つとして、女性が、首に「私は噂屋です」というプレートをかけて炎天下の暑さの中、中央広場を掃除させられることもあった。
エル・オソとその手下たちは、リベルタードの女性たちを支配するための主な武器として強姦が用いられた。2003年に起きたある事件では、エル・オソは、隣人と議論になった17歳の少女に100ドルの罰金を払うよう命じた。彼女には金がなくて支払えなかったので、エル・オソは自分の農場に少女を連れ去った。数年後、この少女は、コロンビア・サポート・ネットワークのセシリア・サラテに、エル・オソとのあいだに何があったか語っている。
「彼は私をベッドに投げ出し、無理やりキスしはじめました。毒の味と匂いのするつらいキスでした。彼は私に好き放題をしました。ペニスを無理やり触らせ、私の口に入れ、アナル・セックスさえさせられました。3日間、これが続きました。4日めに、私をいたぶるのに飽きたのか、部下に命じて、全員同時に、同じようなことを私を使ってさせたのです。それから私を家に返しました。誰かに話したら殺すぞ、と言って」。
準軍組織兵士に強姦された女性の多くが、妊娠した。過去3年間、暴力の犠牲になった人々のための組織を率いている地元看護師のアドリアナ・ポラスによると、脅迫や暴力、性的虐待の蔓延が植え付けた恐怖により、人々は「生きながら死人」になってしまったという。
けれども、2004年、村人たちは、これ以上耐えることはできないと決意し、準軍組織の占領に対するレジスタンスを組織し始めた。「人々は疲れ切っていました。失うものなど何も残っていませんでした。すでにすべてを失っていたのですから。地方検察局にはロドリゴ・カデナの勢力が浸透していたことはわかっていました。準軍組織の手があらゆるところにまわっていたので、私たちは孤立していました」とポラスは言う。「私たちは団結し始め、持っていた棒や山刀を持って集まりました。男も女もです。町への入り口を警備しはじめました。エビ工場に行くバスと公共バス以外は何も通さないようにしたのです」。
村人たちは準軍組織兵士の一人にリンチを加え、そのとき村にいた数人の兵士を捉えた。また、アルバロ・ウリベ大統領、法務省および中央政府の関連各局に手紙を書き、苦しみを訴えて助けを求めた。市民レジスタンス活動を始めてから10日後、村人たちは準軍組織のボス、カデナから手紙を受け取った。カデナは、リベルタードで起きた残虐行為については何も知らなかった、準軍組織が村人に与えた損害については賠償すると書いていた。彼はそれから、抵抗する村人たちには準軍組織と戦う十分な武器はないと指摘し、だから逆に自分の組織に加わるよう求めていた。ポラスによると、それでも「コミュニティの決意は揺るぎませんでした。準軍組織兵士は一人として村にはいらないこと、村人たちを殺すというなら殺せばよい、けれどもリベルタードに準軍組織が入ることは決して許さないと言ったのです」。
その後に起こりかねなかった虐殺が阻止されたのは、カデナと部下たちが、AUCと政府が進めていた解隊交渉への参加を拒否したため、コロンビア海軍歩兵隊がこの地域に派遣されたためである。海軍歩兵隊はエル・オソを逮捕し、それからまもなくして、村人たちはディオメデスとして知られるエル・オソの後継者を橋から落として死なせた。コロンビア軍の手助けもあって、結局、村人たちは自らリベルタードの解放を果たしたのである。それ以来、リベルタードの住民は、自分たちが被った暴力の遺産と折り合いをつけるために苦心している。
「補償と和解のための全国委員会」(CNR)は、苦しい状況にある村人たちを支援している団体の一つである。CNRは「正義と平和法」----この法律により準軍組織解隊の規則が決められた----のもとで設立された。CNRは市民社会の代表から構成され、その目的は準軍組織に冒されたコミュニティの立ち直りを監督するにある。現在、資金の一部はアメリカ合衆国国際開発庁(USAID)をはじめとする国際ドナーから出ている。「正義と平和法」のもとで、CNRのプロジェクトはまた、解隊したAUC指導者たちが溜め込んでいた財産を使って、準軍組織の暴力により被害を受けたコミュニティに賠償することになっている。しかしながら、CNRのアナ・テレサ・ベルナルは、「そうした金はほとんど来ません」と話す。
CNRは対象とするコミュニティを支援するためにボゴタから人員を派遣するだけでなく、現地の住人を雇い入れて、立ち直りのプロセスへの参加を促す。ポラスも、リベルタードでこれに参加した住人の一人で、コミュニティのレベルでCNRの活動をコーディネートしている。ゆっくりとではあるが、リベルタードの状況は改善しているとポラスは言う。現在、コミュニティには医師もいる。彼女は、他の人々とともに、自分たちが被ったり目撃した暴力のために多くの村人が抱えている心理的問題を克服するために、女性と子どものグループを作っている。「個人的な見解ですが、少なくともリベルタードでは、CNRのパイロット・プロジェクトのおかげで、状況は大きく改善しました。人々は自分たちの権利について語り、学び始めているのです」とポラスは言う。「けれども、依然として困難な状況にあることは確かです」。
リベルタードに準軍組織の姿が公然と見られることはないが、暴力の脅威は依然として存在する。「再び武装している集団もあります。さらに、解隊しなかった組織も多く、兵士の多くがコミュニティの中に残っているのです」とポラスは言う。彼女自身、仕事をやめないと殺すという脅迫を受けた。「たくさんの小さな集団がコミュニティの中に残っており、再び組織を作っています。以前のようにあからさまにではなく、コミュニテlィ内で活動を始めています。コミュニティの人々はその存在を知っています。今も恐怖はあるのです」。
ボゴタで草の根の演劇プロジェクトを指揮するダニエル・ロチャは、芸術を使ってリベルタードの住民を力づけようと、CNRと協力している。それにより、自分たちに何が起きたのか住民たちが理解し、政治的・社会的・市民的権利を意識するようになればとのことである。けれども、社会的・文化的空間を再構築するプロセスは困難だとロチャは言う。それというのも、「コミュニティ内での信頼関係、さらには家族内の信頼関係さえ、損なわれてしまったからです。準軍組織に協力した人々が今でもここに住んでいます。そして女性たちの多くは、強姦されたときに夫が何もしなかったことに怒りを抱いています」。
準軍組織がコミュニティに姿を現し暴力を加えたのは最近のことであるため、コミュニティのアイデンティティがそれに支配されていると考えたロチャは、対抗するためにリベルタードの歴史を再構築しようとしている。「このコミュニティには歴史があります。武装集団が現れる前にあった歴史を再構築する必要があるのです」。ロチャはこのように語る。「つまり、人々は犠牲者として存在しているだけではないのです。歴史を見れば、紛争前から人々は存在してきたことがわかります。隠されてしまったこの歴史を、人々の中に再び蘇らせようとしているのです」。
村人たちが経験した多くの心理的問題を扱っているCNRプロジェクトの他に、浄水器の提供や医者にかかる機会の提供などを通して、村人たちの身体的健康に対する対応も行われている。けれども、中央政府も県庁も、リベルタードのひどい経済状況を改善するための手立てはほとんど取っておらず、村人たちのほとんどは赤貧の状態にある。状況が放置されている理由の一つは、連邦政府の職にもスクレ県庁の職にも、準軍組織が浸入していることにある。実際、スクレ県は「準軍組織政治」スキャンダルの中心地であり、準軍組織との関連により政治家35人が調査されたか起訴されている。
1990年代後半から2000年代の前半まで武装した準軍組織が居座っていたことで、スクレに限らずコロンビアのカリブ海沿岸地域全域のあらゆるレベルで親準軍組織候補が選挙で政府に入り込んだ。カラバジョによると、「ここリベルタードでは、武装した集団が人々に『誰それに投票しろ、そうしなければお前を殺す』と言うのです。大きな圧力がかけられました」。
多くの人は、村人たちに加えられた暴力の根底には政府と準軍組織の癒着があると考えている。「コロンビア政府は、リベルタードで起きたことに関する責任を取っていません」とポラスは言う。「CNRは国際社会の援助を受けたプロジェクトですが、準軍組織が引き起こした損害の責任は政府にあります。どうして政府に責任があるかって? 政府組織がリベルタードにはなく、あったときには準軍組織に完全に侵されていたからです」。その間、リベルタードの住人は、CNRの手助けを得て、4年以上にわたってコミュニティを引き裂いた準軍組織の暴力という亡霊を追い払おうと努力を続けている。
皮肉なことにポラスは、近くにあるサン・オノフレの町の病院で看護師として働いていたとき、リベルタードの準軍組織数人の生死を操る立場にあったことがある。コロンビア海軍とカデナの兵士たちが激しい戦いを繰り広げていた2004年、負傷した準軍組織兵士数人が病院に運び込まれた。リベルタードの住人の中には、ポラスが負傷兵士の血管にガソリンを注射して殺すことを望んだ人もいた。けれどもポラスは自分の復讐もコミュニティの復讐も実行することを拒んだ。
「負傷した準軍組織兵士が病院に運び込まれたとき、決して準軍組織だとは考えませんでした。私にとっては患者だったのです。それに、多くが私たちの地域の少年たち、リベルタードの少年たちでした」と彼女は言う。「彼らも私たちのコミュニティの一員で、私たちの地元の若者だったので、負傷しているのを見るのは辛かったのです。彼らが準軍組織に入ったのは、無知か、経済的な理由からでした。人々は私に復讐を求めましたが、でもリベルタードの住人はとても善良で、結局、私の行動を理解してくれたのです。それにより私たちは強くなりました」。
ポラスが示した大きな同情と人間性から、リベルタードの住民は暴力的な過去から自らを解放する戦いに成功するだろうことがうかがえる。コロンビアでは、打ち続く紛争に苦しむ数百万人の人々が、同じ戦いを続けている。人々はただ犠牲者、というわけではない。
■ 辺野古通信
辺野古通信ご覧ください。
■ 辺野古への基地建設反対のデモ
日時:11月8日(日)午後2時集合
場所:水谷橋公園(東京都中央区銀座1-12-6)
有楽町線「銀座一丁目」駅、銀座線「京橋」駅、都営浅草線「宝町」駅3分
デモ:午後2時30分出発
■ 「罪位20年、誰が祝うか! みんなのリレートーク」
11月12日(木曜) 午後 1時 ~ 3時
佐賀駅前 アイスクエアビル 5階 中会議室
入場無料
主催:自由大好き!市民の会
■ 「韓国併合」から100年-日本と朝鮮半島の今をとらえ返す
日時:11月28日(土)午後7時開始
場所:東京・文京シビックセンターB1F
(文京アカデミー学習室)
講師:文京洙さん(立命館大学教授・韓国政治史)
資料代:500円