CBSは、2001年9月11日にワシントンとニューヨークが攻撃されてから5時間もたたないうちに、ドナルド・ラムズフェルド米国防長官の言葉が側近から伝えられたと報道しています。 そのときラムズフェルドは、サダム・フセインについて、「この事件がS・Hを同時に攻撃するに十分か判断せよ。UBL(オサマ・ビン・ラディン)だけでなく。どんどんいけ。全部を一掃しろ。 関係があろうとなかろうと」と述べたといいます(CBSワシントン、2002年9月4日『イラク攻撃計画は9月11日に始まった』)。 2001年9月11日の攻撃がなかったとしても、イラク攻撃を進めていたでしょうか。
別の口実を見つけていた可能性があります。米国は、しばらく前からイラクを攻撃したがっていたのです。 9月11日の事件は、米国政府に、色々なことをするための口実を与えました。 アフガニスタン、イラク、米国内における市民的自由の制限、情報公開法の制限など、国内外のあらゆることです。 2001年9月11日の事件がなかったら、別の口実を見つけていたかも知れません。 そして、そもそも9月11日の事件は、イラク攻撃の口実にはなっていないのです。 アフガニスタンについては、少なくとも表面上は、口実として使うことが可能でした。 というのも、一応アフガニスタンの地と関係はあるとされたからです。 けれども、イラクは、9月11日の事件と、まったく何の関係もありません。
9月11日の攻撃がなかったとしても、アフガニスタン攻撃はいつかはなされていたと思いますか。
その可能性はあったと思います。米国政府は、タリバンと、9月11日の半年位前まで、カスピ海からアフガニスタンとパキスタンを通ってインド洋に至る石油パイプラインを確保する交渉を行っていました。 米国の石油企業が交渉に関係していました。 そして、この交渉は、米国側が望むほどうまくいっていなかったのです。 そこで、アフガニスタン政府の姿勢を変えるために、何らかの別の方法を求めていました。 ですから、アフガニスタン侵略の動機は常にあったのです。口実が必要だっただけです。 そして、9月11日の攻撃は、多くの目的を果たすための口実に使われました。
ジョージ・ブッシュ大統領のカナダ人スピーチライターであるダビッド・フラムは、『ザ・ライト・マン』という回想録の中で、日本の真珠湾攻撃に対するフランクリン・ルーズベルトの対応について読んでいて「悪の枢軸」という言葉を思いついたと言っています。 フラムが書いたブッシュに対する「ラディカル・メモ」は、第二次世界大戦における東京=ローマ=ベルリン枢軸と今日のいわゆるテロ国家(イラク=イラン=北朝鮮)というものと同盟するアルカイーダといったテロ組織との並列関係を強調しています(ナショナル・ポスト紙、2003年1月8日「イラクについてのラディカル・メモ」)。 フラムによると、真珠湾がより強大なナチの脅威につながっていたように、アルカイーダはイラク −第二次世界大戦における枢軸に地上で最も近いような国− という強大な脅威につながっているというわけです。 これをまじめに取ることは可能なのでしょうか。
もしあなたがジョージ・ブッシュのスピーチライターだとすると、むろん、とてもまじめに取っているでしょう。 ブッシュのスピーチライターという立場からは、見つけだしたいことの枠組みにとても良く当てはまります。 けれども、理性的な人間にとっては、わずかでもこれを信じることはとても難しいでしょう。 理性的な人間は、イラクとアルカイーダの関係について証拠を求めるでしょう。 世界がまる1年にわたり証拠を求めてきたように。 そして、何の証拠も提出されていないのです。 ですから、今では、誰もそんなことを信じてはいないと思います。
副大統領ディック・チェイニーの「エネルギー政策」は、2020年までに米国は3分の2の石油需要を輸入で賄わなくてはならないとしています。 イラクは世界第二の石油埋蔵国です。イラク攻撃をめぐって石油はどれだけ重要なのでしょうか。
必須のファクターであることは確かです。むろん、石油が唯一の理由ではありませんが、理由の一つであることは確実です。 石油がなければ、ほかの要因が攻撃に乗り出すほど重要だったかどうかはわかりません。 石油には別の側面もあります。石油輸出国機構(OPEC)における石油流通の公式交換通過はドルでした。 ところで、1年半ほど前に、イラクはユーロに切り替えました。これは米国権力筋を起こらせたのです。 米国は、OPECが公式にユーロに切り替えないか心配しているのです。 経済学者たちから聞くところによると、それは米国の財政にとって大きな痛手になりうるので、米国はそれを阻止しなくてはならないということです。 非常に重要なのです。 米国があからさまに計画していると認めているように、イラクを米国が運営できるならば、イラクの決定を覆すのは容易です。 そして、サウジアラビアをはじめとする関係諸国は、この問題について米国をはねつけたいとすると、非常に微妙な位置に立たされるでしょう。 公式通過としてドルを使い続けるという立場を受け入れなくてはならなくなるでしょう。
ペンタゴンは、最近になって、この戦争計画が「ショック&オウ(ショックと畏れ)」と呼ばれ、48時間に3000発のミサイルを用いるもので、そのうち800発はクルーズ・ミサイルだということを認めました。 これは、「ヒロシマ効果」を与えるためのものです。つまり、敵の戦う意志を心理的に破壊するのです。 あるペンタゴンの職員は、この計画は「前例がない」と言っています。 東南アジアでの絨毯爆撃や、ドレスデンや東京空襲をはじめとする「ショック&オウ」作戦の長いリストを考えたとして、今回は、それでも本当に「前例がない」ものなのでしょうか。
火器の威力としては、そうかも知れません。 アフガニスタンや、1991年のイラク、セルビアやヒロシマでしたことを凌ぐ手段があることは確かです。 ヒロシマの2倍あるいは10倍の痛手を与える手段を米国は持っています。 どれだけ使うかは米国の決断次第なのです。 爆弾や爆発力の量といったもので言うならば、どう計ろうと、前例がない可能性はあります。 けれども、本当に大切な問題はそこにはありません。 ヒロシマと同規模でもヒロシマの二倍でも、イラクの人々にとって完全は破壊となるでしょう。 私が思うに、ペンタゴンのレポートは、イラクの人々とイラク政府を怯えさせるさらなる手段として発表されたのでしょう。 これは、心理攻撃です。
第一次湾岸戦争のあと、ジョージ・ハーバート・ウォーカー・ブッシュは次のように言いました。 「ベトナムの亡霊は、アラビア半島の砂漠に永遠に埋められた」(米軍ラジオ、1991年3月2日)。 ベトナム・シンドローム −長引きすぎる戦争は人々の反対を引き起こすという考え− は、アメリカ帝国の拡張戦略にどのように影響しているでしょうか。
大きな影響の一つはメディアに見られます。 ペンタゴンは、アメリカの人々に自営農民や子供たちの死体をたくさん見せすぎると、そして映像があまりに血なまぐさくてぞっとするようなものだと、戦争に対しての反対を促すということを、学びました。 そのため、ベトナム以来、ペンタゴンは、ゆっくりと確実に、戦場へのメディア・アクセスを制限してきたのです。 メディアのアクセスは、戦争ごとに、ますます少なくなっています。 現在では、すべてが演出されています。メディアには、見せたいものだけしか見せません。 これが、ベトナムの効果の一つです。
戦争の長さについていうと、米国はセルビアを爆撃しました。78昼夜にわたってです。 これは、長いものです。それなりの効果が得られるまで、爆撃するでしょう。 敵が降伏するか、完全に破壊されるまでです。 米国は、速やかにそうすることを望みますが、あまり速くても都合がわるいのです。 というのも、爆撃では常に、いくつもの実験を行っているのですから。 戦争を行う理由は、部分的には、最新兵器の実験をしたいことにあります。 ですから、実験のために十分な時間を取ることが必要なのです。 ですから、米国は、好きなだけ長い時間をかけます。 帝国はお望みのままにしたいことをするのです。 私もあなたも、あとを付け回って、あれやこれやにコメントすることはできますが、帝国はいずれにせよしたいことをするのです。
バグダッド(人口500万)という大都会での都市戦計画について、これは、アメリカのプロパガンダ作戦にとって破滅となる可能性はありますか。 というのも、1991年の「砂漠の嵐」作戦では、虐殺の多くがバスラとバグダッドを結ぶいわゆる死の高速道路のように砂漠で起きましたが、都市だと、ジャーナリストもアクセスしやすいだろうからです。
通常、米国は、まず、ありうる抵抗が完全に無くなるまで都市を空爆し、それから、地上部隊を送ります。 こうすれば、地上部隊は最低限の抵抗にしか出会わないのです。 けれども、今回は、同時に、油田に火を付けることは避けたがっています。また、恐らく化学兵器や生物兵器といったものも。これらが大気を汚染しアメリカ兵士を害するからです。 これらを避けるために、米国は爆撃がいつもの仕事を成し遂げる前に地上部隊を送るかもしれないと耳にしたことがあります。 けれども、何が起こるか予測はできません。以前の侵攻ほど単純ではないでしょう。
国連について言うと、1983年に人口10万1000人のグレナダを米国が侵略したとき、国連では圧倒的な反対と批判の声が挙がったのですが、ロナルド・レーガン大統領は次のように言っています。 「国連に加盟する100カ国は、ほとんどすべてのことについて米国に同意しないが、別に私の朝食の邪魔にはならない」。 米帝国の計画の中で国連の位置づけはどんなものでしょう。
帝国でさえ、また、独裁者でさえ、好かれたいと望むものです。また、合法的に見えたいとも。 チリのピノチェト将軍は独裁者として17年間権力の座にいましたが、同時に、好かれることを望んでいました。 彼は自分が勝つと信じて行った国民投票で破れ、退位を余儀なくされました。 米帝国も、軍事的にはやりたい放題のことができますが、それなりに合法的であるように見せたがっています。 そのために、利用できるときには国連を利用しようとしています。 これまでもそんな風にしてきましたし、今もそうしようと画策しています。 米帝国は、このまま進めて、国連の支援を得てそして世界中の支援を得てイラクで望むことをできると考えていました。 けれども、非常に大規模な反対の声に驚いています。反対の声があまりに大きかったので、国連の「ゲーム」を行わなくてはならなくなりました。 これまでのところ、それは、上手くいっていません。 これから驚くべきことが起こるかも知れませんが、予測はできません。
2003年2月24日月曜日に米国が安保理に提出した新決議案は何らかの影響を持つと思いますか。 安保理の賛同が得られなければ、勝手に行動を起こすでしょうか。
すでに米国は単独行動を起こすと言っています。 私は、つい先日、国防顧問のリチャード・パールがフランスについて放しているインタビューを目にしました。 パールは、フランスが安保理決議に拒否権を発動したとしても、米国はいずれにせよイラクを侵略すると言っています。 けれども、これは、ほとんど1年近く、続いている状態です。 心理戦が続いているのです。イラクを怯えさせ、自分たちのことをできる限りタフに見せたがっています。 そして、決意が弱まることを決して認めたがりません。これらはすべてショーなのです。
中東のより広い範囲について見ると、イスラエルの人権団体ベツェレム(B'Tselem)や、中東地域をカバーする、英インディペンデント紙のジャスティン・ハグラーやハーレツ紙のアミラ・ハースといった何人かの信頼できる特派員が、世界のメディアの目がイラクに集中しているあいだに、イスラエルは軍事活動を活発化させて、占領地域の土地を奪い取ろうとしていると警告しています。 ハースは、イスラエルに対するイラクのミサイル攻撃あるいはパレスチナ人のサダム・フセイン支援は、パレスチナ人の大量追放を引き起こす可能性があるとさえ述べています(ハース「大量追放の脅威」ル・モンド・ディプロマティーク紙2003年2月19日、ハグラー「世界がイラクに注目しているあいだにガザでは遺体が積み上げられている」インディペンデント紙2003年2月22日)。 イラクに対する戦争がパレスチナ人に対して与える影響はどのようなものでしょうか。
イラクに対する戦争を口実にして、イスラエルがいわゆる「移送」、これは民族浄化と言われるものですが、を進め、パレスチナ人を大量にヨルダンや新たに「解放」されたイラク、あるいはどこかに追放する可能性はかなりあります。 イスラエルはそれを望んでいます。それをやってのけることができるかどうかは、のちにならないとわかりません。 パレスチナ人を追放するのに、戦争は望ましい口実であり、隠れ蓑です。
このインタビューはカナダで最も重要な海軍港があるハリファックスから行われています。 2月24日月曜日に、2隻のカナダ海軍の駆逐艦のうち一隻が、アラビア海に向けて出発しました。 何十億ドルというアメリカの空母を「エスコート」し監視するためです。 アメリカ帝国拡大におけるカナダの役割はなんですか。
不正の隠蔽手段です。軍事的に言って、米国政府は、敵を圧倒するために、誰の力も必要としてはいません。 けれども、好かれる必要や多少は合法的に見せる必要というのがあります。 その目的のために、米国は、カナダや英国や日本など、不正の隠蔽のための手助けを提供する国々を必要としているのです。 カナダは不正の隠蔽の役を買って出ていることになります。 場合によって、こうした国々が、ワシントンの戦争をちょっと簡単にするような軍事支援を提供することもありますが、それは決定的に重要なことではありません。 米国は、数ヶ月前に、今やっているような軍の増派をしなくても、イラクを完全に取り除くことができたのです。
帝国はしたいことをすると言いました。2月15日、世界中の人々が、イラクに対する戦争に反対して声を上げました。 その翌日、ブッシュ大統領は、こうした抗議は自分に何の影響も与えない、抗議で影響されるのは、一つの「フォーカス・グループ」に基づき政策を決めるようなものだと言いました。 こうした反対行動は −これまでで最大のものでしたが− 政策に何ら顕著な影響を与えないのでしょうか。
戦争を止めることはできないかもしれません。けれども、世界中の反対の声の中で米国が戦争を始めるならば、それは帝国の終焉の始まりとなるでしょう。 そして、そうなることを期待します。
ウィリアム・ブルムは1967年まで米国国務省に勤務していたが、ベトナム戦争に反対して辞任。 海外サービス・オフィサになる希望を捨てた。 著書に Killing Hope: US Military and CIA Interventions Since World War II (Common Courage, 1995)、 Rogue State: A Guide to the World's Only Superpower (Common Courage, 2000) がある(後者は2003年3月に日本語訳が作品社から出る)。メールはbblum6@aol.com。ジョン・エルマーはハリファックスのジャーナリスト。jelmer@dal.ca。
このインタビューはカナダ、ハリファックスCKDUのゲリラ・ラジオで放送された。