イラクを占領している米軍は、最近、イラク人科学者であるフダ・サリ・ハフディ・アムマシュ博士を拘禁した。彼女の著作を出版しているサウス・エンド・プレス社は、記者会見の中で、「彼女の拘禁には政治的な意図があるかもしれない」と述べている。アムマシュ博士は、査読付きの論文「毒物汚染・湾岸戦争・経済制裁」を、サウス・エンド・プレス社から刊行されている「包囲の中のイラク」という論集に発表した。この論集は、アンソニー・アルノーブの編集になるもので、同書の共同発行人であるアレクサンダー・ドウィネルは「私たちは、米国がアムマシュ博士を不法に拘禁し、尋問を加えようとしていることに憤りを感じている。アムマシュ博士の即時釈放を要求する」と述べた。彼はまた、「米国が劣化ウラン兵器のような生物学的に害のある武器を用いることによりイラクの人々に癌をはじめとする様々な病気をもたらしていることについて、声をあげて批判しているアムマシュ博士を、米国政府は黙らせようとしている」と述べた。
アムマシュ博士は、論文「毒物汚染・湾岸戦争・経済制裁」の中で、第一次湾岸戦争の際に米軍が用いた劣化ウランの影響、環境における電磁場の広がり、化学汚染、イラクのインフラの大規模破壊が公共保健にもたらす影響などについて検討している。全体的な影響に関する彼女の評価は、イラクにおける公共保健の崩壊に対して何よりも責任があるのは米国の行為であると述べている。「イラクの死亡率は極めて大きくなった。その中で、死因のかなりが癌であり、特に南部でそして子供の間でそれはひどい」と彼女は語る。他の科学者や専門家たちも、この見解を共有している。
様々な情報源におけるアムマシュ博士の経歴によると、彼女は、1953年にバグダッドで生まれ、1975年にバグダッド大学で生物学の学士号を取得、その後、テキサス州デントンのテキサス大学で微生物学の修士号を取得している。さらに、1983年、米国ミズーリー州のミズーリー大学コロンビア校で微生物学の博士号を取得した。彼女は2001年イスラム科学アカデミー(IAS)フェローに選ばれている。また、バグダッド大学の女性教育スクールの学長、さらに科学スクールの学長を1995年から1997年まで務めた。彼女は、「イラクにおける伝染病の広まりに対する湾岸戦争汚染の影響」(ソリ・アル・モンド、ローマ、1999年)や「戦争と経済封鎖による電気的・化学的・微生物学的汚染およびその環境と健康への影響」(イラク科学アカデミー雑誌、1997年)などの論文を発表している。
米国の占領軍は、アムマシュ博士を、55名の最重要指名手配者の一人としていた。アムマシュ博士は、元副大統領・国防省でバアス党党員だったサレ・マフディ・アムマシュの娘である。サレ・マフディ・アムマシュは、1983年に、サダム・フセインの命令で処刑されたと伝えられている。
米国当局は、アムマシュ博士の拘禁に対して、何の理由も挙げていない。今年の3月27日、彼女がサダム・フセインと同じテーブルに座っているところがテレビで報道されたが、これは、拘禁の十分な理由にはなり得ない[いずれにせよ、不法占領者である米国には、どのような理由であれ、誰を拘禁する権利もない]。外国の超大国から攻撃されているある国の独裁者と一緒の会議に出ることは犯罪ではない[いずれにせよ、不法占領者である米国には、誰を拘禁する権利もない]。サダム・フセインが米国に提供された化学兵器を使うなどの残虐行為を大規模に進めていた1980年代、ドナルド・ラムズフェルドは、何の気の咎めもないまま、サダム・フセインとの会議に出ていたのである。
米国は、イラクに大量破壊兵器が存在するという具体的な証拠を何一つ見つけだせずにいる[見つけだしたとしても、米国のイラク侵略と占領は不法である]。イラクの科学者や技師を逮捕しているのは、恐らく、(a)大量破壊兵器開発計画をイラクが持っていたという状況証拠をでっち上げ、(b)イラクの科学者や研究者による米国の占領に対する非難を黙らせ、(c)イラクの技術科学力を今後長い間にわたり窒息させる、といったことを試みているのかも知れない。アマレシュ博士の拘禁に関して米国は何の理由も示していないので[理由を示したとしても、不法占領者である米国には、拘禁する権利などないが]、拘禁の本当の理由については、推測に過ぎないが。
けれども、占領者は、ジュネーブ条約の規定と手続きに従うという国際法上の義務を負う。米国は、自分の目的に合わない限り、国際法と国際規範を一貫して無視してきた。それゆえ、米国が少なくとも文明国として最低限の基準を遵守するようにさせるのは、米国市民の責任である。[米国の]進歩的なコミュニティは、米国による不法なイラク占領を終わらせるキャンペーンの一環として、フダ・アムマシュ博士の無条件釈放を求めなくてはならない。
一般市民の犠牲者・兵士の犠牲者への完全な無関心、ファルージャでの米軍によるイラク市民の虐殺、劣化ウランに汚染されたであろう水を飲む人々についての全くの無関心、自分に都合が悪いものたちの恣意的な拘禁。侵略と不法占領から当然予想される多大な侵害行為が続いています。「イラクの石油を米英が共同管理」などという案が安保理に提出されたようですが、単なる略奪で、それを「管理」と呼ぶのは、侵略と略奪の正当化に過ぎません。NHKでは、10日、ニュース・アップ「イラク復興への道のり」なる番組で、淡々とイラク復興について「治安面:アメリカ軍(ママ)・民生面:復興人道支援局」などと紹介しています。「治安面:アメリカ軍」?不法占領に反対する人々に無差別発砲して虐殺する部隊、理由無く不法に科学者を拘禁する部隊が担当する「治安」。有事法制等、第二次世界大戦前の「治安維持法」を狙う日本の言う「治安」だと考えると整合性はあります。そういえば、1999年の東チモール住民投票でも、侵略者・不法占領者・20万人もの人々を死に至らしめたインドネシア当局が「治安」を担当するという枠組みが勝手に決められました。その帰結の一部については、先日紹介したばかりです。