1. ジュネーブで農業交渉
3月22〜26日、ジュネーブにおいて、カンクン以後はじめて「農業」についての公式交渉が行われた。これは俗に「農業ウイーク」と呼ばれる。
しかし、会議は、市場アクセス、国内補助金、輸出競争力という3大議題をめぐって、加盟国間の意見を聞いただけで、その間の意見の収斂を見ずに終わった。
議長であるニュージーランドのTim Groser大使は「まだ意見を聞くというムードにある」と評した。
しかし、この農業ウイークの特徴は、これまでのように議長がメンバーと個別に会談するというやり方ではなく、インフォーマルな形で、メンバー同士が交渉したり、議論したりした。この1週間、さまざまなグループが、数多くの会合を重ねた。
3月24日には、それまでの交渉の成果を評価するためのインフォーマルな会合が開かれ、これには全員が参加した。これを受けて、さらに3月26日、インフォーマルなのともう1つフォーマルな会合が開かれた。そして、それまでの諸会合の報告がなされ、これを議長が集約した。意見の差異点と収斂した点が明確になった。
ここでは、7月末までに交渉の枠組みについての合意を取り付けることに多くのメンバーが賛成した。この枠組みを受けて、交渉の様式についての交渉に入る。
しかし、途上国の中には、この枠組みについて十分な議論が必要であると述べた。
市場アクセスについて;
これは最も難しい問題である、というのが大方の意見だった。米国とEUは関税の引き下げについては3種類のカテゴリーを「ブレンド方式」を提案した。これはG20、G33、そしてCairnsグループなどから批判された。途上国は、ブレンド方式は、EUや米国に比べてより深い関税引き下げを強いられ、その結果、特別な、しかし差異のあるセイフガード(SPとSSM)原則が否定されるのではないか、と危惧した。
途上国が要求したのは、先進国の市場アクセスを広げ、同時に途上国の農民が過剰な輸入競争を避けることができるようになることであった。
SPとSSMをとくに要求したのはG33であった。これは大方の合意を得たが、議長の集約では、反対があるということであった。
国内補助金について;
CairnsとG20はとくに、琥珀色のボックスとブルーのボックスの大きな削減を要求した。また緑色のボックスについてもよりよい規範と規律を要求した。しかし、EUはブルーボックスの重要性を擁護し、米国は、ブルーボックスに上限を設けるべきだと言った。いずれにせよ、EUも米国も補助金については、様々な形を変えて、支給していくことには変わりはない。結果として、現在の巨額の補助金のレベルは維持される。
輸出競争力について;
G20とCairnsは輸出信用を含めたすべての輸出補助金の廃止を呼びかけた。米国は、輸出補助金の削減の期限を設けることの必要性を認めた。しかし、EUは、品目のリストを途上国に作成するよう繰り返すのみであった。これはG20、そしてCairnsによっても拒否された。またEUは、補助金の廃止と同時に、途上国でクレジット供与、食糧援助などといった他の形の補助金を撤廃するという「平行主義」を要求した。
カンクンでは米国、EU、日本の農業補助金の総額は年間に3,000億ドルの上ると計算された。
2. ブラジルの綿花訴訟の勝利判決
4月26日、ブラジルがWTOに対して米国の綿花補助金の削減についての訴訟に、予備判決が出た。ブラジルの勝利であった。
ブラジルの訴訟に参加しているのはアルゼンチン、オーストラリア、ベニン、カナダ、チャド、中国、EU、インド、ニュージーランド、パキスタン、パラグアイ、台湾、ベネズエラである。
判決は、米国政府が綿花栽培農民に支払っている補助金が国際的な貿易のルールに違反しているというブラジルの訴えを認めたものであった。そして、6月に出る本判決においては、もし米国が現在の行為をやめないならば、巨額の罰金を支払わねばならない。前回の鉄鋼のケースではブッシュ大統領は、罰金の支払いを避けるために、補助金を廃止した。
ブッシュ大統領にとって判決は手痛い問題である。彼は選挙で綿花地帯の支持を期待しているからである。米国の農民は年間190億ドルにのぼる綿花補助金に依存している。
26日の予備判決は、6月の最終判決が出るまで、ブラジルと米国は中身を公表しないことに合意した。
ブラジルは、米国が年間16億ドルまでとしたWTOのルールを破ったとして訴えたのであった。米国は、追加の補助金は国内補助金であるとして、国際貿易には害はないと弁護した。
米国農業省の統計を駆使して、ブラジルは米国が補助金を廃止すれば、米国の綿花生産は29%に落ちるであろう、米国の綿花輸出は41%落ちるであろうと計算した。これは、綿花の国際価格を12.6%上げるであろうし、それはブラジルの農民を助ける。また米国のアグリビジネスと製造業者は米国産の綿花を購入するために17億ドルの補助金を受けていると、ブラジルは主張した。
米国の農産物輸出が激増したのは最近のことである。米国では3ヘクタールの農地のうち1ヘクタールは輸出向け農産物を生産している。米国政府の綿花補助金の給与は米国を世界一の綿花輸出国にのし上げた。米国は世界市場の40%を独占している。
これらのデータの根拠は、ワシントンにあるEnvironmental Working GroupというNPOがWeb Siteに出したものである。
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