世界の底流  
コペンハーゲンCOP15を終えて(その3)
2010年1月3日

会議を延長した最終日

1.13時間のマラソン全体会議
 最終全体会議は、18日午前3時、潘基文国連事務総長の司会ではじまり、13時間に亘って厳しい議論が続いた
 「合意」反対派は、スピーチの権利を確保するために、「議事進行」を乱発した。
まず、途上国側は、草案を読むために1時間の休憩を要求した。
国が海面下に沈むという危機にあるツバルは、「国連システムは国の大小にかかわらず、平等に尊重されるべきだ」といい、この草案はそうなっていないとして、反対を表明した。
ベネズエラ、ボリビア、コスタリカ、ニカラグア、キューバなど中南米が反対した。とくにボリビアは、60分もの大演説をした。その中で、「合意」草案には「効力のあるコミットメントがない」ことを非難し、1℃の温度、先進国は「適応(Adaptation)基金」にGDPの6%を拠出、2020年までに温室効果ガスの排出を49%削減することなどを提案した。
 最も大きな反発を起こしたのはスーダンであった。スーダンは国連の途上国の呼び名であるG77+中国の議長国である。スーダンは「コペンハーゲン合意」をアフリカをはじめとする途上国の幾百万人もの生命を脅かす、と言い、1,000億ドルの拠出は「賄賂」だと弾劾した。さらに、2℃の気温上昇というのは、アフリカを焼き殺す協定であり、600万人のヨーロッパ人をガス窯で焼いたのと同じである、と非難した。
 このスーダンの発言に反発して、それまで「合意」に反対していた途上国の中から賛成に回る国も増えてきた。しかし、ベネズエラなど小数の中南米の国が反対の立場を変えなかった。その結果、「コペンハーゲン合意を留意する」という表現の決議が採択されたのであった。
 さらに、この文書の取り扱いをめぐって、さらに人騒動あった。
ニカラグアは、「コペンハーゲン合意」は、その作成に携わった国の名を付けた文書にするべきで、また「雑多な(MISC)」文書扱いにすべきだと提案した。
大会議長のラスムセン首相は、議長団と協議の末、「MISC文書」の扱いにすると発表した。しかし、インドが、これは彼の国の首脳が交渉した文書であるので、MISC文書にすることに出来ない。
 ベネズエラは、「コペンハーゲン合意」は194カ国の中のたった25カ国、なかでも途上国は15カ国しか入っていないアドホックな少数グループによって作成されたもので、その上、ラスムセン首相には「合意」草案を交渉する権限を与えられていない、と言った。
翌19日土曜日8時3分、ラスムセン首相はCOP全体会議を中断した。その後1時間、多くの地域別会合が行なわれた。
 そして、19日10時35分、 2009年12月18日の「コペンハーゲン合意」を「留意する」という採決が行なわれた。そして、「合意」に賛成した国名を、テキストの前書きに記すことが決まった。
 全体会議は、午前から午後2時14分まで続き、さらに質問や感想などの発言が長々と続いた。
 その中で、国連事務局から、交渉に参加した「首脳たちの代表グループ」の参加国名を前書きに記すべきだが、事務局には、オフィシャルなリストがないので、参加した国は届けて欲しい、という発言があった。
 最後に、潘基文国連事務総長は、2010年までに法的な拘束力を持つ協定を採択するべきであり、また、「コペンハーゲン・グリーン気候基金」を直ちにスタートすべきであると述べた。

2.米中首脳たちのどたばた騒ぎ
 中国は世界第1位のCO2の排出国である。そして米国は第2位である。両国あわせるとCO2の排出量は世界中の40%を占める。米国は京都議定書から脱退しており、もともと中国は京都議定書に入っていない。
 コペンハーゲンCOP15が始まる前から、「米中間の交渉と妥協が政治合意への最大の関門だ」と言われていた。

米国の立場
 オバマ政権は、昨年11月、「CO2の排出を2020年までに17%削減する」と言った。これを90年比に換算すると4%になる。これはEUの20%、日本の25%に比べて桁違いに低い。しかし、上下両院で通過したそれぞれの「温暖化対策法案」はこの「17%」に沿ったもので、しかし、上下両院の法案が一本化され、成立する時期は、今年後半にずれ込む予定である。そのためオバマ大統領はCOP15で、まだ大胆な上乗せをすることが出来なかった。
ただし、目標値を引き上げる方策として、米国が考えていることがある。それは、米国が途上国の森林減少対策のために資金を拠出して、そこからCO2削減される分を米国の目標に上乗せすると言う仕組みである。これが認められると、米国の目標値は90年比で十数%に引き上げられる。
 これは、CO2削減の市場化である。先進国はこの市場カーボン取引制度をもって、自国の削減値に加算する。先進国は、途上国での植林のほかに、発電所、工場などでCO2削減に資金を出すことによって、その分を自国の数値に加算する。この方式だと、自国内でのCO2削減よりも安上がりになる。しかもその資金を「グリーン気候基金」に拠出するものから流用しようというのである。

中国の立場
 世界最大のCO2排出国である中国は、「電気も通っていない家庭が沢山ある」などと言って、途上国としての「発展の権利」を主張している。COP15では77カ国+中国として途上国の仲間である。したがって、先進国のような削減義務を受け入れることを拒否してきた。
昨年11月末、CO2を2020年までに「国内総生産(GDP)当たりの排出量を05年比で40〜45%削減する」と発表した。ここで問題となるのは、米国と同様に「05年の排出量」を基準にしていることと、「GDP当たり」の排出量という点である。中国の05年とは2桁に近い高度成長を記録してきた時であり、当然CO2の排出量も高い数値を記録している。数値の基準を90年に戻すべきである。また中国のGDPもこれからも高い水準を維持するだろうから、一見高かく見える40%〜45%減という数字でも、逆に、増大するだろう。

3.米中交渉の裏話
 まず最初に、09年12月21日付けの『インタナショナル・ヘラルドトリビューン』紙と09年12月19日付けの『ワシントンポスト』紙の記事を見てみよう。
 コペンハーゲンでのオバマ大統領の使命の1つは、中国に「削減計画の国際的な検証」を受け入れさせることにあった。これによって、オバマ大統領は、米議会や産業界を説得することが出来る、と考えていた。
 そのメカニズムは、まず、途上国が自主的に国連機関に削減計画を登録する。その実施を国連機関が検証する。計画通りにいかない場合、罰則規定は設けないが、公約が守られていないことが国際的に明らかになる、という仕組みである。
 途上国側は、先進国から資金や技術援助を受けたケースの削減については国際的な検証を受け入れた。しかし、先進国から支援を受けずに自力で削減した部分については、途上国が「国内で検証する」といっている。中国も同じ立場を取っていた。
 専門家や外交官レベルの米中2者間の会合では、最初のうちはスムーズに運んだ。米国が中国にクリーン・エネルギーの技術を供給すること、そして、アメリカと中国が、CO2排出を正確にモニターする技術者の交流、などで合意した。
 米中の中がきしみ始めたのは、オバマ大統領の到着とともにはじまった、まず、中国は首脳クラスの会談に胡錦濤主席ではなく、2番手の温家宝首相を送った。
 オバマ大統領は、金曜日の午前中、コペンハーゲンに到着後、直ちに全体会議で首脳のスピーチをした。その後、オバマ大統領は温家宝首相と午前と午後2回の会談を予定していた。
 ところが、第1回目の会談には、温家宝首相は、「私を代表する者です」という注釈を付けて、低い地位のオフィシャルを送ってきた。中国のHe Yafei外務副大臣が、オバマ大統領、メルケル独首相、その他の国家元首とテーブルを囲むかたちになった。これは、オバマの威信を大きく傷つけた。このとき、中国は、「コペンハーゲンで何が起ころうと、40〜45%の削減を約束する」と宣言した。
 第2回目の米中首脳会合は、オバマ政権側はまさに首脳同士の会合だと理解していた。しかし、オバマ大統領のところにやってきたのは、中国のCOP15の交渉官のYu Qingtaiであった。これに怒ったホワイトハウスの報道官は「このようなことは冷遇である」と記者会見で語った。オバマ大統領は、スタッフに「こんなことはもう沢山だ。私は温にあいたいのだ」と叫んだ。
 ホワイトハウスは、金曜日の夕刻、3回目のオバマ・温会談をセットした。同時にオバマ大統領が、ズマ南アフリカ大統領、ブラジルのルラ大統領、インドのシン首相と別室で会合することなっていた。これはオバマ大統領が、「COP15の議論に終止符を打つ」ためであった。
温首相との会合の少し前に、Denis McDonough国家安全評議会長とRobert Gibbs報道官が温家宝首相との会合の場に入ると、そこには温家宝首相と南アフリカ、ブラジル、インドの首脳たちが会合していた。
 これに驚いた2人のスタッフは急いで、オバマ大統領に知らせた。オバマ大統領は、ドアを開けるやいなや、「ミスター首相、私に会う気はありますか?」を怒鳴った。
 それから始まった米中の首脳会談は、険悪な空気だったが、それでも、両首脳は、「モニターと検証」問題について、温家宝が納得できる用語などいくらかの成果があった。
 驚いたことに、オバマ大統領は温家宝首相と合意したテキストを持って、インド、南アフリカと会談して、テキストにサインさせた。遅れてきたブラジルのルラ大統領もサインした。
 そして、オバマ大統領は、ヨーロッパの首脳たちが待っている部屋に行った。彼らはブツブツ愚痴をこぼしたが、テキストにしぶしぶサインした。
 米中会談では「合意」中の「出来るだけ早く拘束力のある協定をめざす」の中の「出来るだけ早く」の文言が消された。オバマ大統領は、「この成果は容易ではなかった。そして、この成果そのものも十分ではない」と言った。彼の声は沈んでいた。
 しかし内容のない「コペンハーゲン合意」のほうが、オバマ大統領にとっては、これから議会に圧力を掛けるには都合が良いだろう。
 2009年12月22日付けの『ガーディアン』のMark Lynas記者が書いた記事では、「中国が会議を破壊した」と書いている。中国は意図的にオバマを侮辱して、「先進国側会議を破壊した」という非難を作り上げた。なぜか?「私はそこにいたからだ」と言う。
 中国の戦略は単純だ。2週間もの間、全体会議での交渉を引き延ばし、1部の国で非公式交渉に持っていった。その結果、先進国が南の貧困に無関心だという印象を植え付けた。Christian Aidや地球の友などのNGOは、「先進国が自分たちの責任を回避したのが、会議を失敗させた」という声明を出した。
 12月18日金曜日の夜、2ダースもの首脳が非公式に集まった。そこでオバマは何度も議論を進めようとはかった。しかし、その度に中国は「ノー」と言った。オバマ大統領は英国のブラウン首相とエチオピアのMeles Zenawi首相の間の座り、その先に、デンマークのラスムセン首相が司会をしていた。
 驚いたことに、中国の温家宝首相は参加していなかった。代わりにオバマの向かい側の座っていたのは、中国外務省の下級官僚だった。しかも、その下級官僚が上司に電話を掛けに行っている間、ポカンと待っていなければならなかった。
 中国は、先進国の削減目標を「合意書」に入れることに反対した。ドイツのメルケル首相は「なぜ、私の削減目標を入れていけないのか?」と怒った。オーストラリアのラッド首相はマイクロホンを叩いた。ブラジルのルラ大統領でさえ、中国の言い分は論理的ではない、と言った。
 中国、それにインドが加勢して、2020年、2050年の削減目標値を入れることに反対した。もし、そこに中国代表がいなければ、コペンハーゲンCOP15は、決議を採択できたであろう。中国は風力と太陽光発電を発達させている。しかし、一方では、当分の間、経済成長に安価な石炭発電に依存しなければならない。したがって、中国は議定書がないほうがよいもだ、とMark Lynas記者は述べている。