今日、経済、情報、交通のグローバリゼーションが急速に進行し、世界大に貧富の差が拡大している。マイクロソフト社のビル・ゲイツのように1人の資産が6億人の貧困国のすべてのGNPを合わせたものより大きいという金持ちがいるという一方では、1日1ドル以下の収入で食べるもの、寝るところもなく、学校に行けず、安全な水もないという人びとが13億人もいる。
冷戦以後、市場経済はIMF、世銀、WTOなどネオリベラリズムを推進する国際経済機関などによって、肥大化した。これまで、このような資本主義にたいするオルタナティブとされてきた社会主義は崩壊してしまった。
このような状況の下で、草の根の人びとは、強力な市場経済に対抗する経済活動を営んでいる。
それは、労働者・農民・消費者などの協同組合、住宅協同組合、コミュニティ自助組織、地域通貨、都市協同菜園、共済組合、NGO、NPO、フェア・トレード、マイクロ・クレジットなど「利潤ではなく人間の連帯」のために多様な、草の根の経済活動が世界各地で営まれている。これらは、「資本主義市場経済の海の中の孤島」と呼ばれるほど、小規模で、資金不足で、孤立している。これらを「連帯経済」の名の下にネットワーク化していこうという試みを「連帯経済」運動と呼ぶ。
1. 連帯経済の起源
「連帯経済」の理論と実践は、1980年代、ラテンアメリカではじまり、90年代半ばにカナダのケベック、そしてフランス、イタリア、スペインなどラテン系のヨーロッパに広がった。
連帯経済には大きく言って、3つの潮流がある。
第1に潮流は、80年代はじめ、ラテンアメリカで債務危機を口実にIMFが導入した構造調整プログラムの犠牲者たち、つまり貧しい農民、漁民、山岳民、先住民、女性、都市のスラム住民などが組織した生産者や消費者の協同組合、コミュニティあるいは隣組組織つくり、貯蓄と融資プロジェクト、共同食堂運動、そして失業者や土地なき農民の相互扶助組織、地域通貨の創設などが挙げられる。
第2の潮流は、主として、経済的に恵まれた先進国の人びとによって組織された連帯経済の運動である。これは市場原理主義に不満をもち、新しい生活スタイルや社会サービスの提供を試みようとするグループである。これは60年代の米国に見られた運動に共通している。彼らは、消費者協同組合、共同保育・保健運動、住宅協同組合、エコ村などを組織した。女性の無償労働を再評価する動きもある。
これら2つの潮流には、はっきりとした階級差や文化の違いはあるが、「協同」「中央の支配からの自立」「参加型自主運営」については同じ価値を共有している。
第3の潮流は、第1と第2の連帯経済を相互に結びつけ、より幅広い社会経済に発展させようとするイニシアティブである。ローカルな、あるいは地域的な連帯経済の運動がまとまって、ネオリベラルなグローバリゼーションの勢力に対抗しようとする試みである。 これは資本主義のグローバリゼーションに対抗し、と同時に国家社会主義に代わる、コミュニティに根ざし、人間と人間、コミュニティとコミュニティの間の連帯を目指す参加型民主主義の経済活動である。
2.連帯経済の歴史
第3の潮流については、1998年、ブラジルのポルトアレグレで開かれた「第1回連帯文化と連帯社会経済のラテン集会」が最初の試みであった。
これには、ブラジル、メキシコ、アルゼンチン、ペルー、ニカラグア、ボリビア、コロンビア、スペインから参加し、「ラテンアメリカ連帯経済ネットワーク」を結成した。そのときの声明には、「正義の希求、参加の論理、創造性、自主運営と自治などについて我々の経験には多くの共通性がある」と述べている。そして、連帯経済を「もう1つの生活様式」であると宣言した。
それ以来、この連帯経済はグローバルな運動になった。2001年1月、ポルトアレグレで開かれた第1回世界社会フォーラムでは、パリに本拠を置く「責任のある、多元的な、連帯する世界のための同盟(同盟21)」の連帯経済部会のイニシアティブによって、「連帯社会経済のグローバルネットワーク」http://www.socioeco.org/enが誕生した。
2004年1月、インドのムンバイで開かれた第4階世界社会フォーラムの時点では、連帯経済のグローバルネットワークは、5大陸47カ国、数千の草の根の経済活動が参加した。そして、2006年のベネズエラでの世界社会フォーラムでは、連帯経済はフォーラムのテーマの3分の1を占めるまでにいたった。
このほかに、「連帯経済を推進するインターコンチネンタルネットワーク(RIPESS)」
http://www.ripess.netという国際的なネットワークがある。これは、1997年、カナダのケベックにある「ケベック連帯経済グループ」が中心となって組織してきたもので、すでにペルーのリマで第1回、2001年にケベックで第2回、2005年にセネガルのダカールで第3回の国際会議を開催してきた。現在、RIPESSには、60の連帯経済のグループとネットワークが参加している。
3.連帯経済とは何か
これまでの主流派経済学者たちによると、経済とは「市場のアクター(会社、あるいは個人)が限られた人的、物的資源を使って、最大限の利潤をあげること」だという。市場経済は、競争と貪欲という原理でもって人間性を喪失させ、挙句の果てには、大量生産、大量消費、大量廃棄という化け物のような構造を生み出す。そして、人が生きている何ものにも代え難い地球そのものが耐えられず、すでにきしみ始めている。
これに対して、連帯経済は、経済の規定そのものを変える。
連帯経済の概念は、幅広いものである。それには狭い経済という概念ではなく、多元的な、文化的な観点が含まれている。個人、コミュニティ、組織などが、さまざまな手段で、さまざまな動機と願望で生計を産み出す活動のすべてをさすものである。
実際、労働者が働いていた工場が閉鎖されたり、コミュニティが災害に見舞われたり、年金や福祉が削減されたりした場合、人びとはどうするのだろうか?
市場経済や国家は助けてくれない。人びとは、社会やコミュニティの中での相互援助、協力、連帯によって生き延びているのだ。
4.連帯経済の世界的広がり
今日、連帯経済のネットワークは、ラテン系地域だけではなく、北米、アフリカ、アジアにさまざまなネットワークが生まれようとしている。
北米では、Grassroots Economic Organizing(GEO)、US Federation of Workers Cooperatives(USFWC)、North
American Students of Cooperation(NASCO)、Cooperative Development Institute(CDI)、Regional
Index of Cooperation(REGINA)、Southern Appalachian Center for Cooperative
Ownership(SACCO)、などがよって、協同組合など連帯経済のイニシアティブをデータ化するという「データ共通プロジェクト」が発足した。
連絡先:Ethan Miller directory-@-geo.coop
東南アジア、北米、オーストラリアの学者や研究者、コミュニティ活動家たちが参加している「多様な経済」の理論と実践を議論する「コミュニティ経済プロジェクト」が進行中である。http://www.communityeconomies.org
米国には、「参加型経済(PARECON)」という捉え方をした研究グループがある。
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